透けてみえたのは何か~『サプリ』第6話
今までで一番いい出来だ♪ 非常に緻密で巧みな構成で、よほど考えない
と今回のドラマは作れないだろう。
記事を書く時には、基本的に通しで2回見ることになるけど、1回目を見てる
途中から早くも2回目が楽しみになって来た。そんな奥行きや厚みのある、
味わい深い回だった☆
例えば最初の方で、ミナミ(伊東美咲)が自分について、自信をもてるもの、
自分らしさを考える場面がある。それを受けた最後のミナミの台詞はこうだ。
「私が、他の誰にも負けないもの、彼にしてあげられる何か無いか
それは想像すること。彼が今、誰のことをを思ってるか誰のそば
に一番いたいのか想像して、手を離すこと」
上手なウソをついて荻原(瑛太)から離れて行く場面のこの台詞は、エモー
ショナルな切なさをもたらすと共に、全体としてスタイリッシュにまとまりを
作ってた。ミナミの妄想癖って設定とも合ってる。さらにこの時、会社では
ユリ(浅見れいな)が勇也(亀梨和也)に、仕事上の挫折体験を話していた。
つまり、ミナミとユリの諦めの気持ちが重ね合わされているのだ。しかも、
それは単なる並列関係じゃない。ユリは、ミナミにはかなわないと思って
憧れつつ諦める。ミナミは、ミズホ(りょう)にはかなわないと思って憧れつ
つ諦める。巧みな直列関係が出来上がり、エモーショナルが増幅される。
こんな構成がそう簡単に出来るはずはない。少なくとも「積極性」を認めて
「ねぎらい」の言葉くらいかけるのが「大人」の視聴者の礼儀ってもんだろう。
もう一つ、巧みな作りを味わってみよう。それは今岡(佐藤浩市)をめぐる
サブストーリーに関するものだ。まず、今岡が自宅でのカレー試食会でナン
センス・コピーを発表し、みんなで笑って盛り上がる。なつき(志田未来)まで
笑うのを見たヨウコ(白石美帆)が、笑うんだねとか言って横に行き、今岡秘
蔵の酒「轟30年もの」のボトルに麦茶を入れるイタズラをする。それを見た
なつきは、くだらないとか言って立ち去る。ところが、しばらく後でそのイタズ
ラに引っかかった今岡が、勇也に八つ当たりしてバカ騒ぎするのを見たな
つきは、今度ヨウコが来るのは何時なのか、微笑んでたずねる。
これだけでも細かくて繊細ないいお話なのに、さらにヒネリが加えられた。
その後、今岡が大事な話だとヨウコを誘って、なつきがヨウコを受け入れ始
めたことを話す。ヨウコはもちろん笑顔。あわよくば結婚話かと思ってもいい
所だ。それなのに今岡は、自分はヨウコやなつきに囲まれながらも仕事の事
を考えてしまうような男だから癒されないだろ、とか言って、別れ話をスタイ
リッシュに持ち出す。ヨウコは弱弱しい笑顔を見せるしかないし、見てるこっち
も技あり1本取られたなと苦笑して認めるしかない。。
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あらすじは7行で。ミズホと荻原は、不倫的な交際がミズホの夫にバレたこと
もあり、関係終了(ノーサイド)へと動き始める。とは言え、荻原の心がミズホ
から離れられないのが分かるミナミは、自分から荻原と距離を置き始める。
一方、勇也は、ミナミへの思いを胸に抱きつつも、カレーの試食会を仕切った
り、コピーを本気で作って認められたりと、職場での存在感を増しつつあった。
そんな彼の心にユリがしのび込み始める。悲しくて惨めな過去や胸の内をさ
らけ出したユリは、勇也と社内で身体を寄せ合った。そして。。。
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さて前回は、少し厳しい話を書いた。世間では『サプリ』がつまらないって声の
大合唱。悪役を何にするのかは別として、とりあえず何かけなしとけば多数派
に落ち着けるって状況だ。でも、ドラマがつまらないと感じた時、その責任を
制作サイドに押し付けるだけでいいのかって話。ドラマを作るのはスタッフ&
キャスト。でも、ドラマを見るのは視聴者だ。自分の視線のあり方を省みるこ
とも重要なんじゃないか。。
アクセスだけは相当な数頂いたけど、アクセス解析その他から総合的に推定
する限り、反応はイマイチかイマニのようだ。もっとも、これは想定内のことだ
し、間違った事を書いたともキツ過ぎる言い方を使ったとも思わない。そもそ
も、『サプリ』はそれほど酷い作品ではない。
分かりやすく言うと、ジャニーズのプロモーションビデオとしてなら『クロサギ』
の方が遥か上だけど、ドラマとしての洗練度なら『サプリ』の方が上だ。両者
の視聴率や評価の差には、ドラマファンとして複雑な思いを抱いてしまう。ち
なみに、満足度はまた別の次元。。
今回は、公式タイトル「透けてみえる恋心」を意識しながら、透けてみえるの
は何か、考えてみよう。久々に読者の方々に質問したい。それは何ですか?
「データ」や「ロジック」と共に「説得力」をもたせられますか?
透けてみえるものとして一番フツーの答は、ミズホに対する荻原の恋心だろ
う。これは、途中でミナミ自身が透けてみえると言ってたし、ラストでもほのめ
かされているから、決して間違ってはない。
「時々、彼の向こうにあの人の声や仕草、透けてみえる気がして・・」
その一方で、この答は物足りないものでもある。と言うのも、そもそもミズホ
も荻原も脇役だし、透けてみえるどころか最初から思い切り明らかだ。透け
てみえるものは、もっと中心的なものであるべきだし、今まではおぼろげだっ
たものでなければならない。
すると、もう一つ別の答に行き着く。それは、勇也に対するミナミの恋心だ。
荻原の恋心はミナミにとっての透けてみえるものだけど、ミナミの恋心は視
聴者にとって透けてみえるもの。やはりここでも、自らの視線の問題が浮上
する。何なら別の言い方をしてもいい。勇也をサプリから主食に持ち込もう
とする制作サイドの意図が、視聴者に透けてみえるのだ。
まず、一番大きな枠組を見てみよう。今回、冒頭でミナミの恋の相手として
荻原と勇也が比較されていた。その後、荻原が前面に出続けて、最後で荻
原が消される。では、残ったのは誰か。まさしく、明示的ではないにせよ、
透けてみえる結論だ。
続いて細部に視線を向けよう。全ては、勇也を主役に持っていく流れの中で
位置づけられていた。まず、ミナミへの「ぶっとばすぞ!」って台詞と、松井
(原田あきまさ)への「頑張れよ!」って台詞。もちろん冗談とか軽口のレベル
ではあっても、明らかに先輩たちの上に立つ言葉だ。カレー試食会全体の仕
切りもそうで、特に「ウェルカム・トゥ・マイ・ハウス」とか、「オレがあの手のか
かる親子の面倒をみてやってるって感じ」なんて台詞も、単なるジョークを超
えている。皆さん分かってますか、実質的にはオレが主役なんですよ、って
感じのアピール。藤井ミナミらしさを大切にってアドバイスも、ミナミの上に立っ
たものだった。
さらに、ミズホがミナミと言葉のバトルをしてたシーン。学生時代の荻原が、ミ
ズホと今の夫・田中との事を知って、ひたすらラグビーボールを蹴り続けたっ
て話が紹介される一方で、職場では勇也がひたすらコピー案を携帯に打ち
込み続けてた。若くてひたむきな男が女心をつかむっていう流れを作った後
で、勇也がコピーをみんなに発表。かなり好意的に受け止められる。勇也の
コピー案4つのうちの最後は、「趣味カレー。バカだけど、いいヤツです」。「い
いヤツ」が勇也自身のことをほのめかしてるのは明らかだろう。考え過ぎだと
思う方には、趣味がカレーのバカって他にいたか、なぜこれが最後に来てるの
か、自分なりのロジックを組み立ててほしい。「ナンセンス」の一言で終わり
にするのだろうか。。
さらに、ミナミは勇也の資料に赤ペンで色々とチェックした後、データとロジッ
クでもっと説得力をもたせろとダメ出し的アドバイスをしたものの、勇也はそ
の意味を一人前の大人として正しく受け止めていた。ユリがミナミの態度に
不満をもらす横で、勇也はちゃんと喜んでた。ミナミに仕事仲間として存在を
認められたのだから。
何なら、なつきが今岡と家に帰る途中で、ユウ君へのお土産の話を持ち出し
た所や、試食中のカレーに対する発言も加えていい。要するに、全てが勇也
を主役に持って行く流れになっている。恋についても当然のこと。これで、来
週のキスへの下準備は完了。その前に、ユリとのキスが不発に終わる方が
スタイリッシュだろうけど、はっきり言って枝葉の問題にすぎない。。
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見終わった後、ここまで分かりやすく勇也を持ち上げにかかった制作サイド
が、ちょっと気の毒に思えて来た。やってられないと思ってるスタッフもいる
だろう。そうゆう人は、別の世界に行くのもありだ。最も大衆的な映像作品
であるドラマは、クリエイターにとっては辛いことが少なくないだろう。せめて
映画の世界で思う存分能力を発揮して欲しい。それを正当に評価してくれる
ファンは必ず大勢いるのだから。
私は制作サイドを心から応援する。ではまた。。☆彡
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