ドーナツ型とボール型の区別~ポアンカレ予想の理解2
先日アップした記事、「ポアンカレ予想」の正確な数学的理解を目指して、に続い
て、第二弾の記事をアップしよう。ポアンカレ予想に関する話には、ボール型とドー
ナツ型、2つの簡単な形がよく出て来るけど、これらを数式でハッキリ区別しようと
いう記事だ。ポアンカレ予想と関係なしに考えても、意味のある内容だと思う。
ネット上の説明を色々見ると、球面とドーナツ型の曲面(円環面=トーラス)は違
うという話がよく持ち出されてる。でもほとんどは、曲面上にロープやループを張って
手元とか一点に引き締められるかどうかを語る大まかなイメージ的説明だ。「トポ
ロジー」の世界だからそれで済むと言えなくもないけど、話が一気に飛びすぎてる
感がある。数学なのに、どうして数式による説明が見当たらないのか。球面は数
式でさんざん扱ってるはずだし、教科書に載ってる話にすぎない。
多くの人が理解できる高校レベルの数式で、球とドーナツがどう違うのかを説明
したサイトがあればいいのに、なかなか見当たらない。ポアンカレ予想の説明で
は皆無だ。ポアンカレと無関係でも、円環面の方程式を書いてるサイトというの
が少なくて、しかも大部分は方程式を説明抜きで出している。少なくとも2009年
3月21日の時点において、Yahoo!とGoogleで「円環面の方程式」、「トーラス
の方程式」などを検索した結果はそうだった(実際に見たりフレーズ検索したりし
て、無関係なものは除いた結果)。
この式は、高校数学で実際に登場することはないけど、理系の高校生が導ける
レベルなのは間違いない。実際、私は昔、自力で解いた覚えがあるし、ハイレベ
ルな高校参考書で見かけたことがあるような気もする。今日、久し振りに計算して
みたけど、簡単な計算にすぎないし、出てきた結果は確かに国内のサイトや英語
版ウィキの数式と一致した。
そこで以下、円環面の方程式(普通の2次元曲面の式)をまず簡単に導き、その
後で球面の方程式と比較しながら、n次元へと拡張してみよう。なお、「円環面」と
か「トーラス面」という呼び方は珍しいので、今後は単に円環とかトーラスと呼ぶ
ことにする(たまに面という言葉も付ける)。一方、「球面」は球(中身を含む「球体」)
と分ける方が普通だと思うので、今後も基本的には球面と呼ぶ。「球の方程式」と
呼ぶ人も少なくないので、念のため。
あと、「2次」とか「3次」という次数の呼び名は、空間全体と、曲面と、方程式とで、
それぞれ別扱いとなる。誤解や混同の多い点なのでご注意あれ。たとえば普通
のドーナツとかトーラスの式は、3次元空間における2次元曲面で、4次方程式を
用いて表すことが多い。
☆ ☆ ☆
上の円環の図は「ウィキメディア」で公開されてるものを少しだけ処理したものだ。
余分なものを消去し、重要なものを強調して、ほぼ2分の1に縮小してある。やや
真ん中の穴が小さいけど、何とか分かるだろう。円環の中心軸(垂直の線)を z軸
とし、図のように x 軸、y 軸を設定する。円環の太さを r 、円環の空洞の中心を
一周する円の直径を Rとすると、R > r > 0。
いま、z 軸を含む平面による、円環の切り口を考える。例えば、本物のドーナツ
をナイフで真上から4等分とか切り分けた時のことをイメージすればいい。ただし、
円環は本物のドー
ナツと違って中身
が空洞だから、切
り口は円(丸い線)
になる。円上の点
P(x,y.z)がみ
たすべき方程式は、
図の直角三角形で
三平方の定理を考えて、
{(√x²+y²)-R }²+z² = r² (丸カッコ内の全体がルートの中)
これが直感的に一番分かりやすい円環(トーラス)の方程式だろう。z の絶対値
記号(縦線2本)が消えるのは、2乗したからだ。ルートの記号(√)を消したい場
合は変形して(末尾のP.S.参照)次の4次方程式になる(ちなみに球面は2次)。
(x²+y²+z²+R²ーr²)² = 4R² (x²+y²)
英語版ウィキの「Torus」の項目には、この順で両方載せてあるけど、普通この種
の話でルートは使わないので、この下側の式を基本にしよう。実際、国内の2つ
のサイト(東大と愛知教育大)もルート無しの4次式を基本にしている。
ちなみに、この式を求めるには、z 軸に垂直な水平面による切り口(二重の円)
を考えてもいいが、似たような話だから省略する。また、まったく別な形の式と
して、三角関数を使ったパラメーター(媒介変数)表示もあるけど、一般的ではな
いし必要でもないのでここでは扱わない。興味のある方は英語版ウィキその他を
ご参照あれ♪ (水平回転の角と垂直回転の角を、2つのパラメーターにする)
☆ ☆ ☆
もう一方の、球面の方程式(原
点中心、半径r )は、高校の教
科書の通り、
x²+y²+z² = r²
より正確な表現は、この式を
みたす点の集合と考えて
{(x,y,z)|x²+y²+z²=r² }
だけど、この記事では全て省略する。ちなみに図は、英語版ウィキメディアから
頂いたものに少しだけ手を加えたものだ。また、中身も含む「球体」の場合は、
式の等号「=」を不等号「≦」に変えればよい。
上の式は、我々が実際に住んでる3次元空間における2次元球面だ。3次元空
間とは、x,y,zの3文字(日常的表現なら縦、横、高さ)あるという意味。2次元と
は、方程式が1本あるから1文字消して2文字に出来ると考えてもしいし、面だか
らと考えてもいい。あるいは、地球の表面のように、経度と緯度の2つで場所が
決定するから2次元とも言える。同様に、最初に求めた円環は、正確には3次元
空間における2次元円環だ(省略して3次元の円環と言うこともある)。
この自然な拡張として、2次元空間における1次元球面(つまり円)の方程式は、
x²+y² = r²
すると、4次元空間における3次元球面の方程式ならこうなるはずだ。
x²+y²+z²+w² = r²
n+1次元空間におけるn次元球面なら、変数(アルファベット)をn個にすればよい。
☆ ☆ ☆
3次元球面を2次元と4次元に拡張した上で、元に戻って円環を考えてみる。3次
元でさえ少ないから、2次元の円環の式や4次元の円環の式は、ネット上でまだ
発見できてない。でも、もし球面と同様の自然な拡張を行うなら次のようになる。
2次元空間における1次元円環の方程式は、
(x²+y²+R²ーr²)² = 4R² x²
これは (x±R)²+y² = r² に変形できるから、半径 r の円2つ(中心間の距離
2R)を表す。一方、ネットであちこち調べると、1次元トーラスは円とだけ書いて
ある。2つの円を区別せずに1つとみるのか、片方だけみるのか、あるいは数式
からの拡張に小さな問題があるのか、今のところ不明だ。まあ、球面のことを考
えても、基本的な考え方は正しいだろう。
続いて、4次元空間における3次元円環の方程式は
(x²+y²+z²+w²+R²ーr²)² = 4R² (x²+y²+z²)
n+1次元空間におけるn次元円環なら、変数をn個に増やせばいいだけだろう。
☆ ☆ ☆
こうして、2次元の円環や球面の式を形式的に拡張することで、3次元円環とか、
3次元球面の意味も数学的に明確になるし、ドーナツ型とボール型の区別も明
確になる。また、イメージしにくいn次元への一般化も、理論的に可能となるわけ
だ。この後は、トポロジー(位相幾何)特有の議論を理解していく必要がある。
とりあえず、第二弾はこの辺で。第三弾はかなり後にずれ込みそうだ。
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.円環の方程式の変形は次の通り。右辺を√の項だけにして両辺2乗する。
{(√x²+y²)-R }²+z² = r² ⇔ x²+y²-2R (√x²+y²)+R²+z²-r² = 0
⇔ x²+y²+z²+R²-r² = 2R (√x²+y²)
⇔ (x²+y²+z²+R²ーr²)² = 4R² (x²+y²)
P.S.2 以上では「ドーナツ型トーラス」だけを考えていて、「平坦トーラス」と呼
ばれる奇妙な図形については考慮してない。普通はドーナツ型を考え
るし、ポアンカレ予想の話でもそうだから、差し当たり問題ないだろう、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
| 固定リンク | 0
「数学」カテゴリの記事
- 日テレ『頭脳王2021』ストレンジ・オセロ、先手必勝ゲームの証明と戦略(7通りの場合分け)(2021.02.23)
- 『頭脳王2021』、純金のピラミッドの金額&シロナガスクジラを持ち上げる金剛力士像の身長、計算式と解説(2021.02.20)
- 1と0のカードゲーム、単純そうで複雑な連続操作の考察~開成中学2021年入試、算数・問題3の解き方(2021.02.14)
- 宝くじの当選番号を予言して当てる迷惑メールの仕組み、他~2021年・大学入学共通テスト・情報関係基礎(2021.01.24)
- 陸上100m走のタイム(時間)とストライド(歩幅)、ピッチ(歩数)の関係~2021年・大学入学共通テスト・数学ⅠA・第2問〔1〕(2021.01.19)
「科学」カテゴリの記事
- 吉野彰氏のノーベル化学賞2019、受賞理由(リチウムイオン電池の開発、英語原文と和訳)(2019.10.15)
- 死者の復活、永遠の命2~『AIでよみがえる 美空ひばり』(NHKスペシャル)(2019.10.05)
- 熱気球はなぜ浮かぶ?、浮力の物理・化学的計算~朝日新聞・ののちゃんのDO科学(2018.12.05)
- 「犯罪者は外見で判断できる」、ロンブローゾの学説と著書~『高嶺の花』第5話(2018.08.09)
- 気温127度で人体実験した英国科学者フォーダイス達(18世紀)&プチ朝ラン(2018.08.01)
コメント
楽しんで拝見させていただいています。
文中の±の表記の話について
どちらでも同じ事なので些細ですが、
(x±R)²+y² = r²
は拡張元の最初の式
x²+y²+z²+R²-r² = 2R (√x²+y²)
と対応した式の変形として記述されているようなので、
(x-R)²+y² = r²
とするのが解釈上自然ではないかと思います。
(図の説明でR>r>0が自明であるため)
投稿: 通りすがり | 2012年11月30日 (金) 00時27分
> 通りすがり さん

はじめまして。コメントどうもです。
細かく読んでくださってるのは嬉しいし、まったく
些細な問題なのですが、文脈に誤解があるようですね。
話のスタート、「拡張元」の式が違ってます。
記事の中段に、赤字で「この下側の式を基本にしよう」と
書いてます。つまり、2乗してルートを消した式が基本。
そこから変形したから、(x±R)²となってるのです。
実際、変形の直前には、2乗してルートを
消した式を書いてあります。
ルートの式や図は使ってません。
本文で、まず図を用いてトーラスの式を出した際には、
ルートが付いてました。
しかし、そこから一歩進んで、2乗してルートを消した式を
「新たに基本に」してるわけです。
理由もちゃんと本文に書いてあります。
なお、当サイトではコメントにお名前を頂いてます。
ご丁寧で中身のある文章なので掲載しましたが、
コメント欄は他の方も読むので、一応書き添えておきます
投稿: テンメイ | 2012年11月30日 (金) 03時39分