鏡像への攻撃と執着~『クロサギ』第6話
ネズミ講やマルチ商法の怪しさについては、社会人なら誰でも多少は知っ
てるはず。ところが、知識や経験のない学生ならともかく、少なからずの社会
人がいまだに引っかかり続けてる。「うまい話には気をつけろ」、「ハイリスク・
ハイリターン」といった、平凡だけど確かな警句が届いてないのは残念だ。
早瀬は「マルチを取り締まる法律がない」と言ったけど、今回の「にしきさらづ
共済組合」の場合、加入金10000円払えば、1人勧誘するたびに2000円、
勧誘した相手がさらに誰かを勧誘すれば500円入るって仕組み。まさにネズ
ミ講的な、必ず破綻する拡大システムで、「無限連鎖講の防止に関する法律」
による取り締まりの候補となりうる。また、共済組合から相互扶助を受ける権
利を買ってるんだから単なるネズミ講じゃないと主張するなら、「特定商取引
に関する法律」による一定の規制がある。
けれども、実際には手を変え品を変え、色んな手口があって、違法性の判断
が難しい。ネズミ講は違法でも、マルチ商法は必ずしも違法とは限らない。そ
うゆう問題もあって、取締りも規制も十分な効果を上げてないのが実情。だ
から、早瀬の言葉は間違ってはいない。
真面目に考えると暗くなってしまう現実が、いまだに確かに存在する。ドラマ
の主人公の過去よりも、遥かに悲しい社会的現実が。。
さて、超簡単なあらすじは次の通り。マルチ商法まがいの詐欺で捕まってた
シロサギの佐多(黒沢年雄)が出獄、こりずにまた始めたので、桂木(山崎
努)は黒崎(山下智久)に紹介。一方、神志名(哀川翔)も佐多をマークした。
黒崎は倒産しかけた信用金庫の買収話を佐多にもちかけ、佐多も怪しい話
だと知りつつ、マルチ詐欺の偽装用として買収を承諾。6億を信用金庫の理
事長の口座に振り込んだつもりだったが、実はそこは黒崎の口座。佐多に
対する制裁競争は、黒崎が神志名に勝利。一方、氷柱(堀北真希)とゆかり
(市川由衣)は、黒崎をめぐって恋の競争を開始した。。。
今回も、まず詐欺の問題点を指摘しとこう。そもそも「大物」詐欺師が、オモ
チャみたいな名刺しか持ってないフリーの少年ファンドマネージャーなんて者
を、マトモに相手にするはずはない。万が一相手にしても、倒産しかけた信
用金庫なんて恐ろしくリスクの高い物件に6億(共済で巻き上げた金の半分
程度!)も払うのに、調べつくさないはずはない。看板を見て、解体工事を改
装工事と間違えたなんてのは、まさに子供だましのお話。
さらに、あり得ないとまでは言わないけど凄く不自然なこととして、金の計算が
ある。西木更津市の人口が仮に50万として、佐多が超速度で1割加入させ
たとしても、加入金の合計は10000円×5万=5億。実際には、1割すぐに
集まるはずはないし、現実の木更津市の人口は12万にすぎない。加入金以
外の掛け金の話もなかった。まっ、もう慣れたけどネ。。
詐欺なんかより、人間の方に目を向けよう。今回は、神志名と黒崎について、
かなり重要な描写があった。神志名の本名は野添将。父が、佐多と同様の
マルチ詐欺で逮捕されたので、母が将来のために幼い将の死亡届を提出。
新たに神志名将として生きることに。その後、事情を知る現在の上司に、警
察への勧誘を受けたとのこと。
死亡届って、白夜行の亮司みたいな殺人犯ならともかく、父の逮捕くらいで
あり得ないけど、まあいいとしよう。もしそんな事を後で知ったら、確かに衝
撃だろう。面白かったのは、佐多に手を出すなと黒崎に命令した時の、二人
のやり取りだ。
黒崎「警察なんて、さっさと辞めちゃえば? あんなとこにいたって、シロサ
ギには勝てないって分かってるんでしょ」
神志名「ハハハハ。お前は勝ってるつもりなのか。法律破って、詐欺師に
なった時点で、お前は詐欺師に負けたんだ。・・・法律破って、私的
制裁を加えるのは簡単だ。こんな風にな。(バシッ、バシッ・・)これ
がお前のやってる事だ。秩序を無視して、力で相手を押さえつける。
これがお前の生き方だ」
黒崎「カッコつけんなよ。あんたはただ逃げてるだけだ。真実を知った後も、
偽物の自分にしがみついて、ダセェ。シロサギの息子に戻んのが怖
いんでしょ」
登場人物の中で、この2人ほどそっくりな組合せはない。だから、お互いの胸
の内がよく分かるし、お互いが相手を攻撃する言葉は、少し変形すれば自分
を攻撃する言葉になってる。
黒崎「こんなことしたって、シロサギには勝てないって分かってるよ」
神志名「秩序を守って、力で相手を押さえつける。これが俺の生き方だ」
黒崎「俺はただ逃げてるだけだ。偽物の自分にしがみついて、ダセェ。シロ
サギに騙されて無理心中しようとした愚かな人間の息子に戻んのが
怖いんだよ」
鏡に映って左右反転した自分の像との対面。自分に向けられるべき嫌悪が、
鏡の像へと投影され、それによって自分を防衛しつつ攻撃衝動も満足できる。
あるいは、あまりに醜い自分の姿が鏡に映った時、もともと弱ってる心はもは
や苛立ちを抑えきれない。
この人間関係の構造は、白夜行の笹垣と亮司とは違うものだ。鏡像はほぼ
同じ動きをするはずだから、おそらく今後、黒崎と神志名は似たような動き
をするんだろう。制作サイドに、『輪舞曲』的な形式美の感覚があればの話
だけど。。
一方、黒崎は神志名の暴行を受けた後、氷柱に介抱されながらこう言った。
「前に言ったよな。あなた幸せなのって。オレは幸せなんていらねぇんだよ。
もう、何もいらない。友情も、愛情も、安っちい同情もな。もう止めにして
くれないか。早く出てけ」
確かに幸せは半ば捨ててるかも知れない。でも、本当に幸せも愛情も全部
捨ててしまってる人間が、こんな台詞を氷柱に語るはずはない。また、幸せ
じゃなくて、欲望や自己意識なら人一倍か二倍あるはずだ。シロサギを一匹
食うたびに、小さな欲望の満足は得られるだろうけど、そんな自分、偽物の
自分にしがみついてるダサイ自分に耐えられるはずはない。
だから、残された道は二つしかないだろう。破滅か、本当の自分への回帰か、
どちらかだ。そして、原作は知らないけどドラマを見る限り、このまま破滅に
向かうのは不自然だと思う。という事は、残された道は一つしかない。原作
が続いてるからといって、中途半端な結末にするのは止めて欲しいもんだ。。
今回、他にも興味深い点がいくつかあった。神志名の上司の台詞(理性、欲
望、警察・・)とか、自分の方が黒崎を理解できるって言うゆかりの台詞とか。
でも、もう時間切れ。来週は、そろそろ早瀬(奥貫薫)の説明があってもおか
しくない。なんで親の敵の詐欺師に仕えるのか。そして、最後は桂木かな。
心臓病でもうすぐ死ぬって設定なんだろうか。
いずれにせよ、詐欺がくだらなくても、ドラマに退屈することはなさそうだ。
来週以降の展開に、期待しよう♪ ただし、控えめに。。
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コメント
テンメイさん こんにちは
>詐欺がくだらなくても、ドラマに退屈することはなさそうだ
確かに。。。(苦笑)これが漫画だったら、詐欺の部分も
面白く見れるのかな?って思ったり。
また白夜行が出てきましたね(笑)よっぽど好きなんですね。。。って、私も大好きでしたけど。
復讐から何も生まれない。原作知らないけど、新しい自分の道をみつけて欲しいな~
投稿: アンナ | 2006年5月20日 (土) 16時14分
テンメイさん、毎度です。
一週間長かった(笑)
>シロサギに騙されて無理心中しようとした愚かな人間の息子に戻んのが怖いんだよ
この二人のシーン、特に黒埼が言う台詞はそのまま自分に返ってくる台詞だったんですよね。
合わせ鏡のようにそっくりな自分を見ている二人。
やたら痛そうであざを見るたびに神志名は自分の痛みをえぐられると思うし、言葉で言いたい放題だった黒崎もやはり傷ついていたはず。
三角関係とはいうけど黒崎の知らないところでの対決でした。
ゆかりの全部受け入れるというのが究極の愛とは思えない。
私的には氷柱の見方が一枚上手だと思うわ。
投稿: かりん | 2006年5月20日 (土) 16時23分
>アンナさん
こんばんは♪
ちょっとマンガも見る気になりませんネ・・(^_^;)
アンナさんだって、そうでしょ? マンガに山Pいませんよ♪
白夜行、出しすぎ? そうゆう事なら、もっと出します(^^)
復讐からは何も生まれない。『輪舞曲』を思い出す言葉。
復讐って日本語はイメージ悪いですけど、リベンジって
英語にするとイメージ悪くないですよネ?
結局、問題は復讐=リベンジの仕方でしょう。。
>かりんさん
毎度どうも♪
かりんって名前見るだけで、何か笑っちゃいますよ(^o^)
一週間長かったって、クロ詐欺ですか、テン詐欺ですか?♪
黒崎は頭が回るから、自分の言葉がはね返って来ること
くらい分かってるでしょうネ。淋しい奴。。
ゆかり、そちらにも書き込みましたが、こっちの記事で
省いたことなので、ここに書いときます。
全部受け入れる愛がいいか悪いか、この場合はビミョーでしょう。
黒崎は幼い頃に母を殺されてるんですよね、父親に。
無条件の愛を受けないまま辛い人生を歩んできた
少年を、母親的な愛を注ぐ女性が支えるのは、
結構重要なことかも知れません。
厳しさを与える役割は、また別の人がになえばいい訳ですからネ。
かん高い声の警察官とか、アパートの可愛い住人とか。。
そもそも、かりんさんだって、山Pや亀梨なら全部受け入れるんでしょ?(^^)
投稿: テンメイ | 2006年5月20日 (土) 23時56分