『あしたの、喜多善男』最終回、原作『自由死刑』との比較
終わった。。私自身も含めて、『あしたの、喜多善男』が好きだっていうドラマ
ファンはそれなりにいたはずなのに、ずっと悲惨な低視聴率。よくまあ、最後の
第11話まで放送を続けてくれたよなぁ♪ 関西テレビ、フジテレビやスポンサー
を始めとする関係者一同に感謝、感謝☆
さて、最終回の本格的レビューは、例によって木曜か金曜になると思うけど、そ
の前に気になってた事を簡単に片付けておこう。原作との比較だ。正確に言う
と、原案小説との比較。島田雅彦の『自由死刑』(集英社)は最初から買ってた
ものの、ネタバレに注意してゆっくり読み進めてたから、結末がどうなるのか全
く知らなかった。まあ、途中までの流れと島田っていう作家のキャラを考えれば、
おそらくホントに死ぬだろうなとは思ってたけどね。少なくとも、ハッピーエンドは
あり得ない。まあ、ドラマの結末がハッピーエンドかどうかって話もあるけどさ。
ちなみに今回、宵町しのぶ(吉高由里子)が映画『瀬戸のしあわせパン~愛と
やさしさが集まる店~』の稽古場で台本(or シナリオ or 脚本)を読んでる時に、
島田雅彦がひょっこり出演してたのには驚いた。しのぶが長い台詞を読み上げ
た後で、涙を流して「死なないで」と訴えかけた場面ね。
☆ ☆ ☆
先に『喜多善男』最終回のあらすじを書いとこう。鷲巣英人殺害の真犯人は、秘
書の森脇大輔(要潤)とウェイシス社員の田中多枝子(水谷妃里)。主犯の森脇
が、鷲巣みずほ(小西真奈美)の犯行に見せかけてた。杉本マサル(生瀬勝久)
と与田良一(丸山智己)が警察を差し置いて、自供した殺害実行犯が連絡を受
けたというみずほ名義の携帯を調べたことで解決。みずほは釈放されて、ウェイ
シスを立て直すことになった。杉本の配慮で受け取れることになった、個人名義
の保険金2億をもとにして。長谷川リカ(栗山千明)もなぜか無事釈放されたもの
の、平太には別れを告げて去って行った。
そんなことより重要なのは、喜多善男(小日向文世)の自殺計画。場所がどこか
を探す時、しのぶがアンドリュー・ワイエスの絵(クリスティーナの世界)との関連
を思いつき、みずほがカウンセラー・江端(岩松了)の手助けで、その絵と似た
場所(善男の中学の裏あたり)があるのを思い出し、矢代平太(松田龍平)が必
死になって発見。荒れ野の果ての、断崖絶壁のそばに建てられた一軒家(絵と
似た光景)から、海に飛び込もうとする善男を見つけた平太は、自殺した親父
に持ち続けてる愛情とかを話しながら説得。
最後は、平太が強引に善男の足にしがみついて、カレーを作ってもらうことに。
カレーパーティーの誘いの電話を受けたキャバ嬢・ミュウ(桂亜沙美)が他のキャ
バ嬢(渡辺万美、片山瞳ほか)に報告して、みんな大喜び。善男はみずほを一目
見て無言で別れを告げた後、母親・静子(加藤治子)に手紙を書いて、新しい友
達が出来たことを報告。一緒に行くから、カレーを作ってくれと頼む。ラストは今
までの服やかばんを捨てて、リュック姿で新たな「あした」に向かって歩き始めて、
無事終了。めでたし、めでたし。。
第1話で善男がしのぶと会ったジャズクラブでも流れてた、ギルバート・オサリバン
の往年の名曲『Alone Again』(アローン・アゲイン=また1人ぼっち)がとても印象
的だった。やっぱり小曽根真のジャズピアノは素晴らしい! あと女性ヴォーカル
もね。第1話と同じ歌手のはずだけど、TIFFANYでいいのかな。。
☆ ☆ ☆
では、『自由死刑』はどうなってたか。そもそも、わざわざ「原案」とされてるくらい
だから、ドラマとは大幅に違う。「矢代」じゃなくて八代平太は、悪者で脇役なのに
対して、宵町しのぶは誘拐&逃避行を通じて、中盤からずっと善男に寄り添う。
平太よりもしのぶが善男の心を支えるのだ。
時間がないから、本当の結末だけ書くと、外科医の殺し屋(ドラマだと温水洋一)
が、善男を殺すのを止めて、逆に平太の命を奪う(内臓を奪って死に近づける)。
その後、今度はしのぶから、善男の自殺を止めてくれという依頼が外科医に来
るんだけど、結局上手くいかない。
で、善男は予定通り、最初に決意してから10日目(物語の最初からは8日目)
のFRIDAY(金曜)に、断崖絶壁から車で突っ込んで自殺しようとするんだけど、
幸か不幸かとりあえず助かってしまう。無我夢中で泳いで、どこかの無人島み
たいな所へたどり着き、そこで餓死へと向かうことになるのだ。その様子は最終
章「SOMEDAY」に書かれてる。これは「some day」(=いつか)、つまり「自殺
を試みた後のいつか」という意味でもあるし、「sunday」(=日曜=安息日)と発
音を合わせた言葉遊びでもある。
最後に善男が本当に死んだかどうかは、ハッキリとは分からないものの、普通
に読めば無人島みたいな場所での孤独な餓死の可能性が高い。身体の痛み
と寒さに苦しみながらの、思いがけない悲惨な死。ただ、ヘリコプターで助けが
来たとも一応読める。死の間際の幻想と見る方が自然だと思うけど、一縷の望
み、希望の光のようなものを読み取れなくもない。。
さらに興味深かったのは、小説の後にあとがきとして付いてた4ページの文章
「自由死刑とは何か?」。ここで島田は、自分が今まで未来を予見する小説を
書いて来たこと、この小説で21世紀初頭が見えることを述べた後、こう書いて
る。「鬱病じゃなくとも、二、三十年生きていれば、誰しも一度や二度は自殺の
誘惑に駆られるものです。私も思春期以来、たびたび自殺に思いを巡らせてき
た。それほど真剣に思いつめなかったせいで何とかサバイバルしているけれど
も、自殺には強い動機とか底無しの絶望なんて必ずしも必要ではない」。
で、この小説は、自殺と縁が深い四十代に自分がなる前に、自殺を考えること
自体に飽きておこうとして書いたものだという話だ。だから、最後は自殺なんて
バカげた喜劇だから止めておけ、という結末にする予定だったのに、最後の1
日(FRIDAY=金曜)あたりで話が変わってきて、結局は後日(SOMEDAY=
いつか)を追加。つまり、意図的な死の予定日を過ぎた後、思いがけない形で
迫ってくる死そのものと向かい合う姿を描いたわけだ。自分で自分を死なせる
のではなく、自分を超えた場所から訪れる死の様子。その過酷さ、理不尽さ。。
結局、島田は、自殺を考えるのに飽きるとか死を笑い飛ばすとか言うより、むし
ろ死の魅力にひきつけられてしまった形になっている。だからこそ、あとがきの
ラストは、精神分析の創始者フロイトの名前を出して、「死の欲望」(or 欲動)と
いう有名な仮説的概念を示唆しながら、こう締めくくっているのだ。
「私がこの作品を通じて何かを悟ったとすれば、それは食欲や性欲、知識欲とと
もに死に欲というものがあるということだ。フロイトは正しかった」。
☆ ☆ ☆
という訳で、今晩はこの程度にしとこう。原作については、全体を見渡してきっち
り分析・考察した本格的な記事を後で書きたいと思ってるものの、時間がないか
も知れない。ドラマの最終回については、木曜か金曜に本格的レビューをアップ。
それまで、あえて感想は書かないことにしよう。さあ、レビューの最初の一言は、
何になるかな? やっぱ、アレでしょ♪
ではまた、あとで。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.ちなみに、飯田譲治の脚本ほどじゃないけど、島田の原作も相当カレー
にこだわってる。私は第9話レビューで、カレーとはお香だと書いたけど、
原作的には食欲の象徴になってるのは確かだ。つまり、死の欲望や性欲
と同じくらい基本的な人間の欲望を表すものってこと。
P.S.2 2015年5月28日、今井雅之氏の訃報が入った。まだ54歳の若さ。
31日にはCS放送のスカパーが、追悼として、この番組を再放送
するとのこと。合掌。。
cf.パンドラの箱に残されたもの~『あしたの、喜多善男』第1話
母を抱擁するマゾヒスト~第2話
服のない人生はない~第3話
魂の道の永遠性~第4話
善悪の混沌への誘い~第5話
父殺しへと向かったファザコン~第6話
偶然という名のふれ合い~第7話
束縛された愛の喜び~第8話
死ぬ自由より、生きる不自由~第9話
つながり合う心と心~第10話
生へとつなぎ止める他者~最終回
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コメント
テンメイさん、こんにちは!
とうとう終わってしまいました。私の楽しみな火曜日が終わってしまいました。。(T-T)
平太が善男の足にしがみつくシーンがすごく良かったです♪
テンメイさんの以前のレビューで喜多善男は「解離性」か「境界性」では?のようなものがあり、私も同様に考えていました。
あくまでもドラマの中での話ですので実際と異なる部分も多くありますが、同じような症状に悩む人の希望になり得る事を期待したいです。
勝手ながら、私のブログにリンクを貼らせていただきました。事後報告で申し訳ないです。
お嫌でしたら言ってください。ソッコーはずしますんで… (^^;)
最終回のレビュー、楽しみに待っています♪
投稿: まゆ | 2008年3月19日 (水) 15時49分
>まゆさん
こんばんは
とうとう終わっちゃいましたね。
火曜日のドラマを本格的にレビューするのは初めてのこと。
ここ2ヶ月、火曜が特別な曜日になってましたが、
これでまた一週間の感覚が変わりそうです。
足にしがみつくシーンね。なりふり構わず自殺を
止めたわけで、確かにインパクトがありました。
ま、感想や考察はレビューの方に後回しってことで♪
喜多善男の精神状態の診断について。
第10話のレビューで、解離性同一性障害と統合失調症
(妄想型)の可能性は一応指摘しておきました。
いわゆる「ボーダーライン」(境界性パーソナリティー障害)
については、否定的に触れています。
これはもともと非常に曖昧な疾患概念ですが、もし現在の
診断基準に従うのなら、ちょっと苦しいと思います。
ただ、重要なのは、病名なんかよりも病人(or患者)。
すべての人間が何らかの意味で心を患っているという意味
では、視聴者の一人一人がどう受け止めるかが問題です。
ドラマからポジティブなものが伝わってるといいですネ♪
自殺志願者もいるでしょうが、もうちょっと生きてみよう
かなっていう気持ちになってることを願っています。
リンクを張って頂けたそうで、ありがとうございます。
それでは、後でこちらも張らせて頂きましょう。
お嫌でしたら、ソッコーはずしますけどネ♪
ではまた、後ほど。。
投稿: テンメイ | 2008年3月19日 (水) 23時22分