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0、1、「次の数」に関する哲学的考察~フレーゲ『算術の基礎』

ここ最近、算数や数学の基礎となる「自然数」に興味を持って、イタリアの

数学者ペアノや集合論に関して、記事を4本書いて来た。次は、またペア

にするか、先行者のデデキントにするか、あるいは学校の教科書にす

るか、迷ってた時、何気なく熊野純彦『西洋哲学史 -近代から現代へ

(岩波書店)をパラパラ流し読みしてみた。一般には馴染みがないだろう

が、熊野は本格派の哲学者として、知る人ぞ知る実力者なのだ。

 

その岩波新書の終盤で、ふと「ペアノ」、「デデキント」という名前を発見。

どうやら、ドイツの著名な論理学者&哲学者フレーゲが、その2人より

先に、代表作の一つ『算術の基礎』において、「0」(ゼロ)とか「次の数」

(+1だけ変化した数)に関する完全な記述を行ったという話らしい。

 

ところが、僅か2ページほどにまとめられた内容を繰り返し読んでも、ど

うもいま一つピンと来ない。「0」に関する話はそこそこ理解できたものの、

「次の数」に関する話が非常に分かりにくいし、具体的に0から後に続く

数1,2,3・・・をどうやって作っていくのかが読み取れないのだ。

 

そこで、順番的にはデデキントを飛ばしてしまうことになるけど、その

レーゲ(Gottlob Frege)の論文「算術の基礎 数概念についての論理数

学的探求」(1884)をチェックしてみた。野本和幸・土屋俊編『フレーゲ

著作集2 算術の基礎』(勁草書房)に収められてる論文で、三平正明・

土屋俊・野本和幸訳となっている。編者あとがきを読むと、実際には三

平が中心となって訳したようだ。。

 

         ☆          ☆          ☆

とりあえず今回は、熊野の記述にあった部分に焦点を絞って、記事を

書くことにしよう。まず、第75節の冒頭。「ゼロは、その下に何も属さ

ない概念に帰属する基数である」(訳書 p.138)。ちなみに「基数」とは

ものの個数を表す数で、物事の順序を表す「序数」としばしば区別され

るけど、差し当たりは自然数(0,1,2,・・・)だと考えて問題なかろう。

 

さて、上の文だけいきなり読むと不可解だろうが、まず翻訳の問題

指摘しよう。「属さ」ないと「帰属する」は、日本語的にはほぼ同じ動詞

のように感じられるだろうけど、それだと意味がとりにくい。実は、元の

ドイツ語論文『Die Grundlagen der Arithmetik』をネットで入手すると、

全く違う原語が使われてる(ナンシー・メッツ・アカデミーのサイトより)。

 

「属さ」ない、という訳に対応するドイツ語には動詞が無くて、単に前置

詞の「unter」(英語のunder)があるだけなのに対し、「帰属する」と訳

されてるのは動詞の「zukommen」。熊野は、「ぞくする」と「帰属する」

で区別してるが、この箇所の分かりやすさだけ考えるなら、むしろこう訳

せばいい。「ゼロは『その下に何もない概念』に与えられる個数である」。

 

「その下に何もない概念」とは、例えば「自己自身と等しくないという概

」(74節)のことだ。「自己自身と等しくない」ものの数は、ゼロ個の

はず(つまり存在しない)。75節の冒頭は、そうゆう話で「ゼロ」を説明

してるわけだ。

 

         ☆          ☆          ☆

一方、「次の数」に関するフレーゲの記述は、第76節の冒頭にある。

75節と同様に、一部改訳して引用してみよう。

 

    命題「ある概念 F と、その下のある対象 x が存在して、概念F

    に与えられる個数は n であり、かつ、『 F の下にあるが、x とは

    等しくない』という概念にふさわしい個数は m である」、

    が、

    「 n は自然数列において m に続く

    と同じ意味であるとする。

                                 (訳書 p.139)

 

n=1、m=0とすると、後者の命題は要するに、「1は0に続く自然数」

ということになる。一方、前者の命題は、Fを「0と等しい」とすれば、要

するにこうゆう事になる。

 

    「0と等しい」という概念の下には、0自身だけがあり、「0と等し

    い」という概念に与えられる個数が1であり、かつ、「0と等しい

    が、0とは等しくない」という概念に与えられる個数は0である。

 

もう少し噛み砕くなら、0と等しいのは0だけで、その個数は「1」。また、

「0と等しいが、0と等しくない」という矛盾したもの個数は「0」という話

だ。この奇妙な命題で「 n は m の次の数」という関係を表せるのは、元

の記述の「 x とは等しくない」という部分がポイントになる。ある1つの対

象 x の分だけ m は小さい、すなわち逆に、+1だけ n が大きい、とな

るのだ。

 

では、「2は1の次の数」という関係なら、概念Fはどうするのかというと、

第79節で説明されている(熊野の著作には無い)。これまた一部改訳、

さらに具体的な数を入れて、大まかに引用するなら、「1で終わる自然

数列に所属する」と考えるのだ。つまり、「0,1という数列に所属する

(angehören)」と考える。

 

この場合、「0,1という数列に所属する」もの個数は「2」(0と1の2個

だから)。一方、その内で例えば0(対象 x )と等しくないものは1だけだ

から、個数は「1」。こうして以下、連続する2つの自然数の関係すべて

について、第76節の説明が当てはまる「ように感じられる」わけだ。

 

この関係を使えば、0から1、1から2と、順に自然数を「構成」していくこ

とも出来るように感じられる。言い換えると、自然数の「定義」になりそう

な感じも一応ある。。

 

         ☆          ☆          ☆

しかしながら、第75節もそうだけど、第76節が本当に「完全な」記述に

なってるかどうか、私には今の所かなり怪しく感じられる。むしろ、「興味

深い1つの」記述と言う方がしっくりする。

 

少なくとも、現代的な自然数論を構築した学者として、フレーゲよりペアノ

の名前が遥かに有名であることの理由が、初めて分かったような気がし

た。ペアノ自身の記述も独特の分かり辛さがあるものの、フレーゲと比べ

ると遥かに簡潔で洗練されてるし、記号表現の仕方が数学的なのだ。そ

の印象は、フレーゲのより本格的な著作『算術の基本法則』(著作集3)

を流し見しても、同じことだ。

 

ペアノは「数学基礎論」、フレーゲは「数学の哲学」と区別すると、両者の

違いが鮮明になるかも知れない。ペアノにおいて、「次の数」という関係

に関する説明は、普通の形では無い。それは哲学的には不十分な考察

かも知れないけど、数学としては特に困らないわけだ。

 

ともあれ、ペアノにせよ、フレーゲにせよ、まだまだ勉強不足だし、デデ

キントと比べる必要もある。また機会を改めて、自然数とか算術の問題

に取り組みたいと思う。

ではまた。。☆彡

 

 

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.フレーゲ『算術の基本法則』における「概念記法」~記号論理の原点

 

    ・・・・・・・・・・

  「1+1=2」はなぜか?~ペアノの自然数論(足し算)

  「1×1=1」はなぜか?~ペアノの自然数論2(掛け算)

  集合論における自然数の表記と計算

  自然数に関するペアノの公理~論文『数の概念について』に即して

  「1+1=2」はなぜか~小学1年生の算数の教科書 

  引き算、足し引き連続、0(ゼロ)~小学1年生の算数2

  掛け算の導入、足し算・引き算との関係~小学校の算数3

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コメント

 はじめまして大絶画と申します。
 復刊ドットコムにフレーゲ著『算術の基礎』の文庫化をリクエストしました。ブログをご覧の皆さんの投票次第で文庫化される可能性があります。
 投票ページへはURLからアクセス可能です。翻訳の問題などコメント欄に書き込んでいただければ幸いです。投票へのご協力をお願いします。
 なおこのコメントが不適切と判断されたら削除していただいてかまいません。

投稿: 大絶画 | 2011年3月 5日 (土) 00時06分

> 大絶画さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
復刊ドットコムで文庫化ですか。なるほど。
基本的には、良さそうなアイデアだと思います。
  
僕自身は馴染みのないシステムなので、とりあえず
保留しますが、頂いたコメントは不適切ではありません。
そのまま上に残しておきますので、
ここから投票が生まれるかも知れませんね。
   
いずれにせよ、『算術の基礎』は興味深い古典だと思います。
僕自身も含めて、もっと関心を持っていい学術書でしょう。
それでは。。shine

投稿: テンメイ | 2011年3月 5日 (土) 15時40分

テンメイ様

ご協力感謝します。
私自身フッサールを通してフレーゲに関心を持ち、その中でも比較的読まれておりラッセルやウィットゲンシュタインに影響を与えた『算術の基礎』の文庫化を思い立ちました。
私もおりを見てフレーゲの著作にあたってみたいと考えています。

ところで復刊ドットコムにはフレーゲ以外にも数学・論理学に関する書籍が多数リクエストされております。
関連キーワードの「数学」のタブや左上の検索から探すことができますので、ご利用ください。

投稿: 大絶画 | 2011年3月 6日 (日) 02時34分

> 大絶画さん
   
こんばんは。再びコメントどうもです。
  
フッサールからフレーゲですか。
フッサールや現象学の人気が高い日本だと、
一つの代表的な流れかも知れませんね。
       
僕は、フッサールもラッセルもヴィトゲンシュタインも
一応読んでますが、フレーゲにはむしろ数学基礎論的な
関心から向かいました。つまり、算数と論理。
   
まだ、かじった程度ですが、数学系の人の間で
フレーゲの人気が低い理由は分かった気がします。
やっぱりこれは、どちらかと言うと哲学系の書物でしょう。
ペアノやデデキントと比較して、そう感じました。
    
復刊ドットコムですが、個人的にはもう家中が本だらけで、
あとは図書館とネットで十分って感じなんですよ。
重要な古典は、電子図書館やGoogleブックス等で、
すぐ合法的に読めることも少なくないですしね。
    
家のスペースに余裕が出来て、復刊の必要を感じたら、
利用してみたいと思ってます。。shine

投稿: テンメイ | 2011年3月 7日 (月) 02時36分

今、同じ本を読んでいるので大変参考になります!

投稿: | 2017年8月 6日 (日) 12時34分

> 名無しさん
   
はじめまして。コメントどうもです。
フレーゲについてはこの2か月後にも記事を
書いてますので、よろしければどうぞ。
 
なお、当サイトはコメントに名前を求めてるので、念のため。。shine

投稿: テンメイ | 2017年8月 7日 (月) 00時19分

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