パラメーター付き曲線の通過領域と包絡線
大切な週末、他にいくらでもやる事はあるのに、なぜか数学のブログ記事を書い
てしまうのが、マニアの哀しい性(さが)ってもんだ♪ 最近ずっと「包絡線」(ほうら
くせん)について考えてたので、とりあえず第一弾の記事を書いとかないと気が済
まないわけ。先日インストールした、関数グラフのフリーソフト「GRAPES」を使う
練習にもなるし、偏微分と関連するから、遥か遠くで福山雅治『ガリレオ』の数式
(物理学の偏微分方程式)ともつながることになる。
包絡線は、ギリギリで高校数学の範囲なんだけど、文系はもちろん、理系でも知
らない人が少なくないかも知れない。パラメーター(媒介変数)付きの曲線(直線
も含む)が、パラメーターの値に応じて変化する時、その通過領域全体の境界と
なる線のことで、通過領域を「包むもの」だから、英語で「envelope」(=封筒)と
呼ばれている。 (注. 「接する」という意味については記事の終盤に触れる)
本来は大学で偏微分の応用例として学ぶものだから、高校では名前を出さずに、
こっそり登場していた。高校数学のちょっと変わった問題というのは、一般に大学
レベルの内容をこっそり使ってるものが少なくないのだ。論より証拠、早速、高校
数学の代表的問題を考えてみよう(包絡線関連だと最も簡単なレベル)。
「a の値が実数全体を変化する時、直線 y=ax-a² の通過領域を求めよ」。
数学好きなら、暗算ですぐに答を出す所だけど、ここでは基本に戻って、実際に
a の値を少しずつ変化させることにしよう。a=2なら、直線は y=2x-4。同様に、
a=1,0,-1,-2の時も考えて、実際にグラフを書いてみると、次のようになる。
a=0の時は、直線は y=0。つまり、水平方向に伸びる x 軸と重なる。
以前は、手書きで5本くらい直線を書いて、イメージをつかんでた。ところが今だと、
パソコンで数十本の直線を簡単に描くことができる。下図を見ると、ほぼ答の領域
がつかめるだろう。
x 軸の上側、y 軸の左右辺りだけが、直線の通らない領域で、境界線はU字型
の曲線になってるのが分かる。この境界線が、包絡線と呼ばれるものだ。先の
問題を解けば、包絡線の式も分かるので、以下3通りの方法で解いてみよう。
最後に別扱いで追加する1通りを加えるなら、4通りとも言える。
☆ ☆ ☆
(1) パラメーター a の2次方程式と見て、判別式Dを用いる方法 (高校では標準)
(解答) 直線の式を a についてまとめると、a²-xa+y=0。
これを a の2次方程式と見て、判別式 D≧0より、x²-4y≧0。
したがって、求める領域は、y ≦ 1/4 x² 。
(Q.E.D.証明終了♪)
(説明) 最後の答の不等号「≧」を等号に変えれば、包絡線(つまり境界線)
の式 y= 1/4 x² になる。
この方法が理解できない人は少なくないようだけど、直線の式の x
と y に具体的な数字を入れてみればいい。例えばx=0,y=-1を
代入すると、-1=0a-a²。つまり、a² -1=0(2次方程式)だから、
結局 a=±1。つまり、a=1の時とa=-1の時、直線は点(0,-1)
を通ることが分かる。実際、最初のグラフを見れば、そうなってる。
同様に、直線がある点(x,y)を通るかどうか調べるには、直線の式
を a の2次方程式と見て、実数解 a が求まるかどうか調べればよい。
だから解の判別式Dを使えばいいのだ。x と y だと引っ掛かる人は、
代わりに点(X,Y)とか点(p,q)にして、最後の答だけ x と y に直せ
ばいい。普通に a から点(x,y)を決めるのではなく、逆に点(x,y)
から a を求めようとする発想だから、「逆像法」とも呼ばれる。
☆ ☆ ☆
(2) パラメーター a の2次関数と見て、平方完成を用いる方法
(解答) 直線の式を、a の2次関数と見て平方完成すると、
y=-(a-1/2 x)²+ 1/4 x²
よって求める領域は、y≦ 1/4 x²。
(説明) これは、例えば x =2とか、x の値を固定した時、aに応じて y が
どれだけ変化するかを調べる方法だ。図形的には、通過領域全体
を y 軸に並行な垂直線( x=2とか)で切った時にできる、「半直線」
の y 座標の範囲を求めてることになる(a の2次関数を利用)。普通、
「直線」とは両側にずっと伸びる線だけど、この場合は上側に「端点」
(端っこ)があって下側にずっと伸びるだけだから、半直線だ。上側
の端点(x=2ならy=1)を集めたものが包絡線というわけだ。
☆ ☆ ☆
(3) a についての偏微分を用いて、a を消去する方法 (記述試験だと不完全!)
(解答) 直線の式を整理して、a²-xa+y=0。
両辺をaで偏微分して、2a-x=0。
aについて解いて、a=1/2 x。
直線の式に代入して a を消すと、y=(1/2 x)x-(1/2 x)²。
つまり y=1/4 x² で、これが包絡線。
通過領域はその下側全体(境界含む)だから、 y≦ 1/4 x²。
(説明) 「偏微分」とは大学レベルの言葉だけど、要するに他のものを固定
して特定の文字について微分することだから、実質的には高校レベ
ルの操作と言ってもおかしくない。例えばx=2、y=1と固定して、定
数扱いすると、直線の式は 1=2a-a²。つまり、a²-2a+1=0。
この両辺を a で微分するだけなら、高校2年の教科書・例題レベル
にすぎない。ただ、x と y を文字のままでやるのは、ちょっとした慣
れが必要だろう。
この記事の最初に、包絡線を「包むもの」として説明したけど、大学
レベルの本だと「接するもの」とされている。つまり、パラメーター付
きの曲線(直線も含む)が常に接する、別の特定の曲線ということだ。
実際、先の問題での直線 y=ax-a² は、a が変化しても常に包絡
線 y=1/4 x² に接している。
接するから、微分 dy/dx (接線の傾き)が関係するのは何となく分
かるとして、どうしてaによる偏微分が関係するのかというと、やや
難しい証明が必要になる。それについては、しばらく後で別の記事
を書くことにしよう。ネットで検索すると、いくつかの証明が出て来る
けど、私の記事はちょっと違う内容になる予定だ。
ともかく、元の式と、パラメーターについて偏微分した式とを連立して
パラメーターを消去すれば、包絡線は求まる。ただ、問われたのは
包絡線ではなく、通過領域だった。包絡線の下側全体がなぜ通過領
域になるのかは説明されてないから、不完全なのだ。少なくとも、「明
らかに下側全体を通過する」という文くらいは必要となる。他にも、高
校レベルだと、なぜ求めた曲線が包絡線と言えるのかが分からない
という理由で減点される可能性もある。その意味でもやはり不完全だ。
したがって、高校生が偏微分で包絡線を求めるのは、かなり高度な
記述問題、あるいは答だけでいい問題(穴埋めやマークシートなど)
に限るべきだろう。大学の経済学なら、問題ないと思う。
☆ ☆ ☆
最後に一言。上の3通りが代表的な解法だけど、「もう1通りあるんじゃないか?」
と疑問に思う人は、数学的センスに恵まれてる。つまり、(2)で x だけ固定したん
だから、逆に y だけ固定する方法も可能じゃないかという発想だ。実はそれでも
高校レベルで解けるんだけど、かなり面倒だから避けたのだ。元の問題は高校
1年レベルなのに、y だけ固定する方法だと高校2年以上のレベルになってしまう
し、偏微分ほどの鮮やかさもない。
少しだけやってみると、まずa=0の時を考えれば、直線 y=0(x軸)は通過領域
の一部。次に a≠0の時、x=a+(y/a)。この式で、y だけ固定してaを変化させ、
xの範囲を求めようとすると、分数関数a+(y/a)の動きを探ることになる。その
ためには、 y の符号による場合分けと、「相加平均」「相乗平均」の関係を表す
不等式と、極限(lim)が必要(高2レベル)。あるいは分数関数の微分(高3レベ
ル)が必要で、いずれにせよ前の3つの方法より劣るのだ。
これはほとんど触れられてない話だと思う。実際、「パラメータ 通過領域 分数
関数」で、検索オプション(フレーズとか、ゆれを含めないとか)を用いて検索す
ると、Yahoo!もGoogleも実質的には全くヒットしない。私自身も今初めて考え
たことだから、センスが無かったわけネ♪
という訳で、題材としては平凡だけど、それなりに独自性のある記事が書けたと
思う。次は、包絡線の証明より先に、偏微分の話をキッチリしようかな。本当は
ガラッと話を変えてトポロジー(位相幾何)について書きたいんだけどね。目指せ、
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.「GRAPES」でグラフを書く時、「ステッカー」(a=1とか、直線ごとの名前)
の付け方がなかなか分からなかった。マニュアルだと、入力欄で2行以上
の空白行を作るように書かれてるんだけど、私は普段のブログ執筆のク
セで、改行と共に空白(スペース)を打ち込んでたから失敗した。
逆にココログの管理ページの場合は、改行に空白を付け加えないと、1行
とか2行の空欄が作れないのだ。これも最初はなかなか分からなかった。
他には半直線の書き方も悩んだ。一応書けたけど、まだ納得してない。
P.S.2 色々と変化するパラメーター付き曲線の全体は、「曲線群」と呼ぶのが
普通だけど、大学レベルの数学では「曲線族」という妙な呼び方を使う。
パラメーター(あるいは添字=index)に応じて変化するものの全体を
「族」と呼ぶんだけど、これは英語の「family」の訳語。暴走族ではなく
て、「家族」の略と考えればよい。
P.S.3 2次方程式の判別式Dを取る方法は、実は偏微分による方法と関連
している。通過領域ではなく包絡線をめぐって、大まかなつながりだけ、
波線「~」で示しとこう。一通り理解してる人向けの、突っ込んだ話だ。
(a の2次方程式 a²-x a+y=0 の判別式D)=x²-4y=0
~ { a の2次関数 z=a²-x a+y の最小値 -1/4 (x²-4y)} = 0
~ ( a の2次関数 z の極小値)=0 (同上)
~ ( a による微分 dz/da が0の時の、2次関数 z の値)=0 (同上)
~ 直線の式の変形 a²-xa+y=0 に対して、a で偏微分した方程式
2a-x=0(つまりa= 1/2 x)を用いて、a を消した方程式:
(1/2 x)²-x(1/2 x)+y=0 (すなわち y -1/4 x²=0)
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