『Q.E.D.証明終了』というタイトルの正確な意味
『Q.E.D.証明終了』という奇妙なタイトルのドラマが今日(09年1月8日)から
始まった。原作は、加藤元浩が『マガジンGREAT』に連載中の人気漫画で、『金
田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』と同じ90年代に始まったロングセラーだ。
ドラマは、脚本が『ちりとてちん』の藤本有紀と相原かさね。キャストは、高橋愛
(モーニング娘。;水原可奈の役)と中村蒼(燈馬想の役)が中心で、他に石黒賢、
富岡晃一郎ら。「証明」係の天才・燈馬想(とうまそう)とは、走馬灯(そうまとう)を
ひっくり返した言葉遊びだろう♪ 主題歌は青山テルマ『このまま ずっと』だ。
☆ ☆ ☆
タイトルの「Q.E.D.」は、理系の人間の多くにとって見覚えがあるはずだ。数学
の証明の最後に書き添えられてる呪文みたいなフレーズで、教科書ではほとんど
使われてないけど、参考書とかでたまに使われてる。授業で使うシャレた先生も、
一部にはいらっしゃるかも知れない。半ば理系の私も一応は知っていた。
この「Q.E.D.」の意味を一番簡単言うなら、マンガやドラマのタイトル通り「証明
終了」だ。それでは満足できない人は、英和辞典やネットで調べると元のラテン語
を目にするだろう。「Quod Erat Demonstrandum」。ローマ字の読み方に従
うと、「クオド・エラート・デモンストランドゥム」で、ドラマもこう言ってた。このフレーズ
の定訳はないようで、「かく示された」、「これで証明終わり」とか書かれてるけど、
ラテン語に近い英語の直訳だと「(that) which was to be demonstrated」。
つまり「Q.E.D.」とは、「これが証明されるべきことであった」となる。ちなみに、
英語の「that」(先行詞)は省略可能なので丸カッコに入れておいた。
☆ ☆ ☆
さて、この程度の説明なら、検索すれば一瞬で分かること。でも、これじゃあ満足
できないマニアックな方もいらっしゃるだろう♪ 私自身、マニアック・ブロガーを
自称してるので、この程度では全く満足できない。ネットを探しても、ウィキペディア
を含めて、十分な解説をまとめたサイトは見当たらなかったので、私が試しに書い
てみよう。もちろん、私はこの手の話に詳しいわけでも何でもないから、詳しい方
がコメント欄で情報提供してくだされば、より良い記事になるわけだ。
まず、言葉の問題から始めよう。ラテン語と英語の直訳との関係がどうなってる
のか、細かく対応付けると、ラテン語の「Quod」は関係代名詞(主格・中性)で、
英語の「(that) which」。ラテン語の「Erat」は、be動詞「sum」の三人称・単数・
未完了過去で、英語の「was」。最後のラテン語の「Demonstrandum」が動詞
「demonstro」(アクセント記号省略)の主格・中性・動詞状形容詞で、英語の
「to be demonstrated」(証明されるべきもの)だ。
続いて、言葉の歴史的経緯について。「Q.E.D」という言葉が使われるのは、主
に数学と哲学、つまり高度に論理的な学問だから、それぞれの代表者を一人選ん
で、実際の使い方を見てみよう。ユークリッドとスピノザだ。
先に、有名なオランダの近代哲学者・スピノザの主著『エチカ』(倫理学)について。
この本は哲学の中でも非常に珍しい本で、数学の教科書みたいにガチガチに体
系立てて書かれてる。一番初めに「Q.E.D.」が使われてる箇所は、第1部「神
について」の定理3だ。原文のラテン語は下図の通りで、一番最後に確かに「Q.
E.D.」と書かれてある。引用元は、「http://glouise.club.fr/Ethic_1.htm」だ。
日本語の翻訳は、手元の『スピノザ ライプニッツ』(中央公論社)から引用しとこう
(訳者は工藤喜作・斎藤博、色付けは引用者=私)。
定理三 たがいに共通なものをもたないものは、たがいに他の原因と
なることができない。
証明 たがいに共通なものをもたなければ、〔公理五により〕たがいに
理解しあうことができない。したがって、〔公理四により〕たがい
に他の原因となることはできない。かくてこの定理は証明された。
さて、この哲学的内容はともかく、この証明の形式から、最後に「Q.E.D.」
(=これが証明されるべきものだった)なんて言葉を入れる理由が少し分かって
来る。つまり、証明すべき定理の核心「ちがいに他の原因となることができない」
(青色部分)が、証明の最後に導き出されてるからこそ、「これ」が証明されるべ
きもの、と言ってるわけだ。
この点は、「Q.E.D.」というラテン語の元になった古代ギリシア語まで遡ると、
よリ明確になる。スピノザの主著が強く意識している数学のバイブル、ユークリッド
(=エウクレイデス)『原論』を見てみよう。「Q.E.D.」の元になったとされるギリシ
ア語(ローマ字表記は、hoper edei deixai)が最初に使われたのは、第1巻・
命題4の証明だ。ちなみに、本来のギリシア文字表記は、下図の通り。
さらに、下の大きな図が命題4と証明の原文だ。
「http://www.lulu.com/content/829379」からpdfファイルを無料ダウンロードさせ
て頂いた。
ギリシャ語の専門書の縮小コピーだから分かりにくいだろうけど、最初の4行と最
後の5行(最後の3単語フレーズの直前まで)がほとんど同じ文章になってるのだ。
つまり、証明の最後に、証明すべき命題がそのまま繰り返されてるから、「これ」
(Quod)が証明されるべきものだったという言い回しになる訳だ。手元の日本語
訳(「エウクレイデス 原論」,池田美恵訳,『ギリシアの科学』所収,中央公論社)
だと、「これが証明すべきことであった」となってる。
☆ ☆ ☆
さて、今ちょうど第1話「青の密室~スカイダイビング殺人事件」が終わった所だ
けど、もちろんドラマの形式は、近代哲学や古代数学の厳密な証明の通りには
なってない。単に「証明終了」を示すちょっとシャレた難しい言葉として「Q.E.D.」
と言ってるわけだ。最後にMIT(Massachusetts Institute of Technology:
マサチューセッツ工科大学)卒の天才高校生・燈馬想がこれを書いた時、普通
の女子高生・水原可奈にはウケが悪かったけど、天才児にとってはフツーの言
葉なんだろう。そしておそらく、最後は彼が自分という不可解な存在を「証明終了」
して、水原可奈が笑顔で「Q.E.D.」と言うはずだ。断定かよ!♪
それでは、また。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.数学の授業での、証明へのツッコミ。残念ながら数式がハッキリ映されて
ないけど、「先生、その証明のやり方は間違ってると思います」というのは
おそらく言いすぎだ。数列の和の公式(高校2年の教科書レベル)で、先生
の証明が「下手」だったから、天才君が「上手い」証明を書き始めたってこ
とだ。シグマ記号を使った和の計算によくある話で、ひょっとしたら後で別
記事にまとめるかも知れない。。
(追記: すぐ別記事をアップした。
P.S.2 「Q・E・D」と丸点で書くのは本来なら間違いで、ピリオドが正解だけど、
gooのテレビ番組紹介までこうなってるんだな。ま、いいけど。。
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コメント
こんちは。
漫画家の萩尾もと先生の作品『トーマス』から、借用しています。
加藤元浩先生がファンだとか。
水原可奈は、文化放送の水谷加奈アナウンサーからの借用。
ネーミング中に、ラジオから彼女の声が聴こえてきたためw
投稿: 森羅万象 | 2009年1月 9日 (金) 09時51分
> 森羅万象さん

はじめまして。コメントありがとうございます♪
かなりマンガにお詳しい方のようですネ。
水原可奈の話はウィキペディアにもありますが、
「Q.E.D.」が萩尾もとの『トーマス』から
借用という話が検索しても見当たりません。
2つお尋ねしたいのですが、まず著者名と作品名は
萩尾望都『11月のギムナジウム』ですかね?
あるいは『トーマの心臓』のことでしょうか。
もう一つ、その話のソース(情報源)は何なんでしょうか?
『Q.E.D. 証明終了 THE TRICK NOTE』とか、
あるいはラジオか何かで喋ってたとか。
以上、教えて頂ければ幸いです♪
投稿: テンメイ | 2009年1月 9日 (金) 14時15分