氷の涙~『医龍』第5話
「本当に、泣き虫なんだから・・・」
涙をあふれさせて病室を後にした加藤を見送りながら、もと婦長の患者・
奈良橋は呟いた。自分が教授になるためなら何でもやる、氷のように冷た
い心の持ち主のように見えた加藤。その氷を溶かしたのは、あるいは、氷
が涙でできてる事を明るみに出したのは、かつて加藤が世話になった奈良
橋のこんな言葉だった。。
「どうかしたの、加藤先生。泣きそうな顔をして。・・・あなたは本当に泣き
虫だから。・・・あたしは職業柄、色んなお医者さんを見て来ました。どの
人も、自分が思い入れた患者さんが死んだ時には、泣いたものでしたよ。
そのうち、死なれると辛くなるような患者さんには、なるべく心を移さない
ようにしたりして、泣かなくなるの。人間ですもの。そうやって、自分の心
を守る術を学ぶのね。あたしもそう。
でも、あなたは違った。・・・あなたは、頭のいい人だから、泣き方を変え
たのね。・・・どう? 大学は。少しは変わった? 言ってたものねぇ、大
学病院を変えるって。あなたならなれるわ、きっと。教授に。ここに転院
して来て、本当に良かった。あなたのようなお医者さんだったら、もし私
が死んでも、きっとずーっと覚えていてくれる。私はそう思っている」
何度でも言おう。これはいいドラマだ♪ 地味なキャストとシリアスな内容、
遅めの時間帯のためか、視聴率は平凡だけど、記事を書く気にさせる見
事な出来栄えだ。
あらすじは公式HPに詳しいので、ここでは超簡単に。バチスタ手術の患者
の候補が2人見つかった。女子高生・村野と主婦・奈良橋文代(江波杏子)。
奈良橋はかつて明真大学付属病院の看護師長(当時の言い方では「婦長」)
で、加藤(稲森いずみ)が世話になった人。でも、成功の確率だけを考えて、
加藤は女子高生を選ぼうとする。
ところが、奈良橋と病室で話をし、朝田(坂口憲ニ)から医者の都合で患者
を選ぶなとプレッシャーを受けた加藤は、緊急性も考慮して、結局バチスタ
の患者を奈良橋に変更。テスト手術に合格した伊集院(小池徹平)、ミキ(水
川あさみ)、藤吉(佐々木蔵之介)、そして加藤本人も参加して、朝田を執刀
医とする初のバチスタ手術が始まった。。
木原(池田鉄洋)が、医局員左遷用プラックリストと勘違いしてた加藤のファ
イルは、大切な患者さん達の思い出で埋まってた。だからこそ、奈良橋のカ
ルテも特別にファイルに挟んでた。病室から帰って、暗い部屋で涙ぐんだま
まそれを見てた所に、朝田が突然入って来たので、加藤は言う。
「明かりつけたら、殺すわよ」。
なんて可愛い言葉だろう。。♪
人間を深く愛するがゆえに、一時的な手段として冷たい人間になる。あるい
は、高い理想を実現するために、しばらくの間はくだらない事をする。これ
は、現実でも虚構でも昔からよく見られるパターンで、上手く行かないことが
非常に多い。加藤も自分で認めてた。
「改革のために、教授になるつもりだった。 でも、いつの間にか、ミイラ
取りがミイラになってた」
けれども、それは「失敗」なんだろうか。失敗と言う資格のある人間が、世の
中にどれだけいるんだろうか。。
このドラマ、表面的には、「失敗」して「間違った」方向に向かってた加藤が、
「正しい」医師の朝田や、かつての恩人の心のこもった言葉で、「正しい」方
向に向かい始めたって感じに見える。でも、よく考えてみよう。医療というの
は、人間が現実世界で行ってるものであって、神が思い描いた美しい夢物
語なんかじゃない。患者が大切な人間なら、医療関係者だって大切な人間
だ。金、設備、人間関係、社会環境など、実際上の制約も色々とある。
テレビの前で、野口(や加藤)を悪者扱いしてる視聴者の中に、それほど
「正しい」生き方をしてる者がどのくらいいるだろうか。もし、ほとんどいない
のなら、それはキレイ事とか理想論にすぎないってことだ。
例えば、バチスタの患者として奈良橋を選ぶのが「正しい」のかどうかは、
微妙な所。緊急性が高くて本人が強く希望してるからと言って、成功率が低
いのを忘れる訳にはいかない。初のバチスタに失敗すると、医局だけじゃな
く、その後に控える日本中の患者に影響が及ぶのも避けられない。もちろん、
加藤が個人的に世話になった恩人だなんて理由は、弱いものに過ぎない。
結局、ここで起きたのは、悪人から善人への変化とか改心なんかじゃなく、
「一つの」人間的な営みだ。正しかろうが正しくなかろうが、与えられた状況
の中で人は「一つの」生き方を選ぶ。その様子を誠実に映し出した良質の
ドラマ、それが『医龍』だろう。。
いよいよバチスタが始まったものの、鬼頭(夏木マリ)が心配(&期待)する
ように、何か問題が生じそうな気配だ。麻酔医の荒瀬(阿部サダヲ)は100
万出せとか無理な要求を出して参加してないし、臨床工学士もレベルが低い
らしい。バチスタの結果に応じて、加藤との付き合いを変えようとしてるらしい
霧島(北村一輝)の怪しい動きも読めないし、ミキの病気の問題も残ってる。
野口(岸部一徳)がこのまま悪役で終わるのかどうか、木原が道化役で終わ
るのかどうかも分からない。
まだドラマは中盤、今後ますます期待ができそうだ♪
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コメント
中盤でこの内容だったら、終盤はどんな波乱が起きるか? 今ではまったく想像出来ませんが、次回のバチスタ手術を楽しみにしています。
投稿: タイガーです (o`・ω・)ゞ 敬礼♪ | 2006年5月14日 (日) 18時01分