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存在しない我が家への帰宅~石坂啓『アイ’ム ホーム』(ドラマ原作漫画)

(☆4月16日追記: ドラマ初回レビューをアップ。

  人生崩壊の原作から、復活ヒーローのドラマへ~『アイムホーム』第1話 )

 

 

          ☆          ☆          ☆

アベノミクスへの期待なのか、単なるマネー・ゲームなのか、ここ数年、日本

の株価がまた急上昇し続けてる。いまや、日経平均株価は15年ぶりの高値

で、2万円目前。

 

では、日本中が株式投資に熱中、殺到してるかと言うと、そんな感じでもない。

当然だろう。25年ほど前、1990年くらいからのバブル崩壊以降、日本の株

価は最高値(日経平均4万円弱)の1/2~1/5の間で低迷し続けてるのだ

から。東証株価指数(TOPIX)でも似たようなもの。米国のような、大きく見て

右上がりを続ける強い動きとは全く違う、冴えない値動きなのだ。「失われた

20年」からようやく脱出できるのかどうか、まだまだ不透明ではある。

 

150408a

 

 

上図はウィキメディアで公開中、Monaneko氏の作品。青枠で私が強調し

てるのが、凄まじいバブル景気と、その悲惨な崩壊のプロセスだ。特に、

85年~93年あたりの上げ下げの異常性は際立ってる。

 

 

          ☆          ☆          ☆     

実はこの青枠こそ、銀行員、家路久(いえじ・ひさし)の悲劇的な物語と深く

関わる時期なのだ。石坂啓が97年~98年に連載したマンガ、『アイ’ム 

ホーム』(I’m home)。英語を直訳するなら、「帰ったよ」、「ただいま」。目

次の下に説明してあった。以下、ネタバレになるので、特にキムタク=木村

拓哉主演のドラマ(テレビ朝日)に注目してる方はご注意あれ。

 

男性社会人向けの雑誌、『ビッグコミック・オリジナル』(小学館)で原作の連

載が開始された97年とは、大手金融機関の破綻が続いて騒然としてた頃だ。

拓銀、長銀、日債銀、山一証券。。エリート銀行マンの久が結婚して子どもを

作り、庭付きの一軒家(マイホーム)を築いたのがバブル期だろうから、絶頂

からドン底へと一気に転落する過程や結果を描いたマンガと言っていい。

 

もともと石坂は、性にこだわりを見せる一方、かなり戦闘的なリベラル(左派)

みたいだから、悪しき資本主義の体現者とも言えるエリート銀行員やその転

落には、シニカル(冷笑的)な態度を取るのが自然だろう。

 

しかし、その銀行員にも妻がいて、子どもがいて、親兄弟や友達もいる。銀行

員を冷笑することは、周囲のみんなを冷笑することにもつながってしまう。もち

ろん、第三者的に冷笑する自分自身への冷笑も少しは生むはずだ。自分も

この社会の一員だから。

 

そこで石坂の態度は、微妙で屈折したものになる。基本的には非常に冷たい

空気を漂わせつつ、(特に女性や子どもには)温かい目線も注ぎ、最後は僅か

に救いや明るさも描く。ただし、全編を通じた底無しの暗さには変わりない。象

徴的なのがコミック下巻p.222、一番最後の1コマの絵と台詞だった。ここで

はあえて、説明を省いとこう。。 

 

 

            ☆          ☆          ☆

あらすじを非常に簡単にまとめると、次の通り。

 

   仕事に打ち込む冷徹で自信家のエリート銀行員、家路久には、5年前

   に離婚した妻・カオルと中学生の娘・スバルがいる。その2人に家を譲

   り渡した久は、離婚当時、マンションを持つ資産家の娘・ヨシコと既に付

   き合っており、すぐ再婚して、そのマンションで義理の両親たちと同居。

   まもなく新しい子ども・ヨシオも生まれた。実はその頃、久は株の投機

   (ハイリスクな取引)に失敗して借金があったので、不動産狙いの再婚。

 

   ところが半年前、単身赴任先で一酸化中毒になり、脳の低酸素状態に

   よって、ここ5年ほどの記憶が消滅してしまう。おまけに、認識機能の障

   害なのか特殊な精神疾患なのか、今の家族の顔が仮面をかぶってるよ

   うに見えてしまい、表情も分からないし、区別もつかない。仮面夫婦と言

   うほど冷え切った関係ではないけど、居心地が悪い。

 

   久の気持ちは自然に、昔のカオルやスバルに向かうが、カオルは拒絶。

   久には冷たくされてたし、離婚直前の流産も心の傷になってる。おそらく

   その頃、久は既に浮気相手(ヨシコ)と交際してたのだから。思春期のス

   バルの心も複雑だけど、もともと父・久とは非常に仲良しだったし、母が

   2年前に再婚したケンちゃんとの折り合いも良くないので、憎しみよりも

   愛着の方が強い。

 

   久が、なぜか沢山持ってる鍵を使ってあちこちの家に勝手に入り、記憶

   を取り戻そうとする間に、自分がどれほど最低の男だったかを思い知ら

   される。

 

   職場の美人秘書・杏子を愛人にしたり、実家の酒屋をコンビニに変えて

   後は任せっぱなしにしたり。友人の彼女だったヨシコを奪い取ったり、高

   級クラブの美人ママの金で株を買って、密かに儲けたり。そのヨシコが生

   んだ息子・ヨシオについても、自分の子ではないのかもと疑って、勝手に

   DNA鑑定に連れ出したり。

 

   結局、久が帰りたい「家」は離婚前の家だが、カオルの拒絶や病気もあっ

   て、それはもはや不可能。スバルとは打ち解けたものの、今さら父娘2人

   で暮らすのも無理。そこで海外への左遷の話を承諾して、単身赴任ある

   いは2度目の離婚をしようと考えてた時、マンションが火事で焼けてしまう。

 

   最後に久が本物の鍵で帰る家はどこか。久を「おかえりなさい」と迎える

   のは誰か。仮面の幻覚は消えるのか。家路久が久しくさまよい続けた家

   路、帰り道の先に待ち構えるのは、はたして。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

興味深いことに、不動産の価格は株ほど下がってない。だから、株で大失敗

した銀行員が「不動産にする」と言ってるのが、「アイム ホーム」の裏の意味

とも解釈できる。ところが不動産も焼けたから、残るのは精神的な居場所だけ

なのだ。

 

私も、キムタクの春ドラマ(2015年)、『アイムホーム』の話を聞くまでは、この

原作漫画のことは全く知らなかった。上巻の各回の題名は、ホーム1~8。下

巻がホーム9~17。既に2004年、NHKで連続ドラマになってるそうで、その

時の主演は時任三郎、脚本は浅野妙子。タイトルは『アイ’ム ホーム 遥かな

る家路』。違いがややこしいが、新ドラマに合わせた新版のコミックのタイトル

は、『アイムホーム』だ。

 

その来週始まるテレ朝の連ドラだと、今の妻の名前はヨシコではなく恵、女優

は上戸彩。この上戸が不気味に笑う白い仮面(某集団と類似)と共に写され

150408b  た写真を見て、私はすぐ、キムタクの実の妻・

  工藤静香の顔に似てると思ったが、ネットでは

  今の所、(ほとんど)触れられてない。左は公式

  HPより。

 

わざわざ、そんな話を書いたのは、キムタクにとってこのドラマが冒険だからだ。

生活感を出さないようにして来た大御所ジャニーズ、キムタクにとって、妻と子

供がいるバツイチの冴えない男の役は挑戦だろう。同じ父親役でも『華麗なる

一族』とは違う。ヒーローやアイドルから、幅や厚みのある俳優への脱皮の試

み。「アイ’ム ホーム(ただいま)」と言いつつ帰る「家」を探す男という意味で

は、キムタクと家路久は重なってる。

 

 

           ☆          ☆          ☆

ただし、決定的な違いもある。突出したタレントであるキムタクの場合、どこに

帰っても温かく迎えられるだろう。SMAPもファンも安定、プライベートの家も

安泰、タマホームのCMまでやってるくらいだ♪

 

それに対して、一般人の久にとっては、どこにも本当の家が見つからない。帰

りたい家(離婚前)は存在しないし、存在する今の家には帰りたくないのだ。

 

とはいえ、今は多摩川のホームレスの方々でさえ、あまり見かけなくなってる

時代。家=ホームはやはり欲しい。アイム(アット)ホーム、私が家にいるから

こそ、ホームドラマでかりそめの楽しみも味わえる。たとえそれが、フィクション

=虚構であっても。

 

ちなみに、2年半前の秀作ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』では最終回、温か

いホームに帰り着いて終わった。「クーナ」と呼ばれた幻想的存在を「食う」こと

で、幻想も欲望も消化=昇華され、現実のものとなったわけだ。

 

しかし、あのドラマの至る所に「死」の影があったことを考えても、やはり最後の

家は、死だろう。その先に天国や極楽を思い描くにせよ、無機質な物質的時空

の広がりを思い描くにせよ。

 

実際、『アイ’ム ホーム』の冒頭から結末まで、一貫して死の影が覆ってるの

だ。解釈によっては、主要人物4人の死を見て取ることも可能。さて、新ドラマ

の脚本家、林宏司はどんな解釈を見せてくれるか。やはり女性ファンや高齢

視聴者に配慮して、分かりやすいハッピーエンドに持ち込むのだろうか。ちな

みに林の人気ドラマ『医龍』、『コード・ブルー』は、文字通り、フツーにいいドラ

マだった。逆順で言い換えると、良いドラマだけど普通のレベルだったのだ。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

コミック下巻のあとがき(p.224)を読むと、漫画のキッカケは旅行中の些細

なエピソードらしい。ウィキペディアでは出典を明記せずに書いてた。

 

   ギリシャのホテルに泊まっていたときに、そこのパンフレットに、

   「お客さまに『アイ’ム ホーム(ただいま)』と言って戻っていただ

   けるようなお部屋をめざして・・・・・・」といったような内容が書い

   てあって、まずタイトルを決めました。

 

その後に書かれた話を要約すると、家はやがて無くなるものだから、今いる

家を「大事にしておきたいなあといった気分にさせられる」、ということになる。

興味深いのは、このボカした曖昧な表現。「大事にしよう」とか、「したい」では

ないのだ。人の気持ちがこもった、自分の居場所というものは、はっきりとした

リンカクの結べないものだし、移ろいやすくて儚いものでもあるから。

 

なお、新ドラマでは、カオルは「香」とされて、水野美紀が演じる。スバルは「す

ばる」とされて、去年の『昼顔』で上戸彩と共演してた山口まゆが演じる。そう

言えばあのドラマも、最初と最後は火事だった。今回の原作も、最初の転機

はもち焼き事件、最後は火事になってる。偶然だろうが、面白い類似だろう。

平凡で身近なアクシデントの代表ということか。鍵の本数は、ドラマが10本。

原作は11本のようで、実際に使ったのはおそらく8本だ。

 

とにかく原作コミックは、地味ながら、予想以上に面白い作品だった。ドラマ

にも、意外なほどの出来栄えを期待しよう。視聴率対策もあってのことか、

ドラマの方がミステリー色を強めるようだ。ドラマの久は証券会社勤めだし、

脚本家は『ビッグマネー!』(2002年)というドラマも担当してるから、株の

話も増えるかも。

 

それでは、今日はこの辺で。。☆彡  

                                   (計 4146字) 

 

 

P.S. 当初の大判のコミックだと、上巻の表紙では、赤い身体の久らしき男

     が一軒家にトボトボ帰宅中。下巻では、青い身体がマンションに帰宅

     中。どちらも背中を丸めた後姿で、結末がハッピーエンドとは思えない

     証拠の一つとなってる。

 

 

cf. 『アイムホーム』第6話、軽~い感想&短距離走3日連続

   新居のハッピーエンドという仮面~最終回

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・

   奇跡のリターンがもたらす輝き~『ロングバケーション』第1話

   夢見る息子vs現実を見る父~『華麗なる一族』第1話

   『華麗なる一族』最終回、ドラマと原作の比較

   キムタクは素うどんかたぬきで♪~『CHANGE』第1話

   脳科学コメディーの綱渡り~『MR.BRAIN』第1話    

   国際映画ドラマというチャレンジ~『月の恋人』第1話

   キムタク=木村拓哉主演ドラマ、視聴率の推移&『月の恋人』第4話   

   鉄の悲劇から、犬の感動物語へ~『南極大陸』第1話

   Jumpin’ Jack Flash、あやつり人形の閃き~『Priceless』第1話

   制作費70分の1、SF映画に挑戦するドラマ~『安堂ロイド』第1話

   LIE STOPS HERE(嘘=夢はここにある)~『HERO 2』最終回    

 

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』、軽~い感想♪

   『宮本武蔵』ドラマ第二夜と原作小説(by吉川英治)、感想と比較

 

                        (追記 789字 ; 合計 4935字)

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