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生物学の名を借りたエンターテインメント~NHKスペシャル『女と男』

昨日はNHKスペシャル『女と男~最新科学が読み解く性~』第3回を流し見して

る内に眠くなってしまって、夜ランを早朝ランへと変更。ところが、夜中から雨が降

り出してしまったから、早起きは止めてそのまま朝まで普通に寝てしまった。失敗

したなぁ。。いや、雨さえ無ければちゃんと走ってたのに。勝負事に「たら」「れば」

は厳禁か。どこが勝負事なんや♪

              

で、そのドキュメンタリーの内容。私は第1回「惹かれ合う二人 すれ違う二人」

第2回「何が違う? なぜ違う?」も見てないけど公式サイトの簡単なまとめは見た。

その上で全体を一言でまとめると、「最新科学とされがちな学問の怪しげな現状

の報告」って感じだ。その最たるものが、昨夜の第3回「男が消える? 人類も消

える?」。経験科学としての生物学的な知見に、大げさなトンデモ話を巧みに交え

て話すから、多くの視聴者はスルスルッと洗脳されてしまうだろう。

     

実はHPだとこの番組は「エンターテインメント」のカテゴリーにも入ってる事を意識

してる人が、どれほどいるだろうか。かなり極端で危なっかしい語り口の番組だっ

たから、その中和剤として、私もここでやや極端な口調で批判しとこう。どうせ個人

ブログだし、仮に100倍の極端さで語ってもNHKのテレビ番組の100万分の1程

度しか影響力はないだろう。にも関わらず、たかが番組の0.5倍程度の極端さで

語るのだから、以下の論述は私としてはかなり控えめに留めてるつもりだ♪

                            

       ☆          ☆          ☆

この番組の性格は、数分も見ない内にすぐ分かる。外国の生物学者が、男はす

ぐにいなくなるかも知れないと語るのだ。すぐというのは、数日後とか来週という

意味で言われてて、この時点でこの学者のレベルや性格が分かってしまう。男が

消えるという意味は、精子が消滅するとか男の新生児(or胎児)が無くなるという

意味だろうけど、もし数日以内に消えなかったらこの学者はどう責任を取るのか。

同じNHKで「私は間違ってました」とでも訂正すると言うのだろうか。

           

あり得ない。目立ちたがりの言いっ放しでおしまいなのだ。実際、もう撮影日から

2週間以上は経ってるはずのに、画面のテロップに「この発言は間違いでした」と

表示されることはない。「反証可能性」を持つ主張だから「科学的」という事は一応

可能かも知れないものの、あっさり反証されてしまった偽の主張。にも関わらず、

釈明もないまま、最新の科学的警鐘として放映されてしまう。制作スタッフはその

点、どう釈明するんだろうか。これがテレビではなく新聞だと、もう少し控えめで

保留を感じる報道になってたはずだ。

                           

この手の学者は、生物学に限らず外国によくいるタイプだと感じる。目新しくて極

端な意見を口にして名前と顔を売った後は、簡単に前言を撤回or変更してしまう。

使うデータも、自説に都合のいいものが中心。特にテレビ番組となるとその傾向

が強くて、今回ここ数年の精子の急激な衰えを示す際にも、一つの観察結果を示

すだけだし、その調査方法も生のデータに近いものも示されることはない。著名

な科学雑誌『Nature』を一瞬映しとけばいいというものでもないのだ。

        

こうした不正確さやバイアス(偏り)は、民放の情報バラエティで何度も問題視さ

れて来たのに、信頼性が売りのはずのNHKまで同調してしまってる。少なくとも、

番組とは別に公式サイトで、別の観点やより中立的な見方、あるいは基礎的な

情報を補足することは可能なはずなのだ。

                           

メディア以上に、視聴者や読者に特徴的なのは、面白話として消費しておしまい

にする姿勢だ。精密な話はスルーして、後の撤回や変更にも興味を持たず、最初

の目立つ話だけ楽しんでおしまい。「あぁ、面白かった♪」とか、「知ってる? 最

新の生物学によると男はもうすぐ消えるんだよ!」って程度の扱いだ。ホントに聞

き流してるんなら問題ないけど、ある程度以上信じてしまってるのが怖い所。

            

「数百万年前の人類誕生の話でさえ二転三転して来たのに、数億年前の生物だ

の、数百万年先の人類の未来だのがどうして語れるんだろう」・・・そういった常識

的疑問や冷静な慎重さは僅かしか感じられない。むしろ番組放映後の視聴者の

個人的コミュニケーションを通じて、話が「拡大」再生産され、信頼性は「縮小」し

ていくのだ。

                                                                  

ちなみに、男性特有のY染色体が、両性共に持つX染色体よりもかなり小さいと

いうのは確かな研究成果だろうし、Y染色体に見出された遺伝子の数がX染色体

のそれよりも遥かに少ないというのも別に問題ない。もちろん暫定的な知見だし、

個数はかなり流動的なようだけど、基本的には高校の教科書でさえ明記されて

る普通の話だ。そこまではいい。でも、人類の数百万年とされる歴史の中で、あ

るいは遥かに長い哺乳類や生物の歴史の中で、染色体や遺伝子がどう変化し

て来たのか。更に、どう変化するのか。その非常に複雑な長期的問題が、たか

が数十年の分子生物学や脳科学の研究で断定できるはずはない

              

「オス」と「メス」という対立概念の意味も、さほど確定的なものじゃない。現在は、

2種類の配偶子(人間だと精子と卵子)の違いから決めてる(小さくて動きのいい

配偶子を持つのがオス)ようだから、「もともとメスしか存在しなかった」とか言う

時には、「メス」という言葉の使い方は現在とは違ってしまってる。その時点では

2種類の配偶子がないし、2種類の生物個体もないのだから。後に登場するメ

スと同一だから最初もメスだ、という論法を使うにせよ、その同一性を保証する

のに十分なデータが揃ってるはずはない。と言うより、数億年前の生物の変遷

を明確に示す証拠など皆無に等しいだろう。

             

言葉の巧みなスリ替え、あるいは拡大解釈とか「外挿」(本来の範囲外への挿入)、

想像なのに、学者が語ると一般社会はそのまま受け入れてしまう。日本だと、例

えば売れっ子・分子生物学者の福岡伸一が『できそこないの男たち』(光文社新書)

とか語ると、「そうなんだ!」となってしまって、「ホントにそうなの?」とはなりにくい。

大きな書店に平積みされて何万部突破とか威勢のいい売り文句が付くと、一気に

受容されてしまう。売れてる科学本の内容=科学的事実という危うい構図だ。

                                                 

生物より遥かに単純な物質の知見でさえ、僅か数十年、数百年の間に大きく変

わってのだ。ましてや複雑な生物の数百万年~数億年の話など、言葉のフツー

の意味で、あるいは遥かに軽い意味で、「仮説」にすぎない。と言うより、民放の

情報バラエティがよくやる通俗的な「面白話」に近いもので、実際このNHKスペ

シャルの構成も情報バラエティっぽい作りになってた。筧利夫と西田尚美のミニ

ドラマを交えた、フィクションのような「新演出」(公式サイトの言葉)だ。

                        

そもそも、人類が子孫を残すためにオスとメスの役割分担という方法を獲得した

なんて話も「擬人法」にすぎない。人類とか遺伝子というものを、あたかも個々の

人間のように意志を持つ存在として扱う、通俗的なたとえ話なのだ。「利己的な

遺伝子」という、一昔前の流行り文句みたいなもの(元のドーキンスの主張自体

は意外なほど穏当)。

      

もちろんイソップ物語にも日本むかし話にも、たとえ話としての意義はあるけど、

それらを真に受ける人はいない。ところが、「最新科学」と名づけられたり、○○

大学教授とか△△研究所・研究員とかが登場すると、単なるたとえ話でも面白

話でもなく、かなりの信頼性を持つ科学的見解ということになってしまう。

               

それで何が悪いのかと言うと、個人がテレビを見たり本を読んだりしてるだけな

ら、それほど実害はないかも知れない。ところが、この種の話は実際の社会の

システムに影響を与えてしまのだ。例えばアメリカだと、男と女は生物学的に異

なる人間だから別々に教育すべきだという動きがある。日本だと、「生物学的に

はオスはメス多数に対してちょっとあればいい。・・・男よ威張るな」なんていう福

岡の発言(2009年1月5日・朝日新聞朝刊)があって、容易に精子バンクの肯

定へとつながるだろう。

                  

少数の優れた男性の精子を貯えて顕微授精すれば、女性は満足のいく妊娠が

可能になり、人類の種族保存も果たされるという発想。もちろんこれは基本的に、

優れた人間というものを理論的に決めてそれだけを優遇しようとする、悪名高き

優生学の発想と同様のものだ。しかも、考え過ぎとか杞憂などではなく、米国に

おける現実の選択として広がり始めてるのだ。これが行き過ぎると、技術革新に

よって容易に反動が生じるだろう。少数の優れた女性の卵子だけあれば十分だ

という風に。

                                               

全く違う観点からも問題点を指摘しとこう。仮に、「男が基本的存在で、女はもう

すぐ滅びる」という話だったとしたら、国営放送であるNHKスペシャルがここまで

大げさに扱うだろうか。フェミニスト論客に限らず、女性の反発が強くて、そこまで

制作スタッフも思い切れないだろう。女を持ち上げる話だから、現代社会で広く許

されるのだ。裏返して言えば現実はまだ圧倒的に男性優位ということ。「女と男」

という番組タイトル自体が、ヒネった形でその事実を示してる。男はすぐ消滅する

どころか、まだまだ余裕があるのだ。。

           

         ☆          ☆          ☆

色々と批判的な事を書いて来たが、私は基本的にNHKのドキュメンタリーは好き

だし、生物学も興味深いと思ってる。だからこそ、怪しげな面白話とマトモな話の

区別は必要だと言ってるだけのことだ。制作スタッフには良質な番組を見せて欲

しいし、生物学者には客観的で精密な見解を提示して欲しいと願ってる。ただし、

細心の注意を払いつつ。大胆な見解ほど慎重に、間違いが発覚した時は誠実に。。

ではまた。。☆彡

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コメント

テンメイ様

ヒロとマサと申します。初めまして。

先日のNHKスペシャル女と男を見て、あまりにずさんな番組だと思い検索しましたところ、ほとんどの人が「面白かった」という内容で、ガッカリしていたところ、テンメイさんのこのページに行き着き、「ちゃんと見ている人は見ているんだな」と思い、安堵とともに、勢いで私のブログのこのページを連絡なしにリンクさていただきました。

お許しください。

リンクに問題がありましたら、すぐにご指示いただければ、即座にリンクを中止いたします。

勝手申し上げまして恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。

http://5leaf96ver.livedoor.biz/archives/701618.html

投稿: ヒロとマサ | 2009年1月29日 (木) 01時59分

> ヒロとマサさん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
   
あの番組は、普通の人には面白いでしょう。
特に女性にとってはそうだと思います。
でも、ある程度以上の知識や思考力をもった
人間にとっては、SFドラマみたいなもの。
あくまでエンターテインメントのための
フィクションにすぎません。
              
まあ、「男が消える? 人類も消える?」と
「?」がついてたし、いつか遠い未来に人類が
消えるだろうという話なら平凡な発想。
まだまだ圧倒的な男性社会だし、とりあえず
聞き流しておきましょう。。☆彡

投稿: テンメイ | 2009年1月30日 (金) 02時19分

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