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『ホタルノヒカリ』第7話の『猿蟹合戦』をめぐる解釈

先日アップした『ホタルノヒカリ』第7話の記事のP.S.2に、私はこう書いた。

    

    エンドロールに珍しく「劇中使用書籍『猿蟹合戦』(講談社)」なんて

    文字があった。井川洗涯による、新・講談社の絵本シリーズのこの

    作品、原作を掲載してる雑誌『Kiss』とおなじ講談社だから気を使っ

    たのかね。

    ちなみにあの昔話は、今回のストーリーと関係ないお遊びだと思う。

    栗・蜂・臼を交えて激しく戦う猿と蟹を、マコトと高野の喩えと見るの

    は苦しいし、優華と蛍の喩えと見るのも苦しい。内心の葛藤としても

    無理がある。もっと斬新な発想があるかも知れないけど、時間切れ。

    

それに対して、読者の方から興味深いコメントを頂いた。要するに、猿蟹合戦

というのは横暴な夫に妻が反旗を翻したという寓話だから、蛍が部長に読んで

あげるのは嫌味っぽくて笑えた、というお話だ。

     

この指摘に、なるほど!と単純に感心したのなら、わざわざ記事なんて書く

ことはない。面白い指摘ですね♪と普通にレスしておしまいだ。そうじゃなくて、

むしろ引っかかったのだ。エッ、猿蟹合戦ってそうゆう話なの?、高野が横暴

な夫?って感じだったから、あれこれ調べたり考えたりすることになったわけ。

         

そもそも上の私の文章には、猿と蟹を高野部長(藤木直人)アホ宮=雨宮

蛍(綾瀬はるか)と見る解釈については触れてない。つまり、そうは見えなかっ

たのだ。前から書いてるように、表面的にいくら口ゲンカしようと、蛍と高野は

すごく親密な関係だ。上司・部下の関係以上、恋人未満って感じ。たとえて言

うと、あの言い争いは、ベッドの上で服を着たままイチャついてる2人の男女っ

て感じにしか見えなかった。バカップルみたいに、じゃれあってるだけだ。

    

それに対して、猿蟹合戦にそうゆう親密な雰囲気を感じたことはなかった。悪

い猿に対して、蟹が仲間の助太刀で仕返ししたんでしょって感じだ。だから、

猿&蟹と、高野&蛍を重ねるのは問題外だった。ただし、ひょっとしたら読み

が浅いだけかも知れないな、とは思ってたから、「もっと斬新な発想があるかも

知れないけど、時間切れ」と締めくくったわけ。実際あの記事は、時計の針を

見ながらダッシュで書いたもんね。。

    

さて、早速あれこれ検索して分かったことは2つ。『猿蟹合戦』は昔話だから

色んなヴァージョンがあるってことと、横暴な夫に反旗を翻す妻って解釈そ

ものはなかなか見当たらないってことだ。こうゆう時こそマニアック・レビュー

の出番。諦めたり流したりするどころか、逆にワクワクしてくる♪

       

ネットの情報には限界を感じたので、本屋に立ち寄ってみた。まず見つけた

のが、関敬吾編『一寸法師・さるかに合戦・浦島太郎 ~日本の昔ばなしⅢ』

(岩波書店)。全くスタンダードな岩波文庫で、何刷も重ねてるし初版も古い

(1957年)から信頼感も増す。早速立ち読みしてすぐ驚いた。さるかに合戦

の項目に、話が4つか5つ並んでるのだ! おまけに、猿と蟹だけじゃない。

よく覚えてないけど、猿と雉(きじ)とか、猿とかえるとかのヴァージョンが並ん

でる(下のP.S.2参照)。これこれ! こうゆうレベルの話を求めてたのよ☆

      

さらっと流し読みしたあと、今度は絵本コーナーをチェック。1冊だけ見つかっ

た。松谷みよ子・文,滝平二郎・絵『さるかに』(岩崎書店)。お母さんカニが

殺された直後、子ガニがたくさん出て来て仕返しするってヴァージョンで、カニ

の見た目があんまし好きじゃない私は顔をしかめてしまったけど、あとがきみ

たいな文章に、親向けの鋭い説明が書いてあった。要するに、さるかにとは

共同作業の非協力者が罰せられる話だってこと。なるほど!☆ 

    

つまり、代表的なヴァージョンの一つなら、サルが柿の種を拾って、カニが育

てて、サルが収穫するのが共同作業。それなのにサルが熟した柿を独り占め

して、青くて硬い柿をカニにぶつけたりすれば、非協力の最たるものだ。そう

言えば、岩波文庫に載ってた色んな話も、全てそうゆう構造になってた気が

する。「やられた後でやり返す」って部分が強調されるようになったのは江戸

時代以降とかいう話も、なるほどって感じだ。

ちなみに、これを書いた人は松谷じゃなかったけど、名前が思い出させない

から後で調べて書き足すつもり。。(P.S.3参照)

    

残念ながら蛍が持ってた絵本はまだ見てないけど、もう気にする必要はない

どうせ、部屋に入る時に「昔々ある所に、猿と蟹がいました」、追い返される時

に「ある日のことです。山道を散歩していると、猿が柿の種を拾いました」と言っ

てただけだ。機会があればチェックするけど、もう時間がない。とりあえず、結

論をまとめることにしよう。

    

スタッフがどこまで意識してたかは分からない。水橋文美江の脚本には無くて、

演出の吉野洋か誰かの思いつきにすぎないかも知れない。ただ、視聴者側で

蛍の行為をこう受け取ることは十分可能だ。

「部長、どうしてもっと私と仲良くしてくれないんですか? そんなに冷たい態度

で非協力的だと、猿蟹合戦みたいにお仕置きしちゃうぞ♪」

    

つまり、仲良く同居生活するって共同作業における非協力者(=サル)が高野

てこと。確かに、記事でも指摘してきたように、蛍が高野に好意を示して接近

してるのに対して、高野は必死に距離を保ってる。

一応、細かい難点も挙げとくと、カニと違って蛍には、冷たくされても仕方ない

部分があること。つまり、わざとじゃないにせよ、雨に濡れながら高野が傘を

持って走り回ってる時に、蛍はコンビニで立ち読みしてたわけだ。実際、蛍

は平身低頭でヘコヘコと看病してた。

まあでも、普通は女性が「リンゴでも切りますか」とか気を使ってくれたら、感

謝の言葉くらいはかけるもの。それ以外にも、大きく見れば高野の方が非協

力的なのは明らかだ。もちろん、それがいいことか悪いことかは別問題だし、

表面的にいくらモメても実際はどんどん親密になってるわけだけどね。。

     

で、猿蟹合戦の後、「高野・蛍合戦」はどうなったか。「部長はもっと他人に甘

えてみてもいいんじゃないかな」という蛍に対して、高野は「ただの上司と部下

だ」と冷たい応答。その後、手嶋マコト(加藤和樹)と携帯でお泊まりの約束を

した蛍が、高野のベッドにもぐりこんで予行練習。高野は優しく抱き寄せるどこ

ろか場所を空けてもくれず、「信じられん。キミは一体何を・・!」と激怒。これ

なんて、共同作業の代表例としての夫婦生活(もどき)に高野が非協力的な

ことを見事に表してる。

    

でもその直後、謝りに来た蛍に高野は甘えて、「リンゴをすりおろして絞った中

に、フランス産の蜂蜜を5gと、国産のレモンを2mmの輪切りにして2枚と半分

入れたジュース」を注文。さらに、苦戦してる蛍の所に来て手助け。その後は、

「干物空間」の中心である縁側で仲良く線香花火。この時、中央に置いたろう

そくを使って2人が花火に火をつける様子は、明らかに結婚披露宴そっくりだ。

各テーブルを回って2人でろうそくに火をつける作業。あれはウェディングケー

キ入刀と並ぶ、夫婦の共同作業の手始めだ。(できれば、ろうそくの下に何気

なくカレーパンを置いて欲しかったな・・♪)

    

こうして見ると、蛍の『猿蟹合戦』は見事な効果をあげたことになる。そもそも

あの絵本は高野の実家のものだから、幼い高野の心に染み込んでるはずだ。

それを蛍に呼び覚まされた高野は、無意識のうちに子ガニ・栗・蜂・臼とかの

お仕置きが怖くなって、蛍との共同作業=仲良しの同居生活に協力的になっ

わけだ。たかが昔話の絵本だから、効果は長続きしなかったけどね。。

    

という訳で、ドラマにちょっとだけ登場した一冊の絵本から、面白いレビュー

が1本書けた。ホントは、先日他界した河合隼雄の本くらいチェックするべき

なんだろうけど、もう時間がない。個人的にはこの程度でも十分満足だ。も

うすぐ第8話だしね。

考察のキッカケをくださった読者に深く感謝しつつ、それではこの辺で。。☆彡

      

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.横暴な夫と、反旗を翻した妻っていう猿蟹合戦の解釈は、1つの分か

    りやすいアレンジだろう。今はともかく、昔は夫の方がサルみたいに

    横暴なことが多かっただろうし、夫の方が妻より身体が大きくて身体

    能力も高い。柿の実をもぐための木登りは夫の方が得意なはずだし、

    1対1の争いも勝つことが多かったはずだ(過去形♪)。それに対して

    子供は、まるで子ガニ達のようにお母さんの味方をしがちなもの。夫

    と妻で、話のつじつまがちゃんと合ってる。

    ただし、「猿蟹」じゃなくて「猿雉」だと、この説明の説得力が無くなるの

    は確か。その意味で、本質的な解釈ではない。。

    

P.S.2 改めて岩波文庫をチェックしてみると、「さるときじ」「さるとふくがえ

      る(=ひきがえる)」「坊主と意味不明な存在」になってた。全て、共

      同作業の非協力者を罰する話になってるのは確定。

    

P.S.3 『さるかに』のあとがきを書いたのは堀尾青史。彼は「共同労働」と

      書いてて、確かに岩波文庫の話はすべてその通りだけど、ここで

      はもう少し意味を拡げて「共同作業」と書いておいた。

    

cf.女というものは存在しない~『ホタルノヒカリ』第1話

   ネガティブからポジティブへの反転~『ホタルノヒカリ』第2話

   愛の道化の温かさ~『ホタルノヒカリ』第3話

   安らぎへと回帰する緊張~『ホタルノヒカリ』第4話

   本を読むこと、本を書くこと~『ホタルノヒカリ』第5話

   閉じられた空間での静寂なる接近~『ホタルノヒカリ』第6話

   乗り越えられないものは存在する~『ホタルノヒカリ』第7話

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   『ホタルノヒカリ』、ドラマと原作コミックの比較1

   『ホタルノヒカリ』、ドラマと原作コミックの比較2

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   悲劇を装った青春コメディー♪~『たったひとつの恋』最終回 

   感謝すべき遭遇、時空を超えた銀河~『ギャルサー』最終回

   救われない生の存続と終焉~『白夜行』最終回

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コメント

ご丁寧なレスの上、記事まで書いてくださって、ありがとうございます。
真っ赤な表紙に漢字で「猿蟹合戦」と書いてあったので、
誰かが「ここ、見て見て!」と振ってるように思ったんですよ。

どこであんな説を読んだんだっけか、今となっては思い出せませんが、
まぁ強引でヒステリックな説でしたわね。
でもそれなりに流布しているもんだと思い込んでいたので…
横暴な夫と反旗を翻した妻とは、部長×妻深雪をイメージしました。
二人の間に何があったのかこの際どうでもいいんだけれども、
高野部長は6話で離婚届に判を押して投函しちゃって、
自分が横暴で非協力的な夫であったと反省している真っ最中な訳で、
ただの蛍のお節介を部長が嫌味と受け取り、
あの時ああしていれば、こうしていれば、との
病床での落ち込みに追いうちをかけてしまった、と思ったの。
看病してる筈なのにね。

「猿蟹」が共同作業の非協力者に対する弾劾なら、
猿は蛍の方ですね。
8話ではマコトくんとの同棲に部長を引き込んで、
共同作業をサボろうとしています。
そろそろ罰せられるか?
…あ、逃げられた。

7話の線香花火に続いてヘリからの花火クルーズ。
部長の会社の窓からの花火。
田所と美奈子の花火をめぐる痴話喧嘩。
この辺もなんか暗示的ですね。
金魚にえさをやる蛍も何か意味ありげだわ。

投稿: なな | 2007年8月30日 (木) 18時16分

>ななさん

いえいえ、こちらこそ鋭いコメントありがとうございます♪
おかげさまで、ユニークな記事が書けましたし、
勉強にもなりました。前から興味はあったんですよ、昔話って。
初めてコメントくださった読者の名前をいきなり記事に
出すのは気が引けたので、ななさんの名前は差し控えました。
「ここ、見て見て!」か。。少なくとも2人、じっくり
見たってことですね。絵本も喜んでることでしょう ^^

出典は思い出せませんか。そんなにおかしくはないですよ。
昔話の読み方をわかりやすく面白く伝える本なら、
夫と妻でOKだと思います。
ネットが普通になった今だと、流布の状態が検索で
ある程度分かっちゃうんですよね。
ネット特有の偏りは多少入っちゃいますけど。

部長と蛍じゃなくて、部長と深雪ね! あ、そうゆう意味ですか。
勘違いしてましたよ。深雪は頭から完全に消えてました(^^ゞ
ただの蛍のお節介を、部長が勝手に嫌味と受け取るわけか。
高野は頭がいいはずだからあり得るし、筋も一応通ってます。
ただ、もしそうなら、もう少し近い前後に
深雪の話や映像が欲しい所です。
そもそも、猿蟹から横暴な夫ってイメージが
一般視聴者に無いですからね。僕も含めて。

猿=蛍は、マコトとの共同作業(恋愛)に非協力的で、
自分だけ別の相手(高野)っていう熟した柿を食べたから、
蟹=マコトに罰せられたわけでしょう。
険しい形相で逃げ出して、来週はシカト攻撃♪

花火は夏とか恋愛とかの象徴であると共に、
蛍の光とのコントラストを付けてるわけでしょう。
大きな光と小さな光。もちろん、蛍に残るのは小さな光。
金魚は僕も気になりましたけど、何も思いつきませんね。
案外、昔話にあるのかも。『猿と金魚』とか・・♪☆彡

投稿: テンメイ | 2007年8月31日 (金) 21時46分

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