確率重視のコンピューター囲碁、人間に急接近
亀梨和也&田辺誠一『神の雫』が終了してちょうど1ヶ月。この間、ドラマと無関
係のマニアックな記事を連発して来た。当然アクセス数は少ないけど、地味に読
者を集め続けてるし、何よりも私自身が面白がってるからOKだろう。書き手とは
もっとも熱心な読み手でもあるのだ。二番目に熱心な読者は、Googleの検索ロ
ボット君かな♪
という訳で、今晩もまた一部のマニア向けの記事をアップしよう。囲碁・将棋とコ
ンピューターと数学の話。世の中の7~8割を占める文系人間にとっては「何じゃ、
こりゃ!」って感じの話でも、少数派の理系人間の中には、少なからず興味を持
つ人がいるだろう。もちろん、半ば理系の私自身がその1人だし、世界中に研究
者がいるのだ。
まず、去年末に書いた将棋の竜王戦(羽生善治 vs 渡辺明)に関する記事から
引用してみよう。
今までほとんど記事には書いてないけど、私は子供の頃、プロを
夢見たくらいの将棋好きだし、イベントでの実績もある。ただ、将棋
の話は女性に全くウケないし、男性でもウケが悪いことが経験的
に分かってるから、普段は喋らないようにしてるのよ。ウチの常連
読者さんの7割以上は女性だろうしネ♪ ・・・・・・やっぱ、世界的
な普及とか考えても、時代はむしろ囲碁だね。将棋ほどには、コン
ピューターの脅威も迫ってないんだろうし。
さて、将棋でさえブログに書かないようにしてるくらいだから、囲碁については今
まで一度も書いてないと思う。でも実は、高校時代に1年だけ、私は囲碁クラブ
というオタクっぽいものに入ってた♪ 放課後ほぼ毎日の陸上部とは違って、
週1回の授業時間にやるだけだから、大した経験じゃないけど、全員ゼロから
スタートした仲間内の中では、すぐに一番強くなった。やっぱり、将棋や数学と
似てる所があるからだろう。論理的で、かつイメージ的なのだ。筋道立てた理屈
だけじゃなく、頭の中にイメージを作る能力が要求される。
ただし、論理的思考力でもイメージ力でも、将棋より囲碁は大変な側面がある。
将棋盤はマス目が9×9=81だけど、碁盤の交点の数は19×19=361。単
純な話、囲碁の方が変化が多いのだ。将棋の駒の種類(8つ)を加味しても、やっ
ぱり盤面が4倍以上広いせいで、囲碁の方が複雑だし、終了までの手数も時間
もかなり上になる。
この違いが、コンピューターの話にもつながる。コンピューター将棋の実力は現
在アマ六段クラスで、プロを除くと最強のレベル。それどころか、あと15年ほど
で一流プロ棋士にも勝つという予測も有力だ。実際、チェスとオセロでは、97年
に世界王者がコンピューターに負けてしまった。それに対してコンピューター囲
碁はまだまだ弱くて、人間の優位が保たれてる・・・というのが最近までの常識で、
今ウィキペディアの「コンピュータ囲碁」を見ても、そんな感じの扱いになってた。
☆ ☆ ☆
ところが昨日、2009年4月8日の朝日新聞・夕刊に、「でるかコンピューター名
人」「将棋の前に名人破る?」という見出しの記事(伊藤衆生記者)が載ってたの
だ。リード(前置き)にはこう書かれてる。
人間に勝つのは、はるか未来の話と思われてきたコンピューター
囲碁の世界が、画期的なプログラムの登場で大変革期を迎えて
いる。確率(勝率)を重視した「モンテカルロ法」の採用で棋力が
急上昇。「将棋よりも先に、囲碁の名人がコンピューターに敗れ
るかも」と大胆な予想をするプログラマーもいる。
06年イタリアのコンピューター・オリンピアードで優勝して注目を浴びた、画期的
な「モンテカルロ法」とは、確率を重視した次のような戦略らしい。いま、自分が
指す手の候補が3つあったとしよう(新聞がそうなってるけど実際は数十~数百
のはず)。今までなら、良い手に関する知識を大量に覚えさせて、それを参考に
選んでた。また、コンピューター将棋なら、しばらく先の局面を点数化して、一番
いい点になる手を選んだりする。ところがモンテカルロ法の場合は、候補の3手
それぞれから、終局(=勝負の最後)までを実際にシミュレーションしてみるのだ。
もちろん、変化が多過ぎて、全てを実行することはできないから、ランダム(でた
らめ)に多数の実例を選び出して、それらの勝率を計算する。Aという手だと勝率
70%、Bだと60%、Cだと50%になったとしよう。すると、Aを選ぶわけだ。まさ
に「ランダム」(でたらめ)な発想に見えるけど、これを支えるのが、実例の圧倒的
な多さ。何と、1秒間に1万回ものプレーアウト(=終局)を作れるらしい。人間同
士が普通に勝負すると、1回あたり1時間前後だから、実に3600万倍のスピー
ドでの計算。流石はコンピューター(=計算機)だ。
実際のプログラムはもっと複雑で、ちょっと新聞記者の理解が怪しいんだけど、
おそらくこうゆう事だと推測する。単純に勝率一発で決めるんじゃなくて、勝率の
いい複数の手(上の例だとAとB)については、すぐ次の相手の手をいくつか選ん
で考慮して、その後の勝率を計算し直してみる。その上で、最終的に自分がどの
手を指すかを決めるということらしい。
面白いことに、「最も勝ちそうな手」を選ぶ画期的なこの確率戦略は、将棋だと上
手くいかないという話がある。将棋は終盤になると、「最も善い手」(真の最善手
=必ず勝つ手)がハッキリ決定できる場合が多いから、確率に頼るモンテカルロ
法は有効ではないとのこと(プログラマー・山下宏氏)。でも、そんな話なら、将棋
でもそれほど困らないような気もするけどね。終盤だけ戦略を変えて、中盤まで
はモンテカルロ法で進めればいいはずだ。
この戦略、将棋より先に囲碁の名人を破るかも(山下氏)という見方がある一方
で、コンピュータ囲碁フォーラム理事・伊藤毅志氏(電通大助教)は、「あと1、2年
は強くなる・・・その先は見えず・・・」と冷静な見方を示してる。ともかく、囲碁の世
界でもコンピューターが急成長して、既にアマ三段以上という話もあるようなのだ。
ホント、人間の肩身が狭い世の中になったもんだね。。
☆ ☆ ☆
最後に、囲碁以外の話とのつながりを示しとこう。モンテカルロ法についてウィキ
を見ると、本来は囲碁と関係のない、昔からある数学の方法のようだ。ランダム
(でたらめ)な選択を取り入れた確率的手法のことで、例えば面積を求めるのに
使えるらしい。一般に面積というのは、高校で習う積分で計算するもので、ちょっ
と複雑な形になると正確には求められないんだけど、モンテカルロ法の場合は、
次のように近似計算する。
たとえ話として、いま2m²の紙の中に複雑な図形を書いて、その面積を求めたい
としよう。すると、その紙の中にランダムに点を打つのだ。目隠ししてボールを何
度も投げるようなイメージでいい。1000個の点の中で500個の点が図形の中
に入ったとすると、点が図形内にある確率は50%(=0.5)。すると、「(面積)=
2×0.5=1m²」と計算するのだ。ホホーッ・・こりゃ、驚いた! 初めて聞いた画
期的な面積計算だな。。
ちなみに、モンテカルロ法は「ランダム(でたらめ)さ」と確率を用いた方法だから、
ランダムさの確保が難しいし、出てきた答も近似的なものにすぎず、正確とは限
らない。それに対して、同じくランダムさは使うものの、正しい答を求める方法が
「ラスベガス法」。この場合は、時間がかかり過ぎるとか、答が出ないという欠点
が生じるそうだ。
この2つの戦略が、モンテカルロとラスベガスの賭博場(カジノ)の違いとどう関係
してるのかは、今後の研究課題としとこう。モンテカルロが直感的、ラスベガスが
理論的なのかな。ま、どっちが儲かるかはビミョーな所。それが賭け事の面白い
所だ。もちろん人生も賭けの連続だけど、囲碁や図形より遥かに複雑だから、人
間もコンピューターも大苦戦なんだろう♪
こうゆう話でも、脳科学者・キムタク=木村拓哉が新ドラマ『MR.BRAIN』で喋っ
てくれれば、一気に話題沸騰になるはずだ。最先端の頭脳の話だから十分可能
だけど、女性視聴者に配慮するからムリなんだろうな。ウ~ン、仕方ないのかね。
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.朝日の記事には、「主なゲームの考え得る局面数はオセロ=10の60乗、
チェス=10の120乗、将棋=10の220乗、囲碁=10の360乗」と書か
れてる。という事は、囲碁は将棋より、10の140乗倍も複雑ということだ。
ま、この局面数の計算は相当アバウトだろうけどね。
P.S.2 06年、9路盤(9×9の小型の碁盤)で優勝したフランスのプログラム
の名前は、なぜか英語で「CrazyStone」。つまり、クレージーな石♪
狂った機械に人間が負けるとなると、かなり皮肉な事態だね。普通の
碁盤(19路盤)の大会でも07、08年に連続優勝。昨年はプロの青葉
かおり四段にハンディ付きの試合(7子局)で完勝したとの事。。
P.S.3 4月9日から、将棋の名人戦が始まる。羽生vs郷田真隆九段。人間
にもまだまだコンピューター以上の内容を見せて欲しいもんだ。。
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