ホンダのF1撤退、時代の変化を象徴☆
モータースポーツの頂点とも言えるF1(フォーミュラ・ワン=最高レベルの規定)
から、「世界のHONDA(ホンダ)」が撤退すると発表、大きな話題となっている。
ここでは、朝日新聞・2008年12月5日夕刊と6日朝刊、読売新聞HPの5日と
6日の記事、およびロイターの報道を参考にしながら、私の考えをまとめてみよう。
周知のように、ホンダは、創業者・本田宗一郎を始めとして、長年レースにこだわっ
て来た。64年には最高峰のF1に参入、途中で2度「休止」したものの、2000年か
らは第3期参入をスタートさせて、今年まで継続。「チャレンジング・スピリット」(挑戦
者精神)の源泉、技術やブランド力の象徴として、莫大な経費とパワーを注いで来た。
そこへ訪れたのが、米国のサブプライム問題を発端とする世界レベルでの金融危
機で、福井威夫社長が「撤退」を考え始めたのは9月以降。つまり、株価が暴落し、
金融機関リーマン・ブラザーズが破綻し、全米最大の保険会社AIGが国有化され
た月以降のことだ。そして、最終的な撤退決断は12月4日。この間、さらに金融
危機は拡大&深刻化して、11月の新車販売台数は、最大の市場・米国で前年
同月比36.7%減。日本も同27.3%(軽自動車除く)で39年ぶりの低水準。大
規模なリストラも本格化している。
ホンダの業績も、09年3月期の営業利益予想では、前年比42.3%減の5500
億円まで落ち込む見込み。ただし、市場=マーケットはおそらく、更なる下方修正
を見込んでるだろう。日経平均株価が下げ止まりの気配を見せる中でも、ホンダ
やトヨタの株価は下がり続けてる。もちろん、米国のビッグ3、特にGM(ゼネラル・
モーターズ)の経営危機も強く意識されてるだろう。つい最近まで世界最大と呼ば
れていたGMの株価は、僅か1年で10分の1になり、破綻の危機に陥ったわけだ。
もちろん、大企業である以上、宣伝・広告費とか開発費というのは当然それなりに
あるわけで、実際ホンダもF1以外は今のところ継続を表明してるし、テレビ・新聞
などの広告を止めることもないだろう。一番重要なF1だけを止めるのは、要する
に金がかかり過ぎて割に合わないから。つまりコスト・パフォーマンス(費用対効果)
が低いからだ。
ここで気になるのは、ホンダのチーム運営。一般にF1は、1チーム数百億円の運
営・維持費がかかると言われてるけど、その中でもホンダは別格の500億円超で、
しかも数十億円単位のスポンサー獲得にも消極的。さらには、今期途中で撤退し
た鈴木亜久里率いるチーム・スーパーアグリF1への援助においても、代金100
億円以上が未回収となってるという話だ。それでいて、レース結果は、ここ9年の
第3期参入でわずか1勝(06年ハンガリーGP)。イメージアップへの貢献とはほど
遠い実績だ。これでは、入社動機がF1だと自ら語る福井社長でさえ、苦渋の決断
を迫られるのも当然と言える。
金の問題、正確にはコスト・パフォーマンスの問題は、ホンダに限らない。だからこ
そ、F1を統括するFIA(国際自動車連盟)は、コスト低下を目指して、エンジン開発
凍結とか統一エンジン使用を呼びかけるはめになったわけだ。もちろん、最先端
の技術競争の場で、こうした呼びかけが強い反発を招くのは当然だけど、そこまで
F1が追い詰められているということだろう。
より大きな視点で見た時、既に宇宙開発競争は遥か以前に転機を迎えたわけだ
し、素粒子物理学の実験に用いる巨大加速器の競争も鈍化。90年代前半の米・
SSC(超伝導超大型加速器)建造計画中止が一つの大きな分岐点だった。一方、
一般市民の生活レベルでは、エコとかスローライフがごく普通のものになり、自動
車から自転車への移行も徐々に進んでいる。アパレル業界では格安路線のユニ
クロが1人勝ちで、百貨店は苦戦。スーパーでさえ、特売品しか売れない時代に
なっているようだ。こうした状況全体が示すのは、数十年レベルでの社会の大掛
かりな変化だろう。
スポーツ(sports)とは元々、気晴らしとか遊びという意味だ。それは人間にとって
必要不可欠だけれど、余裕がある範囲で可能になるものにすぎない。今の社会
にとって、もはやモーター・スポーツを楽しみ余裕は減少しており、その代わりに
メジャーになっているのが、ランニングとか自転車などの身体的スポーツ、あるい
はゲームとかネット。近場の旅行も含めて、「安近短」とまとめられるものだろう。
企業活動は、あくまで社会状況を前提とするものだ。したがって、ホンダのチャレ
ンジング・スピリットは今後、生活レベルの速度での燃費向上とか、人や環境に
優しい車の開発へと向けられるのが自然だろう。小さくて軽量、安くて安全で楽し
い車こそが理想。世界最強の自動車会社、トヨタのF1撤退も、そう遠い日の話
ではないかも知れない。
もちろん、また余裕ができれば、最先端のモータースポーツを楽しむことも可能な
時代がやってきて、ホンダの3度目のF1復活なんてことも一応考えうるだろう。今
回の「撤退」は結局「休止」にすぎなかったなんてことは、十分あり得ると思う。社
内でのF1挑戦意欲が突然すべて消滅するはずもない。ただ、時代の大きな流れ
は当分変わらないし、企業やF1のあり方もそれと無縁ではあり得ないと見ている。
もちろん、こうした見方は、大企業トップの福井社長も当然持ってるわけだ。最後
は、昨日の記者会見の言葉から引用して終わりにしよう。ではまた。。☆彡
「単に経済が冷え込んでいるだけでなく、100年間繁栄してきた自動車産業
は次の100年に向かう大きな変化を迎えている。F1に注いできた情熱、
リソース、人材を新しい時代に振り向けるべきだという強い意志と受け取っ
てもらいたい」。
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