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雨と傘~『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」レビュー(脚本家・上原正三氏追悼)

上原正三という脚本家の名前は存じ上げなかったが、朝日新聞でゴーンの記事の下に訃報が載ってたから、たまたま目に留まった(2020年1月9日・朝刊)。

  

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1月2日、82歳で死去。沖縄県生まれ、円谷プロに入社後、フリーに。子供向けの作品の中でも差別や戦争など硬派のテーマを扱う作風に定評。朝日新聞は翌日、1月10日・朝刊の看板コラム「天声人語」でも、上原氏と代表作に触れてた。

   

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氏の代表作のタイトルをそのまま書名にした評論、切通理作『怪獣使いと少年』を引用。関東大震災で、デマにあおられて朝鮮人虐殺が起きた。「人の中には、いつそういう風に変わるかわからない面がある」と、上原さんは後に語ったそうだ。アマゾンより

  

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(☆20年1月18日追記:朝日新聞デジタルに、「最大問題作『怪獣使いと少年』 琉球人・上原正三の怒り」と題する記事が掲載された。亡くなる8日前の取材インタビュー。)

   

  

    ☆     ☆     ☆

私は別に、左派・リベラルでもなければ、反戦平和活動家でもない。ただ、元々は子ども向けの特撮ヒーロー番組でそんな微妙な題材を扱ったという話に興味を持って、ネット検索。

    

すると、円谷プロが無料で代表作を特別公開してるという、ねとらぼの記事がヒットしたので、早速リンクから飛んで作品を拝見。配信サイト、TSUBURAYA GALAXY(円谷ギャラクシー)の特設ページ

  

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確かに、名作というか異色作というか、インパクトは冒頭からエンディングまで強烈だった。同時期の円谷プロの作品には他に、知る人ぞ知る幻の「欠番」が2本あるが、 それらとは違って、『怪獣使いと少年』なら堂々と無料ネット公開できるようだ。最大のポイント、違いは、差別される側、虐げられる側に寄り添う姿勢が鮮明かどうかだと思う。

    

折角、拝見したので、素人のブロガーなりの感想を簡単に書いてみよう。既にネットには、マニアックで詳しい記事も掲載されてるが、それほど被らないレビューを試みる。度々書いてるように、あらすじ・台詞、裏話その他、言葉や記号の情報はそれなりにあるが、映像自体の分析というのは僅かなのだ。

   

   

     ☆     ☆     ☆    

『帰ってきたウルトラマン』(1971~72年)というのは、狭い意味での「ウルトラ・シリーズ」の4本目。『ウルトラQ』(66年)、『ウルトラマン』(66~67年)、『ウルトラセブン』(67~68年)に続く作品だ。同時期の『キャプテンウルトラ』や『怪奇大作戦』とは内容的に離れてる。

  

第33話『怪獣使いと少年』の放送日は、ウィキペディアによると71年11月19日だから、沖縄返還の前年(半年前)。一方、環境庁(今の環境省)が設立された年でもある。だからこそ、番組にも、異邦人みたいな微妙な立場や公害問題が前面に押し出されてる。上原氏の名前も、プロデューサー・円谷一氏やウルトラマンの影絵と共に強調。

    

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この記事での注目点に合わせて、まず簡単にあらすじをまとめとこう。ある雨の日、少年が巨大魚怪獣ムルチ(冒頭のタイトルバック表示)に追われて、水たまりと泥の中に倒れ込む。助けたのは、地球の調査に来てた宇宙人で、光線によって怪獣を地底に(?)封じ込める。つまり「怪獣使い」とはこの宇宙人のことで、暴れる巨大魚を生かしたまま隔離してくれたのだ。

      

少年は、河原の廃屋に一人で住む少年で、「サクマ・リョウ」(佐久間良)。北海道江差の出身で、母と死別。東京の出稼ぎで行方不明になった父親を探してるらしい。宇宙人はメイツ星人(英語のmatesは仲間という意味)で、「カナヤマ」(金山)さんと呼ばれてる。2人は超能力者とか宇宙人とされ、周囲から虐待された末に、宇宙人は警官に射殺される。

  

その途端、封印を解かれた怪獣が復活。防衛チームMAT(マット)に所属する主人公・郷秀樹(団次郎)はウルトラマンに変身。豪雨の中、怪獣を倒す。その後も、少年は河原で1人、地面を掘り続ける。宇宙人が隠した宇宙船を見つけようとしてるらしい。宇宙なら、優しかったメイツ星人と再会できるかも知れない。悲惨な地球から、自分も早く逃れたい。。

   

   

    ☆     ☆     ☆

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では、映像に注目してみよう。監督は東條昭平。冒頭も、終盤の見せ場であるウルトラマンと怪獣の闘いも、豪雨と灰色のどんよりした雲に囲まれてる。明るく元気な歌声と色調のタイトルバックから、いきなり急変するのだ。

    

少年はいきなり泥水に倒れ込むし(上図)、少し後には、いじめっ子達の手で地面に埋められて、頭だけ出した状態で泥水を浴びせられる。戦争その他での、虐殺や拷問のイメージ。

   

いじめっ子達が少年を差別する時のポイントの一つは、「顔」。当時見てた子供たちには分からなかったと思うが、現代の大人が見れば、東アジア系の特徴に気付く所か。「カナヤマ」という苗字も、出身地や民族をほのめかすもの。

    

宇宙人の顔は最初から奇妙だし、その後、工場や自動車の煙(汚れた空気)の悪影響でさらに醜く崩れる。ボロボロの廃屋や身なり(貧しい服装、破れた傘)も含めて、外見的に違いがあるのだ。

   

それに加えて、奇妙な行動や能力もある。少年は1年間も穴を掘り続けてるようだし、いじめっ子が廃屋に侵入すると、1人が空中に浮いてしまう(真空投げ?)。いじめっ子の犬が少年を襲った直後には、犬がなぜか爆死した。他にも似た事はあった感じだ。

    

どれもおそらく、宇宙人が少年をかばって、特殊なやり方で激しく反撃したもの。つまり差別の原因・理由・キッカケは、単なる見た目からの偏見やデマだけではなく、事実も関係してるのだ。その辺りの複雑で微妙な問題は、朝日の教科書的なコラムでは触れられてない。

       

ただ、上原氏には事の複雑さがよく分かってたはず。悪人と善人は、別人ではない。誰もが両面を持ってて、善と悪の中で揺れ動くわけだ。自分の考えや、無意識の欲望・攻撃性に動かされて。また、周囲を取り巻く集団心理や同調圧力、偏見や固定観念に影響されて。悪と善という観念も、ハッキリ区別できるものではない。

   

   

    ☆     ☆     ☆

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宇宙人の反撃は、自分の身体を痛めつける公害に向けられてた側面もあったと解釈可能。というのも彼は、地球の風土・気候を調べるためにやって来た、と語ってたから。上図は冒頭のキャプチャーで、中盤でも排煙が強調されてた。

   

そもそもメイツ星人の調査の背景には、地球への移住計画があったとも考えられる。実際、現実の地球で月や火星を探査してるのも、単なる知的好奇心だけではなく、地球のために役立てたいから。メイツ星人と現実の地球人は、利己的・侵略的な側面で共通するのだ。

  

実は「魚」怪獣にとっても、人間たちこそが環境破壊を行う侵略者だろう。だから、メイツ星人が殺されて復活した途端、高速道路を破壊する。人間社会への逆襲。実際その少し前には、工場の煙と共に、高速道路と車が映し出されてた。

   

舞台が川なのも、差別されがちな人々(ホームレスその他)が実際に住んでたりする以外に、水質汚染をほのめかしたいからだろう。深刻な現実的背景として、熊本・新潟の水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそくの四大公害病、そして、『ゴジラ』シリーズを生んだ水爆実験もあった。

   

       

     ☆     ☆     ☆

全体的に暗い物語の中、救いの光として輝いてたのが、パン屋さんの陽気な娘、ヨーコ(陽子?)。少年が食パンを買いに行くと、商店街ではヒソヒソ話が流れて、パン屋の女性店主(おそらく母親)も少年に断る。トボトボ帰る少年の後を追いかける娘。同情は要らないと断る少年に、ちゃんと120円請求する。「売ってあげるだけ。だってウチ、パン屋だもん」♪

   

ちなみに偶然か必然か、パン屋だもんと2回繰り返された数ヶ月後、同じTBSの人気番組の主題歌で、「だって ぼくんち ケーキ屋なんだもん」と歌われてる(歌詞・多地映一)。

  

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「ありがとう、ありがとう」、「気を付けてネ」、「どうもありがとう!」。心温まるやり取りの中に、細かい映像表現も隠されてた。上のシーン。女の子が長い食パンをバッグ(紙袋)に入れてあげる時、少年は傘を差しかけてるのだ。もちろんこれは、娘が売ってくれた、パンという「傘」、困った時の助けに呼応したもの。

   

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その直後の映像は、もっと視聴者の目に留まらないものだろう。今度は後ろから、母親らしき女性がヨーコに傘を差しかけてるのだ。この女性店主も、決して単なる悪人ではない。店員のヨーコを大切に思ってるし、パンを売らなかったのも、近所の男の子(たっちゃん?)がひどい目にあったから。つまり、不審者から近所という共同体を守る行動、傘差しだ。

   

   

    ☆     ☆     ☆

人間を雨から傘で守ることには、良い面と悪い面がある。それが典型的に表れる問題こそ、沖縄の米軍基地や、日米安保条約。米軍による「核の傘」のおかげで(?)、日本は安全に防衛されてる(と思われがち)。しかし、逆に核や米軍をめぐる争いに巻き込まれるリスクもあるし、地域格差も生じる。現在の沖縄の多数派は、耐えがたいほどの不公平を感じてるのだ。

    

そう考えると、警官が宇宙人を撃ったピストルも、住民を守る傘。ウルトラマンが巨大な「魚」を焼き殺したスペシウム光線も、逃げまどう人々や街並みに対する傘。ドラマ全体が雨と傘をめぐるストーリーだからこそ、このレビューには「雨と傘」と名付けてある。ラストの映像も、破れた傘と哀しい音楽(BGM)だった。

   

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ウルトラマンという傘もある意味、「怪獣つかい」の宇宙人だが、「怪獣のあつかい」はメイツ星人ほど優しくない。共生とか多様性への配慮という意味では、ウルトラマンはメイツ星人に負けた。もちろん、男の子向けの特撮ヒーロー番組という制約がある中では仕方ないけど。昔の男の子に限らず、今の大人、高齢者でも、勧善懲悪のシンプルな話の方が人気がある。

   

   

    ☆     ☆     ☆

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最後に、雨には、周囲から降り注ぐ災難という意味の他に、自分が流す涙という意味もある。怪獣が退治された直後、雲の合間に僅かな晴れ間がのぞいたと思ったら、水溜まりの反射。そこに一滴落ちて波紋を広げた雫は、涙の象徴だろう。ウルトラマン、少年だけでなく、宇宙人、巨大な魚が流した涙。

   

なお、念のために確認してみると、同時期の円谷プロの問題作、『ウルトラセブン』の欠番(第12話)と『怪奇大作戦』の欠番(第24話)の脚本家は上原氏ではなかった。ここでは、これ以上触れないことにしよう。

   

まるで自殺か死刑を思わせるような、廃屋の不気味な縄の輪っか映像は、ギリギリの編集作業で不自然に残ったものだと想像する・・とだけ書いておく。『ウルトラマンメビウス』における続編(2006年、「怪獣使いの遺産」)についても、またいずれ。

   

ともあれ、心に残る数々の作品を残した上原氏に、あらためて合掌。それでは今日はこの辺で。。☆彡

   

        (計 4381字)

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