ε-δ論法による極限の定理(線型性)の証明
雨が止まない。。今日はまたランニング記事の予定だったのに、これだけ本降り
が続いたんじゃ、傘ランもする気がしない。代わりに、サラッと見た『夜光の階段』
第6話の軽~い感想を書くのもいいけど、最近お堅い「ε-δ論法」の記事が地
味にヒットしてるから、続編の記事を追加しとこう。ま、藤木直人が木村佳乃を殺
して夏川結衣とくっつく話を書いた方がウケがいいんだけどネ。
イプシロン-デルタ論法を使った問題と答を求める検索が時々入ってるから、
適当な例題を解説しようかとも思ったけど、それより先に、私が高校数学で引っ
掛かった極限(limit=リミット)の定理の証明を済ませておきたい。それは、数Ⅱ
の教科書に枠付きか太字で書かれてた、関数の極限の「線型性」(または線形
性)を示す次の定理、あるいは公式だ(もう一つの定理は記事後半で)。
簡単に言うと、関数 f の値が p に近づき、関数 g の値がqに近づくなら、和(足
し算)の関数「 f+g 」の値は p+q に近づくという話。つまり、「関数の和」の極限
は、各「関数の極限」の和ということで、lim (f+g)=lim f +lim g と単純化して
もいい。普通の人なら、当たり前に思える話だろう。でも、昔から理屈屋だった私
は気になったので、数学のN先生に質問した。すると、まず「当たり前だろ」とか
言って来たから、「そうですか?」と更に食いつくと、大学レベルの数学でないと
証明できないという感じの説明をしてくれた。
私はそれ以降、その証明を見たことも、自分でやったこともなかったけど、いい
機会だから今回やってみた。すると、確かにきっちり証明できたのだ♪ なるほ
ど、やっぱりこの論法には価値があるね。イプシロン・デルタ論法、強力な論証
方法だ☆ それでは以下、証明してみよう。
☆ ☆ ☆
題意を示すには、次のことを導けばよい。
任意の正のεに対して、ある正のδが存在し、
0<|x-a|<δ ならば |{ f(x)+ g(x) } -( p+q )| < ε
さて、いま任意の正のεが与えられた時、2つの極限の仮定より、次の2つのこと
が言えるはず。
ある正のδ₁が存在して、0<|x-a|<δ₁ならば|f(x)-p|<ε/2
ある正のδ₂が存在して、0<|x-a|<δ₂ならば|g(x)-q|<ε/2
したがって、δ₁とδ₂のうち小さい方(同じならその値)をδとすると、
0<|x-a|<δならぱ、|f(x)-p|<ε/2 かつ |g(x)-q|<ε/2
辺々加えて、|f(x)-p|+|g(x)-q|<ε
更に、一般に成り立つ「三角不等式」、|m+n|≦|m|+|n|を用いると、
|{ f(x)-p }+{ g(x)-q }|≦|f(x)-p|+|g(x)-q|<ε
両端を見比べれば、 |{ f(x)+ g(x) } -( p+q )| < ε
以上で題意は示された。(証明終)
☆ ☆ ☆
という訳で、鮮やかに証明できるわけだ。ポイントだけ、青色にしておいた。ちな
みに、絶対値記号(二本の縦線)に関する三角不等式は、この論法で非常によ
く使う基本定理だ(証明は高校1年レベルだから省略)。ついでに線型性を表す
もう一つの定理についても証明しとこう。それは、次の定理だ。
簡単に言うと、「定数倍した関数」の極限は、「元の関数」の極限の定数倍という
ことで、lim k f = k lim f と単純化してもいい。これまた、常識的には当たり前
のことだが、上と同じく正確に論証できるのだ。以下、実際にやってみよう。
☆ ☆ ☆
まず、k=0の時には両辺0だから明らかに正しい。よって以下、k≠0とする。
題意を示すには、次のことを導けばよい。
任意の正のεに対して、ある正のδが存在し、
0<|x-a|<δ ならば |k f(x)-k p|<ε
さて、いま任意の正のεが与えられた時、極限の仮定より次のことが言えるはず。
ある正のδが存在して、0<|x-a|<δ ならば |f(x)-p|< ε/|k|
∴ |k||f(x)-p|<ε
∴ |k f(x)-k p|<ε
以上で題意は示された。(証明終)
☆ ☆ ☆
こうして、関数の極限に関する「線型性」(or 線形性)を表す2つの基本定理を
証明することができた。「当たり前」として天下り式に認めるより、遥かに理論
的な対応だろう。そもそも高度なレベルでは、「当たり前」と思われる事柄が間
違ってることも珍しくない。なお、関数の積(掛け算)や商(割り算)についての
定理も、似たようなやり方で証明可能だ(上で示した和や定数倍よりは少し難
しい)。
(☆2年後の追記: 積の定理の証明記事を追加。下のリンクからどうぞ。)
という訳で、今日はここで終了。また次回をお楽しみに。。☆彡
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コメント
大変参考になりました。
ありがとうございました。
投稿: イグジスト | 2010年2月 9日 (火) 13時28分
> イグジストさん
はじめまして。コメントどうもです。
「exist」(=存在する)とは、面白いお名前ですネ。
参考にして頂ける方が存在するのは、嬉しいこと。
機会があれば、またいらしてください
投稿: テンメイ | 2010年2月 9日 (火) 23時02分
関数の積についての
ε-δ論法の証明も教えてもらえませんか
テンメイさんのを参考にしてみて
やってみたのですがうまくいきません
投稿: Ate | 2012年5月18日 (金) 01時45分
> Ate さん
はじめまして。コメントどうもです。
先ほど、関数の積の証明記事をアップしました。
上のリンクとか、ページ右サイドとか、
適当な所をクリックして、ご覧ください。
なお、同種の別の話や、この先の話については、
ご自分で頑張ってください
投稿: テンメイ | 2012年5月18日 (金) 08時22分
なぜ関数fの対してのδ1は2分のεより小さいといえるんですか?
投稿: 私 | 2016年9月21日 (水) 00時56分
> 私 さん
はじめまして。質問コメント、どうもです。
ご質問の意図は、なぜ「ある正のδ₁が存在して、
0<|x-a|<δ₁ならば|f(x)-p|<ε/2」
と言えるのか、ということでしょう。
εではなくε/2と言えるのはなぜか、ここが唯一のポイント。
それが気になるのであれば、最初の「導けばよい」式の右端を、
εではなく、aとでもすればいいのです(a>0)。
0<|x-a|<δ ならば |{ f(x)+ g(x) } -( p+q )| < a
δ₁に対して、a/2より小さいと言えるのは明らか。
任意のεより小さいのだから、ε=a/2とするだけ。
その後、しばらく先で証明される式の右端はaになります。
最後に、数学の慣習にしたがって、
aの代わりにεと書き直せばよいのです。
もちろん、aのままでも同じ意味の命題。
そもそもδも、bと書いても同様。
文字の使い方は、単なる慣習、習慣の問題で、
数学の実質的内容とは無関係です。
これでも分かりにくいようであれば、
εという文字ではなく、0.1とか0.01とか、
具体的な小さい正の数で何度か書いてみれば、
分かりやすいでしょう。。
投稿: テンメイ | 2016年9月21日 (水) 20時53分