将軍、僕は高炉を立てます。間違ってないですよね?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
将軍?!
・・・・・・(チャポチャポチャポ)・・・・・・
☆ ☆ ☆
最初に、まだご存じない方が多いだろうから、もう一度告知しておこう。ウチで
は今期、新企画を導入する。各回のドラマが終了した後、原作の対応する部
分だけを読んで、比較記事を書く。アップはわざと時間を空けて、土曜日前後。
ドラマに全く無かった情報には触れない。実際問題、色々と難しいのだが、これ
だけ配慮しておけば、いわゆるネタバレ記事にはならないはずだ。
たまたまノロウイルスに続いてインフルエンザの猛攻まで受けたので、第1回分
は少し遅れて昨日の夕方になってしまったが、次回以降は定期的にアップ、記
事の質も少しずつ高めて行きたい。
「比較して何の意味があるのか?」というような初歩的質問には、「そこに意味を
求めて何の意味があるのか?」とでも軽く応答しておけば十分だ。実際、『たった
ひとつの恋』で脚本やノベライズとの比較記事を書いてみたら読者は大勢いたし、
『野ブタ。をプロデュース』で原作関連記事を書いた時にも同様の反応だった。
ただ、あえてドラマと原作の比較の意味or意義or理由を書くなら、まず第一に、
「ドラマとは何なのか?」を知ることだ。より正確に言うなら、「ドラマ固有の特性
とは何なのか?」。つまり、原作のあるドラマの場合、ストーリーの大枠は原作か
ら来てるのであって、ドラマ特有のものではない。しかし、共通の大枠をはずれた
部分のストーリーはドラマ固有のものだし、映像や音声も当然ドラマ固有のもの
だ。比較を通じて、原作とは違うドラマ固有のものの具体的あり方を詳細に見て
行くことが、ドラマを観る視線を鍛えてくれることと信じている。
第二の意味or意義は、ドラマから原作に向かうキッカケを作ることだ。より正確
に言うなら、ドラマからドラマの外部に向かう線を引くことだ。私はドラマ好きだが、
ドラマという虚構=フィクションだけを特別視するつもりは全くない。同じ虚構にも
小説・映画・アニメ・漫画と色々あるし、その向こう側には現実=リアリティが広がっ
ている。『華麗』で言うと、ドラマの外部に骨太な原作小説があり、さらにその向こ
う側には広大な政治・経済・社会・歴史的現実が存在する。私の視線は、むしろ
そちらに魅惑されているのだ。。
☆ ☆ ☆
さて、読者を減らしたところで、いよいよ本題に行こう。今回のドラマ、視聴者が
どう思ったのかはちょっと興味深い。と言うのも、もともと鉄という重厚長大産業
と金融をめぐる本格的な60年代経済ドラマで、若手アイドルもほとんどいない。
それに加えて、前回の冒頭で連続的に視聴者の目を弾き付けたような、雪山の
シーン、製鉄所の事故シーンなんてのも、今回はなかった。前回ほどの絢爛豪
華さも感じられない。
これで、キムタクファン以外はどう反応するんだろうってこと。今回だけなら、話
題性に乗っかって新たな視聴者を呼び込んでるだろうから、視聴率的に問題は
ないだろう。でも、これがずっと続いた時、前回叩き出したような驚異的視聴率
を維持できるんだろうか。まぁ、個々のキャストがそれぞれ固定ファンを抱えてる
し、原作ファンもいるから、何とかなるのかな。
もちろん、私自身は今回も十分面白かった♪ どのくらい面白いかって言うと、
冒頭に掲げる台詞の候補が多すぎて、選ぶのに迷うくらい面白い。ただ、ドラマ
の中心は、あくまで阪神特殊製鋼の高炉建設だ。したがって、表面的には強気
の万俵鉄平(木村拓哉)が、心の底にある不安を僅かに見せた部分を、冒頭に
引用しておいた。
この箇所、まず鉄平の相手が、敬介じいさんになついてた巨大な鯉「将軍」だっ
てことが注目される。つまり鉄平は、家族にも従業員にも業界人にも、弱気や不
安は見せられないのだ。高炉建設に必要な条件は3つある。金、許可、そして、
強い意志だ。意志を支えるのは、現在までの実績と、未来にわたる自信。鉄平
は、確かに現在まで実績を積み上げて来た。しかし、その好調さが未来に渡っ
て続く絶対的保障など何も無い。国内だけでも競争や対立が激しいのに、外国
資本の脅威が迫っており、鉄平が優秀であればあるほど、こうゆう激動状況の
不確定さは(暗黙の内に)理解してるはず。したがって、未来にわたる自信など
たかが知れたものにすぎず、高炉建設への強い意志を支えるには物足りない。
ところが、鉄平の立場上、周囲の人間に「高炉建設、間違ってないですよね?」
などと弱気な質問は出来ない。士気に影響すると言うより、信用に影響し、資金
に影響する。そこで浮上した相談相手が、死んだ敬介じいさん=将軍と言う訳だ
(この等号は複雑)。この時、将軍が「ウン、ウン♪」と大きくうなづいてくれれば、
個人的に笑えたんだけど、残念ながらこの真面目なドラマにそうゆうお笑いor
ツッコミ所は無い。あるいは将軍が全く無反応で、鉄平が「あれ、電池切れか?」
とつぶやいてくれるような通俗的サービスも無かった♪ 将軍は無言で反転して、
泳ぎ去ってしまったのだ。。
前期の『ひと恋』の記事では、延々と「悲劇か否か?」を問い続けたけど、今回
は基本的に悲劇と見ておいていいんだろう。と言うのも、初回冒頭の倍賞千恵
子のナレーションで、いきなり「愛と憎しみと悲しみに満ちた壮絶なる物語であ
る」と語られてるからだ。これは『ひと恋』のヒロト(亀梨和也)のモノローグ「だけ
どそれは、ぼくたちの悲劇の始まりだったんだ・・・・・・」などとは違って、後で時
制も含めて大きく転換することなどないはずだ。
そこで、悲劇としてこのドラマを見た時、高炉建設が成功するはずはない。これ
は別に、私が原作の結末を形だけうっかり見ちゃった事とは関係ない。今まで
もウチでは常に、ドラマの中身に即した予想を立てつつ記事を書いて来たし(流
れをつかむ作業の一環)、ドラマと原作の結末が一致する必然性もないからだ。
実際『野ブタ』なんて、ドラマと原作とではかなり異なるラストになっていた。
それはともかく、高炉建設が成功しないのであれば、その失敗を暗示するもの
が既に伏線として張り巡らされているはずだ。その最たるものが、反転した将軍
が残していったチャポチャポチャポという静かな音だろう。
☆ ☆ ☆
では、それ以外に高炉建設失敗を暗示するものとして何があったか。分かりや
すいのは大同銀行本店(東京)で、鉄平と三雲頭取(柳葉敏郎)、綿貫専務(笑
福亭鶴瓶)と小島常務の4人で行われた融資相談だ。三雲が前向きな回答を
鉄平に示し、不安を示す綿貫や小島と言葉を交わした部分。
三雲「銀行家として、企業の成長性を見据えた考え方をして頂かないと」
綿貫「日銀出身の方はそう、すぐに理想をおっしゃる・・・」
小島「行員たちが苦労して集めた預金です。1%でも、失敗の可能性の
ある融資は避けるべきではないでしょうか」
三雲「考えを変えるつもりはありません。私は、志の高い企業を育成す
ることが、銀行の使命だと信じてます」
既に前回書いたように、私自身が現実主義者ということもあって、綿貫や小島
の懸念はよく分かる。高炉建設の総費用250億円のうち、阪神特殊製鋼の自
己資金は50億のみ。残りの100億が阪神銀行、60億が大同銀行、40億が
長期開発銀行など。消費者物価指数の統計データから推測した時、当時の貨
幣価値は現在の約3.7倍もあるし、高炉の場合は、製品である鉄が売れなく
ても稼動させ続けなければならないので、大切な運転資金が次々に鉄クズに
なってしまうというリスクもある。そこで追加融資すれば、共倒れ地獄決定だ。
だから、志だの使命だのに即した日銀出身の三雲頭取の理想主義に、現場の
苦労を知る生え抜きの取締役2人が顔を曇らすのは当然のこと。最悪なのは、
「考えを変えるつもりはありません」という言葉の速さと強さだ。これが、カッコ良
さだの決断力だのとは何の関係もない事くらい、大人の視聴者なら当然感じ取っ
ているだろう。トップのこうした即断即決が、僅かな成功例の陰で膨大な失敗例
を生み出して来たことを、知らないはずがない。無謀な融資のツケが、つい数年
前までの巨大な金融危機につながった事実を、忘れた者などいるはずがない。
もちろん、全ての融資にはリスクがある。国債購入という名の国家への融資で
さえ、リスクと無縁ではない。だから、小島常務の「1%でも」というのは言い過ぎ
or 誇張だ。でも、日銀という浮世離れした世界から実社会に来たばかりの頭取
が、生え抜きの懸念をピシャリと頭ごなしに押さえつけた言葉自体、まさに悲劇
的なものだった。大蔵省主計局の美馬(仲村トオル)がクスねて来た情報によれ
ば、不良貸出高355億、元利延滞271億。これだけの不良債権の重みを理解
してない天下りのトップが、情熱的に理想主義を語る時、高炉建設の失敗を感
じ取るのは当然のことだ。
最後に一つだけ、高炉建設失敗という悲劇を暗示するものを挙げておこう。それ
は冒頭、従業員を集めて鉄平が熱く高炉建設宣言したシーン。従業員たちは、
ほぼ全員熱狂的に喜んだ。こうした熱狂的画一性が歴史的に何を生んで来たの
か、言うまでもない事だろう。阪神特殊製鋼のモデルとささやかれる山陽特殊製
鋼の06年3月末現在の従業員数は1320人。阪神特殊製鋼が1000人として、
高炉の借金が200億だから、一人当たり2000万円。これに貨幣価値の違いを
加味すると、一人当たり7000万円以上の借金を負う計算だ。この重さを即座
に計算できる者もいず、何となく感じ取る者さえいない状況を示すあのシーン、
妙に勢いのある音楽が流れ始めたあの箇所もまた、悲劇を暗示するものだった。。
☆ ☆ ☆
そろそろ時間だ。今回、他にも注目すべき点は色々あった。例えば、大介(北大
路欣也)、相子(鈴木京香)、寧子(原田三枝子)の3P! よくぞ日曜21時台に
やってくれた! すぐ寧子が逃げ出すシーンになった辺りが、ゴールデンの限界
か。また、3Pに関連して銀平(山本耕史)が冷静に話した、母・寧子の暗い過去。
さらに、鉄平と芙佐子の再会、等々。
ただ、ウチはこの60年代経済ドラマと真正面から向き合うつもりなので、今回
は核心部分、阪神特殊製鋼の高炉建設問題に焦点を絞って論じてみた。なお、
もう一つの核である阪神銀行の金融再編問題については、また後で触れたい。
なお、こうした記事で失った女性読者については、またいずれ恋愛ドラマで取り
戻したいと思ってる♪ ちなみにアクセスの総数は早くも昨日、過去最高を大幅
に更新したが、ハッキリ言って「ハズレ検索」だらけのようだし、今後落ち着いて
いくだろう。チラ見する100人より、本気で読む1人を獲得したいもんだ。
そのために、こちらも本気で書く。(熱っ・・♪) ではまた。。☆彡
☆ ☆ ☆
P.S.冒頭にあった、二子(相武紗季)と一之瀬四々彦(成宮寛貴)のほんわか
シーンみたいなものを、もう少し増やした方がドラマとして親切かも。私自
身は、もっとお堅くてもいいけどネ。。
P.S.2 鉄平に続いて寧子が口にした「将軍・・」って言葉。敬介じいさんらしき
裸体が長めに映ってたけど、ひょっとして下ネタのギャグだったのか♪
P.S.3 前回の記事でJFE条鋼株式会社について軽く触れたら、かなり検索
が入って来た。要するに、よそでほとんど触れられてないからなんだけ
ど、残念ながら検索の目的は、内容的関心ではなく、単なるロケ地情
報入手のようだった。。
P.S.3 ヤマザキの華麗ぱん、いまだお目にかかれず。(既に流行遅れか・・)
華麗うどんの発売にも期待♪
P.S.4 鉄平の車の暴走シーン、ハリウッド映画の引用か。。
P.S.5 「日銀出身の方はそう、すぐに理想をおっしゃる・・」という台詞が、
つい先日理想をあっさり撤回して利上げを見送った現在の日銀への
皮肉に聞こえたのは私だけだろうか。。
cf.夢見る息子vs現実を見る父~『華麗なる一族』第1話
鉄平と大介の心理分析~『華麗なる一族』第1話補足
『華麗なる一族』第1話、ドラマと原作の比較
『華麗なる一族』第2話、ドラマと原作の比較
腰を抜かした理想主義者たち~『華麗なる一族』第3話
『華麗なる一族』第3話、ドラマと原作の比較
理性を翻弄するものの次元~『華麗なる一族』第4話
『華麗なる一族』第4話、ドラマと原作の比較
多様なバランスの饗宴~『華麗なる一族』第5話
『華麗なる一族』第5話、ドラマと原作の比較
鉄平と大介、2人のデスペラード~『華麗なる一族』第6話
『華麗なる一族』第6話、ドラマと原作の比較
星に願いを~『華麗なる一族』第7話
『華麗なる一族』第7話、ドラマと原作の比較
死と再生~『華麗なる一族』第8話
『華麗なる一族』第8話、ドラマと原作の比較
大切に守りたいもの~『華麗なる一族』第9話
『華麗なる一族』第9話、ドラマと原作の比較
なぜ明日の太陽を見ないのか~『華麗なる一族』最終回
『華麗なる一族』最終回、ドラマと原作の比較
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冬ドラマは『華麗なる一族』で決まり!☆
『華麗なる一族』鉄平=キムタクのモデル
『華麗なる一族』最終回、鉄平の手紙と遺言
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