高野進・新しい自分を求めて~NHK『プロフェッショナル』
凄く内容の濃い45分だった☆ 『プロフェッショナル 仕事の流儀』file:033、
「ゴールにいるのは、新しい自分 陸上コーチ 高野進」。今までこの番組は、
気になりつつも見たことが無くて、今回が初めてだ。全体的に『プロジェクトX』
のパクリっぽい作りが気になるけど、肩の凝らない良質のドキュメンタリー。
ただし、NHKスペシャルなどと比べると、一般ウケ狙いのヒーロー物語に近く
なってるのは確かで、そこは視聴者の側の見る力が要求される所だろう。
キャスターは、最近メディアに出まくりの脳科学者・茂木健一郎と、NHK・住吉
美紀。茂木の進行はハッキリ言ってぎこちないが、住吉と共にほんわかといい
味をかもし出している。
番組は、2003年パリ世界陸上・男子200m決勝からスタート。末続慎吾が
銅メダルに輝いた記念すべき大会だ。陸上ファンにとって、日本人の短距離
選手が世界3位になるというのは、マラソンの優勝よりも衝撃的な出来事だっ
たと言っても言い過ぎじゃないだろう。レース後に末続と抱き合ったコーチが、
高野進。スポーツ科学担当の助教授であると共に、東海大学湘南キャンパス
で陸上部コーチを努めている、かつての400mトップランナー。1992年のパ
ルセロナ五輪、31歳の時に、決勝まで残った話は有名だ。裏返して言うと、そ
のくらい世界の短距離の壁は、日本人にとって厚かった。。
高野は、陸上部員60人以外に、末続を始めとする社会人も教えている。濃い
サングラスをかけてじっと見つめたり、ビデオを回したりする姿が映し出された
後、高野が大切にしてる一つの流儀が紹介される。「選手に乗り移る」。要す
るに、自分がその選手になって走ってるかのようにイメージする事で、イメージ
トレーニングと同種の行為と考えていいだろう。もし科学的に測定すれば、高
野の全身には、まるで走ってるかのような変化が生じてるはずだ。
高野は手取り足取り教えたりはせず、短い言葉で要点だけ伝える。例えば、ギ
アを変えろ、とか。具体的に考えるのは選手であって、トータルで見るとコーチ
と選手が共に新しい走りを目指すという形になっている。高野にこうした姿勢を
教えてくれた一つの大きなキッカケは、末続との出会いだった。
コーチ留学を経た後、35歳で新しい理論をたずさえて母校に着任した高野は、
直ちに大きな壁とぶつかった。それまでの普通の短距離理論は、ももを高くあ
げて振り下ろし、地面を強く蹴る方法。でもこれは、筋力に劣る日本人には不
利だと思った。そこで考え出したのは、重心を前にして、自然に効率よく脚を出
していく忍者のような新走法。ところが、この理論を押し付けられた選手たちの
反応は悪くて、自分しか出来ないことを押し付けるな、といった感じのつるし上
げミーティングまであったようだ。初めて味わう辛さに悩んだ高野だったが、結
局自分を信じることに。
ただ、末続との出会いが教え方を軌道修正することにつながった。と言うのも、
末続は高野に対して自分の考えを提示し、それに高野が反応して、2人で走り
を練り上げるという形になったから。指導者ではなく、伴走者としてのコーチとい
うポリシーが出来上がった。
一方、「太い幹」の一つとしての基本的な走り方は反復練習するらしい。スタジ
オで高野は、実際に基本の基本を見せてくれた。まず、姿勢を作る。バレリー
ナみたいに踵を揃えてつま先だけ開いて、腰の後ろに手をあて、肩甲骨をちょっ
と後ろに引き、頭のてっぺんにフックがついてて上に引っ張られるような感覚で、
あごを引く。そこから足先を閉じて、手を下ろす。これがバランスの取れた基本
姿勢。ここからバランスを崩して前進する。まず、片足つま先立ちになり、その
脚を前に出すことで重心を前にして、スッと忍者のように前進。
これでホントに速くなるのかっていう住吉のいいツッコミに対して、高野は、人に
よっては速くなる場合もある、と慎重に答えた。これは正直な言葉だろう。要す
るに、高野の理論は必ずしもこれまでのものより優れてるとは言えない。ただ、
新しいのは確かであって、その新しさが成長のキッカケになった選手が何人か
いるってこと。そこに末続が含まれてるから、一躍注目を浴びたわけで、その
影には、この理論が合わない選手も大勢いることを忘れるべきではない。高野
が正しくて、反発した昔の選手が間違ってるというような単純な善悪図式は通用
しないってことだ。そんな事は当然承知しながらも、高野としては自分を信じて行
こうってことだろう。
一方、高野が一番強調するのは、人間力とか全人的成長。これが結局、本番
での強さにもつながるわけで、自分もそれが分かり始めた20代後半からまた
一段と伸びたって話だ。例えば、要点だけ教えて後は選手自身が考えることに
よって、選手の人間力は成長する。
他の例として挙がってたのは、今年の日本選手権100mで優勝した、大学3年
の塚原直貴。彼にも、「10年先に花を咲かせる」ことを目指して、より具体的に
は6年後のロンドン五輪での活躍を目指して、新たな試練を与えてる。一ヶ月
に5つの大会に出場させるってのもそうで、緊張や疲れで寝坊した塚原が、練
習に1時間遅刻する姿も映ってた。ここでナレーターは、高野が珍しく「二流選
手」と強い言葉を投げかけた、とか言ってたけど、映像で見る限りは強くも何とも
なくて、むしろ温かい態度だった。あるいはフツーの接し方だったと言ってもいい。
また、中学生の陸上教室のコーチの助手として塚原を連れて行った話もしてた。
つまり、何の役にも立たないとかそこで思うんじゃなくて、小さい事なんか気にせ
ずやってやろうって感じの余裕を持たせるのが重要だってお話。これは確かに、
長期的スパンでは正しいなと感じた。それを素直に受け止めた塚原も、流石は
トップアスリートだ。
最後に、番組のタイトルである「プロフェッショナル」について意見を聞かれた高
野はこう答えた。
「最終的に、プロフェッシヨナルっていう人は、逃れられない使命感を
持ちつつ、とめどもないヴィジョン、希望を持ってる人たちじゃないか
と思いますね・・」
100mで言えば、9秒台はもちろん、世界一とか世界記録を狙うような最先端
の仕事をする人間のことだろう。ごく一部の限られた人達になってしまうが、彼
らプロフェッショナルの仕事が、その他のアマチュアに大きな刺激を与えてるこ
とだけは間違いない。今後、高野たちのヴィジョンや希望がどう実現されていく
のか、興味深く見つめて行きたいと思う。もちろん、アマチュアとして自分自身
が走り続けることの方が重要だけどネ。
「ゴールの向こうには 新しい自分が待っている」ことを信じつつ。。
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