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現在の中に過去を見ること~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月)

(☆2013年2月3日追記: 遅まきながら最新記事をアップ。

  アートとツール(道具)

   ~小阪淳&高橋源一郎&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・12年12月) )

    

    

         ☆          ☆          ☆

当サイトは過去6年半の毎日更新を通じて、様々な記事を書いて来たし、

ほぼ毎日アクセス解析もチェックしている。すると、あまりに素朴で永遠の

真実を、まざまざと思い知らされるのだ。「人は皆、有名人が好きである」。

それは、「論壇時評 高橋源一郎」といった検索フレーズの多さを見るだ

けでも自明なのだ。

      

もちろん、私も例外ではない。ただ、重要なのは、有名人との具体的な接

し方だろう。誰を、どのように扱うのか。善玉を味方に付ける、悪玉を叩く、

過去の偉人を称賛する、現在の人気者と同一化する、等々。あるいはまた、

無名人とのバランスをどう取るのか、それも大切であり、忘れられがちな事

でもある。圧倒的多数は無名だし、有名人も当初は無名なのだ。

       

今回、朝日新聞・2月23日の朝刊に掲載された複合記事「論壇時評」で

は、メインの時評担当者・高橋源一郎が有名人と過去を扱い、CG作家・

小阪淳が過去の有名人を通じて密かに現在の有名人を扱ってる。一方、

政治学者・菅原琢は、有名人の名前を一度も出さず、過去の光を現在へ

と照射している。

            

そこで以下、「現在の中に過去を見ること」と題して、全体を論評してみよ

う。なお、今回たまたま自主規制の字数制限(週2万字)が迫ってるので、

普段より少ない字数で書くことにする。

        

    

          ☆          ☆          ☆

まずは、小阪淳CG、「肖像」について。肖像という言葉は、最近だと肖

像権という形で時々使われるが、基本的に古い言葉だと思う。言葉自体

も古いし、言葉を用いる対象も古いことがほとんどだろう。

     

120225

  左の坂本龍馬肖像写真は、ウィキ

  メディアで公開されてる物で、作者は

  GooGooDoll2 氏。私も直接見たことが

  ある、高知県桂浜の龍馬像のモデル

  とされるもので、元々1866年か67

  年に井上俊三が撮影したそうだ。な

  ぜか坂本龍馬記念館HPでは、これ

  とほぼ同じ画像の使用について厳

  しい注意を掲載してるのだが、著作

  権的には問題ないようだし、肖像権

  も問題ないと判断した。 

             

今月の小阪のCGは、富士山の写真の上に、この龍馬の肖像写真が乗せ

られている。日本の象徴である富士山よりも、龍馬の肖像の方が巨大。風

雲急を告げる空への投影みたいで、しかも政治運動によく用いられる立て

看板のような形で掲げられてるのだ。肖像が斜めになってるのは、看板を

支える古くて弱々しい木製の枠組を見せるためでもあるし、本物との差異

=ズレを示す意図もありそうだ。本物の肖像画との差異、あるいは、本物

の龍馬とのズレ。

    

実際、笑えることには、CGにおける龍馬の顔の部分はになってる。こ

れは観光地で見かけるもので、若くて無邪気な観光客がそこに顔を入れ

て記念写真を撮るためのものだ。ほぼ間違いなく、その観光客の頭には

真実の龍馬(or 有名人)の人物像など無く、過去の有名人としての漠然

としたイメージがあるだけだろう。そして、それで通用するのだ。自分た

ちも満足するし、滑稽な旅行写真を仲間に見せても笑いのネタになる。

     

もう一つ、気付きにくい点も指摘しとこう。新聞ではいつも白黒だが、朝日

新聞デジタルでは今までカラーのCGだった。ところが今回は、まるで浮

世絵とか水墨画みたいな画像で(特に下側)、古めかしい白黒なのだ。お

そらくこれは、白黒のモノトーンに見せてるカラー画像だと想像する。

           

        

         ☆          ☆          ☆

基本的には先月(1月)と同様、ここ1年ほどの父権主義的な日本政治

表現するもので、そこには巨大で有名、しかも何らかの意味で古めかしい

「父」たちが顔を並べてる。特に今、驚異的な一般的人気を誇るのが、橋

下徹・市長を中心とする大阪維新の会。そこが掲げる政策の呼び名は、

幕末期に龍馬が起草した国家の基本方針と同じ、「船中八策」であった。

現在の父が、過去の父を真似する構図になってる。敢えて、縮小再生産

とまでは言わない。

     

小阪のこうした作品を見ていつも思うのは、立ち位置=ポジション取りの

良さだ。政治に関するコラージュ的な画像には、もう少し「毒」や批判、風

刺が含まれがちなものだが、小阪の場合は適度な抑制が効いてる。それ

は、性格や芸風もあるだろうが、有名人とか過去との類似が、人間にとっ

本質的だからだろう。実際、小阪のCG自体が、龍馬の肖像写真の類

似物だし、私のこの記事も、朝日の記事の(あまり似てない)類似物と言

えなくもない。

      

肖像の「」とは、「似る」とか「似せる」という意味の漢字だ。問題は、どの

ように似せるかということ。裏返せば、どのように差異化するかということ

だろう。過去に対する単純な物真似や、その逆の否定的参照でもなく、

在にとっての価値を持たせるような似せ方、あるいはズラシ方。本質的な

ことは、その辺りの具体的営みにあると考えてる。

          

はたして、現在の政治状況ではどうなのか。小阪のCGでは、龍馬の足が

地に付いてないようにも見えるのだが。まるで江戸時代以降に通俗的人

気を獲得した、幽霊の絵みたいに。。

            

    

          ☆          ☆          ☆

続いて、高橋源一郎によるメインの時評。今回のタイトルは、「いま見るべ

きは」、「緊急の中にある永遠の課題」。もちろん、私のこの記事のタイト

ルは、この高橋のタイトルに似せつつ、ズラしたものだ。

         

これまで手を変え品を変え、延々と「反原発」時評を展開して来た高橋だ

が、今回は多少違った内容になってる。ただし、基本的には反原発

の思想であることは、内容的にも形式的にも明らかだ。たとえば時評

の一番最後は、中沢新一を始めとする有名人たちが中心となった、脱原

発&反TPP運動、「グリーン・アクティブ」をプッシュして終わりとなってる。

     

それはさておき、高橋のスタート地点は、やや古めかしい思想家・吉本隆

と、1000年ほど前、危機の時代の宗教家・親鸞。どちらも、現在でも人

気を保ってる有名人だ。吉本によれば、眼前の現実的問題を「緊急の課

題」と考えると共に、「永遠の課題」としても考えなければならない。これら

の課題を、二者択一ではなく、一つの視線の中で同時に見るべきだと、

親鸞は考えていたそうだ。

      

そこで高橋の視線は、「緊急の課題」から、「永遠の課題」の方に向けら

れる。まずは、ギリシャその他、欧州を中心とする金融問題について。

現代思想』2月号の特集「債務危機 破産する国家」の中から、2つの

論文が引用されている。

    

まず、M・ラッツァラートは、そもそも負債とは何かを考える。人はまるで

「原罪」みたいに、生まれながらにして先行世代の負債を負ってると言わ

れれば、最近の日本の「緊急の課題」にも当てはまる話であるのはすぐ

分かる。国債暴落などによる日本の破綻リスクと共に、若者たちは多くの

負債を負って生きなければならない。そう、しばしば語られてるのだ。

           

一方、デヴィッド・グレーバーは、ヘブライ語の「救済」の語源が「抵当を

買い戻すこと」だったと語る。より具体的には、「借金の人質にとられた

家族を取り戻すこと」だったそうで、7年を過ぎると負債は帳消しになる

方が作られていたらしい。これを高橋は、聖書の時代の人が持ってい

た「知恵」と呼んでいる。なぜ知恵なのか、理由は書いてない。

      

     

         ☆          ☆          ☆

金融問題について、高橋がこの2つを引用するのを見ると、やはりあくま

で「左」の立場を貫いてるのがよく分かる。つまり、私有財産制を重視せ

ず、借金する側の個人の自由を重視してるからだ。こうした人権派的な

考えで、消費者金融その他が一気に追い詰められたのは記憶に新しい。

    

国債もそうだが、そもそも借金というのは、他者(会社、共同体なども含む)

の私有財産を自分のものとして使わせてもらうものだ。返してもらえないの

なら、貸し手(と言うより慈善家)は激減する。すると、利子が高騰したり、

暴力による強奪が起きることになる。だから、私有財産制を認めて、他人

の私有物を平和的に利用したいのなら、基本的には返すべきなのだ。そ

れは、より一般的に言うなら、過去の責任を現在受けとめることだ。

     

もちろん、取り立て方の配慮や、返せない時の特例処置はあっていいし

(現在のギリシャなど)、家族その他、周囲の人の借金までどの程度背

負うべきなのか、細かい議論は必要だろう。

        

しかし、金を貸す側の問題だけを見て、借りる側の問題には触れない高

橋の姿勢は、冒頭で引用した吉本の姿勢と大きく異なってる。と言うのも、

吉本は、タバコが生理的に悪いとわかっていても嗜んでしまう当人の精神

状態をも問題視してるのだから。高橋自身が、それを「永遠の課題」の例

として引用してるのだ。

               

その辺りの不徹底さは、その次の家畜問題にも見られる。鈴木文樹の「途

方もなく広い」射程も、「いま見るべき」ものだということだろうが、高橋の引

用を見る限り、基本的には普通の話だろう。家畜に対する態度から、人間

中心主義の残酷さを見るようなことなら、今までも少なからず伝えられて来

たはずだ。ちなみに私の場合、深夜のドキュメンタリー番組で、鶏を殺して

食べる家族の映像を見たことがある。幼い時にも似た番組はあって、家族

の一人がしばらく肉を食べられなくなった。

   

結局、高橋が鈴木の文章を引用したのは、一つには原発事故避難エリア

の家畜の餓死という「緊急の課題」を扱っており、それが反原発運動とリ

ンクしやすいから。そしてもう一つ、自然との共生的思想が滲んでるから

だろう。

           

「人々が狩猟採集とは違った新しい形で『動物や食物と出会った新石器

時代に思いを馳せ』る」鈴木を見て、高橋は「永遠の課題」を見つけよう

とする作業だと語る。遠い過去へのロマンチックな思いは構わないが、

文明以前の不確かな「イメージ」(吉本的用語なら共同幻想)に憧れるこ

とと、「永遠の課題」を見ることの間には、相当なギャップもある。

   

永遠の課題というのは、例えば、「生物は、他の生物にとって不利益をも

たらし得る存在である」という普遍的事実だろう。私は、蚊を殺すが、蚊も

私の血を吸うし、痒い思いをさせる。人間は家畜を自由に扱うが、家畜も

草を食べるし、アリを踏み殺す。鈴木は近代畜産を「単なる動物虐待のシ

ステム・・・狂気」とまで呼んでるそうだが、これを聞いて他の畜産農家は

どう思うだろうか。また、3割は単なる軽口だが、競馬好きで知られる高橋

がなぜ、馬に金を賭ける人間の快楽システムに目を向けないのだろうか。

      

「いま見るべきは」、例えば、「緊急の中にある永遠の課題」だというのな

ら、総論としてはその通りで、賛成する。ただ、あらかじめ持ってる自分

自の答を、永遠とか過去の中に探し出そうとするのであれば、それはむし

ろ「永遠の中にある、現在の私への支え」だろう。別にそれ自体はいい。

しかし、永遠の課題への視線とは、別のものであるはずだ。。

        

     

         ☆          ☆          ☆

最後に、もう字数が無くなってしまったが、複合記事「論壇時評」の左に位

置するコラム、「あすを探る」について。今回は政治がテーマで、筆者は

原琢。タイトルは、「停滞は参院のせいなのか」。

     

最初に指摘したように、このコラムは形式的に興味深い。有名人どころか、

個人の名前がまったく出てないのだ。政治的停滞の原因の一つとして、参

院を廃止して一院制にするという考えは、橋下&維新の会が掲げる「船中

八策」のポイントでもあるのに。

     

ニュースでは、人気者の橋下徹の名と共に一院制が語られることが少なく

ないが、菅原の視線は大きく、政治システム歴史に向けられる。過去の

事実を見ると、重要なのは参院廃止とか制度改革ではないと言うのだ。

論点をまとめると、次のようになるだろう。

   

政権与党が参院の過半数を失うねじれ国会は過去にもあり、必要な法案

は他党との協力で通っている。逆に、ねじれ国会でなくても、多数の問題

が先送りにされて来た。問題は二院制ではなく対決ばかりで協調も決定

もしない政治家であり、彼らに選挙での敗北への恐怖を植え付ける政治

報道でもある。

   

最後の文章はなかなか美しい。「人は困難に直面したとき大きな力に魅せ

られるものである。だが、そうした欲求に抗い、一歩引いて状況を分析し、

違う道を歩むこともできるのもまた人である。冷静になるのに、遅すぎるこ

とはない」。

   

私は菅原の考えを読んで、こう思う。政治家の決定能力はさておき、確か

に、過去から現在まで冷静に全体状況を見渡して、違う道を探れる人もい

るだろう。しかし、そうでない人の方が圧倒的多数であり、その多数が政治

を左右する。この点をどうするかこそが真の問題なのだ。それでいいとい

うのも一つの考えだが、もう限界だと菅原は考えるだろうし、私もそう思う。

   

では、どんな対策があるか。例えば佐伯啓思は、『週刊新潮』3月1日号

(2月23日発売)で、「世論調査」をやめてくれ、と訴える。あるいはジェー

ムズ・S・フィシュキンは、熟議を組み込んだ「討論型世論調査」を提唱す

る(朝日朝刊、2月18日)。自身は、一見遠回りだが、複数で論して

決定するという民主主義の基本を、家庭生活や小学校教育から重視す

べきだと考えてる。それはやがて、政治家の集団的決定能力を上げるこ

とにもなるだろう。特に、議論の最後は譲るとか諦めるとか、社会の基本

が大切だ。

   

2月24日の朝日・朝刊で、小沢一郎も語ってた。「国民以上の政治家は

出ない」。国民のレベルアップには、ボトムアップとトップダウンがある。タ

レントも含めて、カリスマ的著名人によるトップダウン的作用が目に付く

今こそ、家庭や教育によるボトムアップに目を向けるべきだろう。現在の

我々は、過去の家族や教育によって形作られてるのだから。

   

それでは、今月はこの辺で ☆彡

           

                                (計 5501文字)

    

         

         ・・・・・・・・・・ 追記 ・・・・・・・・・・

cf.震災後、身の丈超えぬ「ことば」に希望

         ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞) (4月)

  非正規の思考、その可能性と危険性

         ~高橋源一郎&濱野智史「論壇時評」(朝日新聞・5月)

  みんなで上を向いた先に真実はあるか

         ~高橋源一郎&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・6月)

  スローな民主主義と『スローなブギにしてくれ』

          ~高橋源一郎&森達也「論壇時評」(朝日新聞・7月)

  柔らかさ、面白さが無ければ伝わらないのか

          ~高橋源一郎&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・8月)

  人を指さす政治的行為のマナー

          ~高橋源一郎&酒井啓子「論壇時評」(朝日新聞・9月)

  希望の共同体を楽しく探るために

          ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞・10月)

  アート・ロック・ゲーム、多様な変革運動

    ~高橋源一郎&濱野智史&小阪淳「論壇時評」(朝日新聞・11月)

  どの常識をどう疑い、何に立ち向かうのか

    ~高橋源一郎&小阪淳&平川秀幸「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  対称的な関係の中にある前進

    ~高橋源一郎&小阪淳&森達也「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  自ら切りひらく主体相互の共生

          ~小阪淳ほか「論壇時評」(朝日新聞・3月)  (未完)

  「常識がない」ということの意味

       ~小阪淳ほか「論壇時評」(朝日新聞・12年4月)  (未完)

  破壊と建設、悪意と善意

   ~小阪淳&高橋源一郎&濱野智史「論壇時評」(朝日新聞・12年5月)

  古きを温め、新しきを育む

   ~小阪淳&高橋源一郎&森達也「論壇時評」(朝日新聞・12年7月)

          

                           (追記込み、計6218文字)

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コメント

長いよ~

投稿: 友人U | 2012年3月 1日 (木) 23時14分

> 友人U
   
コメントが短いよ~。。
   
って言うか、この記事、7月の
『スローな民主主義にしてくれ』より短いんだぞ。
10分くらい、正座して熟読するように!
   
そんな事より、そろそろ逃げなくていいのか?
放射能どころか、震度7の直下地震が来るぞ(笑)

投稿: テンメイ | 2012年3月 2日 (金) 01時50分

熟読したら15分くらいっかかった。
これでも自重して短くしているのにさらに驚いた。

投稿: 友人U | 2012年3月 3日 (土) 12時23分

> 友人U
     
おぉ、ホントに熟読したのか。感心、感心☆
って言うか、今まで熟読してなかったわけネ(笑)
  
去年度の記事に遡ると、1万字超えてるのもあるぞ。
無料の脳トレとして使ってくれたまえ♪

投稿: テンメイ | 2012年3月 3日 (土) 23時01分

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