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点字を「南無阿弥陀仏」で表す換字式暗号~江戸川乱歩『二銭銅貨』

日本の著作物の著作権保護期間は、基本的に死後50年とされてる。そ

のため、日本の本格推理小説の草分け、江戸川乱歩(1894~1965)

の著作権が切れて、無料の電子図書館・青空文庫で公開され始めた。

 

死後50年目の翌年の元日から公開可能となるので、乱歩の場合2016

年1月1日から。今日(2月4日)の時点で公開されてるのは3作のみで、

その1つが「デビュー作」とされる短編、『二銭銅貨』だ。発表は1923年

だから、100年近く前。ウィキペディアによると、当時はまだ「探偵小説」

と呼ばれてたらしい。

 

私は恥ずかしながら、つい先日まで『二銭銅貨』という小説を知らなかっ

た。単に、著作権が切れるとか切れたとかいう話をネットで見かけて、青

空文庫に飛んだ時、一番面白そうな題名だと思ってクリックしただけのこ

と。他の2作品はまだ読んでないけど、これを選んで正解だった気がする。

デビュー作だし、物語の構成も暗号も興味深かった。

 

ところで、江戸川乱歩というペンネームが、19世紀前半の米国作家、エド

ガー・アラン・ポーから来てるという話は有名だろう。そのポーという名前

が、『二銭銅貨』の中で「ポオ」として出てるし、この小説がポーの短編『盗

まれた手紙』と少し似てるのも明らかだ。私はたまたま去年の夏、『盗まれ

た手紙』と関係するドラマレビューを書いてるので、後ほど2作品を比較し

てみよう。

 

 

         ☆          ☆          ☆

まずは、あらすじから。当然、ネタバレになるので、知らない方はまず青空

文庫その他で直接読むことをお勧めする。ポーの小説も邦訳で公開中。

 

 「私」と松村武が、2人で貧乏生活を送ってる頃、5万円が盗まれた

 事件が話題になった(注. 大まかに言うと今なら1000倍で5000

 万円)。犯人は捕まったが、隠し場所については黙秘したまま。2人

 も、大金が欲しいと羨む。

 

 ある日、松村は家で、奇妙な二銭銅貨に気付く。よく見ると、表と裏

 がはがれるようになってて、中にあった紙きれに暗号が書かれてた。

 

 陀、無弥仏、南無弥仏、阿陀仏、弥、無阿弥陀、無陀、弥、

 無弥陀仏、無陀、陀、南無陀仏、南無仏、陀、無阿弥陀、無陀、

 南仏、南陀、無弥、無阿弥陀仏、弥、南阿陀、無阿弥、南陀仏、

 南阿弥陀、阿陀、南弥、南無弥仏、無阿弥陀、南無弥陀、南弥、

 南無弥仏、無阿弥陀、南無陀、南無阿、阿陀仏、無阿弥、南阿、

 南阿仏、陀、南阿陀、南無、無弥仏、南弥仏、阿弥、弥、無弥陀

 仏、無陀、南無阿弥陀、阿陀仏、

 

 松村は「私」から、銅貨を手に入れた経緯を聞いた後、牢獄の泥

 棒が外部の仲間に伝える暗号メッセージだと考える。南無阿弥

 陀仏の6文字を使った暗号なので、まず真田氏の家紋「六連銭」

 (むつれんせん)をイメージし、それに似た点字との対応を発見。

 

 わざわざ盲人の按摩(マッサージ)を頼んで、点字を教えてもらい、

 暗号を解読。5万円の隠し場所に行き、大金を家に持ち帰った。

 玩具(おもちゃ)の偽札の中に隠してたのだ。

 

 自分の頭の良さを、松村が「私」に話し終えると、私は爆笑する。

 その暗号は、別の読み方をすると「ご冗談」。実際、松村が持ち

 帰ったのは、単なる偽札だった。実は、「私」が仕組んだ壮大な

 イタズラに、松村が引っ掛かったのだ。知恵比べの勝者は、私。。

 

 

        ☆          ☆          ☆

物語的なポイントの一つは、偽札の中に本物のお金を隠すという発想。

これは、ポーの『盗まれた手紙』と似たパターンだ。ポーの場合、手紙は

名刺入れに差したままで、誰でもすぐ見える場所に隠されてた。だから

こそ、警察はまったく気付かなかったのだ。

 

見えない場所に隠すのではなく、すぐ見えるけど気付かない場所で、背

景に融け込む形で置く。これが共通する本質的な隠蔽トリック。

 

それだけでも、当時だと盗作とかコピペと騒がれることはなかっただろう

けど、乱歩は遥かにヒネッた話に変えてた。オモチャの偽札の中に本物

の紙幣を隠したと見せかけて、実は単なる偽札。おまけに、松村が巧み

に事件を解決したと見せかけて、実は騙されただけ。

 

こう見ると、ポーよりも2ヒネリ上の推理小説のように感じられるけど、ポー

にも乱歩と違う長所がある。それは、盗まれた手紙の内容が何なのか、結

局ハッキリしない点。だからこそ、高度に抽象的な解釈の余地が広がるわ

けだ。例えば精神分析家ラカンとか、哲学者デリダのように。もちろん、実

はポーの小説でも事件は解決してなかったという見方さえ、可能だろう。。

 

一方、『二銭銅貨』にはシャーロック・ホームズへの言及もある。ホームズ

と相棒ワトソンの間で、「私」と松村のような知性バトルがあったかどうか、

ちょっと思い出せない。何しろホームズは小学校以来ご無沙汰なもんで。。

 

 

        ☆          ☆          ☆

それではいよいよ、暗号の謎解きについて。これは、小説自体にキレイ

な解読表が付いてるのだ。丸ごとコピペするのは気が引けるので、冒頭

だけ引用させて頂こう。

 

160204a

 

 

上段が元の暗号(6文字の有無)。中段が、対応する点字(6つの点の

有無)。下段が解読されたカタカナの文章。

 

南無阿弥陀仏を左上から右下へと配列して、点字の代わりにしてある。

ちなみに下は、NHK大河ドラマ『真田丸』のロゴの縮小コピペで、六連銭

が背景となってる(円の中に正方形)。点字を横向きにしたデザインだか

ら、六文字→六連銭→点字というイメージの連鎖はわりと自然な流れだ。

 

160204b

結局、「 ゴケンチヨーシヨージキドーカラオモチヤノサツヲウケトレウケトリ

ニンノナハダイコクヤシヨーテン」が元の文。つまり、「五軒町の正直堂か

ら玩具の札を受取れ、受取人の名は大黒屋商店」という意味で、松村は

大黒屋商店のフリをして、オモチャに見せかけた本物の紙幣を受け取っ

た・・・と思ったら、単なるオモチャだったわけ♪

 

さらに、先頭から8文字ずつ飛ばして、9文字ごとに読むと、「ゴ ジ ヤ

 ウ ダ ン」、つまり「ご冗談」になる。ウィキによると、乱歩自身はこれを

不自然だと思ってたらしいけど、換字式暗号からさらに「分置式暗号」へ

と進んでるわけで、松村をからかう技としては気が利いてる。

 

参考までに、日本点字普及協会の点字一覧表の冒頭も添付しとこう。

 

160204c

 

 

         ☆          ☆          ☆

最後に、暗号の本質について。要するに日本語のかなだと、基本的には

50音プラスαを表せればいいのだから、6つの単純な記号の有無で間

に合う。6つのそれぞれが有るか無いかで、 (2の6乗)=64通り。「IL

OVEU」(アイ・ラブ・ユー)のアルファベット6つでも可能。「陀」の代わり

に「E」と書けばいい。

 

より一般的には、6種類の記号のそれぞれに2パターンあれば十分。代

表的なものが、1と0を並べた二進法の数。例えば、上の表の「ケ」なら、

「110101」と書けばいい。

 

6つ以上の文字でも、例えば「南無妙法蓮華経」の前6文字とか、後ろ

の6文字を使えば間に合う。さらに言うなら、6文字は十分条件ではあっ

ても、必要条件ではない。5文字以下でも可能だろう。というのも、点字

で濁音「ゴ」を表す時とか、2個の点字を使ってるからだ(表の左端)。二

進数を使うなら、「ゴ」=「000010  010101」。

 

これなら例えば、「ガ行」を1011(つまり11番目)、母音の「お」を0101

(つまり5番目)として、「ゴ」=「1011  0101」と表せる。つまり、4文字

を2単位組み合せても一応できるのだ。

 

 

         ☆          ☆          ☆    

4文字だと実用性は微妙だけど、点字と違って暗号は読みにくくするもの

だから、別にいいだろう。単なる私の思い付きで、現実やフィクションでの

使用例は知らないけど、あっても不思議ではない。

 

なお、『二銭銅貨』には他のウンチクも含まれてたから、関連する別記事

をいずれ追加したいと思ってる。とりあえず、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf. エドガー・アラン・ポーの小説『盗まれた手紙』との比較~『恋仲』第6話

 

                                  (計 3175字)

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