人を好きになることの難しさ~野ブタ第7話
(☆2020年5月24日の追記: 再放送の後、この記事とは別の新たな長編レビューをアップ。
好きなものをあきらめて、自分という舟を好きになりたい・・~『野ブタ』第7話(再放送) )
「野ブタ。をプロデュース」第7話、「女を泣かす男」。
切ない・・・ホントに切ない物語。彰も信子もまり子も見てて悲しくなるけど、一番悲しいのはやっぱり修二だろう。人を好きになるっていう普通の事が、如何に困難な事なのか、しみじみと感じさせてくれるお話だった。。
あらすじは次の通り。信子=野ブタ。(堀北真希)を独り占めにしたくなった彰(山下智久)がプロデュースを止めたいと言い出し、修二(亀梨和也)は驚くと共にとまどう。そんな時、カスミ(柊 瑠美)が信子を放送部に誘ったので、修二は信子に入部を勧め、プロデュースを休むことを宣言。内心は、休むんじゃなくて終了のつもり。自分で言い出したくせに、修二は何もかもつまらなくなってしまって困惑する。彰は信子の後を追って放送部に入り、2人で番組作り。
信子が蕎麦屋をレポートする姿が放映され、クラスで人気となる。修二まで信子に見入ってる姿に、まり子(戸田恵梨香)は淋しくて不満。その後、放送コンクール参加用のビデオ撮影をする事になり、信子は修二に助けを求め、結局3人で素材の撮影。テーマは「私の好きなもの」。別行動で撮った映像を一緒に見比べてた時、信子は彰の映像以上に修二の映像を面白がる。嫉妬した彰は、信子が修二の映像を一生懸命に編集したテープを、スキを見てゴミ箱に捨てかけたが、気付いた信子にグーで殴られて鼻血を出してKO負け。
彰は自分の悪意を正直に修二に告白するが、修二は怒らないどころか同情気味。彰と信子は、暗いムードの中でお互い謝り、彰は信子への思いと諦めを同時に遠回しに告白。関係悪化という代償を払ってまで信子が守ったビデオだったが、悪意が夜中にズタズタにしてしまい、3人は落ち込んで途方にくれる。
彰は修二に、自分には信子を好きになる資格がないし、もう諦めると告げ、休日の学校で2人で諦めの儀式。放送室から信子への思いをぶちまける彰を、修二は優しく見守る。
そこへ、バスケの練習に来たというまり子が登場。修二は、自分は人を好きになった事が一度もないし、今後もまり子を好きになる可能性はないと正直に告白。まり子は涙を流し、修二もまり子を泣かせた自分に対して落ち込む。夜の公園のブランコを一人淋しく揺らしてる修二を見かけた信子は、落ち込んでる修二を優しく抱擁。突然の自分の大胆な行動に動揺した信子はすぐ駆け去り、修二は追いかけてフォローしてあげなきゃと思いつつできない。そんな自分に対して、さらに修二は落ち込んでいく。。
前回の記事には「大切なもの、欲しいもの」という題を付けておいたが、今回は、様々な「欲しがる」(欲望する)という営みの中でも最も強い、「人を好きになる」ということをめぐるお話。「愛」っていうより、「恋」って言葉の方が相応しい。
人を本気で好きになると、2つの困難な感情が生じる。それは、自分だけのものにしたいっていう独占欲と、相手も自分だけを好きでいて欲しいっていう気持ち。
でも、人間が社会的存在である以上、独占なんて実際にはできない。それを無理にやろうとするなら、監禁なんていう犯罪行為しかないはず。また、人間の気持ちの本性を考えても、完全に一人だけを好ましく思うなんてことは不可能。大なり小なり、人はいろんな人に対して好意を持つのであって、「最も好きな人」でさえ、「唯一の好きな人」には決してなれない。
そんな困難な状況に対して、ある程度の現実的な解決をもたらすのが結婚。だから、彰は信子と結婚したいと夢見る。結婚すれば、相手をある程度は独占できるし、相手の気持ちをある程度以上自分に向けることができる。彰にとって一番都合がいいのは、信子を専業主婦にすることだろうけど、もちろんそんな事は夢のまた夢。自分と結婚するどころか、信子のほのかな思いは修二に向けられてる。信子に対するのとは別の意味で、自分が好きな修二。恋と友情と嫉妬が重なり合う三角関係に翻弄される彰の、次の言葉はホントに切ない。
「オレさぁ、好きな人ができたら、その人と、ずっと笑って暮らせるって、思ってたのね。でも、ホントに暮らしたら、こんな風に、泣かしちゃう日もあるんだろうな、きっと。泣かしたくないのに、泣かしちゃうんだろうな、オレは・・・」
最後にため息をついた時、彰は潔く諦めたんだろう。女を泣かす男なんかに、女を好きになる資格はない。。
一方、信子はようやく自分の気持ちに気付き始めたようだ。修二がプロデュースの休止を言い出した時、修二に撮影の手助けを頼んだ時、修二の映像にすごく引き付けられた時、冷たそうな修二が撮った映像に、人を好きな気持ちを見てとって喜んだ時、修二のテープを守った時、テープが引き裂かれて落ち込んだ時。
これまでかすかに描かれていた信子の思いが、今回は至る所で表現されている。そして決定的だったのは、淋しそうな、悲しそうな修二を見かけた時。
「まり子に酷いこと言っちゃった。明日から、憎まれんだろうな、オレ。人にさぁ、人に嫌われるのって、怖いよな・・・」
「大丈夫・・・誰も嫌いになったりしないから・・・」
言葉より先に修二を抱きしめた自分の気持ちに、もう目をつむる事はできない。けれども、修二が自分を特別に好きだなんて思えないし、これから修二とどう接していけばいいのか、見当もつかない。万が一、修二と付き合うことができたとしても、その時点でかけがえのない大切な友人を一人失うことになるだろう。。
そして最後は、もっとも切ない人間の修二。信子は修二の映像を編集しながら、長々と彰に説明する。
「見るたびに、好きになる。・・・これ、人しか映ってないんだよ、知ってた? 好きなものって、人なんだよ。面白いよね、冷たそうに見えるのに、人が好きだなんて。きっと、周りの人を、ものすごく大事にする人なんだね。そのために、ウソついたり、すごい我慢したりしてるのが、これ見てるとよく分かる。」
彰の嫉妬心を燃え上がらせるだけの無邪気さはともかく、ここで問題なのは、この信子の分析が、半ば正しく、半ば間違ってるって事。修二が好きなのは、確かに人だ。でも、一番好きな人は自分自身。修二の他人に対する気持ちは、自分の事をほどほどに好きになって欲しい、自分を嫌いにならないで欲しいっていう思いだけ。周りの誰にでも好意的に振舞うのも、そのためにすぎない。
わずかな例外と一応言えそうなのは、最近できた仲間の彰と信子。でも、「自分をコントロールできない」ほど好きになるって事は全くない。「自分の感情をむき出しにする」ほど、「駄々をこねる」ほどの執着心は、決して持つことができない。
「諦める」、「諦めない」って言葉が今回のドラマで何度も使われていたが、この2つは表裏一体の同じ感情を表している。つまり、何かを欲しがる強い感情、欲望、執着心。それが強すぎると悲劇を生むけど、弱すぎるのも悲しい。最後に修二はため息交じりでつぶやく。
「野ブタ。に抱きしめられて、初めて分かった。オレは、淋しい人間だ・・・」
何に対しても強い欲望をもてず、それなのに周囲からのほどほどの好意を求めて無理を重ねる自分、たまに自分に正直になって「みんなに好かれる自分」を諦めた途端に、他人を悲しませたり怒らせたりしてしまう自分。本当に淋しくて悲しい存在だ。。
そんな淋しい修二にも、実はわずかな光が見える。それは、撮影したビデオの中に潜んでいる。諦める、諦めないについての色んな人の言葉を映した映像に、一つだけ関係ないものが映っていた。それは「野ブタ。パワー、注入」のアクションをする信子の姿。最後の辺りで、その姿を見ながら彰は諦めをつけていたが、修二は逆に、それを手がかりにして、信子への思いを育てていくべきだろう。仲間に対する「好き」って気持ちから、大切な女性に対する「好き」って気持ちへと進んで行くには、とりあえず他に道はない。
彰は信子を諦める事を修二に告げる時、「3人でいる時の野ブタ。が一番好き」と言った。でも、最初から必然性のなかったプロデュース計画は、もはや完全に崩壊している。キーホルダーと放送を通して人気者になり、友達もでき、全体的なイジメも収まってる信子に、これ以上の人気者を目指す理由なんてない。
3人に残っている共通の目的は、せいぜい悪意と戦うってことだけ。悪意とはおそらく、自分が欲しいものを諦めないものだろう。ただ、いまや悪意は所詮わき役。大切なのは、これから3人の新たな関係をどう作り上げていくのかってこと。いつの間にか終盤に入った野ブタ。、今後がますます楽しみだ♪
オマケ:再びトリビア的解説。彰がガランとした校内で一人歌ってたのは、これ また大昔の名曲「お嫁においで」(加山雄三)。どうして諦める時にこれを歌ってたのか。単なる未練ではない。謎を解くカギは、題名じゃなく、 歌詞にある。
「もしもこの船で 君の幸せ見つけたら すぐに帰るから 僕のお嫁においで」。
つまり、一人で(船に乗って)相手の幸せを見つけることが、結婚の条件、つまり「資格」なんだけど、彰には結局見つけられなかった。残念だけど、今の自分には信子と結婚する資格どころか、好きになる資格さえ無いから、しばらく一人きりで航海を続けるよってこと。「月も無く淋しい 暗い夜も・・・君の微笑み」を思い浮かべながら、広い海をたった一人きりで。あまりにも切なすぎる。。。
「野ブタ。をプロデュース」、面白い♪(第1話の記事)
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コメント
はじめまして。
とても素敵な感想に思わずコメントせずには
いられなくなりました。
7話を見て胸がいっぱいになりつつも
何かこうモヤモヤしたものがあったのですが、
貴方の感想を拝見してそのモヤモヤがスッと
消えていくのがわかりました。
私がうまく表現できずにいたものが
ハッキリと言葉として表現されていて、
「ああ、そう、そうなんだよ!」
と、何度も頷いてしまいました。
今後もますます野ブタ。から目が離せません。
こういうドラマがもっと増えるといいのになぁ。
投稿: yuki | 2005年11月27日 (日) 12時15分
こんにちは。はじめまして。
あの歌詞にはそんな意味があったんですね。
気づかなかったわ(´・ω・`)
彰・・って、悲しすぎますね。
投稿: な~~る | 2005年11月27日 (日) 12時53分
>yukiさん
こちらこそ、素敵なコメントありがとうございました。
明け方まで頑張って書いたかいがありましたよ♪
このコメントを思い浮かべながら、僕もしばらく
一人きりの航海を続けたいと思います(#^.^#)
ホント、こんなドラマがもっと増えるといいですネ。。
投稿: テンメイ | 2005年11月27日 (日) 13時42分
>な~~るさん
コメントどうもありがとうございました。
彰が歌うシーンは、ホントに悲しかったですね。
自分には好きになる資格がないから、諦めて一人きりの航海を
続けるって気持ち、その切なさは、僕にもよく分かります。
こんな事書くと、彰ファンに「一緒にするな!」とか
怒られちゃうのかな?(^^)
投稿: テンメイ | 2005年11月27日 (日) 13時50分
テンメイさん、2回目のコメントです。
ますます筆が冴えていますね。すばらしい!
なんとなく面白いと思っていることが
すべて明確に説明されていて小気味よいです。
ベスこと水田芙美子さんが出ていなければ
見ることはなかったはずですが、このところ
一気にハマっています。うん、面白いよこれ。
すでに原作をはるかに超えている気がする。
その面白さの秘密がよく分かりました。
今後とも明快な分析、楽しみにしています!!
投稿: kk | 2005年11月28日 (月) 02時37分
>kkさん
こんばんは♪ 再びコメント、ありがとうございます。
この記事をほめて頂けるのは、すごく嬉しいですね♪
自分でも結構お気に入りの記事ですから。
ただ「すべて明確に説明」するのは時間的・長さ的に無理です。
いつも苦労するのは、何を捨てて何を残すか、なんです。
すぐお分かりの通り、書いてない事が一杯あるんですよ。
ちょっとした面白い映像、例えばキャサリンが作ってた
「ヨコヤマ揚げ」なんて笑えるし、そうゆうものをすぺて書いた
方が一般ウケするんでしょうが、ここでは基本的に、主役3人
に絞って理屈をこねてます。
おかげ様で毎回多くの方がこのお固い記事を読んでくださって
るようなので、ラストまで気合を入れて頑張るつもりです!
こんな面白いドラマにめぐり合えたのは、本当にラッキーでした♪
P.S.水田芙美子さん(バンドー)のブログも、売れっ子の
タレントさんにしてはかなり気合入ってますね。まだ若い
ことを考えても、やはり只者じゃないって気がしてます。
別の仕事もあって野ブタの出番が減ったのは、残念ですけどね。
投稿: テンメイ | 2005年11月28日 (月) 03時22分
こんにちは。
TB&コメントありがとうございました。
三人がこれから、どうなって行くのか、気になりますね。
修二は人気者を捨てたみたいだし。
でも、彰と信子がいれば、修二はきっと大丈夫だと思います。
犯人、誰なんだろう・・・・
投稿: 直美 | 2005年11月28日 (月) 15時00分
>直美さん
こちらこそ、TB&コメントありがとうございます。
八方美人的人気を捨てた修二、「彰と信子がいれば」大丈夫
かも知れませんが、ラストまで3人一緒かどうか微妙でしょう。
犯人、所詮は枝葉の問題にすぎませんが、気にはなりますね。
僕の予想は本文中にほのめかしてる通り。物語の展開上も、
映像の作り方からも、候補は一人しか残ってません。
たとえハズレたとしても、そうすべきだったと言いたい所。
このドラマ、非常に良く出来たいいドラマですが、ひょっと
したら唯一の失敗が、カスミの扱いじゃないかと思ってます。
少なくとも今の時点では、友人としても犯人としても中途半端。
カスミがホントに失敗だったとしたら、その失敗を生んだのは、
最初から容疑者が一人だけだったという演出・脚本でしょう。
一人しかいないのを一時的にボカすのに利用したのがカスミ。
そもそも、このドラマに正体不明の悪意なんて不要だと思います。
と言う訳で、このまま「玉にキズ」を作ってしまうのか、巧みな
解決を用意してあるのか、来週以降に注目しましょう♪
投稿: テンメイ | 2005年11月28日 (月) 22時51分