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制作サイドによる実力誇示~『サプリ』第9話

荻原(瑛太)がイイ♪ ここ3週間の変化はやや急かも知れないけど、キャラ

設定に大きなブレは感じない。たかがあの年齢で、それほどスマートな社会

人なんているわけないから、勇也(亀梨和也)ユリ(浅見れいな)相手に今

回見せてたような、トボけた部分がある方が自然だ。何しろ、タニシ飼ってた

ような奴だもんね。第7話の真夏の炎天下の山梨で「寒い!」とかミナミ(伊

東美咲)に言ってたのも、やり過ぎ気味とはいえ可愛かった。

いいんじゃないすか、彼♪ もちろん、勇也もイイけどね。。

    

それにしてもこのドラマ、実に洗練されている。これぞ職人芸って感じの出

来栄えで、精密な腕時計の内部でも見せられたかのように、思わず本気

で観賞してしまった。全体を通じて色んな要素が巧みに結び付けられてて、

宝石を散りばめた巨大な装飾品と言っても言い過ぎじゃないかも知れない。

まるで、評価してくれない世間に対する、制作サイドの実力誇示のよう。お

そらくこの誇示は空振りに終わるんだろうけど、そばで感心して見ている人

間がいることだけは伝えとこう。

    

原作は知らないし、周囲からどの程度の関与があるのかも分からないけど、

脚本家が相当な力の持ち主なのは間違いないだろう。金子ありという人は

名前しか知らなかったから、試しにWikipediaをチェックしてみたら、主な作

品は見たことないものばかり。11年前にヤングシナリオ大賞を受賞して以来、

フジテレビを中心に活躍。代表作は『ナースのお仕事』と映画『電車男』ってこ

とか。まだ30代前半、今後の活躍に注目しよう。

視聴率だの世評だの関係なしに、間違いなくあなたは優秀だ☆

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、今回もあらすじは省略。まず勇也とミナミの関係について考えてみよう。

もともとはミナミが(建前上の)主役で、勇也は単なるサプリ=補助食品=オ

マケ。ところが、中盤から勇也が活躍し始めて、今回で遂に主役が交代した

と言っていい。いまや、勇也が主役でミナミはサプリだ。もちろんこれは、不

評にあわてた制作サイドの路線変更なんてものとは関係ない。最初からこの

ドラマは、サプリから主食へと勇也が成長するプロセスを描いて来たのだから。

   

具体的に確認しよう。まず、勇也をくれとユリに言われて動揺したミナミは、自

宅での待ち合わせをドタキャンし、その後も素っ気無い態度で距離を保とうと

する。ちょっと幼すぎる感がなきにしもあらずだけど、誇張したコミカル表現と

して許容範囲だろう。所詮誰しも、ドングリの背比べ。恋愛にせよ趣味にせよ、

好き嫌いの問題が絡むと、多少なりとも人間は子供に帰るものだ。

       

話がそれたけど、そんなミナミに対する勇也の態度は、既に年上みたいな余

裕を見せてる。冒頭で勇也がミナミにうるさく付きまとったのは、決して単なる

子供じみた甘えではない。うるさい!って怒られても、クスッと笑ったのは一

つの証拠。「やっと、こっち見てくれたから」。これでまず技ありか有効1回だ。

技を決めたのは、勇也と言ってもいいし、制作サイドと言ってもいい。決まった

所でテーマ曲。スタイリッシュだ。

    

続いて、一緒に残業した時の噴水のそば。勇也はお金を投げ入れて、素直

にミナミの事についてお願いしたのに対し、ミナミは通りがかりの同僚に怪し

まれてあたふたと言い訳。さて、その後。気まずさをにじませながら歩くミナミ

に対して、勇也は言った。

  「大丈夫。わかってます。もし俺が藤井さんだったら、そう考えたらさ、

   変に会社で噂になるのも嫌だし 変に目立つのも嫌だと思うし・・・

   大丈夫だよ、俺は。だからそんな顔すんなって、ね」

この時、勇也はまるで大人が「子供目線」に合わせるようにしゃがんでいる。

それに対して、立ったままの先輩ミナミは幼子のような表情。完全に技あり。

合わせて1本。勇也の勝ちだ。

    

これで勝負はついてるものの、何ならもう一つ仕事の話も付け加えていい。

勇也はミナミのドタキャンの際に冷たい雨に打たれたせいで、風邪をひいて

寝込む。なつき(志田未来)の配慮もあって、ミナミが勇也を看病。問題はこ

の後。勇也は立ち直ってしっかり試験に立ち向かう。ところがミナミは、看病

のせいでCM用アイデアを用意できず、今岡に叱られた。やるべき事をこな

した勇也、こなせなかったミナミ。コントラストは鮮やかだ。

既にこのドラマ、勇也が主食、ミナミがサプリになった。

    

なお、ラストの2人の描き方もかなりテクニカルなものだった。勇也が試験

問題の答と絡めて、ミナミの隣にいたいと言ったのに対して、ミナミは応答

をためらう。そこで突然、ライトアップされた噴水が上がる。以前、お金を投

げ入れてお願いした勇也の行為ともちゃんとリンクしている。光と水のアート

に魅せられるようにして、ミナミが言う。

  「私も一つだけ見えてることがあるの。

   あなたは、あなたは、私の自慢だってこと」

この「自慢」って台詞は、選び抜かれた言葉。ホメると同時に、仕事に限らず

自分との一体感を表し、なおかつ恋愛的甘さは抑えている。もちろん、勇也の

自己PRの最後にも使われてた言葉。クリーンヒットだ。

    

そしてさらに、ミナミは心の中でつぶやく。

  「結局この時はどうしても何も言えなかった。もし何か願うなら、この

   時間がもう少し続きますようにそう願いたかった。まだ、この時は」

手を握って2人は寄り添うものの、「まだ、この時は」という台詞が何を意味

してるのかは宙吊りのまま。つまり、この後どっちの方向にミナミが進むの

かは意図的にボカしてるのだ。これも技ありか有効だろう。決めたのは、お

そらく金子ありさ。テクニシャンの強豪だ。。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、「合わせる顔がない」という話もまた一段とテクニカルだった。大きく分

けて、2つの話が結び付けられている。仕事となつきだ。

まず仕事の方は、最初から素晴らしい。「今」が未来を変える、というコピー

がライバル会社に盗まれたわけだけど、この「今」は恐らく「今岡」を重ねてる。

つまり、今岡が未来を変えてしまうのに反抗したのがライバルだったのだ。こ

の辺り、練りに練ったストーリーだ。さすがに、「未来」を「なつき」と読むのは

深読みし過ぎだろうけどね。。

    

その後の「合わせる顔がない」っていうプレゼンテーションも、何とも味わい

深いもの。今岡の台詞は、その胡散臭さも含めて上手かったし、「現代人の

合わせる顔がここにあります」って決め言葉も絶妙だ。「合わせる顔」には

二重の意味が込められている。届けたい気持ちという意味と、顔を向き合わ

せるメディア(=テレビ電話)という意味。

そしてさらに凄かったのは、その後の反転。つまり、プレゼンの成功の後、

実はやっぱり、合わせる顔がないんだという話へと反転させる。それはまさ

に、さっき「合わせる顔がここにあります」と言った今岡自身のこと。つまり、

自分と違ってちゃんと母親を思いやってるなつきに対して合わせる顔がない

し、アイデアを盗まれたと言って一方的に非難してたかつての部下に対して

も合わせる顔がない(自分も部下のアイデアを知らないうちに奪い取ってた)。

そして、「合わせる顔がない」をめぐる一連のことを教えてくれた、優しいヨウ

コ(白石美帆)に対しても合わせる顔がない。そんな自分は結局、自分に合わ

せる顔がないのだ。

   

以上、まさしく精密機械のような構造、見事な技だ。お見事!拍手☆

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

という訳で、『サプリ』を選んだのは大正解だった。これだけの技がタダで

気軽に見れるテレビドラマとは、何と素晴らしい映像芸術なんだろう。

キャスト&スタッフに感謝♪ ではまた。。☆彡

      

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

            

P.S.なつきの今後は読みにくいけど、今岡や勇也やヨウコと心を通わせ

    たままハンガリーの母のもとに行く方が、スタイリッシュでエモーショ

    ナルだと思う。なつき&母、勇也&ミナミ、荻原&ミズホ、今岡&ヨ

    ウコ、ユリ&クリエイティブ採用っていう組合せ。

    ただし、荻原&ミズホは単なる心のつながりかな。今更、不倫のゴタ

    ゴタやってるヒマはないもんね。。

   

cf.野ブタ・修二、主食になれるか~『サプリ』第1話

   自然に曲がった子供の魅力~『サプリ』第2話

   エモーショナルの優越性~『サプリ』第3話

   片思いという不均衡~『サプリ』第4話

   サプリから主食へ~『サプリ』第5話

   透けてみえたのは何か~『サプリ』第6話

   大人のハート~『サプリ』第8話

   構造の認識、意味の解釈~『サプリ』第10話

   現在から未来へ、あなたと共に~『サプリ』最終回
 

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コメント

こんばんは!お久しぶりです。
時々のぞいていたのに記事がなかったような気がするんですけど・・。
こちらもいっぱいいっぱいでその上、泣くし、腹だたしいし、しばらく怒りモードでしたしね・・。
サプリから主食へ逆転したとは思えないですが、少なくとも今週はかなり成長した勇也が見られたと思います。
私としても相当、譲歩して見ていたのは確かですが。

金子さんは実力ある方だと私も思っていたんですけど
今回はそう言えないくらいショックな点が多くて(滝汗)
でもこれは全体像を俯瞰して見ているテンメイさんと、一点のみを凝視する私の主観の違いですね。
残り2回、同じく一点凝視で見届けるつもりです(きっぱり)

投稿: かりん | 2006年9月 5日 (火) 22時33分

>かりんさん

お久し振りです。
主に時間の関係で、半月ほどドラマ記事は休みました。
「記事がなかった」ってのが笑えますネ(^_^;)

一点凝視、きっぱりですか。。
一点ってのはともかく、ママの凝視は怖くて♪
やっぱ、触らぬママにたたりなし。
早めに退散しよっと。。☆彡
   


投稿: テンメイ | 2006年9月 6日 (水) 01時15分

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ひぇぇぇーっ、今日は21時ジャストに家に着いたよぉぉ!!! …まっ、とりあえずセーフでホッ(;^_^A さてさて…先週の予告と今週のこのタイトルっ!ますます盛り上がってほしいけど…予告で何だか気になる事言ってたよなぁー(gt;_lt;)…とにかく~、今週のサプリ..... [続きを読む]

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瑛太(えいた、1982年12月13日 - )は、日本の俳優である。東京都板橋区出身。保善高等学校卒業。身長179cm。62kg。血液型はB型。本名は永山瑛太(ながやまえいた)。パパドゥ所属。 [続きを読む]

受信: 2006年9月22日 (金) 01時16分

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