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世界を揺さぶる海のロック~『奇跡の人』(NHK・BSドラマ)

人気・実力ともにトップレベルのベテラン脚本家・岡田惠和(よしかず)は、

「海」を愛する男でもある。

 

息子さんの名前は、長男が広海(ひろみ)、次男が海都(かいと)。この名

前は、岡田の名作ドラマ『ビーチボーイズ』で、反町隆史と竹野内豊に与

えられることにもなった。

 

主人公も舞台も、海。連続ドラマの一番最初と最後も、海。この構造が実

は、ほぼ20年後のロックな障害者ドラマにも引き継がれてたのだ。

 

一番最初の居酒屋シーンは、訳の分からない巨大な世界に立ち向かお

うとしながら、たじろぐ姿。つまり、コースもゴールもない海を前にすくんで

しまう、元エリートの広海&海都と重なるものだった。外見は別として。。♪

 

 

         ☆          ☆          ☆

さて、遅まきながら友達のレビュー・リクエストに応えようと、BSプレミ

アム『奇跡の人』を見てる時、私は『ビーチボーイズ』を思い出してた。

 

小型の車、地味にキレイな海岸=ビーチ、水遊び、大きな疑似家族、そ

して愛すべきダメ男たち。ドラマ視聴者まで含めて♪ コラコラ! 「不法

投棄厳禁」とか書かれてた、ゴミ捨て場を思わせる古いアパートは、『ビー

チボーイズ』だと、民宿ダイヤモンド・ヘッドだ。

 

反町=広海は水泳のトップレベルで挫折して、女にも棄てられた、貧乏

なヒモ男。竹野内=海渡は、仕事でちょっと挫折して商社を離れた元・エ

リート。たまたま同じ「海」で巡り合った後、ビーチでひと夏の青春を味わ

いながら、それぞれ、自分の海を探し求める。

 

しばらくウジウジした後、スーッと風のように旅立ったから、『奇跡の人』

の台詞的には、男性的かつ女性的な、中性的内容。実際、イケメン2人

が登場する夏のフジテレビ月9なのに、男女の恋愛の要素は少なかっ

た。ある意味、女のように美しい男同士が愛し合うのだから、今なら一部

の特殊な女性たちが狂喜乱舞する内容♪

 

ただし、それには美しさが必要条件であって、『奇跡の人』の亀持一択

(峯田和伸)と鶴里正志(山内圭哉)がじゃれ合っても、女子たちの人気

は獲得できないのであった。

 

世界は平等ではない。その大切な事実を示す、一つの形だろう♪ しか

し、平等でなくても人は生きて行けるし、生きて行くしかない。

 

 

         ☆          ☆          ☆

生きていく中では、下にあったものが上になり、上にあったものが下になっ

たりもする。そうした連続的な運動は、振動とか波と呼ばれる。

 

ギターの弦、ブランコ、海。。世界も人も心も、揺れ動く。「ロックンロール」 

(Rock and Roll)という英語は、揺さぶり、うねらせるという意味だが、

英語版ウィキペディアには、興味深い語源も説明されてた。ロックンロー

ルとは本来、海に浮かぶ船の動きを指す言葉だったらしい。

 

その意味ではまさに、『奇跡の人』で、全盲ろうの女の子・海(住田萌乃)

に揺さぶられる人々の動き、あるいはアパートの騒動が、ロックンロール

だったことになる。

 

この言葉にはその後、精神的な情熱とか、セクシャルな意味も混ざって来

て、20世紀半ばには音楽のジャンル名として定着する。やがて単に「ロッ

ク」と言われるようになり、意味が広がると共に、重心がズレて来た。 

 

 

        ☆          ☆         ☆

ドラマ『奇跡の人』で、最初から最後まで使われ続けたキータームが、

ロック」。簡単にまとめると、独自のものを持ち続けて、人と世界を揺さ 

ぶる、強く激しい生き方、あるいはエネルギーの放出のこと。

 

それはしばしば、社会の底辺とか、精神的・立場的な「若者」と結びつけ

られるけど、別にアパートの高齢の大家さんであってもいいし、お店の店

長でも悪くない♪ 

 

風のようにスーッと消えて行った大家の風子(宮本信子)は、女性ロッ

カー。しばらくウジウジした後、有能な店長になって売上を伸ばそうかと

狙ってる詩人・馬場三太(勝地涼)は、男性ロッカーだ。

 

 

        ☆          ☆          ☆   

偶然か必然か、ドラマ放送時の16年5月23日、NHKラジオ

『Enjoy Simple English』(エンジョイ・シンプル・イング

リッシュ)で、「Roch’n’ Roll」と題する回があった。

 

女子高生の娘がエレキ・ギターを買って、部屋で喜んでたら、父が勝手

に部屋に入って来る。娘が怒るのも気にせず、父がギターについてたず

ねると、娘は、バスケットボールをやめてバンドをやりたいと言う。ロック

ンロールとか。

 

すると父はいきなり、娘のエレキギターで、ロックスターみたいな演奏を

披露。驚く娘に、父がバスケをやめる理由を問いただすと、実は新人に

ポジションを奪われてしまったのだと告白。

 

そこで父は、優しく、力強く、娘に語る。バスケ部に戻って、精一杯がん

ばって、ポジションを奪い返しなさい! そうすれば、私がギターを教え

てあげよう♪ 

 

最後の英文は、

 「And this is how I learned

 what rock’n’roll is all about.」

こうして私は、ロックンロールとはどんなものかを学んだ。

 

熱くていい話だな・・と思ってたら、番組ナビゲーター・肘井美佳の最後の

一言も最高だった♪ 高校の石碑に、「攻撃は最大の防御なり」と書いて

あったらしい(笑) 。福岡県立嘉穂高校かな。ロックで、いいね!

 

 

         ☆          ☆          ☆

もちろん、突出したロックンローラーは、ドラマ内のヒロイン。生まれつき

目が見えず、耳も聞こえず、言葉も喋れない女の子、海。

 

エンドロールに名前が出てた、全国盲ろう者協会HPを見ても、彼女みた

いな障害者の人数はハッキリしない。東京盲ろう者友の会(東京都盲ろ

う者支援センター)のHPには、下の図が掲載されてた。

 

160625a
   

 

平成18年度調査で、盲ろう者は23000人。視覚障害者や聴覚・言語障害

者の15分の1。

 

ただ、その人数は、わりと軽い盲ろう者や後天的な盲ろう者を大勢含んで

るので、海みたいな先天的で完全な盲ろう者極端に少ないようだ。平成

24年(2012年)に、厚生労働省の支援を受けて行われた「盲ろう

者に関する実態調査」の報告書を見ると、下のような表がある。

 

160625b

 

総数は約14000人だが、10歳未満だと僅か59人。おまけに女

の子は24人しかいない。とすると、本当に生まれつきの人はごく

僅かだろう。あのヘレン・ケラーでさえ、生まれつきではない。

 

もちろん、生まれつきの全盲ろう者で既に10歳以上になってる人もかな

りいるはずだけど、表の全体を見て考えると、海が非常に稀なケースの

女の子だということは分かる。比類なきロッカー少女。

 

 

         ☆          ☆          ☆

ここで、ドラマの筋書きや内容、タイトルと深くつながってる、ヘレン・ケ

ラー(Hellen Keller)についても見ておこう。

 

一択が頼りにしてた参考文献(笑)は、下のマンガの伝記(集英社)。福

祉くん・・じゃなくて福地くん(浅香航大)にはバカにされてた。ちょっと古

い1989年版。

 

160625c

 

ここには、「三重苦をのりこえた奇跡の人」と書いてあるから、奇跡の人と

はヘレン・ケラーのことのような気がするだろう。新潮社『奇跡の人 ヘレ

ン・ケラー自伝』を見ても、そう思うのが普通の第一感のはず。

 

160625d_2

 

 

           ☆          ☆          ☆

ただ、この「奇跡の人」という日本語の元になったと思われる英語

Miracle Worker」(ミラクル・ウォーカー=奇跡的な働き手)

は、演劇用の戯曲の題名で、元々、サリバン先生(Sullivan)

のことを指す言葉だったとされてる(miracle-worker)。

 

トム・ソーヤーの物語で有名なマーク・トウェインが、サリバンの献身的な

仕事ぶりを見て、敬意を込めて贈ったポストカードに、その言葉があった

らしい。まだその現物(一次資料)は発見できてないが、信頼できそうな

英語の報告なら、あちこちにあった。

 

ただ、奇跡の人というのは、もはやかなり独立した意味を持つ日本語だ

し、元の英語フレーズは、「奇跡を起こすとされる人」という、一般的な意

味を持つ。

 

ドラマの内容を考えても、「奇跡の人」とは、まず一択&海。続いて、母

の花(麻生久美子)ほか、周囲の全員だろう。

 

実際、一択の奇跡は、文字通りロックな名前のばあちゃん・岩(白石加

代子)の、「他人の役に立て」という激励なしには考えられない。海が奇

跡の覚醒を見せた時の、一択と正志の対決を仕切ってたのは、八袋(光

石研)。先日、訃報を受けて再放送された猪木vsアリに注目してたのは、

奇跡的な偶然かも。

 

正志に逃げられた後、花と海を支えたのは、正志の母・咲(喜多道枝)。  

海が奇跡の絵を描いた時には、佳代(中村ゆりか)の部屋と画材を使っ

てる。絵とは、世界との原初的な向き合い方の一つ。非言語的な認識表

現だ。

 

手書き文字より手話の方がいいとか、効果的アドバイスをもたらすこと

になったのは、福祉くん。さらに、正志というヤンキーでバカなライバル

がいたからこそ、一択のロック魂に火がついたわけだ。

 

実在する障害者の方々も含めて、こうした奇跡的な遭遇に関わるみんな

が、奇跡の人だろう。我々はむしろ、奇跡の目撃者、証言者に近い。

 

 

        ☆          ☆          ☆

ところで、ヘレン・ケラー自伝『The Story of My Life』

(1903年)の日本語訳の宣伝ページを見ると、「それは、

『ウォー、ウォーター!』からはじまった」と書かれてる。

 

160625e

 

ヘレン・ケラーが、ウォーター(water: 水)という名前を知った時、叫び

声をあげたというのは、どうも演劇の創作らしい(詳細は未確認)。実証

的に否定するのも難しいが、ガリレオの伝説の言葉、「それでも地球は

動く」みたいなものか。

 

ただ、彼女にとって、物と名前の認識における最初のポイントがウォー

ターだったのは、伝記的事実のようだ。Google booksから、原文を引

用しとこう。序盤の第4章だ。

 

160625f

 

サリヴァン先生が、ヘレンケラーの片手に水を当てて、もう一方の手に

「water」と綴った。心を集中させると、突然、忘れてた何かの意識を思

い出し、waterという綴りが冷たいものを意味することを知ったのだ。

 

ここで、ヘレンケラーが1歳半くらい(19ヶ月)まで、視力や聴力を持っ

てたことも重要だろう。

 

 

         ☆          ☆          ☆    

ドラマ『奇跡の人』だと、正志に負けて倒れてる一択に近付いた海が、一

択を示す1本指の手話を見せて、感激の涙を誘う。海は生まれつきの

全盲ろう者だから、ヘレンケラーの「ウォーター」以上の奇跡。

 

おまけに、1本指は一択の勝利を示すような仕草にも見えるから、正志

は負け犬のようにスゴスゴと引き下がるしかなかった。自分は殺したい

とか思って投げだした娘が、一択らに囲まれて奇跡を示したのだから。

 

後はもう、離婚届を渡して、遠巻きに見守り続けるのみ。不審者と誤解

されながら♪ まあ、不審者はいちいちゴミを拾わないだろうけど、あれ

は要するに、ゴミクズのような自分や一択への自己愛の表現なのだ。

 

もちろん、自己愛にすぎないとまでは言わない。自分を愛することは、他

人や世界を愛することと本質的に関連してるのだから。

 

 

         ☆          ☆          ☆

なお、脚本家の岡田惠和がそこまで考えてるかどうか分からないが、この

ドラマは近代哲学、特に経験論を背景にしてる感がある。 

 

面白いことに、イギリス経験論の第一人者とされるのは「ロック」♪ 綴り

は「Locke」だが、人間の心は最初、白い板(タブラ・ラサ)であって、生ま

れつきの観念(生得観念)は持ってないと論じてた。

 

その話を、ヨーロッパ大陸の方から援護した形になったのが、コンディヤッ

クの認識論。主著の一つ『感覚論』では、嗅覚しか持ってない立像が様々

な認識を獲得していく様子などを理論的に推測してみせた。

 

そういえば、海は一択の匂いを嫌がって、一択は「水」で頭を洗うことに

なってた。水によって、海を笑顔が取り巻いたことで、ヘレンケラーの世

界が象徴的に再現されてたのだ。

 

一方、イギリス経験論のバークリーは、「ものが存在するとは、知覚さ

れることである」と語り、知覚の中でも特に、触覚が優先的だと論じてた。

視覚は重要だけど、それよりも触覚。海がひたすら、世界を触ってたの

を思い出す所だ。まだ名前どころか、物の分割さえ知らないままに。。

 

 

         ☆          ☆          ☆  

そうした話は、ロックなブロガーにとっては興味深いけど、ここではそろ

そろ終わりにしよう。

 

子供の頃はみんな、あらゆることに興味を持ってたはずなのに、やがて

何となく分かったような、退屈で平凡な感じを持ってしまう。しかし、大人

になって、目も耳も口も普通に使えたとしても、その気になればまだまだ、

世界は驚きと感動に満ちてる。

 

そうしたものに立ち向かう気を揺さぶり起こしてくれただけでも、この尖っ

たドラマはまさに、ロックな作品だった。本物のロッカーなのに、見事に

初主演を成功させた峯田も、ロックな男。作詞・作曲したエンディングの

曲『骨』も、渋くて味のある主題歌だ。

 

私は海のすぐそばで育った人間だが、今後、海を眺める時には、ロックン

ロールという言葉も思い描くことにしよう♪ 海はロックだし、ロック音楽も

海、あるいは波なのだ。

 

ちょうど24時が近づいて来た。吃音(どもり)という障害を持った女

の子が、可愛い小悪魔みたいにイケメンの先生をふって終わった斬

新なドラマ、『ラヴソング』もロックだったなとか思いつつ、それでは

今日はこの辺で。。☆彡

 

                        (計 5306字)

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