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闇の山頂にきらめく黄色い光~梶井基次郎の短編小説『檸檬』(レモン)

これはクリスマスとお正月の直前にピッタシの小説だ♪ 米津玄師・・じゃなくて梶井基次郎(かじいもとじろう)の代表作、『檸檬』(レモン)。妙に華やいだ時期にこそ、この暗さがバランス的にちょうどいい。

  

現代日本のカリスマ・米津の大ヒット曲『Lemon』の歌詞を見ると、レモンという言葉は1回しか使われてない。それに対して、明治・大正・昭和の作家・梶井の短編小説『檸檬』には、後半にレモンのエピソードが登場。強烈な印象を残して、そのまま終わってる。

  

いずれにせよレモンは、鮮やかな黄色、柑橘類の酸味、適度な硬さの手触りなどで独特の個性を放ってる、身近な果物の代表。あるいは最高峰だろう。

   

    

     ☆     ☆     ☆

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私が今回、この小説を読んで感想を書こうと思ったのは、NHKのラジオ英語講座『エンジョイ・シンプル・イングリッシュ』で英語の翻訳文を聴いたのが直接のキッカケ。上は2019年6月のテキスト(半年後の現在、再放送中)。切り絵風の可愛いイラストは、丹野杏香。

 

 

ただ、よく考えてみると、実家のイメージが無意識に影響を及ぼしてたのかも。正月前だから、実家が心の底で浮かんでて、庭のレモンの木と子供時代のレモン石鹸へと連想がつながったとか。

    

試しに今、検索してみると、昭和21年(1946年)発売のカネヨレモンは、70年後の今でもまだ販売されてた♪ 化粧石けんという位置づけだったのか。「レモン果汁は入っておりません」という説明が微笑みを誘う♪

    

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果実のレモンも硬いけど、レモン石鹸も硬かった記憶がある。表の車庫の前と、台所の裏に、赤いネットに入れて吊るされてた。特に父親が、仕事帰りとかに車庫の前でよく手を洗ってた。そのせいもあって、レモンには大人の世界を感じるのだ。冬の夜、たまに母親が作ってくれた熱いレモネードも美味しかった。

  

瀬戸内海という地域も関係してたのかも。そう言えば米津も、四国の徳島県出身。昨年末のNHK紅白歌合戦でも、故郷の美術館で歌う姿が生中継されてた。

    

    

     ☆     ☆     ☆

さて、梶井の『檸檬』は国語教育の世界で有名という話があるけど、私の記憶には残ってない。本当は教科書に載ってたのに、授業で扱わなかったのか、当時の私には硬質の文学作品の味わいが全く分からなかったのかも。

  

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初出は大正14年(1925年)で、同人誌『青空』の創刊号にひっそりと発表。ただ、全く知らなかった私が英語で聴いてもすぐに興味を持ったくらいだから、読者を惹きつける魅力は光ってる。

    

上は国立国会図書館デジタルコレクションより(著作権は消滅済み)。たまたまレモン石鹸と同じ年に、東京楽譜出版から出た版だ。旧字・旧仮名の表記がレトロな雰囲気。読みやすさなら、無料の電子図書館・青空文庫がおすすめ

   

冒頭の出だしでいきなり、暗くて陰鬱なムードが漂って来る。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)えつけていた。焦燥と云(い)おうか、嫌悪と云おうか ── ・・・」。

   

ちなみに、魂(たましい)ではなく、塊(かたまり)で、やがてこれに取って代わろうとする救世主こそ、黄色い塊、檸檬(レモン)なのだ。

    

英訳(全訳ではなく抄訳)だと、こうなってた。「Something strange and dark pushed down on my heart and didn't stop pushing.」。

    

正直、耳にした途端、あまりの暗さに顔をしかめたほど♪ すべて英語だけで聴くから、重い私小説だと、こちらも「圧えつけ」られてしまった♪

   

   

     ☆     ☆     ☆

主人公は心身の調子も悪くて、金もほとんど無い様子だ。作者である梶井基次郎本人も、肺結核のために31歳で早逝。家庭環境も複雑で、貧乏と言うより、父親の金遣いが荒いために苦しんでたような感じだ。当時の東京帝国大学(今の東大)の英文科も、病気で中退。ブリタニカ国際大百科事典の解説はこちら

    

物語の後半、主人公がお気に入りの果物店で、檸檬を1つ買う。その店としては、檸檬を置いてるのが珍しかったからとされてるが、本人の側の変化によって、元々あったレモンに目が留まったのかも知れない。

  

いったい私はあの檸檬が好きだ。・・・── 結局私はそれを一つだけ買うことにした。・・・不吉な塊がそれを握った瞬間からいくらか弛んで来たとみえて、私は街の上で非常に幸福であった」。

  

英訳だと、「The black feelings pressing down on my heart were lighter after I held the lemon in my hands.So I was really happy walking in town」。

  

     

     ☆     ☆     ☆

そこで、昔好きだったのに最近はプレッシャーを感じてたお店、丸善へ入ってみる。「しかしどうしたことだろう、私の心を充たしていた幸福な感情はだんだん逃げていった」。「I went to Maruzen. But the happiness in my heart gradually began to escape from me.」。

   

この理由はハッキリと説明されてないが、要するに、現実社会の方が、遥かに重くて大きいことを思い知らされたからだろう。レモン1個の色、重さ、値段など、丸善の様々な商品と比べると吹き飛んでしまう。実際、この辺りの文章では、重さというものが強調されてる。手で持てないほど、画集が重いのだ。

   

そこで最後、主人公は幻想的にその重さを消す遊びを試みる。色とりどりの画集を積み上げて、「奇怪で幻想的な城」(The mysterious castle of books)を構築。その一番上に、檸檬を置いて、その店を出てしまうのだ。英文では、日本語原文に無い「tower」(タワー)という単語を使用してた。ツリーやピラミッドの類義語だ。

    

もし梶井の実話だとしたら、とんでもない迷惑客♪ ただ、時代的には、そうした軽犯罪は笑って見逃してもらえるゆとりがあったはず。現代社会だと、そういった許容度は低い。

   

下はオリオンブックスの電子書籍の表紙(AMAZON)。イラストの作者の名前は無いが、かなり原作に忠実な絵だ。

   

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たまたまなのか、間接的な関連性があるからか、今日(ハッピーホリデー)のGoogleのロゴが似た画像になってた。ロウソクの上側で黄色い円形が光を表してた。

  

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     ☆     ☆     ☆

梶井が作り上げた城は、精神分析的には男性的な象徴、ツリーだと解釈できる。現実社会の巨大なピラミッド構造の重さに去勢されてしまったような自分を、想像的なファロスで一時的に支えようとする振舞いだ。先端のレモンこそ、欠如している自分の存在の核を指し示すメタファー。主人公が愛する「花火」みたいに一瞬で消え去る、つかの間の逃避的な自己防衛。

      

実際、小説の冒頭には、「神経衰弱」という言葉もあった。より正確には、当時の言葉で不安神経症に近い状態で、少し躁うつ病も混ざってたのかも知れない。普段はずっと憂鬱で、たまに妙に元気が出るとか。

    

ただし、この城作りは病的というより、遊び心のようなストレス発散を感じるのが救いだ。意外と、この後も彼を支える心象風景として残ったのかも。「今でもあなたはわたしの光」(米津『Lemon』)。

   

いつの間にか、時間も字数も無くなってしまったので、今日の所はこの辺にしとこう。もしセンター試験(新テスト)で出題されたら、改めて感想&解説記事をアップするけど、客観テストだと問題が作りにくいかも。それでは、また明日。。☆彡

   

     (計 3025字)

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