陸上競技の記録の限界~生物学者による統計学的予測
100m走は、男子が9秒48、女子が10秒39。フルは、男子が2時間0分47秒、
女子が2時間14分58秒。これが米国・スタンフォード大(Stanford University)の
海洋生物学者、マーク・デニー教授(Mark Denny)が、統計学的モデルを用いて
導いた、陸上競技のタイムの限界値だ。
朝日新聞・2008年12月4日朝刊で、ワシントン支局の勝田敏彦が伝えたニュー
スは、陸上も科学も数学も好きな人間にとっては気になる話だ。丸1日以上経過し
たから、既に色んな記事がネット上にあるのかと思ったら、まだほとんど見当たら
ないようなので、早速ウチで書いとこう。って言うか、今日の更新のネタを探してた
から、ちょうどいいわけよ♪
この勝田という記者は、今年の2月に、気まぐれな運動はかえって太るかも知れな
いというニュースを伝えた人だ。話とか着眼点しては面白いんだけど、記事内容は
不正確だったから、私が英語で調べてすぐ訂正しておいた。この不正確さが、記事
を目立たせるための意図的なものか、それとも能力的なものなのかは分からない。
いずれにせよ、今回の記事もかなりウケ狙いの短い内容になってるので、ここでよ
り正確な情報をまとめとこう。
英文の報道をネットで軽く調べた程度だけど、それなりの意味はあると思う。情
報源(ソース)は、「newsobserver.com」と「Journal of Experimental Biology」だ。
後者は、マークの論文が掲載された雑誌『実験生物学ジャーナル』の公式サイト
で、10行の要約(summary)だけなら無料ですぐ読める。
まず、朝日の記事(ネットでも読める)では、100m男子と、フルの男女の限界し
か書かれてないけど、100m女子は10秒39と予測されてる。すべての予測は、
過去の記録の推移を統計的モデル(頭打ちになることを想定したもの)に当ては
めて計算したもので、朝日には「1920年代以降」のデータだと書いてある。それ
に対して「newsobserver」は、「19世紀以降の人間と馬と犬」の記録としか書いて
ない。これは、人間の研究については20年代以降だけど、馬(サラブレッド)や犬
(グレーハウンド)は19世紀以降だという意味なのかも知れない。
いずれにせよ、100m女子の場合、1988年のジョイナーの世界記録10秒49
は無視されてる。追い風に助けられた可能性が高いためだ。また、100mから
フルに至るまで、今後も男女の差は消えないだろうと書かれている。これまで、
女性は男性より9.3%から13.4%ほど遅かったけど、この差がゼロになること
はないという予想だ。一見当たり前だけど、フルなら女性が勝つ可能性があると
いう予測も今まで何度か出てたので、それに比べると現実的な予測だと言える。
そんな話より重要なのは、科学者の研究論文として当たり前のことだけど、予測
の不確実性にもきちんと触れてあることだ。過去のデータからの推測だから、あ
る程度は話に飛躍(ertrapolation:外挿)があるのは当然で、注意しなければなら
ない。ただ、これらの計算がほのめかしてる(suggest)のは、記録には限界という
ことだ。短い要約の中でも、マークは忘れずにそう語っている。
とはいえ、もともと頭打ちがあることを想定したモデルを使ってるのなら、導かれ
る記録に限界があるのは当たり前だという批判はすぐに思いつく。もし頭打ちと
仮定するなら頭打ちであるという、循環論法、あるいは論点先取にすぎないわけ
だ。この程度のことは当然分かってるはずだけど、その辺りが実際にどう書かれ
てるのかは、無料の情報だと読み取れなかった。だからと言って、わざわざ外国
のサイトにお金を出してまで調べる気にもなれないし、検索しまくる時間もないか
ら、私にはこの辺が限界だ。
なお、元の研究には、ドラッグ使用や遺伝子操作までは考慮されていない。まあ、
そんなもの使わなくても、100mを9秒69で走ったボルトや、42.195kmを2時
間3分59秒で走ったゲブレシラシエらのトップ選手が、すぐに予測を打ち破ってく
れそうな気もする。ラドクリフなんて、予測まであと27秒しかない。彼らが予測を
破る時、自分でもフルのランナーであるマーク教授なら、ニッコリ微笑んで祝福す
るだろう。大学の公式サイトの紹介を見ると、感じの良さそうな人だもんね。潮汐
間(満ち潮と引き潮の間の領域だろう)に生息する生物の物理的な仕組みを、あ
らゆる角度から研究してる、面白い研究者みたいだ。
とりあえず、記事も書けたし、ネタとしては面白かったな♪ ではまた。。☆彡
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