過去の真実の共同制作~氷壁第3回
『氷壁』第3回、「愛と疑惑」
最大の見せ場であるK2アタックが終わって、舞台は法廷闘争へ。ドラマの
出来が心配だったけど、残念ながら、やっぱりビミョーだった。前回までと
比べても、『白い巨塔』の法廷シーンと比べても、『白夜行』の感動と完成度
と比べても、明らかに苦しい。記事作成のモチベーションも落ちてしまった
けど、記事継続を前回宣言したので、有言実行ってことで頑張ろう。ただ、
もう一回奥寺がK2へ行ってカラビナを発見するとか、やっぱり山や氷壁
のシーンがないと、正直苦しいと思う。
あらすじは以下の通り。北沢(山本太郎)の滑落原因はカラビナだと発言して
大騒動を引き起こした奥寺(玉木宏)は、北沢の家へ出かけて遺品のお守り
を遺族に渡し、頭を深々と下げる。母・秋子(吉行和子)は責めるどころか奥寺
の無事を喜び、葬式の話をする。けれども、ゆかり(吹石一恵)は、なぜ死んだ
と決め付けるのかと怒り、なぜもっと探さなかったのかと奥寺を責める。
美那子(鶴田真由)は北沢のラブレターを見て涙を流していたが、八代(石坂浩
二)は、K2から帰ったら美那子をくれと北沢に言われてた話を打ち明け、葬式
へ行って最後のお別れをすべきだと言う。美那子は、つきまとわれてただけだと
答えた。
マスコミに追われる奥寺は、勤め先の南部社長(伊武雅刀)にかくまってもらっ
ていたが、葬式で八代らを責める山仲間を見て、たしなめる。お前はどっち側
の人間だと責められた奥寺は、どっちでもないと応答。葬式後には、ゆかりが
奥寺に先日のことを謝った。
奥寺を英雄視してヤシロを敵視する雑誌やテレビを前に、ヤシロ側が対策を
練ってると、奥寺がK2アタックの報告に登場。ゆかりの頼みで、八代が葬式
で置いて行った金を返した奥寺に対し、八代は、ウチのアドバイザーになれと
か、大勢を不幸にする軽率な発言を撤回しろとか言うが、奥寺はキッパリ拒否。
八代は、全てを失うことになるよと訴訟を匂わして圧力をかける。
社長室を出た奥寺は、廊下で美那子と会う。八代に素直に従えとか、自殺の
可能性はないのかとか言う美那子。奥寺は、北沢はあなたを諦めてなかった、
あなたは自分を守ろうとしてるだけで心がない、と非難。美那子は、私の何が
わかるの、どうしようもなかったの、と言い返す。
ヤシロはついに、奥寺を信用毀損で提訴。弁護士・樋口(寺田農)との打ち合
わせを終えた帰り、秋子は弁護士費用の負担を申し出たが奥寺は断る。秋子
だけ先に帰したあと、ゆかりは奥寺に、お守りの中に美那子の写真があった事、
PCメールも残ってた事を話す。奥寺は、北沢は真剣に愛してたけど、事故とは
関係ないから話すつもりはないと言う。ゆかりは安心した様子。
八代は息子の智之(武田真治)に奥寺の身辺調査を指示。スキャンダル無しと
分かると、北沢の先輩でK2ベースキャンプにいた森脇(石丸謙二郎)を切り崩
せとか、美那子を調べろと命じる。
美那子が、カラビナを作った兄・工藤(高橋克実)の会社にいると、奥寺から電
話が入り、北沢からのPCメールの削除を確認したあと、この前は言い過ぎたと
謝る。美那子が八代家へ帰ると、新しいのに交換するという口実で、今までの
PCが奪い取られていた。
06年2月、東京地裁で裁判開始。樋口は、新品のカラビナしか実験してない点
を指摘。一方、ヤシロ側の弁護士・松本(矢島健一)は、垂直壁に登る前に北
沢は死んでたのではないか、奥寺が滑落死させたのでは、北沢が自殺したので
は、などと攻撃。自殺はあり得ないという奥寺に対して、あなたの言葉以外に証
明するものがあるのかと追及。奥寺は黙って耐えるのみ。
法廷で劣勢に立った奥寺は落ち込むが、ゆかりは、あの事を黙っててくれてあ
りがとうと礼を言う。なぜか表情を曇らせて外へ出る奥寺を、ゆかりは不思議
そうに見送る。外に出た奥寺は美那子に会い、手紙を見せられ、一晩だけ愛
し合ったけどどうしようもなかったんだと打ち明けられる。来年K2へ遺体を捜し
に行くという奥寺に、自分が信じることだけを大切にして生きてるあなたは立派
でうらやましいと、美那子が言う。自分には持ってる資格がないと言って手紙を
渡して立ち去る美那子に、奥寺は衝撃の告白。自分は立派な人間なんかじゃ
ない、法廷であなたの事を言わなかったのは、北沢の名誉じゃなく、あなたを
守りたかったからだ、K2でもあなたの夢を見てた、と奥寺。美那子は、自分は
敵側の人間なんだからそれ以上言うな、とさえぎる。その様子を遠くからゆかり
が見つめていた。。。
以前の記事、「信じること、本当の事~野ブタ第8話」で、次のように書いた。
世の中に厳密な意味で本当の事とか真実なんてものがあるのかどうか
分からない。たとえあるとしても、それが何なのか人間には分からない。
したがって、人間にとって重要なのは、それぞれの人が本当と信じる事
柄とか信じる行為自体、つまり本当だと「信じること」である。
ここまで一般的に言うと、違和感を覚える人が多いだろう。それなら、今回の
裁判の争点、北沢の滑落原因に限って考えるとどうだろうか。北沢が滑落す
る瞬間を見た人間は一人もいない。現場にいたのは被告の奥寺ただ一人。
物的証拠もない。北沢の自殺を否定するものも、奥寺の一方的な断言のみ。
このあと、美那子への手紙やメール、美奈子の写真入りのお守りが証拠と
して登場しても、自殺してないことの証明としては全く不十分だ。さらに言うと、
もし後で奥寺がK2へ行って壊れたカラビナを発見できたとしても、滑落の
途中で壊れた疑いが残るし、カラビナが壊れるような衝撃を北沢(あるいは
奥寺)が意図的に加えた疑いも残る。結局、本当の滑落原因なんてものは
どこかにあって発見できるようなものじゃない。それは、法廷にせよ、メディア
にせよ、各個人にせよ、それぞれが信じることをもとにして作り上げていくもの
だ。法廷とは、過去の真実を法に基づいて共同制作する場所なのだ。
ドラマっていうのは、非常に多くの人が気軽に見るもので、視聴率を求めら
れる。そのため制作サイドは、多くの視聴者にとって分かりやすくて心地良い
作品を作る傾向がある。例えば、主人公を善人にして、その敵を悪役にする
っていうのが典型的なパターンだ。『白い巨塔』と同じく、今回もヤシロ側の弁
護人は冷たそうで悪賢そうな人物になってて、主人公側の弁護人は素朴で
温かみのある人物になっている。だけど、落ち着いて聞くなら、ヤシロ側の主
張はそれなりにごもっともな話で、少なくとも主人公の一方的断言に十分対抗
しうるものだ。互角の勝負なら、真の滑落原因はカラビナだということにはなら
ない。したがって奥寺の断言は、それがもたらす多大な悪影響を考慮してない
不用意なものとなる。ヤシロに大損害を与えた奥寺がある程度の賠償をする
のは当然のことだ(数十万、数百万程度か)。そして、ドラマという虚構へのこう
いった中立的な視線は、現実社会への視線へとストレートにつながるものだと
思っている。
こんな堅苦しい話より、美那子がらみの恋愛ネタでも軽く書いた方が喜ばれる
んだろうな。。まあ、変わった見方をする人間がいるもんだな、くらいに軽く受け
とめて頂ければ幸い♪ いずれにせよ、美那子の話より法廷の方が興味深い
し、法廷よりもK2登山をもう一度見たい!
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コメント
はじめまして。仙丈さんのところから来ました。
『氷壁』第3話でTBさせていただきました。
投稿: もずく | 2006年1月31日 (火) 17時54分
>もずく様
はじめまして。TB&コメントありがとうございます♪
早速拝見させて頂きました。ユニークで面白かったです。
どの登場人物にも感情移入できなくて困ってますが、
来週以降再び盛り上がるのを期待しています。
投稿: テンメイ | 2006年2月 1日 (水) 01時14分