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破滅型の作家、車谷長吉の人生相談は面白い♪

追記: 10月11日に新しい記事を追加。

        自慢話との向き合い方~車谷長吉の人生相談2 )

 

車谷長吉(くるまたにちょうきつ)という作家の小説は全く読んだことが無い

んだけど、数年前に朝日新聞の文芸時評か何かで話を聞いたことはあっ

た。名前と同様、中身もかなり風変わりで飛び抜けた人のようで、その一

本の記事ですぐ頭に刻まれたほどだ。生誕100年で盛り上がってる『人

間失格』の太宰治と同じく、今どき珍しい「破滅型」の人生を歩んでるん

だけど、あんましシリアスな感じがしない。むしろ古風な顔つきも含めて、

何となく笑いを誘われるのだ♪

 

その彼が最近、朝日の土曜・朝刊の別刷「be」で、「悩みのるつぼ」

いう人生相談コーナーを時々担当している。朝日の人生相談は、夕刊にも

「悩みのレッスン」という企画があるんだけど、全体的に見て「るつぼ」

の方が面白おかしく書かれている。中には、怒り出す相談者もいるんじゃ

ないかと心配になるほど。単なる編集部の作り話ではないと思うけど、少

しはヤラセが混ざってるお遊び企画なのかも知れない。

 

さて、6月13日の相談は、ちょっと羨ましくもある内容だ。40代の高

校教師で、地位も評価も人気も手にしてるし、妻と子供2人にも恵まれて

る。ところが5年に1度くらい、女子生徒に没入してしまって、今も17歳

の高校2年生に夢中でコントロール不能。数年前には、既に卒業してた別

の女生徒の良くない噂を耳にして、ネットや他県を探し回ったほど(幸い

?発見できず)。「どうしたらいいのでしょうか」。

 

この半ばノロケか自慢みたいな相談に対して、車谷は二段構えの回答を示

してる。まず前半は、自分自身の破滅型人生の紹介。極端な貧乏、高利貸

からの借金、総会屋の違法行為の手伝い、人妻との不倫事件3回。その結

果、人生とは何かがよく分かったと自嘲気味に語っている。

 

作家としての車谷の才能が表れてるのは、そこから続く後半の文章だ。結

論的には、相談者にも破滅を勧める予想通りの展開なんだけど、語り口が

屈折してて巧みだから、説教っぽくないし笑えるのだ。「車谷節」が始ま

る後半の冒頭から引用してみよう。

 

  「人は普通、自分が人間に生まれたことを取り返しのつかない不幸

   だとは思うてません。しかし私は不幸なことだと考えています。

   あなたの場合、まだ人生が始まっていないのです

 

「思うて」という妙に年寄りじみた言葉遣いはともかく、これだけ読むと、

何を言いたいのかよく分からない宙吊り状態におかれてしまうだろう。フ

ツーの文脈なら、何かが不幸だと語る時は、それを避けるよう読者に勧め

てるはずだ。ところが彼は、その不幸こそが素晴らしいから、それを目指

して破滅へ突き進めとアドバイスする。

 

   「生が破綻した時に、はじめて人生が始まるのです。従って破綻な

    く一生を終える人は、せっかく人間に生まれてきながら、人生の

    本当の味わいを知らずに終わってしまいます。気の毒なことです

 

おそらく、ここまで書いた時、彼はニヤッと笑ってると思う。たとえ表情

は変わらなくても、内心ではイタズラっぽい笑みを浮かべてるだろう。相

談者に「女生徒と出来て」しまうようハッキリ勧めた後、そこまで行かずに

人生を終える人間が「世の9割」だとも書く。相談者もまだ「小利口」な人

に留まってるから、自分のように阿呆になることが一番よい」との事♪

 

この妙な回答の右上に、何とも地味でパッとしない顔写真が添えられてる

のが、屈折したユーモアを更に引き立たせている。「人の嫁はんに次々に

誘われ」って、ホントかね。単なるギャグとして聞き流すべき話かも。。

 

        ☆        ☆        ☆    

車谷の回答を読んで、小利口な教師が本当に破滅を目指すとも思えない。も

ちろん半ばユーモアであり、半ば勝ち組の自慢話なのだ。三島由紀夫賞、直

木賞、川端康成文学賞、芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。芥川賞候補も2回。

著書多数。詩人の高橋順子と結婚。おまけに、破滅的人生の最中でさえ、編集

者には高く評価されてたらしい(ウィキペディアより)。結果的に大勝利を

手に入れた才人の特殊な回り道を凡人がマネするほど「阿呆」なことも無い

だろうし、ほとんどの人にとって「阿呆になることは一番悪い」ことなのだ♪

 

と言うわけで、相談者と回答者の双方に軽い嫉妬を覚えつつ、今日はこの辺

で終わりとしよう。人生に悩んでる方、車谷にだけは相談しないように!

ではまた。。☆  

 

 

 

P.S. 2015年5月17日、誤嚥性の窒息で死去。まだ69歳。合掌。。

 

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.自慢話との向き合い方~車谷長吉の人生相談2

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・

  若い男の子を誘いたい中高年女性、全然OK♪

                ~上野千鶴子「悩みのるつぼ」(朝日新聞)

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コメント

車谷長吉さんの本は随分以前から読ませていただきました。お元気でご活躍のダンには心よりお喜び申し上げます。年季の入ってた作家として、また兵庫県出身の作家として息長く作品を書いてください。
多くの方がたの感銘を受けます。

投稿: 湯口 貞雄 | 2012年8月 6日 (月) 02時13分

> 湯口 貞雄 さん
  
はじめまして。コメントどうもです。
車谷長吉、面白くて個性的な作家ですね。
小説はまだ読んでませんが、コラムや
関連記事はたまに読んでます。
   
数々の受賞歴を誇る、兵庫県民の代表の一人。
まだ67歳だから、今後も活躍してくれるでしょう。
いずれ小説の方も読んでみたいと思ってます

投稿: テンメイ | 2012年8月 7日 (火) 07時46分

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