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元少年Aと『絶歌』、香山リカの「サイコパス」という見解(SPA!)を読んで

激しい批判や反発を招く一方、初版10万部はすぐに(ほぼ)完売、5万部を

追加とか言われてる、元少年A『絶歌(ぜっか)』(太田出版)。

 

私は元々、神戸連続児童殺傷事件に関心があったし、当サイトでは精神医

学関連の話もかなり書いてる。だから、すぐに読んで感想を書こうかと思っ

てたが、いまだにその本自体は読んでない。世間の反応の大きさに驚き、

とまどってるからだ。

 

元少年Aが書くこと、出版社が発売することだけでなく、それを買うこと、読

むこと、図書館その他が扱うことまで非難される状況。こうなると、せめて、

1000万円レベルの印税の大部分が被害者の遺族に渡されるのを確認す

るまでは読まないことにしようか・・・とか考えつつ、メディアの情報だけは

それなりに目を通してる。

 

松谷創一郎のレビュー、<「酒鬼薔薇聖斗」の“人間宣言”──元少年A『絶

歌』が出版される意義>も大胆な内容とタイトルだったが、昨日『SPA!』か

ら配信された記事も、別の意味で大胆な内容だ。

 

   香山リカ、『絶歌』から「元少年A」の脳の機能不全を読み解く

 

そもそも彼女は、今春の妙なツイッター事件の後でもあるし、一段と反発を

招きやすい状況だと思うが、今回の記事はなかなか専門的で本格的なもの

になってる。見解が妥当かどうか、根拠が十分かどうかはさておき、精神科

医や心理の専門家達が真剣にじっくりと語る機会はあっていいと思う。

 

彼に似た人間が少なからず存在するのは事実だろうから、具体例に即し

て、理解、事後対処、予防措置を進めていくべきだろう。香山の文章の末

尾は、次のように書かれてた。

 

   いずれにしても、程度の差こそあれ、「素行障害(非情緒的特性タイ

   プ)」の子どもや少年は確実に一定数、存在しており、より効果的

   (社会にとっても本人にとっても)なプログラムの開発が早急に望ま

   れる。犠牲になった方々や遺族のためにも、少年法に守られ、いま

   は社会で暮らす元少年A自身そして今回の手記が、せめてプログ

   ラム作りの一助になることを願いたい。

 

 

           ☆          ☆          ☆

さて、手記を読んだ香山の長文コメント。普通の人にとって、読みやすくは

ないだろう。

 

予備知識があれば、よくある話として、すぐ理解できる部分が多いだろうけど、

病名や精神鑑定、診断基準(最新のガイドラインは2013年の『DSM-5』)

に慣れてないと分かりにくいはず。おまけに、香山(と編集担当者)の不注意

によるミス、書き間違いがいくつかあるから、無用な混乱を招いてる。

 

最大のポイントは、元少年Aがかなりの「サイコパス」(精神病質の患者)で

あって、「『心の闇』といった心理的な問題ではなく、何らかの脳の機能不全

に基づいている」、という主張だ。病名、障害名だと、「サイコパシー」。

 

これについては以前、PC遠隔操作事件の時、当サイトで記事にしてある。

香山の記事には書かれてないが、サイコパシーの診断基準として、「PCL 

-R」(サイコパシー・チェック・リスト、改訂版)と呼ばれるものが使われて

るのだ。20個の項目の内、香山の主張と深く関わるのは次の3つだろう。

 

   良心の呵責・罪悪感の欠如

   浅薄な感情

   冷淡さ/共感性の欠如 (callousness and lack of empathy)

 

香山の表現で言うと、「冷淡で非情緒的」。現在ではこれが、素行障害のサブ

タイプの特徴とされてるようだ。この冷淡という言葉の元になってる英語は

callous」であって、冷たいと言うより、「無感覚」を表す言葉。語源を遡ると、

「皮膚が硬くなってる」という意味だから、触れても感じない状態なのだ。

 

 

         ☆          ☆          ☆  

もちろん、何も感じないからといって、罪と罰は別問題だし、そもそも香山

も、「完全なサイコパスかといえばそれも違う気がする」と書いてる。

 

私はまだ手記を読んでないけど、少なくとも今現在の元少年Aは、サイコパ

スの度合いがそれほど高くない状態だろうと想像する。あの事件以降、既

に18年も静かに経過してるし、今回の出版に関しても相当なやり取りや作

業があったようで、そうした社会生活をクリアして来てるのだから。

 

サイコパスの診断基準PCL-Rの20項目には、「病的な虚言」、「偽り

騙す傾向/操作的(人を操る)」、「貧弱な行動コントロール能力」、「衝

動性」、「無責任」(おそらく、周囲について)、「自分の行動に責任が取

れない」、「仮釈放の取消」といった項目が並んでる。

 

出版に至るまでの大変な道のり(執筆、出版交渉、書き直しなど)をクリア

したことを考えると、これらの項目に当てはまってるかどうかを示す点数は

低いだろう。サイコパシーの度合いは合計点を重視するようなので、ここ

数年に関しては、あまり度合いが高くないことになると思う。

 

 

         ☆          ☆          ☆

とにかく、そもそも心が硬化して無感覚な人間がある程度いて、そこには脳

の問題もあるようなのだ。根本的な治療法の開発には時間がかかるだろう

から、それまでは現実的な妥協の努力を続けるしかない。

 

例えば、元少年Aに対する心理的サポートや医療ケアについて、香山は気

がかりだとしてるが、法的、制度的、実社会的にどうなのか。本来なら、出版

や増刷よりもそちらの方が先決問題だろう。

 

なお、単なる不注意だろうが、香山の記事には少なくとも3ヶ所くらいミスが

ある。まず、素行障害(旧・行為障害)の英語を「condut disorder」として

るが、正しくは「conduct disorder」。また、序盤でサイコパスと「反社会性

パーソナリティ障害」を比較する時、「前者」と「後者」が逆になってる感じだ。

 

さらに、<犯行当時には「素行障害(非情緒的特性タイプ)」と診断された

のではないか>と書いてるが、正しくは、<犯行当時には「行為障害(現

在なら素行障害の非情緒的特性タイプ)」と診断されたのではないか>と

書くべきだろう。

 

「冷淡で非情緒的」(callous and unemotional)なタイプという区分は、

一昨年からの診断基準DSM-5で登場したものだから、犯行当時には

存在しない。

 

 

         ☆          ☆          ☆    

あと、それらのミスとは別次元の話だが、「サイコパス」について語る時、

「一切の良心を持ち合わせていないような人たち」と書いてる。

 

診断基準PCL-Rにおいて、「良心の呵責・罪悪感の欠如」というのは、

20項目中の1つだし、3段階評価である。1つ「に過ぎない」とは言わな

いが、冷静に全体を総合判断する必要があるだろう。

 

とはいえ、香山が専門家として、それなりに突っ込んだ話を書いてるのは

確かだ。次は、脳の専門医や、支援プログラムの専門家の意見などを聞

きたいと思う。とりあえず、今朝はこの辺で。。☆彡

 

 

 

P.S. 9月10日、巷で話題になり始めた少年AのHP(らしきもの)を少し

     だけ見た。と言うか、自己PRに乗せられて見ること自体、気が引け

     るし、メインの「ギャラリー」で、あまりに不気味な絵が大量に描かれ

     てるし、ナメクジの写真もあるから、差し当たりスクロールで飛ばし

     てしまったのだ。かなり引き締まった肉体美も誇示してるけど、本人

     の写真かどうかは不明。

 

P.S.2 翌日、あとがきだけ読んだ簡単な感想を追加した

 

 

cf. 香山リカ『しがみつかない生き方』を読む (上)

   香山リカ『しがみつかない生き方』を読む (下)

   大胆かつ繊細な試論~香山リカ『雅子さまと「新型うつ」』

 

    ・・・・・・・・・・・・・・・

   サイコパス&マインドコントロールの迷宮~『世界仰天』ドラマ・成海朔2

 

                                  (計 3035字)

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コメント

こんにちは~。
男性脳のテンメイさんは冷静分析できるけど、
私は感情的に見てしまうので、
ドラマもニュースも一呼吸しなきゃダメね(笑)

『Mr.サンデー』を思い出したんだけど、
この本について感情を露わに怒ってた宮根さんに対して、
竹田圭吾氏が「表現の自由を守るためにはしょうがない」
って冷静に返したので、
宮根さん同様に私もちょっとビックリしたの。
香山さんのコメントも冷静だけど、
女性目線のせいか別の気持ちが感じ取れる。

>「これを発表するとこんな反応が返ってくるよ」
>と誰かが懇切丁寧に説明しなかったのだろうか。

読んだ人の心を逆なでするような元A少年の言葉は、
出版社の思惑通りなのかしら?
売れなくても出したいと思う正義感もなかろう。

サイコパスに殺られようが、
酔っぱらいにひき逃げされようが、
死んだ者は帰って来ない。
その辛さを紛らしながらでも
生きて行かなくちゃいけない
遺族の気持ちが優先されるべきで、
「表現の自由」とは別物じゃないですかね。

人として。。。

この元A少年には、
「自由」を選ぶ権利があってはならないし、
「自己救済」なんて仕方も間違ってる。

闇サイト拉致殺害の死刑囚の刑が執行されたニュースに、
それでも遺族の心が癒えることはないんだろうなって思う。
残虐な殺され方を想像するだけで親はたまらんよ。

娘たちには不幸な出来事に遭遇して欲しくないと
願うことしか出来ないし…

答えが見つからない事件への腹立たしさ、
テンメイさんにぶつけちゃった~bearing

投稿: mana | 2015年6月25日 (木) 13時32分

> mana さん
   
こんばんは moon3
脳の話、好きですよね。
テレビの100分の1くらい♪
まあ、流石にこれは真面目にレスしましょう。
   
「表現の自由」はマスコミが強調することで、
実際には例外が色々あります。
名誉棄損やプライバシーの侵害で制限される
こともあるし、風説の流布や不当表示も同様。
  
だから、遺族が差し止めや回収、慰謝料を求めて
訴訟を起こすことは可能でしょうね。
ただ、裁判所がどう判断するのかは不明。
そもそも僕はまだ、本を読んでないもんで。。
  
一部で短く引用されて話題になってる、おぞましい
行為のぼかした描写だけは読みましたが、
一定の配慮は一応あると思います。
元はおそらく、遥かに直接的表現だったはず。
あれだけだと、差し止めには至らない気がします。
  
見方を変えると、出版社の編集担当者らが
あらかじめ何度も書き直させてるんでしょう。
あるいは、(ゴースト)ライターが
少し緩めた表現へと書きかえたとか。
  
そうした事情は、最初に話を持ち込まれた幻冬舎
からも説明されてるから、香山も知ってるはず。
だから、「誰かが懇切丁寧に・・」という香山の言葉は、
「関係者がもう少し配慮させれば、これほどの騒ぎには
ならなかった」という意味でしょう。
  
ただ、元少年Aはとにかく書きたかったんだろうし、
出版社は当然、炎上商法を意識してたはず。
あそこは、『完全自殺マニュアル』を出した所で、
編集者も同じだとか言われてますからね。
だから、「こんな反応が返ってくるよ」という
ような説明は、出版サイドには意味がないわけです。
そんな事、知ってるし、それでいいんだから。
    
1億人に叩かれても、10万人買ってくれれば成功。  
売れなくても出したいというのは、元少年Aには
あるでしょうが、あの出版社には無いでしょう。
  
遺族の気持ちが大切なのは当然ですが、
どこまで大切にするのかは考え所。
著者、遺族、出版社、3者の思いを考慮した上での、
落とし所がこの本だったんだと思います。
    
   
本の最大の意義は、直接的には社会的反応でしょう。
現代日本社会の世論調査。本気で、突っ込んだ内容で。  
次に、元・犯罪者、広い意味での精神障害者の理解。
「18年経っても、こんな本を出してしまうのか」
といった否定的思いも含めて。
      
これを受けて、日本でも「サムの息子法」みたいな
法整備をするとか、支援プログラムを作るとか、
周囲の特殊な人に気を付けるとか、色んな動きが
あっていいと思います。
       
「表現の自由」を選ぶ権利があるかどうかはともかく、
その他の自由は人間として、ある程度あるでしょう。
もちろん、実際には非常に不自由な生活だろうけど。
社会的制裁は長年受け続けてるし、今後も残るはず。
       
今回の自己救済が間違ってるとしたら、
「他者救済」が必要になりますね。
たとえば、あらためて精神科医の診断を受けて、
通院or入院治療するとか。
   
もし生まれつきの脳の障害によるものなら、
彼自身も不運な被害者という側面があります。
manaさんも、フィクションの『白夜行』とかなら感情移入
するでしょう。連続殺人犯でも、不運だから。
凶悪犯罪に至る、幼い子供たちの悲しい事情が理解できるから。
現実がもっと凶悪なら、もっと不運でもあります。
   
    
闇サイトもそうだけど、僕らを取り巻く社会にも、
人間の心にも、実は闇の部分が広がってるわけです。
見てないだけ、あるいは、運良く無関係なだけ。
    
元少年Aとか執行された死刑囚に対する
強い感情もあって当然ですが、それ以上に、
今後の闇の問題を減らすことの方が大切でしょう。
  
そのためにも、今回の本自体はさておき、
人間や社会の闇について知ること、考えること、
語り合うこと、行動することが求められてます。
   
日本以外だと、どうなのか。昔はどうだったのか。
世界的、歴史的な考察も必要でしょうね。
騒動が鎮まった後も、ゆっくり調べてみるつもりです。
  
腹立たしさをぶつけるのは普通の健全なこと。
それはいいとして、腹立たしさを少なくするには
どうすればいいのか、こちらが話の本質でしょう。
出家してお寺で座禅&瞑想という手もあります。
ま、瀬戸内寂聴はよく腹を立ててるみたいだけど♪
     
ともあれ、真面目なコメントどうもでした。。shine

投稿: テンメイ | 2015年6月26日 (金) 03時59分

> 秘コメ扱いご希望 さん
   
はじめまして。
「お返事は結構」との事ですが、一言だけ。
      
「秘コメ扱い」のシステムがウチには無いもんで、
1時間半だけ公開されちゃいました。
すみませんね (^^ゞ
   
スパムフィルターを厳しく設定してるので、
普通は一旦、引っ掛かるようになってますが、
ここ最近、フィルターの調子が悪いみたいです。
   
   
・・・と言うか、別に秘コメにするような
内容でもないと思いますけどね。
しっかりしたコメントですが、
ちょっと気が引けたんでしょうか。
どこかでお見かけしたようなお名前だし♪
あるいは、ウチへのご配慮もあったのかな。
    
おそらくお分かりでしょうが、
僕の本音もわりと似たものなんですよ。
それをかなり婉曲表現して、慎重な配慮を
施したのが、この記事と上の長いレスなわけです。
    
   
まあ、秘コメに丁寧にレスすると、内容が分かって
しまうし、このくらいにしときましょう。
また、もっと無難な記事にでもコメントくださいね。
  
ちゃんと、「はじめまして」とレスしますから♪shine

投稿: テンメイ | 2015年6月29日 (月) 01時42分

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