朝日新聞の『CHANGE』レビューについて
3週連続で『CHANGE』のレビューをスルーした。キムタク=木村拓哉主演の
月9で、平均視聴率はややビミョーながらも20.94%。政治ドラマとしては十分
な人気だし、いまだに火曜日になるとCHANGE目当てらしきアクセスがかなり
入って来るから、心苦しい部分はあるんだけど、残念ながら余裕がないし、気力
も湧かない。
4月期は、私としては久し振りに『ラスト・フレンズ』と『Around40』の2本をすべ
てレビュー(一部は単なる感想)して、おまけにCHANGEも少し書いてるから、
疲れきってるのだ。この1週間はラスフレの特別編だけだったから、CHANGE
の第8話について簡単な感想くらい書いても良かったかも知れない。でも、ここ
3週間はそもそもマジメに見てないし、録画もしてないから書けないわけ。最低
限の水準が保てないようなら、何も書かない方がマシだ。
とはいえ、ちょっと気になってるのは事実で、たまたま手頃な新聞記事を見つけ
たから、軽くコメントしとこう。朝日新聞6月30日朝刊の『TVレビュー』で、いわ
ゆる日芸(ニチゲー)、日本大学芸術学部准教授の中町綾子が短い感想を書
いてる。題して、「敵の本質描かぬ『CHANGE』」。
全文700字弱の文章を手短に要約&引用すると、こうゆう話だ。
ラスフレは若者の孤独な心を描いて話題となり、アラフォーは独自のライ
フスタイルを見せて関心をひいた。若者でない男性陣が注目したのは
CHANGEで、面白いという意見も少なくない。
「決め手は、朝倉の『言葉』である。・・・・・・ただ、私にしてみれば、これで
解決しちゃうの?という思いが拭えない。主人公が問題を解決する過程と、
彼が対峙すべき敵の本質がほとんど描かれていない。今、彼は総理の座
から降ろされようとしているが、それは政局の描写にすぎない。
キムタクに約束されたヒーロー像。そこには、人間や政治劇の葛藤はあま
り描かれず、批評性も感じられない。でも、現実の政治も、案外こんなだっ
たりして」。
CHANGEに不満を抱いてる点においては、私は中町と同じだ。でも、不満のあ
り方はかなり違ってる。まず、ニチゲーの准教授として中町が示すべきものは、
「現実の政治も・・」なんて曖昧な言葉じゃなくて、具体的な作品だ。もっと優れた
政治ドラマの例を挙げないと、何と比べて不満なのか分からない。新聞や雑誌
の政治報道、あるいは専門家の政治分析と比較するのなら、やや無いものね
だりにも思えてしまうだろう。ドラマなりの役割というものを見る必要があるのだ。
「問題を解決する過程」という言葉も曖昧で不適切だ。表面的プロセスなら、そ
れなりに描かれてる。内面的プロセスなら、小説じゃなくてドラマなんだから、キ
ムタクの表情や語り口、仕草などをもっと見るべきだろう。言語的な説明は無く
ても、非言語的な描写なら色々読み取れるはずだ。そのくらい、専門家なら当た
り前の作業だろう。
レビュータイトルにもなってる「敵の本質」とは、何のことを言ってるのだろうか。
神林(寺尾聰)ら古い政治家たちの分かりやすい欠点なら、ちゃんと簡潔に表現
されている。つまり、国民の目線に立たずに私利私欲に走ってるとか、大きな理
想を忘れて目先の醜い争いごとに終始してるとか、正々堂々と闘わずに裏でコソ
コソやってるとかいう話なら、「ほとんど描かれていない」というのは言いすぎだ。
ドラマとしてはわりと頑張ってると言ってもいいかも知れない。
私自身は、そもそも「敵」のとらえ方が違ってる。倒すべき敵と、その力を持った
素晴らしい味方=ヒーローという構図が、そもそも全くの古典的虚構にすぎない
のだ。CHANGEはここまで、ラスフレ(の終盤)と同じことで、善悪を峻別した上
で、善が大勝利して悪が大敗する姿を描くドラマになってる。外見的にも優れた
スーパーヒーローとその仲間の大成功を見て、視聴者はカタルシス(=感情の
浄化)を得るわけだ。もちろん、外見そのものによる「萌え」とセットにして♪
では、現実の政治とは何なのか。まず認めるべきことは、どこにも素晴らしい
ヒーローなんていないこと。今後もそんなものは現れないということだ。ヒーロー
に見える者やその陣営にも、様々な問題点が含まれてるし、敵に見える者やそ
の陣営にも、マトモな部分がある。主席秘書官の美山(深津絵里)がほんの少
し総理と離れる程度では済まない、白黒の複雑怪奇なまだら模様こそが政治
のリアリティであって、その中で少しでも良い方向を目指して、必死にもがくこと
しか出来ないのだ。
もちろん、現実がそうだからこそ、フィクションの世界くらいはスッキリしたいとい
う思いは理解できる。ただ、どの程度の出来の作り話なのかが問題となるし、
現実が認識できてるかどうか、フィクションを現実とか理想像と見間違えてない
かどうかも問題だ。あり得ないものを幻想として抱いて、現実の政治の問題点
にひたすら短絡的な不満を持つようでは、何の解決にもならないし、フィクション
としてでもマイナスが大きい作品だろう。これまでも繰り返し書いて来たことだ。
CHANGEに「批評性」が欠けてるという中町の指摘は、表面的な言葉としては
正しい。でも、その批評性とは、「敵」の本質やそれを倒す道筋を描くことで実現
されるようなものではない。むしろ、敵と味方はハッキリ分けられないし、大活躍
するヒーローなんて存在しないこと。その状況のもとで、スーパーマンに頼ること
なく、我々自身ができる範囲で努力すること。こうしたことの描写を、ほんの少し
でもCHANGEが何らかの形で織り交ぜたなら、「葛藤」も十分描かれるはずだし、
政治への「批評性」も持ちうるだろう。
残念ながら、脚本家の福田靖にはその能力も意志も無さそうだから、キムタク
が発言すればいいのだ。彼なら脚本も変えれるし、インタビューその他で、つま
りドラマ自体じゃなく、その周辺で、視聴者にメッセージを伝えることもできる。
総理大臣なんかにならなくても、十分な政治的効果を日本にもたらすことがで
きるのだ。
その意味で、超人気タレントへの期待は大きい。人気的にはもっと下のタレント
(東国原知事、橋下知事 etc)でさえ、大きな政治的力を実際に発揮できてるこ
とを考えると、彼にできないはずはないのだ。SMAPやジャニーズ事務所とい
う協力な味方も付いてるし、メディアもいくらでも注目してくれるのだから。その
意味で、最後に改めてキムタクにエールを送ろう♪
今こそ、CHANGE!☆彡
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P.S.中町の弟は、『HERO』も含めて、「自分の意志でちゃんと決めて動く主人
公だから・・・好き」と言ってて、中町のまとめでは「周囲に迎合せず、自分
の大切にするものを貫く魅力」がポイントになるらしい。
そうしたものは、もちろん魅力だろう。でも、そんな人間はいくらでもいる
のだ。キムタク=朝倉啓太の魅力は、あくまでも圧倒的な成功に依存する
ものにすぎない。その点で、『華麗なる一族』の万俵鉄平とはかけ離れた
存在となっている。『空から降る一億の星』の片瀬涼とも違うし、『ロング
バケーション』の瀬名秀俊ともビミョーに異なるのだ。。
P.S.2 CHANGEを政治ドラマとして見ないというのは、もちろん可能だ。他
にいくらでも見るべきものはあるだろうし、コメディーとして単純に楽し
むことだって出来るだろう。でも、話の中心は明らかに政治だから、そ
の描き方が浅薄だと他の部分の魅力まで大幅に失われてしまうのだ。
その点は、第1話レビューで技巧的な描写を用いて説明しておいた。
cf.キムタクは素うどんかたぬきで♪~『CHANGE』第1話
見つからないように、こっそり本音♪ (第3話に対するつぶやき)
朝倉総理(木村拓哉)が本当にすべきこと~『CHANGE』第4話
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