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年を取ると時間が短くなる~ジャネの法則(仏語原書に即して)

先日、「比較優位の法則」に関する堅い記事を書いたら、思ったより検索

アクセスが多めだったので、今日は「ジャネの法則」について書いてみよ

う。キッカケは前回と同じく、勝間和代朝日新聞・朝刊の土曜別刷beに

連載しているコラム、「人生を変える『法則』」だ。

 

昨日、5月1日のタイトルは「年を取れば取るほど、人は我慢強くなる─

ジャネの法則」。その前半で、こう説明されている。

 

    なぜ私たちは年を取れば取るほど、時間の流れを早く感じるのか

    ということを、この法則は「心理的な時間の長さは、これまで生きて

    きた年数の逆数(0を除く数Nの逆数とは、Nで1を割ったもの。5の

    逆数は5分の1)に比例する」とまとめています。

 

    すなわち、同じ1年でも、10歳の子どもの頃に感じる時間の心理的

    長さは、40歳の頃に感じるそれと比べると、10分の1対40分の1

    で、4倍も長く感じられるということです。

 

逆数とか比といった、数学(or 算数)の話を出されると、すぐ動揺する人

が多いけど、「10分の1」(=1/10)は分母・分子を4倍すると4/40

になるから、「40分の1」(=1/40)の4倍なのだ。

 

これでもピンと来ない人は、「年齢が2倍になると、時間のスピードが2倍

に感じられる」と簡単に言い換えてもいいし、「年齢が3倍になると、時間

の長さが3分の1に短く感じられる」と言い換えてもいい。ただし、スピード

と長さを混同しないように♪

 

この法則を持ち出すことで、勝間自身が言いたいのは、次のことだ。年

を取ると、時間が短く感じられるから、我慢強くゆったり物事を待つこと

ができる。その代わり、自分の行動もゆったり遅くなる。だから、年を取っ

た人は動きのいい若者の友人を作って、刺激を与え合えばいい。。

 

この辺りの話の運び方は、さすが人気者だなと思うし、ジャネの法則を

持ち出すのも上手いと思う。ただ、以前のリカード「比較優位の法則」の

時もそうだけど、どうも勝間の話はあまりきっちり調べた様子がない

グーグル教の教祖にしては、さほどググッてないように感じられる。

 

よく言うなら、一般の人が興味を持たない箇所を省くのが上手い。でも、

多少の知識があって理屈や検索に慣れた人間が見ると、とてもそのま

ま真に受ける気にはならないのだ。そこで早速、勝間が出典として挙げ

てるフランス語の原書をチェック。やはり、勝間が本当に読んでるとは

思えなかった。。

 

 

         ☆          ☆          

原書を見る前に、ネットを見渡して分かったことをまとめとこう。まず、そ

もそも「ジャネの法則」は、内容的にはすぐ頷けるけど、名前自体はかな

マイナーだ。英語で検索しても、なかなかいい記事がヒットしないし、英

語版ウィキペディアにも見当たらず。日本版ウィキの説明は、個人サイト

の情報1つとネット上の情報をごく手短にまとめただけ。

 

さらに、国内のサイトを見渡すと、かつての人気番組『トリビアの泉』で紹

介された話がかなりヒットする。おそらく、トリビアで心理学者か何かが登

場して、フリップとかテロップと共に簡単に紹介。「ジャネーの法則」と、名

前の語尾を伸ばして紹介したのかも知れない(普通この名前は伸ばさな

い)。その番組の影響が続いてるだけだろう。ネットによくある事だ。

 

権威ある出典の一つとして、「ミネルヴァ心理学辞典」なんて言葉もあち

こちにあるけど、正確にこの名前を持つ辞典は検索しても出ないから、

テレビでこう紹介されたのだと思う。ミネルヴァ書房の『発達心理学辞典』

のことだろうか。今度、調べてみよう。。

 

日本版ウィキが唯一参考にしてる個人サイトだけは、かなり頑張って調べ

てる。ただ、フランス語で挫折したようだ。自動翻訳を使ってるけど、英語

でさえまだまだ発展途上だから、フランス語の自動翻訳なんて微かな参考

程度にしかならない。そこで、私が原書のフランス語を翻訳しよう

 

出典は、心理学者ピエール・ジャネ(Pierre Janet)の著作『記憶の進化

と時間観念』(L'evolution de la memoire et la notion du temps,1928)。

ちなみにフランス語のアクセント記号は、文字化けを避けるために省略

した。カナダのUQAC(ケベック大学シクティミ校)のデータベースからダ

ウンロードさせて頂いたもので、著作権は既に消滅してるのだろう。

 

ただし、公開されてるのは第3章「時間の組織化」だけ。「ポール・ジャネ」

(Paul Janet)とかで検索をかけると、めぼしいヒットは第21節「Le temps

des savants」(学者における時間)の1段落に限られる。ちなみにポール

は哲学者で、著者ピエールの叔父。ピエールが時間に関するいろんな学

者の説を紹介する中で、ほんの少し叔父の説を紹介してるにすぎない

(しかも論文というより講義録)。決して心理学者ピエール自身が「ジャネ

の法則」を主張してるわけではないのだ。この辺り、ネットのあちこちで誤

解が見られる(勝間は問題ない)。

 

 

ではいよいよ、原書の該当箇所の直訳を掲載する。改行は原文にはな

いけど、読みやすさのために私が入れておいた。

 

     1876年か1878年に、哲学者ポール・ジャネの論文が

     出版されてから、既にかなりの年月となる。彼はちょっと

     した名声を獲得した人だ。彼の説明はとても巧妙で面白

     いものだった。 

 

     彼はこう主張する。現在というもの、つまり我々が生きてる

     時間は、常に人生の残りの部分との比較において評価され

     るのだ。我々が10歳の子供の時なら、1年は自分の人生

     の10分の1となる。10分の1、これは人生にとって重要な

     一部分である。その結果、10歳の子供にとっては、1年は

     非常に長いものとなるのだ。

 

     一方、我々が60年以上生きた時には、1年は人生の60分

     の1にしかならない。これは全く僅かで、10分の1と比べると

     ほんの少しに過ぎない。そのため、年老いた人は1年を

     思うのだ。

 

     こうした説明は、物事が限りなく変化に富む病理学的事実の

     前では、維持できない。

 

 

        ☆          ☆          ☆   

私がなぜ、勝間が原書を読んでないと思ったのか、もうお分かりだろう。

最後の文にあるように、筆者ピエール・ジャネは、叔父の「法則」にさほ

ど賛同してないのだ。おまけに、「法則」とか「逆数」などという言葉も使

われてないし、数学的な形でまとめて話してるわけでもない。自分が生

きてきた人生の長さと比較してとらえるという、分かりやすい素朴な話

であって、「比例」なんて事もどこにも書いてないのだ。60分の1は10

分の1と比べてほんの少しだとは書いてるけど、感覚的に6分の1にな

るとまでは書いてない。

 

おそらく勝間は、どこか不正確な情報源から間接的に情報を仕入れた

のだろう。以前ネットで、誤解が少し話題になった、仏教の「三毒」とい

う概念の時と同じだと思う。

 

ただし、ピエールも別に叔父ポールを全否定してるわけでもないし、私も

確かに、年を取ると時間が短くなると思う(逆数に比例とか、反比例とま

では絶対言わない)。また、勝間のコラム全体の組立や着眼点は評価す

る。だからこそグーグル教の教祖としては、肌身離さず持ってる愛用の

パソコンでいつでも即座に検索、語学力も活かして、より正確な話を書い

て欲しいのだ。

 

自分の名前をググってると公言してるらしいネットの達人・勝間に、この

思いが直ちに伝わることを期待しつつ、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.叔父ポール自身の論文から、「ジャネの法則」を見出すことには

    まだ成功してないし、やる気もしない論文が不確定ページ数も

    多い検索できない形で公開されてて、おまけに重いから、あまり

    に大変な作業なのだ。フランス語の速読が得意な方、お試しあれ♪

 

    あと、ポールは「叔父」だとあちこちに書いてあるけど、ピエールの

    父の生まれた年がまだ確認できてないから、ひょっとすると「伯父」

    (父の兄)なのかも知れない。なお、ピエールは心理学者として大

    物だから、しばらく先にまた扱いたいと思ってる。。

 

 

P.S.2 2013年1月8日の夜、テレビのクイズ番組か何かで話題になった

      ようで、一時的に大量アクセスが入って来た。TBS『THEクイズ神』

      かな。。

 

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・      

cf.数学的な経済理論の問題点~リカード「比較優位の法則」

                            &勝間和代(朝日新聞)

  「限界効用逓減の法則」というミクロ経済学の仮説について  

  言葉の意味、口調、表情~「メラビアンの法則」をめぐって

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コメント

面白かった、ありがとう。

投稿: 茹でガエル | 2011年2月10日 (木) 10時24分

> 茹でガエルさん
   
どういたしまして。
ご丁寧に、ありがとうございます

投稿: テンメイ | 2011年2月11日 (金) 01時36分

ナルホド有難う御座いました。今日、学校の先生が父兄の前で『ジャネーの法則』と口にして、6歳児の1年は人生の6分の1に相当...と演説してました。んじゃあ、1歳児の1年は1分の1となり0歳児の無限大は大目にみても、総数が...つまり辻褄がまるで合わんだろうと考えてココに辿り着いた次第です。ジャネーと発音した所からするとトリビアの泉、テレビの受け売りだった訳ですね。先生と呼ばれるホド??じゃなし、とは良く言ったものです。国立でもこの法則は成り立つ様ですね。お世話になりました。

投稿: ナルホド | 2013年3月 8日 (金) 23時49分

> ナルホド さん
    
はじめまして。コメントどうもです。
「ナルホド」と思って頂けたわけですね♪
  
「学校の先生が父兄の前で」ってことは、
高校生か中学生ってことでしょうか。
ちょうど今、終業式とか卒業式のシーズン。
先生がもっともらしい事を話す時ですね。
   
自分の当時で思い出す挨拶は、確か副校長のもの。
「希望より理想を持て」といった内容で、
それほど納得はしなかったけど、希望と理想は
そう言えば似て非なるものだな、とは思いました。
     
ちなみに今だとむしろ、「理想より希望」のような
気がします。自分的にも、社会的にも。。
    
  
で、「ジャネーの法則」。
今でも時々、あちこちで目にして、苦笑してます♪
ウィキペディアの「法則」の項目はともかく、
新たに出来た「ジャネ」自身の項目は、
ウチのこの記事を参照してくれたようです。
    
まあ、先生やテレビに限らず、よく知らないまま
適当な面白話を語るということはありがちなこと。
昔ならみんな聞き流す所だけど、今だと
すぐネットで調べられちゃうわけですね(笑)
僕もすぐ検索、欧米のサイトまで飛び回りました。 
   
        
ちなみに、0歳児というのは省略表現でしょう。
実際は0.5歳児とか0.01歳児だから、
無限大になる心配はありません♪ 
   
本当にゼロ歳なら、「ゼロ歳児の1年は」とか、
「ゼロ歳児の0年は」とかいう、妙な話になります。
そもそも、時間ゼロでは存在できないし。
   
       
あと、「総数」が「辻褄」合わないって話は、
正確な意味が分かりにくいのですが、
じっくり自分で考え直してみると面白いかも。
    
例えば、「6歳児の1年は人生の6分の1」(に比例)、
     「1歳児の1年は人生の1分の1」(に比例)
という時、「人生」という言葉の意味が違ってます。
内容においてはもちろん、長さにおいても。
     
だから、(6分の1)+(1分の1)といった
感じの分数の足し算であれば、できないわけです。
同じものの分数なら、足し算して6分の7ですが。
比例定数は省略ってことで。
    
  
話の角度を少しズラすと、ジャネとか、この種の話は、
世間的には、面白がってノる方がウケがいいようです。
突っ込むとしても、ごく軽く、苦笑しながら。
日本社会は、理屈や自己主張より、同調性が一番。
突っ込みたい時は、自分のツイッターでこっそりと。
本格的に突っ込むなら、自分のブログでってことで♪
        
ともあれ、次の1年も若さを武器に充実させてください
・・・と、先生は言いたかったんだと思います。
それは確かに、その通りでしょう。。

投稿: テンメイ | 2013年3月 9日 (土) 20時11分

テンメイさん、
何にも知らずに年を重ねてきたのかな(笑)
つくづく思いました。本当に1日は長いのに
1年のあっという間に経つこと・・・
つい最近考えていました(笑)

毎夜お邪魔しているのに、いつも読み逃げ
しています。神岡も行ったことはないのですが
懐かしくてHPも見てきました。

>「理想より希望」のような
気がします。自分的にも、社会的にも。。
この頃「夢を持ち続ければその通りになる」??
ウソ?ホント?なんて考えています。
「希望」ならよくわかります。

春の写真になりましたね。雄大で素敵です。
腰痛心配ですね。大事にして下さいね。
マラソンも~~♪

投稿: orugann | 2013年3月11日 (月) 00時59分

> orugann さん
    
こんばんは
3年前の記事へのご注目、どうもです♪
   
この記事はウチのロングセラーの1本。
やっぱり、みんな感じるんでしょうね。
「1年が短い」ってことを(^^ゞ
まあ、1年ならわりと軽いネタなんですが、
「一生は短い」だと重い話になります。
     
ジャネの法則への関心の高さは、
人生の有限性という根本的な問題から
微妙に視線をズラすことでしょう。
無視はできないけど、直視は重すぎる。
そして、人生の短さを痛感させられる頃には、
もう「終わり」なんですね。。
   
僕がこの記事を書いたのは、たまたま新聞で
読んで気になったからですが、人生とか死という
問題は、小学校4年くらいから考えてました。
それは、人間の命の問題でもあるし、
もっと一般的な「時間」の問題でもあります。
   
子供の頃、時計の針の音が怖かったんですよ。
コチコチコチ・・・1秒ずつ死に近づくようで。
今でも、秒針の音の大きな時計は苦手です。
まあ、一生が80年とすれば、
80×365×24×60×60秒。
25億2288万秒も与えられてるんですが♪
ネットで検索すると、大勢の人が書いてました(^^ゞ
    
     
ジャネの法則は、年齢、つまり生きて来た人生の
長さを中心に時間を考えてますが、実際は、
「残りの人生の短さ」の方がより重要でしょう。
その事は、突然ガンで余命1年とか宣告された
場合を考えれば、分かりやすいと思います。
  
病気でなければ、平均余命がポイントですね。
60歳なら、男は残り23年、女は残り28年です。
この場合、1年間という時間は、男だと
残りの人生の1/23、女だと1/28。
約5%に相当します。
まだ少し余裕はあるけど、特に男は微妙でしょう。
        
  
おっと、重い話になって来たから、明るい話に変更♪
神岡の廃線レール自転車は何となく明るいですよね。
淋しさを明るさや楽しさに転じてくれる。
    
「希望」って言葉も軽い明るさをもたらしてくれます。
根拠は薄いけど、「理想」や「目標」ほど重くないし、
根拠がないからこそ、伝わるイメージが明るい。
その単なるイメージが、実は人間や物事を本当に
動かすこともある。もちろん、失敗もありますけどね。
    
最後にブログのトップ写真。お褒め頂き、どうもです。
ま、これも前と同じく、貰い物だけど♪
腰痛はちょっと治まりましたが、スノボで転倒して
骨盤痛が発生。脳震盪の頭痛もまだ少し残ってます(^^ゞ
   
まあ、マラソンの言い訳が出来て、良かったかも(笑)
ともあれ、繊細なお気遣い、どうもです。
ではまた。。

投稿: テンメイ | 2013年3月12日 (火) 20時31分

PHP6月号の「ヒューマンドキュメント」の中に、ジャネの法則が出てきて、ググッて、こちらにお邪魔しました。フランス語が原典なのですね。10歳にとっての一年と、50歳にとっての一年の密度が違う・・・。朝礼ネタで使わせていただきます( ̄▽ ̄)

投稿: やっくん | 2013年5月19日 (日) 10時20分

> やっくん さん
   
はじめまして。コメントどうもです。
PHPの6月号ですか。後ほどチェックしてみます。
  
朝礼ネタということは、何らかの組織の管理職の方ですね。
この「法則」は、非常に大まかなものだし、
証明されてるわけでもないので、
いくらでも自分でアレンジ出来ると思います。
    
例えば、話す相手が中高年であれば、むしろ
逆の内容に持って行く方が効果的かも知れません。
40歳にとっての1年の方が、これまでの
長い経験によって豊かに味わえる、といった感じで。
  
少なくとも、ポールでなくピエール・ジャネなら、
そういった自分なりの再考を喜んでくれるでしょう。。 
     
    
  
P.S. 『PHP』の記事、早速、読んでみました。
     みやざき中央新聞の主張は、時間の長さ
     より、充実した時間を過ごす方が大切だと
     いうことですね。
     まさに私が上で書いたのと同様。
      
     まあでも、同程度に充実した時間なら、
     みんな、長い方が嬉しいでしょう♪
     実際は、年を取ると苦しみが増えるから、 
     時間を短く感じるようにできてるのかも
     知れません。。 

投稿: テンメイ | 2013年5月20日 (月) 01時11分

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