無条件の愛という困難~白夜行第5話
『白夜行』第5話、「決別する二人」
今回の話、最初はアレッ?て感じだった。と言うのも、これまで多くの罪を犯し
てるし、それでいいとか仕方ないとか開き直ってたはずだから、江利子を襲う
程度のことで亮司があきれた理由がピンと来なかった。ただ、よく考えてみる
と、これまで2人が犯した罪は全て、相手が悪いとか、やむを得ないっていう
理由が一応あった。どうしようもない親、イジメっ子の都子、脅迫相手の菊池、
どれも悪い人間だったし、死体とのセックスは松浦の脅迫による売春を大きな
問題にしないためにやむを得なかったし、奈美江を裏切って死に追いやったの
は榎本の脅迫でやむを得なかった。もちろん罪は罪だけど、一応の言い訳が
あった。ところが今回は、友達が幸せすぎて性格が良すぎて不公平だから不幸
にするって話。救いようの無い罪だから亮司はあきれたのだろう。見てるこちら
にとっては、雪穂の良心がどうしようもなく欠落してるのは明らかだから、特に
いまさら驚きはない。でも、亮司は雪穂を信じたかったんだろう。結局それは、
無理だったけど。。。
あらすじは以下の通り。亮司(山田孝之)は、雪穂(綾瀬はるか)を奈美江
(奥貫薫)の不正送金・殺害事件に巻き込んだ後、初めて抱き合ったが、
すぐに反省。こんな事させてゴメン、雪穂が幸せじゃないと自分が死んだフリ
をしてる意味がないと話して、御曹司のOB・篠塚(柏原崇)と付き合いつつ
楽しい大学生活を送ることを促す。雪穂は迷いつつも同意。亮司は、榎本
(的場浩司)から回って来た仕事に没頭。
ところが、篠塚は友達の江利子(大塚ちひろ)と付き合い始め、雪穂の心は
揺れる。何とか温かく応援しようとしたものの、結局は無理。特に、篠塚が江
利子の性格の良さにひかれたのが許せなかった。そこで雪穂は亮司に、都子
(倉沢桃子)の時みたいに江利子を襲ってくれと頼む。たまたま幸せに育って
性格が良くなった江利子と自分とではあまりに不公平だ、江利子を不幸にして
ほしい、と言う雪穂に亮司は驚く。自分はそうは思わないし、ホントにそう思う
なら病院に行った方がいい、という亮司の言葉に、雪穂は一旦あきらめて帰宅。
家で花を握りつぶす雪穂の姿を見た母・礼子(八千草薫)は、刑事・笹垣(武田
鉄矢)が置いて行った、メンタルケア・カウンセリングのパンフを見せる。大丈夫
だと言い張る雪穂に対して礼子は、あなたは誰も信じてない、誰にも心の内を
見せる勇気がない、と怒って立ち去る。雪穂は、そんなものを見せたって、と困
惑。亮司に本音をもらしてあきれられたのを思い出す。
そこへ、なぜか松浦(渡部篤郎)から電話で呼び出し。その後、亮司からも電話
があったが、雪穂は出ずに留守電にしたまま聞く。亮司は、理解はできても賛
成できない、後悔するだけだと言い、どうしようもない自分の不幸や悩みを笑い
飛ばす強さを持った友人・友彦(小出恵介)の話を持ち出しつつ、連絡をくれと
伝言。雪穂は聞きながら険しい表情で爪を噛む。
その後、松浦と会った雪穂は、幼い頃に亮司の父・洋介(平田満)が取った自
分の写真を渡され、金を要求される。松浦は、自分を無視して亮司が榎本から
ゲーム関連の仕事を引き受けたのに激怒して、雪穂を脅迫して思い知らせて
やろうとしてるようだ。ところが雪穂は、この脅迫を利用。一緒に亮司をカモに
しようと言い、松浦の携帯から亮司に電話。組むべき相手はあなたじゃなかっ
た、さよなら、と告げる。
驚いた亮司は、2人がホテルの部屋に入ろうとする所へ駆けつけたが、雪穂
は冷笑しつつ部屋の中へ。やがて出てきた松浦は、外で待ってた亮司に、途
中で泣き出した、面倒くさいね、と言い残して帰る。部屋に入ると、雪穂は写真
を亮司に叩きつける。不公平とか他人の幸せを壊してやろうとか思うのは間
違ってるんだよね、笑えるように頑張らなきゃなんないんだよね、亮だけには
言われたくなかった、と泣き叫んで詰め寄る雪穂。亮司は圧倒され、やってや
るよ、雪穂の人生ボロボロにしたのは自分と親父だから、とつぶやく。江利子
を襲った後、以前2人で自首しかけた時に行った教会へ立ち寄って、いつも
こうなっちゃうんだよなと考え込む亮司。
暴行写真が、江利子の家と篠塚に送りつけられた。警察に行くと言う篠塚を、
雪穂は激しく制止。楽しかったです、今までありがとうございました、と江利子
の伝言を篠塚に伝えて、雪穂は篠塚の車を降り、篠塚からもらった「風と共に
去りぬ」の原書をドブ川に捨てた。
その頃、後輩刑事・古賀(田中幸太朗)は、笹垣のノートのコピーを、亮司の
母・弥生子(麻生佑未)に渡し、これが息子さんの幸せだと思うかと言い残し
ていた。あんなのに親心なんて、良心なんてあるか、と怒る笹垣。これに対し、
後輩の妻は、親心は良心なんかじゃなく、自分の子どもだけは特別で可愛い
と思う本能みたいなものだと言う。
ラスト。亮司は雪穂を呼び出し、全部計算だろ、オレの気持ちなんてどうでも
いいんだろ、と言う。既に礼子に別れを告げて家を出ていた雪穂は、私には
亮しかいないんだよ、とすがるが、亮司は、騙されてるとしか思えない、雪穂
のこと信じられない、と吐き捨てる。すると雪穂は態度を変えて、全部計算だっ
たら何なのか、最終的決定はいつも亮司自身がやった事じゃないか、騙され
る方が悪い、と捨て台詞を残して部屋の外へ。亮司は奈美江が窓際に残して
いた観葉植物をドアに投げつける。全くの孤独に陥った雪穂は、夜道で一人
泣き崩れた。ゴメンね、亮。。。
今回の話は、無条件の愛ってものが、いかに困難でいかに貴重なものかを
描いてた。愛には普通、条件がついてる。外見、性格、金、地位、考え方、
生き方、若さ、身体、等々。条件が無くなれば、愛も消える。ところが、世の中
には無条件の愛ってものも一応ある。それは、理想的なものとしての親心。
たとえ外見に恵まれてなくても、性格が悪くても、罪を犯しても、わが子を可愛い
と思うのが親心だ。だから、古賀の妻が言うように、これは良心とは別物だ。
第3話の記事に書いたように、子どもの良心の形成にとって両親は重要だけど、
親心は必ずしも良心ではない。
もちろん、完全に無条件の愛を注ぐ親心なんてものはあり得ないんだけど、他
の人の愛と比べればすごく条件が緩く、自分を甘えさせてくれる。そんな親心
に不幸にも出会えず、それどころか幼い身体を売り飛ばされてしまった雪穂。
彼女が、まるで子どものように、唯一深い絆を持ってる亮司にワガママを言った
りイタズラをしたりしても、別に不自然じゃない。本当の意味では存在しなかった
子供時代を、後から取り戻そうとしてるだけのことだ。
だから、エンディングで未来の(?)亮司は語る。
「なぁ、雪穂。オレを傷つけて去ることが、あなたのやり方だった事、いつの日
も変わらない、あなたの優しさだった事。あの無茶苦茶なワガママだって、
一度でいいから幸せな子供のように甘やかされたかっただけなんだって、今
ならちゃんと分かるんだけどな。ゴメンな・・・」
亮司に未練が残らないように、雪穂がわざと傷つけるような捨て台詞を吐いた
事、心の中では泣いてた事を、亮司は後から理解できたようだ。映像では、雪
穂のまばたきの多さ、壊れた観葉植物からしたたり落ちる水、外出直後の涙
で、雪穂の本心が表現されていた。でも亮司は親じゃないし、ワガママを聞くに
も限度がある。まだ20歳にもならない、恐ろしく屈折した不幸な人生を歩んでき
た少年が、愛する少女の途方もないワガママに我慢できなくなるのは当然だ。
って言うか、江利子を襲った後でなく襲う前に、例えばホテルで詰め寄られた時
に、おかしいものはおかしいとハッキリ拒絶すべきだったとも言える。ただ、亮司
は既に第3話で、たとえ自分が泥水を這い回って罪を犯し続けてでも、雪穂を幸
せにすると誓ったはず。それを考えると、最後の亮司の冷たい態度は、無条件
の愛ってものがどれほど困難なものなのかを示してると言えるだろう。
人は、親にはなれない。そして、親もまた、不完全で弱い一人の人間にすぎな
い。もちろん、我々も。。。
ところで、今まで気付かなかったけど、公式HPに「目安箱」ってページがある。
非公開で厳しい意見を受け付けてるようだけど、かなり興味がある。今回、上
に書いた内容は、わりと2人に対して温かい視点に立っている。でも、もっと
遥かに厳しい見方もあるだろう。そもそも今回の話だって、ラストの亮司の
語りと、雪穂が「ゴメンね」と泣き崩れるシーンが無ければ、かなり後味が悪
かったはずだ。目安箱には、「性悪女に騙され続けてやっと罪の重さに目が
覚めたところで、今さら遅過ぎる! こんなものに共感を呼ぼうなんて、何を
考えてるんだ!」なんてキツイ意見が寄せられてるんじゃないだろうか。そ
うゆう視点もどこかに保ちつつ、残り6回をじっくり見て行こうと思ってる。輪舞
曲の記事にも似たような事を書いたけど、とりあえず亮司の親・弥生子がど
うするのかに注目したい。
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コメント
おはようございます☆
無条件の愛って何なのかよく分かりませんし、難しいですね!!でも雪穂の言うとおりにホイホイ言う事を聞いてるだけじゃあただのロボットになりますよね(>_<)
雪穂は未練が残らないように去ったということは、どういうことでしょう!?もう8年後に2人で太陽の下を一緒に歩くという希望は一体どこへやら・・・。その希望が亮君を支えてきたのに(泣)
投稿: 私の趣味日記 | 2006年2月11日 (土) 08時09分
番組のプロデューサーと山田孝之さんはいろいろなインタビューで決して共感できるものではないから、全否定しながら見て欲しいと言ってました。
まさにその通りですね。でも自分は亮司に感情移入してしまっています。
投稿: のり | 2006年2月11日 (土) 13時44分
>私の趣味日記さん
あれ、よく分かりませんでした?
例えば、一流会社の人と付き合ってるとしましょう。
ある日、実はその人は一流会社どころか無職だったと
分かりました。すると、愛が冷めるかも知れませんね?
その場合は、以前の愛には、一流会社員ってことと
ウソつきじゃないってこと、2つの条件が付いてたって事。
つまり、条件付きの愛っていうフツーのものだった訳です。
でも、親はフツー、子供が見栄を張ろうが無職だろうが
犯罪者であろうが、愛し続けますよね?
これが無条件の愛ってことです。
心配しなくても、亮司は雪穂を捨て切れませんよ♪
フィクションだしね(^^)
投稿: テンメイ | 2006年2月11日 (土) 15時59分
>のり様
はじめまして♪ (でいいんですよね?)
「海苔」さんがひらがなに改名したんじゃないと思いますが。。
いずれにせよ、コメントありがとうございます。
全否定しながら見てくれって言葉が言いたい事は理解できま
すが、ホントに全否定したら見続けるのは難しいと思います。
逆に言うと、見続ける人っていうのは、全否定してない人が
大部分だと思います。
亮司よりかなり異常な雪穂でさえ、感情移入とか共感できる
要素は色々とあるでしょう。
所詮みんな、不完全な人間ですからね。。
投稿: テンメイ | 2006年2月11日 (土) 16時09分
こんにちは☆
ふむふむ、なるほど~、無条件の愛について分かった気がします!
それにしてもテンメイさんって考え方が奥深い方ですね!私はこのドラマを見ていると、「?」って思うことが多いです(汗)
投稿: 私の趣味日記 | 2006年2月11日 (土) 16時27分
>私の趣味日記さん
素早いチェックですネ! まだ応答したばっかなのに。。
分かった「気がします」って所が引っかかるけど・・(^^)
奥深いっていうか、放っとくといくらでも考え続けますから、
この記事もホントはまだまだ長くしたい所です。
映像の分析とか、ほとんど書いてませんしね。
でも時間かかって仕方ないし、身内の人間から「スクロールが
面倒だ!」っていう鬼のように冷たい反応が多数返ってきてる
から、この程度の記事におさえてます(^_^;)
コメント欄で「?」って思うことを書いて頂ければ応答しますよ。
「正解」じゃなくて、「僕の考え」ですけどネ♪
投稿: テンメイ | 2006年2月11日 (土) 16時56分
テンメイさん、こんばんは。
なんだか呼ばれたみたいな気がしたので
参りましたよ。
コメントしなくても、いつも読ませて
いただいています。
すれちがう亮司と雪穂の孤独を、いつか
お互いによって癒しあうことができるのか
それともできずに終わるのか
見届けたいと思います。
それにしてもしんどいドラマですわ。
投稿: 海苔 | 2006年2月11日 (土) 20時34分
そうですね~
最後の雪穂の涙がなかったら
完全に雪穂は亮司以上の悪人でしたよね。
亮司に未練を残さないように
暴言をはいて出て行ったのが
雪穂なりの優しさだったんですね。
あとは亮司の母親がどのような行動に出るか
楽しみですね!
投稿: あい | 2006年2月12日 (日) 00時05分
>海苔さん
アハハ(^o^) やっぱり違いましたか♪
いやいや、ひょっとしたら平仮名に改名して、
文体まで変えたのかと思いましてネ。
いつもご覧頂き、どうもです。
癒しあうどころか、ラストは雪穂が亮司を殺すんじゃ
ないかと思って、今から心配(or期待)してますよ。
雪穂の依頼で、誰かが亮司を刺し殺すとすれば、
第1話の冒頭のシーンとつじつまが合いますよね。
まあ、目安箱が怖くてそんな話は作れないかな。。
投稿: テンメイ | 2006年2月12日 (日) 02時47分
>あいさん
原作に対して純愛的な解釈をするドラマだったら、
もう少しそれっぽいシーンを入れてくれないと、
単なる性悪女の犯罪ドラマになっちゃいますよね。
まあ、それでも見続ける人間が大勢いるから、
視聴率的にはいいのかも知れませんが、このままだと
スポンサーを通して圧力が加わるかも。。
みんなを襲って、最後は雪穂だけ残るなんて悲惨な
事になるのを阻止するためにも、まずは母・弥生子が
亮司に無条件の愛を示して欲しいものです。
投稿: テンメイ | 2006年2月12日 (日) 03時00分