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「1+1=2」はなぜか?~ペアノの自然数論(足し算)

1と1を足すとなぜ2なのか。あるいは、数式を使うなら、なぜ1+1=2

なのか。これは考え始めるとズブズブにハマる深い問題だが、幸か不幸

か、ほとんどの生徒はそこにハマることなく先に進んで行く。小学校の先

生も、さほど困ることなく算数の授業ができるわけだ。

        

私はしばらく前、小学校の算数の教え方が気になって、教科書を買い揃

えたんだけど、今たまたま手元に見当たらない。でも、自分のおぼろげ

な記憶をたどっても、ネットの情報を見ても、おそらくは具体的な物事の

(個数、回数、体積など)を足し合わせる話で入って、後は計算ドリル

とかの反復練習で頭に叩き込んだと思う。

                

例えば「えんぴつ1本と1本、合わせて2本でしょ」と教えられたり、1+1

の計算の答えを3と書くと赤ペンでバツされたりしたんだろう。それを2と

書き直せば、今度は褒めてもらえたり、先生や親の笑顔が見れたりする。

主として、そうした社会的サンクション(sanction = 賞罰)が強く働くこと

によって、人は基本的な足し算を「学ぶ」ことになるわけだ。

       

  (☆追記: その後、小学校の算数の記事をアップ。

         「1+1=2」はなぜか~小学1年生の算数の教科書 ) 

               

けれども、1+1=2である理由が周囲の人の反応にすぎないというの

はおかしな話だし、反復練習したからというのも学問的な理由にはなっ

てない。また、具体的な物事の量を足す話なら、いくらでも反例らしきも

のを見つけることが出来る。

                            

砂の山を1つと1つ合わせると大きな砂山1つになるだけだし、テストで

1問解ける生徒と1問解ける別の生徒が一緒になっても2問解けるとは

限らない。大きさ1のベクトルと大きさ1のベクトルを足しても、ほとんど

の場合は大きさ2にはならないし、2進法なら1+1=10だ。男で1番

速い生徒と女で1番速い生徒が組んで二人三脚をしても、2番になると

は限らない。相対性理論や素粒子論などという高級な話を持ち出さな

くても、簡単な反例が数多く存在するのだ。

     

もちろん、多少の知恵のある大人なら、すべて「間違い」を示すことが

可能だろう。それは足し算のやり方がおかしいのであって、この場合は

こんな具合に、あの場合ならあんな具合に足すんだと「教える」わけだ。

しかし、その教えが正しいことの論理的保証はないし、すべての場合を

網羅したマニュアルというものも現存せず、今後もあり得ない

     

ここで人は2種類に分かれる。そこまで妙なこだわりをもたない大多数

の人と、徹底的にこだわるごく一部の人だ。そして、数学の歴史上、後

者を代表する厳密な学者が、イタリアのジュゼッペ・ペアノ(Giuseppe

 Peano)だ。現代数学の体系を築き上げた天才数学者の1人である彼

がこだわったのが、数の基本である「自然数」(0,1,2,3・・・)だった

(0を入れるのが普通だが入れなくても構わない)。

     

  (追記: 先行するデデキントフレーゲとの関係は、後で扱う予定) 

        

自然数に正(+)と負(-)の符号を付ければ整数になり、さらに割り算

を作れば有理数になる。その極限を取れば無理数になって、有理数と

合わせれば実数全体。そして、実数2つの組合せで複素数になるわけ

だ(虚数単位 i は必要ない)。したがって、高校数学までに登場する数

のすべてを、自然数から構成していくことが出来る。

          

この自然数というものについて、ペアノは根本的にとらえ直してるのだけ

ど(いわゆる「公理化」)、最初から書くと話が長くなり過ぎる。ここでは、

足し算だけに焦点を絞って解説してみよう。講談社の『現代数学小辞典』

(寺阪英孝編)を参考にしながら、自分で考えた結果だ。ネットも多少は

目を通したけど、単純な知識レベル以外ではほとんど使ってない。

      

  (☆追記: ペアノ自身の論文に即した記事を追加。

   自然数に関するペアノの公理~論文『数の概念について』に即して

         

      

        ☆          ☆          ☆

ペアノの根本的なアイデアは、現実世界の足し算を証明するのではなく、

人工的な数学の世界で足し算を作るということだ。それでは現実と関係

ないのかというと、そんな事はない。普通の足し算はすべて完全に導き

出せるし、現実離れしたおかしな話が出てくることもない。

      

ただ、彼の自然数論の説明は、現実の鉛筆とも関係ないし、社会的なホ

メ言葉やバツ印とも無縁のもの。純粋な数学理論であって、それが不思

議なことに、現実にも使えるわけだ。   

           

まず、自然数 m,n に関する足し算を、次のように一般的に定義する☆

   ① m + 0 = m

   ② m + n´ = ( m + n )´

     

ここで、数や文字の右上の「´」(ダッシュ または プライム)は、「次の数」

(successor)表す記号。例えば、0´=1、1´=2、2´=3。「´」を重複

して付けた例だと、3´´=(3´)´=4´=5 などとなる。一般に、0に「´」

が n コついたものは、自然数 n を表しており、0´´´´´´なら 6 のことだ。

       

この時、「1+1=2」は次のように証明される。

   1 + 1 = 0´+ 0´

          = (0´+ 0)´  ・・・・・・ (②より)             

        = 0´´      ・・・・・・ (①より)

        = 1´

        = 2

     

また、「3+2=5」の証明なら、以下の通りだ。

   3 + 2 = 0´´´+ 0´´

          = (0´´´+ 0´)´    ・・・・・・ (②より)

          = ((0´´´+ 0)´)´  ・・・・・・ (②より) 

          = ((0´´´)´)´     ・・・・・・ (①より)

          = 3´´

          = 4´

        = 5

       

        

       ☆          ☆          ☆

さらに進んで、一般的な加法(=足し算)の法則を証明してみよう。

           

まず、結合法則「(k+m)+n=k+(m+n)」の証明。nに関する数学

的帰納法を用いる。

    

    (1) n=0の時、(左辺)=(k+m)+0

                   = k+m    ・・・・・・ (①より) 

               (右辺)=k+(m+0)

                   =k+m    ・・・・・・ (①より)

             ∴ (左辺)=(右辺)

    

    (2) n=pの時に与式が成立すると仮定すると、

          (k+m)+p=k+(m+p)  ・・・・・・③

       これを利用して、n=p´(つまりp+1)の場合を考えると、

          (与式左辺)=(k+m)+p´

                 =((k+m)+p)´   ・・・・・・(②より)

                 =(k+(m+p))´   ・・・・・・(③より)

                 =k+(m+p)´     ・・・・・・(②より)

                 =k+(m+p´)     ・・・・・・(②より)

                 =(与式右辺)

       つまり、n=p´の時にも与式は成立する。

        

     以上、(1)(2)より、すべての自然数 n について与式は成立する。

                              (Q.E.D. 証明終了)

     

        

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

続いて、簡約法則(or 簡約律)「k+n=m+n ならば k=m」も同様に

証明できる(『小事典』では「容易」なものとして省略)。

ただし、「a´=b´ならばa=b」という自然数の性質を用いる。

      

     (1) n=0の時、法則は「k+0=m+0 ならば k = m」となる。

         これは①より明らかである。

     

     (2) n=pの時、法則が成り立つと仮定すると、

        「k+p=m+p ならば k=m」・・・・・・④

        これを利用して、n=p´の時を考えてみると、

        k+p´=m+p´ならば、(k+p)´=(m+p)´・・・(②より)

                    ∴ k+p=m+p・・・(自然数の性質)

                    ∴ k=m   ・・・・・・(④より)

        よって、n=p´の時にも与式は成立する。

   

     以上、(1)(2)より、すべての自然数 n について与式は成立する。

                             (Q.E.D. 証明終了) 

        

        

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最後に、交換法則「m+n=n+m」の証明について。これは『現代数学

小事典』だと省略して、次のように読者を挑発している。「・・・ちょっと

筋縄ではいかない。しかし数学自慢の人にはちょうど手ごろな力だめし

の問題であろう」(p.90)。この本は建前上、高校卒業レベルで一応読め

ることになってるので、私もあえて書かないことにしよう♪ 

    

もちろん、私自身は解いているから、その証拠にヒントを書いておく。すぐ

には証明できないから、まず「0+m=m」を、mに関する帰納法で証明

しておく。その上で、「m+n=n+m」を、nに関する帰納法で証明する。

ただし、その途中でもう1回、別の帰納法を用いることになる。

       

もっと上手い方法があるのかも知れないけど、私はこうして、3回の帰納

法を組み合わせることで簡単に証明した。分量的には大した事ないし、

特殊な知識や技も必要ないので、安心してチャレンジして頂きたい。明ら

かに高校レベルで、受験問題としても難問というほどではないだろう。。

        

      

          ☆          ☆         ☆

ちなみに、掛け算(=乗法)についても、足し算を利用して厳密に組み立

てることが出来る。もしこの記事にそこそこのアクセスが入るようなら、

いずれ別記事で掛け算も解説するつもりだ。(追記: 既にアップ)

          

ま、そんな話より、半年以上も中断してるポアンカレ予想の解読を再開

すべきかも♪ そちらはロングセラーになってて、既に熱心な読者が大

勢いらっしゃるのだ。

ではまた。。☆彡

      

     

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.「1×1=1」はなぜか?~ペアノの自然数論2(掛け算)

  引き算の証明、負の数~ペアノの整数論(減算=減法)

  集合論における自然数の表記と計算

  自然数に関するペアノの公理~論文『数の概念について』に即して

  0、1、「次の数」に関する哲学的考察~フレーゲ『算術の基礎』

  「1+1=2」はなぜか~小学1年生の算数の教科書

  引き算、足し引き連続、0(ゼロ)~小学1年生の算数2

  掛け算の導入、足し算・引き算との関係~小学校の算数3

  同じ数ずつ分ける計算、割り算(除法)~小学校の算数4

  原始リカーシヴ関数と足し算(加法)、掛け算(乗法)

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コメント

「ポアンカレ予想」の文章のあとに「1+1=2」を読みました。
全くの数学音痴でほとんど理解できませんでしたが、知的好奇心をくすぐられたのは確かです。昔から気になっている、負の数×負の数=正の数 または割り算もしかり、ピンときません。ついでのときで結構ですので、解説をお願いできますでしょうか?
楽しみにしています。

投稿: 竹場 敏雄 | 2009年12月 2日 (水) 10時06分

> 竹場 敏雄さん
    
はじめまして。コメントありがとうございます☆
    
ポアンカレの記事はともかく、この記事も
「ほとんど理解できませんでした」か (^^;
     
「全くの数学音痴」だからというより、
目でモニターで読んだからじゃないでしょうかね。
この種の話は、手で紙に書くのが一番。
僕自身、本の余白とかも使って、すぐ計算してます。 
頭だけで考えるのは、その次の段階でしょう。
    
足し算の定義式のmやnに、0とか1(=0´)を
入れてみる辺りから再挑戦しては如何でしょうか。
「´」というのがピンと来ないのなら、
代わりに普通の関数記号f( )を使うとか。
少なくとも、「3+2=5」までの話は簡単なので、
分かれば「な~んだ♪」と拍子抜けするでしょう。
    
    
この記事の反応は、今の所ボチボチって感じ。
まあ、無視されてるわけでもないので、
もう1本掛け算の記事くらいは書くと思います。
明言は出来ませんが、半月以内くらいかな。
適当な時期にのぞいてみて下さい。
その次が引き算で、最後が割り算ですね。
   
それより先に、負の数×負の数=正の数を扱うかも♪
ではまた。。shine

投稿: テンメイ | 2009年12月 3日 (木) 08時54分

浪人生です。自然数とは、分数とは何か、足し算、引き算などの厳密な定義は何なのか、また単位とは何か(0k+0k=0kなら-273℃+(-273℃)=-273℃?)、人工的に作った数学がなぜ自然現象を説明するはずの物理などに使うことができるのか、など根本的なことが分かってないことに気づいてから、大学では数学科でここから学び直そうと思っていたのですが、調べた結果そのような分野が見つからなくて困っていたんです。そしたら今日親がこのサイトを見つけてくれたんです。読み始めた瞬間、これはビンゴだぞ!と思い、興味深く読ませていただいております。ぼくも足し算の説明として、これとこれを合わせたらこうだろ?みたいな説明は厳密じゃないよなあと思っていました(そもそも合わせるとか一緒にするっていうこと自体曖昧なんじゃないかなって)。そう考えるとエジソンの1+1=1の場合もあるじゃないかというのはもっともな疑問だったんだなあなんて今になって思う今日この頃であります。小学生にペアノの公理から足し算を教えても無理がありますけど、大抵の人は小学校で習った足し算や分数などの知識のまま数学をやっているのですよね。なんか変な気持ちです。こんなこと言ってる友達なんていなかったので、このサイトを見た時は、おお!他にも同じようなこと考えている人がいた!と思ってうれしかったです。

投稿: 高橋宏幸 | 2013年8月23日 (金) 00時17分

> 高橋宏幸さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
  
上に頂いたコメントに先だって、名前無しで
ほぼ同じ内容のコメントを頂いてましたが、
重複が明らかなので、一つのみ公開しました。
悪しからずご了承ください。
  
        
一言でまとめれば、すべての学問は曖昧で
不十分ですが、その程度や質は異なってます。
   
芸術や文学の場合、もともと曖昧だと
分かってるので、その曖昧さをどうにか
しようという考えはあまり起きません。
所詮そんなもの、という事ですね。
  
一方、数学や物理のように、非常に厳密で
完成度が高いように思われる学問だと、一度、
微妙さを感じた時から、気になってしまいます。
ところが、どこを探しても、誰に聞いても、
その微妙さを解消する完全な答は見当たりません。
   
ペアノの自然数論も、決して完全なものでは
ないし、誰もが納得するものでもないわけです。
ただ、他のものと比較すると、完成度が高くて
「数学的」だと感じるわけですね。
僕も含めて一部の人達、特に、数学好きな
人達の間では、かなり評価されてるでしょう。
    
  
根本的なことを考える分野は、数学だと、
数学基礎論とか数学の哲学と呼ばれます。
メジャーではないと思うけど、それなりの
数の人が頑張ってますよ。
   
色々と勉強すれば、自分にピッタシ来る
説明が見つかるかも知れません。
あるいは、それらをヒントにして、後は
自分で自分の考えを見つけ出すとか。
  
ただ、みんなが完全に納得するものは
存在しないし、今後もあり得ないでしょう。
ペアノでも、全く分からないと言う人が
いらっしゃるわけですしね。
かなりよく出来てる小学校の算数の教科書や
授業でも、つまづく人は少なくないわけです。
   
     
ちなみに、
  -273℃+(-273℃)=-273℃
という式の場合、使い方によって、
正しいとも間違ってるとも言えます。
   
温度-273℃の物質と-273℃の物質を
合わせても、全体は-273℃のまま。
その意味では正しい。
    
でも、高温の物質の温度を273℃下げて、
さらに273℃下げると、計546℃下がります。
その意味では、
  -273℃+(-273℃)=-546℃。
だから、元の式は右辺が間違ってます。
        
数字、単位、数式、理論などは、具体的な
使い方と共に考える必要があります。
だから難しい。使い方は無限にあるので。。
  
  
なお、こうした話はつい、ズブズブとのめり込んで
しまうので、現実的にはちょっと注意が必要です。
そもそも、深く考えなくても世の中はそれなりに
上手く行ってるし、みんなそれで満足してますからね。
  
特に浪人生なら、大学合格までは、普通の勉強に
打ち込む方が得だろうとは思います。
大学に合格した後で、いくらでも根本的なことは
勉強できるし、分からなかった事が後になって
自然に分かって来るという経験は珍しくないので。
    
もちろん、大学だけが人生ではありませんけどね。
ともあれ、今後も真剣に頑張ってください。
私もゆっくり考え続けます。。shine

投稿: テンメイ | 2013年8月24日 (土) 01時36分

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