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半世紀を経た「悲しき熱帯」の現状~朝日新聞・夕刊

たまたま早めに帰宅できたので、珍しくゆったりと朝日新聞の夕刊(2008年10月

1日)を開くと、大阪・難波の個室ビデオ火災事件が大きく扱われてる。カプセルホ

テル代わりの格安宿泊施設には、やっぱり安さの代償としてのハイリスクが潜んで

るんだなと確認したあと、他の記事を見始めて、ふと懐かしい言葉が目に留まった。

「悲しき熱帯」を歩く・3という、2ページ目に掲載された連載記事の第3回だ。

       

『悲しき熱帯』(1955年)というのは、構造主義の草分けとしても有名なフランスの

文化人類学者・レヴィ=ストロースの名作で、ブラジル滞在中のインディオ研究を

まとめたものだ。朝日の記事では、なぜか「レビストロース」と書かれてるけど、元

の表記は「Levi-strauss」だから、レヴィとするのが普通だ。1908年生まれの彼

がまだ生きてるというのがまず驚き(11月で100歳!)だったし、出版から50年

以上たった今現在の様子を現地調査する記事にも感心したから、わざわざ月曜

日まで遡って読んでみた。じつに興味深い話だ。。

          

今回、取材対象に選ばれたのは、著作の第7部で扱われていたナンビクワラ族

レヴィ=ストロースの調査は1938年で、70年もの年月が経過したことになる。

当時、彼は「物質生活の貧しさは、ほとんど信じられないほどだ」と驚嘆していた

(引用は川田順造訳・中央公論社刊による)。それに対して、月曜から水曜まで

の夕刊記事は、相当な変貌を報告している。

         

保護区で暮らすナンビクワラ族の生活も、様々な形で外部からの影響を受ける。

70年代から女性はを着始めて、祭りとかの儀式の際だけ半裸になり、独特の

化粧をする。その化粧にも、消しやすい油性ペンが使われたりするそうだ。男性

も、儀式の時には弓矢を手にするものの、普段はほとんど狩りはしない。保護区

は牧場や畑に囲まれ、生態系は破壊されて、獲物のサルや鹿は姿を消した。25

年前、保護区のそばに舗装路の国道が出来て、業者が森を伐採し、樹木は焼き

払われてしまったとのこと。今や、辺り一帯は一大穀倉地帯。

       

主食は芋と豆と肉を混ぜた伝統料理だし、アルマジロを食べたりもするけど、夕

食の主菜は町のスーパーで買った鶏肉。取材チームが持参したカップ麺にも興

味を示したらしい。金銭収入がどこから入るのかは、まだ書かれてないけど、農

産物とかの売買の他に、補助金でもあるんだろうか。とにかく、町の商店で頻繁

に買い物するとのこと。

           

儀式の最中に若者が携帯電話を見てる写真には苦笑してしまった。そんな場所

まで携帯が侵食してたのか。道理で先日、世界の携帯普及率が今年末で61%

なんていう驚異の数字が示されたはずだ。もちろん、1人で複数契約してる者が

普及率をアップさせてるのは確かだろうけど、急速に世界中で普及してるのは

間違いないだろう。保護区には携帯の電波が届かないものの、車で1時間走れ

ば大丈夫だし、保護区内でも携帯の着信音を鳴らして遊んだりしてるらしい。持っ

てること自体がステータス・シンボル。

         

もっと根本的に、部族の権力構造も変化してる。伝統的には、首長と、精霊への

祈り役と、若者を率いる頭目の3人が、各集落の指導者だったが、最近は役人

と交渉して文明化を進められる者が発言力を増してるそうだ。部落から町に出て

行く若者も多く、「壁」にぶつかった者のアルコール依存症が深刻な問題になって

るとのこと。ドラッグでないだけ、まだマシとでも言うべきなのか。。

          

元の『悲しき熱帯』という著作では、表面的には悲しく見える熱帯がもつ真の豊か

さが表されていたのに対して、現在の「悲しき熱帯」の様子は逆。表面的には豊

かそうに見えても、真の悲しさに覆われつつある状況だ・・・というのが、この連載

のメッセージだろうか

    

そもそも、携帯で遠くの人間と触れ合う時間は、近くの人間と触れ合ってないわけ

だ。携帯の画面を見てる間は、周りの景色を見つめていない。人間社会の「進歩」

とは何なのかという素朴な問題を、あらためて考えるための契機としては、いい記

事だろう。彼らの生活に、今でもかつての姿が多少は残ってる様子を読むと、正

直ホッとした。『悲しき熱帯』で、「人間の優しさの、最も感動的で最も真実表現

である何かを、人はそこに感じ取る」と描写されていた、身を寄せ合って砂地に眠

る姿は、昔と同じ光景らしい。

                       

レヴィ=ストロースは「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」

書いたが、これは真実だろう。ただその一方で、我々はやはり人間だから、人間

らしい感情や欲望、価値観と共に生きていかざるを得ない。人間は自然といかに

共生すべきか、文明は未開(or開発途上社会)といかに共生すべきか。日々の

雑事に追われる中、そうゆう根本的で大きな思索は忘れずにいたいと思う。たと

えそこに答はなくとも、考え続けることが自然に対する礼儀作法であり、人間の

品格を表すことでもあるだろう。

ではまた。。☆彡

    

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

☆10月2日追記: 連載第4回は、発電機、テレビ、ナンビクワラ後の文字表記

            (ローマ字)、ポルトガル語、パソコンが入って来る一方で、

            しきたりや風俗が薄れていく様子が描かれていた。初回同

            様、女性特有の儀礼の変化が報告された。

       

☆10月3日追記: 連載第5回、最後を飾るお話には、何と70年前にレヴィ=

            ストロースと会ったと語る古老ティトの登場。「ブランコ」=白人

            が進歩と共に病気や災いをもたらしたと語ってる。インフルエ

            ンザはしかもブランコのせいなのかね。

            古老の話も、記事の論調も、まさに「悲しき熱帯」。原著から

            の最後の引用は、

            「異常な発育を遂げ、神経のたかぶりすぎた一つの文明によっ

            て乱された海の静寂は、もう永久に取り戻されることはない」

            もちろんこれはブラジルの「未開」民族だけじゃなく、我々に

            ついても言えることだろう。。

            とにかく、石田博士記者を始めとする取材スタッフの皆さん、

            ユニークな調査記事をどうもありがとう! できれば近々、フ

            ランスにも取材に行って欲しいもの。著作に写真で登場して

            ると自ら語るティトの話に、レヴィ=ストロースがどう反応する

            のか、知りたいもんだ♪☆

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コメント

こんばんは

「ウルルン」を見て
こんなことろへ入っていって TVを撮影することは
ここに住んでいる人々の暮らし
壊すことにならないのかな
という思いがぬぐえませんでした
だから 番組が終わって少しほっとしました
(終わったんですよね そう聞いたんだけど
確かじゃないの)

文明社会の悲劇
一度持ってしまったら 捨てられない物の数々
一度味わってしまったら 忘れられない便利さ

昔の方が 精神的に豊かだと分かっていても
もう戻ることは 出来ないのよね
逆に進めないなら
どういう風に前に進んでいけばいいのか
考えなくてはいけないのでしょうね

家も捨てられないガラクタがいっぱいです
心の中にある 
「もっと欲しい」 「もっと楽がしたい」という
とめどもない<欲>もね(笑)

投稿: 彩花 | 2008年10月 4日 (土) 18時09分

> 彩花さん
   
こんばんは♪
意外な記事へのコメントだなと思ったら、
ウルルンを見てたわけですね。
      
僕は、ドキュメンタリーは好きなんだけど、
民放のトークやクイズは苦手なもんで。。
学問的な調査じゃなくて、バラエティに近い商業的
テレビ番組の取材ってのも、ちょっとね。。
13年も続いて、遂に終了ですか。HPにも既に
内容が書かれてないってのは、「悲しき」ことかも。
    
ホント、なかなか元に戻れないんですよね。
携帯なんて、15年前にはまだまだマイナーだったのに、
いまや南米の原住民まで手にしてしまってる。
数人で集まってる高校生とかが、それぞれ別々に
携帯をいじってる姿を見ると、変な世の中だなと
あらためて思います。
夜道を1人で喋りながら歩く姿も奇妙ですね。
   
そこまでして、遠くの人とつながらなきゃなんないのか。
・・とか言いつつ、ブログを通じて彩花さんと会話
してるのも、ここ5年で広まった現代文明ですけどね (^^ゞ
遠く離れた世界とつながる便利さと、その代償。
じっくり考えてみるべき問題だと思います。   
   
アハハ (^^) 彩花さんも捨てられないタイプなのね。
僕も、母親譲りで、物が捨てられなくて。
たぶん、いまや僕の最大の欠点でしょう。
多すぎて、どうにもならない状況。。
   
ま、結局は、過剰な欲望のせいかな。
彩花さんも僕も、強欲なんでしょう。。♪ shine

投稿: テンメイ | 2008年10月 5日 (日) 18時21分

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