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コントロール不能な欲望~白夜行第8話

『白夜行』第8話、「泥に咲いた花の夢」

「相利共生」(or 双利共生)。お互いが相手に利益を与えるような形で共に生き

ることを、生態学で呼ぶ言葉。例えば、テッポウエビが掘った穴にハゼが居候。

その代わり、ハゼは外敵の接近を穴の奥のエビに知らせる。笹垣はこの相利

共生って言葉を使って、亮司と雪穂の関係を表してた。フツーに考えれば、偽

名を使って社会に深く潜り込んでる亮司がエビ、それに頼りつつもう少し浅く潜

り込んで外を見張ってる雪穂がハゼだろう。笹垣は、ハゼ=雪穂のそばに潜ん

でるはずのエビ=亮司を探してるし、雪穂は笹垣や篠塚っていう外敵の接近を

亮司に知らせてた。

ただし、こうした生態学は基本的に単純な動植物を相手にしたものだから、複

雑な人間社会に上手く当てはまるかどうか、かなり問題がある。エビとハゼを

人間関係の中で区別できるか、穴って何なのか、なんて問題もあるけど、それ

以上に怪しいのは、「利益」っていう考えだ。ハゼが外的の接近を知らせると、

鉄砲エビは生命の危険に備えられる。これは確かに利益だろう。ところが、笹

垣や篠塚が接近しても、亮司に生命の危険が迫るわけじゃないし、逆に本当

の意味で太陽の下を歩くための大チャンスかも知れない。今ならまだ警察に

出頭しても死刑にはならないはずで、しっかり10年ほど罪を償った後で太陽

の下を歩くチャンスなのに、それを雪穂はジャマしてる。ちなみに皮肉な事に、

生命の危険が迫るのは、むしろ外敵の笹垣や篠塚の方だろう。

一方、雪穂が亮司と共に、過去を隠して表面的に明るい生活を送ってるのも、

雪穂にとって本当の意味での利益にはならない。むしろ、大人になって多少の

余裕が出てきた今こそ、亮司と共に穴を出て外の社会と真正面から向き合う

べきだ。結局、2人の関係はむしろ、「相害共生」と言う方がふさわしい。。

           

今回もあらすじは超簡単に。雪穂(綾瀬はるか)の手助けで、夫・高宮(塩谷瞬)

が勤める東西電装からシステムを盗み、それを手土産にベンチャー企業メモ

リックスに就職した亮司(山田孝之)。ところが2年を経て、東西電装の依頼に

よる探偵捜査が迫ってきた。一方、一時的な売春のつもりで結婚した雪穂も、

高宮が離婚を切り出してくれなくて困ってる。そこで、高宮の片思いの相手だっ

千都留(佐藤仁美)がたまたま東京に戻って来てたのを悪用し、この2人を

接近させて離婚の理由を捏造。また、亮司が千都留と関係あるかのように見

せかけて、探偵に、亮司と千都留が高宮を利用してシステムを盗んだかのよう

に誤解させた。これで、雪穂の手助けはバレずに済んだし、東西電装も、犯罪

の告発まで持って行くのは諦めたようだ。離婚して慰謝料を手に入れた雪穂

は、自らが経営する会員制ブティックの名前を、夫の名前が入った「MAKO

TO’S CLOSET」から「R&Y」へと変更。亮司(R)と雪穂(Y)は上手くやって

るように見えた。ところが、篠塚(柏原崇)が2人と江利子(大塚ちひろ)の事件

の関係を疑い始め、笹垣(武田鉄矢)に捜査を依頼。亮司も、新たな犯行に使

う劇薬を手に入れるためなのか、偶然の導きで知ることになった薬剤師・栗原

典子(西田尚美)に接近。一方、R&Yには雪穂の育ての母・礼子(八千草薫)

がやって来た。。。

          

今回の話のメインテーマは、コントロール不能な欲望だ。中心となるのは雪穂

だけど、亮司、笹垣、篠塚についても言える。

亮司は冒頭、心の中で次のように呟いてた。

  「分からなくなったんだ。あなたが、これ以上何を求めているのか」

雪穂が望むもの、「泥に咲いた花の夢」は、外側から見れば一応の理解は

できる。雪穂は、自分たちが表面的に明るい世界で生きていくために、一時

的な売春か愛人契約のつもりで結婚したんだから、早めにもらう物だけもらっ

て別れようとするのは自然なことだ。愛の無い夫婦生活は、苦痛でしかない。

ただ、亮司から見ると、雪穂は奇妙なくらい離婚と金に執着して焦ってるよう

に感じられる。もう俺は一応太陽の下で上手くやってるのに、あなたは何を

欲しがってるのか。かなり上のクラスの家庭を、しばらく普通に味わえばいい

じゃないか。ところで、じゃあ俺は彼女にどうして欲しいんだろう、彼女とどう

生きたいんだろう・・・

雪穂自身から見ると、少し違う疑問や不満が生じる。結婚してる間は、亮司

と自分のためとはいえ、何でここまで媚びて生きなきゃなんないのか、これじゃ

母と亮司の父に媚びてた少女時代と同じじゃないか。この思いを解消するた

めに離婚して独立、自分の店「R&Y」を手に入れた後も、無意識のうちに疑問

を感じてるはずだ。私は、地位や金が欲しいのか、いや違う、亮司と一緒に太

陽の下を歩きたいだけだ。でも、今やってる事が本当にそれにつながってるの

か。自分たちが社会的に成功しても、明るい場所にいても、少しも心が晴れな

いのはなぜなのか。実は私は、太陽の下じゃなくて、白夜の下を歩き続けたい

んじゃないのか・・・。「私は離婚しました。これでやっと、かけがえの無い人と

手をつないで歩くことができます。もう二度と失わない。やっと手に入れた私の

故郷、原点、這いつくばっても守るべきタラの大地」なんて書き込みを「スカー

レットの末裔」がしても、図書館の真文(余貴美子)の顔は心配そうだ。。。

           

2人がおかしいと思いつつも、理解不能な欲望に操られるまま迷走を続ける

一方、笹垣と篠塚も、なぜか2人に引きつけられてしまう。笹垣は古賀に先立

たれた奥さんに、どうしてここまで執着するのか問われて答えた。

 「私も、もう分からんようになってしもうたんです」

篠塚も、2人に近づくのは止めとけと忠告する笹垣に逆らい、強引に調査を依

頼。笹垣に何のためかと聞かれて答えた。

 「俺のためです」

だけど、どこが「俺のため」になるのか説明できないはずだ。そもそも、事件か

ら時間が経ってるし、かつて愛した江利子はもう幸せな結婚生活を送ってる。

今さら過去の不幸の真相を調べる事が江利子にとっていい事かどうか全く疑

問だし、御曹司の自分にとっても会社経営に全力を注ぐ方がいいはずだ。に

も関わらず、調べずにはいられない。俺のため、と言うより、なぜか気になる

から、なぜか雪穂に引き付けられるから、と言った方が正確だろう。制御不能

な欲望の暴走。篠塚の言葉を聞いた笹垣は、ニヤッと引きつった笑いを浮か

べた。なぜかズルズルと引き込まれていく篠塚に、自分の姿を見るような気が

して、苦笑せずにはいられなかったんだろう。。。

                   

雪穂が表面的な社会的成功を求めて、前を向いて歩き続けるのに対し、亮司

は過去の抹消を求めて、後ろを向いて歩き始めた。薬剤師から劇薬を手に入

れて狙うのは、まず篠塚だろうか。先週ちょっと退屈したけど、今週はなかなか

味わい深かった。来週以降も期待しよう♪

      

cf.愛がもたらす夜の太陽~白夜行第1話

   太陽の下を2人で歩くために~白夜行第2話

   良心と幸福の欠落を埋める愛~白夜行第3話

   薄明かりに共生する命の温かさ~白夜行第4話

   無条件の愛という困難~白夜行第5話

   父と母~白夜行第6話

   昼間の幽霊~白夜行第7話

   殺すことと生かすこと~白夜行第10話

   救われない生の終焉と存続~白夜行最終回

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コメント

 こんばんは☆
私コメントしたつもりでいたんですけど
まだしてなかったんですね(汗)

亮君、篠塚さんを殺すつもりでいる可能性大
ですよね!!でも篠塚さんは、鉄矢から
亮君の写真受け取ってて、顔知ってるから
そううまくは行かないでしょうね・・・。

亮君と雪穂はとっても関わりたくないですけど、
どんな計画を企てるのかを見るのは楽しいんですよね♪

投稿: 私の趣味日記 | 2006年3月 4日 (土) 20時42分

毎回、テンメイさんの記事には
引き込まれてしまいます。
確かに
生命の危険が迫るのは、
むしろ外敵の笹垣や篠塚の方だろう。
ですね。皮肉ですね。
雪穂と亮司はこれから外敵に
一体何をするのか気になるところです。

投稿: あい | 2006年3月 4日 (土) 23時53分

>私の趣味日記さん

いやいや、こちらの記事アップが遅れたもんで。。
正直、一週間くらい休みたいな・・(^^ゞ
製薬会社の御曹司が劇薬に引っかかってちゃ、
週刊誌に笑われるでしょうけど、引っかかりそう。。
犯罪計画を見て楽しむだけでもマズイですよ。
怒りながら見て、TBSに抗議するくらいじゃないとネ♪

投稿: テンメイ | 2006年3月 5日 (日) 01時15分

>あいさん

ありがたいお言葉、どうもです <(_ _)>
ブログに疲れ切ってる時にそう言われると、
もうちょっと頑張ろうかなって気になりますネ・・(^^ゞ
外敵の運命、篠塚は殺されそうだけど、案外
笹垣は最後までしぶとく粘るのかも。。


投稿: テンメイ | 2006年3月 5日 (日) 01時20分

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