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うつ病の診断基準と抗うつ薬~NHK『ためしてガッテン』

昨夜たまたまテレビを見たら、NHKでうつ病の特集が始まった所だった。

人気番組『ためしてガッテン』で、今回のタイトルは「うつ病よサラバ! 

脳が変わる最新治療」。また心の病と脳の話か・・・って思いはあったけ

ど、この番組を見るのは数年ぶりということもあって、雑用をこなしつつ最

後まで見てしまった。

                      

私は、『ラスト・フレンズ』や『あしたの、喜多善男』の本格的レビューでも

示して来た通り、この種の話には関心があるし、多少の知識もある。番

組の中心的内容に気になる点があったから、簡単に補足&コメントしと

こう。それは、うつ病判断の基準と抗うつ薬の問題だ。

          

番組の全体的主張は、「心の風邪」というほど軽いものでもないから、

めに病院の精神科などで受診して、薬を飲みながら焦らずじっくり治しま

しょうということだ。本当に適切かどうかはともかく、非常によく聞く話だし、

有力な代案も見当たらないから、ここでは差し当たり聞き流しておこう。

            

まず問題になるのは、治療のスタート。つまり、うつ病の判断だ。これに

は、本人や周囲、つまり素人の大まかな判断と、医者の専門的診断が

あって、当然まず最初に素人の判断が来るわけだ。ただ、ゴールデン

タイムのテレビの人気番組で、医師の診断基準がボードやテロップで

強調されると、素人の判断もそれに大きく影響されるだろう。

              

では、番組が示したうつ病の基準は何だったか。以下、再掲してみる。

             

   1. ほとんど毎日、抑うつ気分(ゆううつ)が続く。

   2. 何に対しても楽しいと感じることができず、興味がわかない。

   3. 食欲が低下している。体重が減った。

   4. よく眠れない。

   5. イライラする。

   6. 疲れやすく、だるさがとれない。

   7. 自分を責めてばかりいる。自分には価値がないと思う。

   8. 集中力が低下し、考えることができない。

   9. 死んだ方がよいと思う。

                      

これらの内、1と2のいずれかを含む5項目が2週間以上続いて、苦痛

や生活上の支障を伴う時に、うつ病と診断される。小野文惠アナウン

サーはそう説明した。

             

ありがちとはいえ、非常に分かりやすいまとめ方だと思う。ただ、心の

病そのものも、医師の診断基準も、それほど分かりやすいものではな

い。ということは、どこかに多少の無理があるのだ。

                         

上の基準は、米国精神医学会DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・

統計マニュアル(新訂版,医学書院,2004)の記述を簡単にしたも

ので、このマニュアルが現在の精神医学の世界標準になっている。そ

の中に、「大うつ病エピソード」という妙な項目があって、これが典型的

うつ病(大うつ病性障害)を示す特徴の正式名称なのだ(他にも色んな

うつ病的障害がある)。

                           

 (追記: 別のうつ病的障害の基準を示した記事を追加した。

          うつ病の診断基準2~気分変調性障害 

          うつ病の診断基準3~双極Ⅰ型障害(躁うつ病) )

                                

その医学的な基準は、テレビで紹介したものに似てるけど、もっと

くて難しくて微妙なものになっている。たとえばテレビの基準の2番は、

何に対しても楽しいと感じることができず、興味がわかない」だった。

             

これに対応するのは医学マニュアルの基準のA2。正確に引用すると、

   「ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんど

    すべての活動における興味、喜びの著しい減退」。

                 

両者を見比べると、ハッキリした違いに気づくはずだ。つまり、マニュ

アルの基準は非常に強い(あるいは厳しい)表現になってるのであっ

て、そう簡単にはうつ病の診断ができないように配慮されている。他

の番号の基準もそうだし、そもそもマニュアルには、番組で示された

もの(A基準)以外に、B~Eの基準も追加されてるのだ。たとえば、

愛する人との死別の落ち込みはうつ病(正確には大うつ病エピソード)

とは別扱いになる(E基準)。

              

ここから、2つのことが言えるだろう。まず、テレビや雑誌の情報から

素人判断は難しいから、専門家に任せた方がいいということ。また、

専門家でさえ、それぞれ異なる人間や症状に対して、複雑な診断基

準を当てはめるのは簡単じゃないだろうということだ。実際、医師に

よって診断が異なるというのはよく聞く話だし、重要な裁判の精神鑑

定でも問題になってきたことなのだ。。

     

                             

       ☆        ☆        ☆

診断基準の話に続いて、抗うつ薬の話。いま現在、大きく見渡した時、

心の病に対する治療の基本は薬物療法であって、精神療法、カウンセ

リング、物理療法(電気ショックなど)といったものはオマケとか少数派、

代替療法にすぎない。

                                          

この薬の作用についても、番組ではわかりやすい説明をしていた。

の神経細胞(ニューロン)の間で、神経伝達物質の働きが不足してるの

だから、これを増せばよい。そのためにはどうすればいいか。クイズ形

式で出演者が答えてたけど、全員ハズレ。送り出す量を増やすとか、

受け取る機能を高めるといった単純な話ではないのだ。

               

細胞の先端(シナプス)が伝達物質を送り出した後、相手の細胞に受け

取ってもらえなかった分を、再び元の細胞に回収してしまうシステムが

る。この回収を妨害するのだ。番組では、色んな形のフタの模型を使っ

て妨害してた。回収する扉(トランスポーター)をフタで閉じてしまうことに

よって、細胞の間の伝達物質が減るのを妨げる。すると結果的に物質

が増えて神経伝達が活発になり、憂鬱な気分が晴れるだろう。

                                    

回収を妨害するこのヒネった薬は、専門用語で「再取り込み阻害薬」

(reuptake inhibitor)と呼ばれてる。その中でここ20年ほど主流だった

のが、セロトニンという脳内物質に絞って妨害する「選択的セロトニン

取り込み阻害薬」。英語で「Selective Serotonin Reuptake Inhibitors」だ

から、略して「SSRI」と呼ばれている。最近ではセロトニンに加えて、ノル

アドレナリン(またはノルエピネフリン、いずれも頭文字がN)という物質

にも働く「SNRI」も普及しているようだ。

                          

さて、ここまでは単なる解説だけど、重要な注意はここからだ。番組で

は、副作用の話がほんの少し出ただけで、基本的に薬を高く評価して

いた。でも向精神薬全体に対しては、いわゆるオーバードーズ(過剰摂

取)とか依存症違法売買の問題が指摘されてるし、特に抗うつ薬に関

しては、つい先日も重大な副作用が話題になって、NHKでも大きく取り

上げられたばかりだ(『クローズアップ現代』6月1日、抗うつ薬の死角)。

                    

薬による自殺のリスクだけじゃなく、他人に対する攻撃性が増すリスク

があるということで、厚生労働省も薬との因果関係を否定できないと

判断している。もちろん、全体で見ると少数だろうし、メリットとデメリット

を総合すればメリットの方が大きいのかも知れない。長所と短所の

静な総合的判断は当然重要で、日本うつ病学会が最近出した声明文

でも、薬を危険視しすぎることのないよう、慎重な態度を促している。

                          

ただ、薬に関しては、医師の不適切な処方とか経済的問題止めた後

の症状悪化などの問題もある。それどころか、有効性そのものへの疑

問も根強く続いてるから、やっぱり安くて効能もまずまずの風邪薬(パブ

ロンなど)とは相当違うものなのだ。その意味では、番組最後に付け加え

られてた認知行動療法(ものの見方や行動パターンをポジティヴにする)

や、奇妙なダンス「フリフリ」の方がマシかも知れない。「薬にもならない」

かも知れないけど、「毒にもならない」だろうから。。

    

                                                                  

          ☆        ☆        ☆

いずれにせよ、急性で激しい症状は薬その他の医学的治療で対処する

として、その後とかそれ以前に関しては、今後も社会全体で、また一人

一人の個人で模索していくしかないだろう。ごく一部の恵まれた人を除い

て、生きるというのは大変なことだし、だからこそ重みがあるのだと思う。

               

ではまた。。☆

       

          

           ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.うつ病の診断基準2~気分変調性障害

  うつ病の血液診断と遺伝子変化

  うつ病の診断基準3~双極Ⅰ型障害 (躁うつ病) 

  うつ病の診断基準4~双極Ⅱ型障害 (軽い躁うつ病)

  新型うつ病の一つ、非定型うつ病について

  統合失調症の診断基準、統計、および歴史的経緯

          

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  心理療法を無料で全国民に~朝日新聞「欧州の安心 イギリス」

  大胆かつ繊細な試論~香山リカ『雅子さまと「新型うつ」』

  ネット依存とうつ症状~朝日新聞「やさしい医学リポート」

  携帯連絡が返って来ない時の認知療法スキル(技)

                      ~朝日新聞「100万人のうつ」

               

手作りTB: ドラマ「ツレがうつになりまして」に関するキッドさんのレビュー

      http://kid-blog.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-e3d1.html 

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コメント

fullmoonテンメイ様、こんばんは。

お元気そうでなりよりです。

記事とは無関係のレビューの記事なのですが
うつ病についての基礎知識を
書くのが面倒で
うつになるといけないと思い
勝手にリンク貼らせていただきました。
事後報告ですが
ご了承ください・・・おいっ。

ちなみにキッドの記事はドラマ
「ツレがうつになりまして。」のメモ記事です。
コチラ→http://kid-blog.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-e3d1.html

心の病は加減が難しいですからねぇ。
もう病について書くことも
病んだものについて書くことも
相当に体力を使うことは間違いなし。

キッドはよる年波で
体力に自信なしなのでございます。

七夕も過ぎて夏本番。
ご自愛くださりますように。typhoon

投稿: キッド | 2009年7月10日 (金) 01時03分

> キッドさん
   
こんばんは fullmoon お久しぶりです。コメントどうも♪
そちらも相変わらずのご様子で何よりです。
         
月がキレイな時期ですね☆ 月齢16.9。
走りながら月をよく見てます。
もうすぐ日食。直接、目で見るなと新聞が度々
注意してますが、ちょっとならイイと思うけど♪
           
         
さて、「ツレがうつになりまして」は、原作も
ドラマも気になってましたが、余裕がないもんで。。
藤原紀香virgoが嫁さんの男でも、うつになるんですね ^^
リンクを貼って頂いたそうで、有難うございます。
こちらも手作りTBを付けときましょう。
後ほど、そちらにも伺おうと思います。
         
うつの話はホント、世の中に溢れ返ってますが、
最新の正確な話はごく僅か。
かと言って、新し過ぎると信頼性が低いし、
正確過ぎると分かりにくい。結構、難しいですね。
         
この記事は、テレビ番組を利用しつつ、あくまで
独自性を出して簡潔にまとめたつもりです。
ただ、やっぱり物足りないから、記事を
追加するハメになっちゃいました (^^ゞ
あと2本は書くつもりです。
    
体力に自信なしとか言いつつ、ずいぶん
精力的に書きまくってるでしょ♪ 
それだけ元気なら、今後はスポーツか武道にも
パワーを注いで頂きたいものです。
汗を流した後のビールとか、最高ですよ beer
    
いよいよ夏本番が近付きましたね。
まぶしい時期だからこそ、心身の負担は大きい。     
キッドさんもどうぞご自愛ください。。shine

投稿: テンメイ | 2009年7月10日 (金) 03時50分

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