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無理数を発見した弟子をピタゴラスが殺した伝説の検証~『ハードナッツ』第3回

相変わらずパソコンの入力が困難な状況だが、今週も『ハードナッツ!~数

学girlの恋する事件簿~』の記事をアップしよう。少ない字数しか書けない

が、マニアックな内容だ。

 

第1回第2回の記事は、数学・物理の計算解説だったが、第3回『ダイイン

グ・メロディーの哀しき解法』は、ドラマの内容もかなり文系的だったので、当

サイトの記事も人文的なものにしておく。余裕があれば、後でもう1本、別記事

を追加するかも知れない。

 

かなり路線が違うなと思ったら、脚本家が変わってた。山浦雅大(まさひろ)、

エンターティメント作品を得意とする、わりと若い作家らしい。現在はTBSの

『ルーズヴェルト・ゲーム』を担当中。数学考証は前と同じく、根上生也。

 

 

            ☆          ☆          ☆

140708a  さて、今回は物語全体が、中学数学の

  「三平方の定理」で有名なピタゴラス

  (Pythagoras)をめぐるものになって

  た。写真はウィキメディア、Galilea氏

  の作品。

 

  冒頭、小板橋教授(斉木しげる)が、

  数に関するピタゴラスの神秘的な

思想・哲学を語る。── 1は理性、2は女、3は男、つまり理性+女=男

(1+2=3)という訳で、男尊女卑だった ──。

 

実は、これとかなり似た事を書いたサイト(2009年の日付け)があって、そこ

ではピタゴラスが殺人鬼だったとされている。つまり、2013年のドラマの最初

と最後を、4年前に先取りして強調してるサイトがあるのだ。一応、ちょっと気

になる類似だと指摘するに留めとこう。

 

もちろん、似てるからといって直接利用した証拠にはならないし、承諾を得て

る可能性もある。あるいは偶然とも、共通の元ネタが別にあるとも考えられる。

 

とにかく、小板橋はピタゴラスみたいに弟子の私を苦しめる悪者だから殺した

・・・真犯人の堤彩葉(いろは:中越典子)はそんな感じで、くるみ(橋本愛)と

伴田(高良健吾)に動機を説明してた。

 

 

           ☆          ☆          ☆

今はPC操作が大変な状況だし、論点を絞りこもう。研究上の発見の盗用疑

惑はさておき、ピタゴラスは本当に教団の弟子を殺したのだろうか? 「ピタ

ゴラスは弟子を殺したわ。自分の研究に反する発見をした弟子を」(by 堤)。

 

ネットには確かにそんな話が拡散してるが、いつもと同じく、しっかり根拠を調

べたものはなかなか見当たらない。日本の一般向けの数学エッセイみたいな

本が出典とされてたり、日本語のウィキペディアが挙げられてたり。

 

ちなみに今現在、ウィキの「ピタゴラス」の項目には次のように書かれてる。

無理数の存在を否定するがあまり、無理数について口外した仲間を溺死さ

せたことさえあるとされる」。

 

伝聞形だが、3冊だけ挙げてる日本語訳の参考文献のどれに書いてあるの

 

か、示してない。 少なくとも、その一つであるディオゲネス・ラエルティオス

『ギリシア哲学者列伝』を英訳でチェックした限り、そんな話は見当たらない。

別の一つであるイアンブリコス『ピュタゴラス伝』を英訳で見ても、やはり無い。

 

(☆追記: 3冊目は1996年の著作で、イタリアのB.チェントローネによる

       『ピュタゴラス派 その生と哲学』となってる。ところが、イタリア語

       のウィキで、彼の名前が挙げられた箇所(2つ)を見ても、殺人伝

       説など書かれてない。そもそも2500年後の著作で、新たな証拠

       が示されるとも考えにくい。)

 

 

           ☆          ☆          ☆     

とはいえ、殺された「とされる」弟子ヒッパソス(Hippasus)だとまで、あち

こちに書かれてるから、日本語ウィキで彼の項目を見ると、下のように書い

てあった。

 

   「無理数の存在を発見した。また2の平方根が無理数であることも

    発見している。

    ヒッパソスによる発見までは、ピュタゴラスは全ての数は整数の

    比で表せると説いていた。ヒッパソスの発見は妥当であったにも

    かかわらず、ピュタゴラスは初めそれを異端宗教のように取り扱

    い、彼らはヒッパソスを追放、 もしくは殺害した。伝説によると、

    ヒッパソスは船上で無理数を発見し、ピュタゴラスの弟子たちは

    彼をそのまま船外に投げ出したと伝えられている」。

 

 

140708b  しかし、この項目には根拠となる文

  献が全く無いし、僅か6行の辞書的

  説明で終わっている(この引用だけ

  で約7割)。信頼性が非常に低い項

  目にすぎないのだ。

 

  ちなみに左写真はウィキメディア、

  パブリックドメイン(公的所有)。

 

 

           ☆          ☆          ☆

そこで、英語版のWikipediaを見ると、やはり遥かに良質の説明があった。

まず、ピタゴラスの項目を見ると、日本版の5倍以上の分量にも関わらず、

弟子を殺した伝説など載ってない

 

一方、ヒッパソスの項目には、殺人伝説に関するかなり詳しい解説が出典

付きで書いてあった。長いので簡単に要約すると、次のようになる。

 

   「ヒッパソスは時々、無理数の存在の発見者で、その後、海で溺死

    したとされる。確かに、ピタゴラス学派はすべての数を有理数(整

    数の比)と説いてたし、無理数の発見はショックだったと言われる。

    しかし、その発見を彼に結びつける証拠は混乱している。 

 

    ── 無理数の知識をバラしたメンバーが溺死した(パップス)。

        球内での正十二角形の構成を発見したヒッパソスが、

        口外したために溺死した(イアンブリコス)。

        無理数をバラしたメンバーが、不敬な行為だとして、神々

        によって溺死させられた(同上)。 ──    

 

    これらの話が通常、一緒にされるし、その後も話が脚色されて

    いった。√2の発見。船の上でメンバーに放り投げられた時に

    発見。√2が無理数だと示したために、ピタゴラスが溺死を宣告、

    等々」。   

 

 

           ☆          ☆          ☆

出典はリンク先の原文にお任せしとこう。元々、2500年前の事だし、パップ

ス(わりと有名な数学者)やイアンブリコスでさえ、700年以上も後に語ってる

のだ。400年前の宮本武蔵でさえ、実像が曖昧なのだから、無理数を発見し

た弟子をピタゴラスが殺した、などという話は、まさにギリシア神話だろう♪    

もちろん、神話の一部が事実である可能性はあるが、ゴチャ混ぜで極端な形

に作られたフィクションと考える方が説得的だ。

 

なお、溺れるという英語drownの使い方や翻訳も、混乱に拍車をかけたと思

われる。「be drown」は普通、単に「溺死する」という意味だが、直訳すると、

「溺死させられる」という意味になってしまうのだ。

 

この程度でも入力が大変な状況なので、今日はもう終了。後ほど、別記事アッ

プも十分あり得ると思う(☆追記 : 翌日アッブ、下にリンクあり)。ではまた。。☆彡

 

 

 

cf. トランプのポーカーの確率計算

          ~『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』第1回解説

   検査精度と難病の確率、落下速度、素因数分解の暗号

                     ~『ハードナッツ!~数学girl』第2回解説

   ピタゴラス音律と普通の十二平均律、周波数のズレなど

                            ~『ハードナッツ』第3回

   ラブレターの換字式暗号&数字の順列パスワード~第4回

   計量文献学による解析、K特性値、筆者判定~第4回

   ハートマークと「i LOVE u」、愛の方程式~第5回

   「アッシェンフェルターのワイン方程式」の間違いと本物(原論文)~第5回

   特殊な違いの有無の判定(統計的推測、5%片側検定)~第6回

   変化点検出と外れ値、スコア(Score)~第7回

   変化点検出とスコア、具体的な計算例~最終回

 

                                    (計 2941字)

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またしても夜の更新直前更新である。 スケジュールがまったくタイトな状態から脱しない。 そして・・・追い詰められると弱いタイプなのである。 妄想が膨らみ過ぎて収拾がつかないのである。 そういう時は操作ミスもしやすく・・・ますます無駄な時間を費やしてしまう。 もちつけっ・・・と言って杵と臼を用意して・・... [続きを読む]

受信: 2014年7月 9日 (水) 22時25分

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