「運動の法則」再考3~運動方程式を使わずに問題を解く方法
今日はキレイな虹が大きく二重に出てた☆ たまたま携帯を持ってなかっ
たから写メを撮れなかったけど、色を数えたりしながら、しっかり目に焼
き付けておいた。虹と言えば、研究者として名高いのはニュートン。そこで
今夜は、ニュートン物理学の基礎を再考する記事の第3弾をアップする。
ちょっとコジツケに近いかも♪ ま、この1週間、キムタク=木村拓哉の
『MR.BRAIN』や山P=山下智久の『ブザー・ビート』の記事でアクセスを
稼いでるから、地味な本格派の記事を書くにはいいタイミングなのだ。
既に、ニュートンの「運動の第二法則」(=運動方程式:F=ma)は自然
法則ではなく、むしろ力の定義式だと書いて来た。自然の中で成り立って
る経験法則ではなく、人間の側の決め事、約束事という意味だ。という事
は、科学というより数学だということも出来る。
試しに今、ウィキペディアをチェックすると、これを「古典力学での法則」と
した上で、非常に短い説明の途中に、「この法則は、慣性質量を力によっ
て定義しているとも、逆に力を慣性質量によって定義しているとも考えるこ
とができる」とだけ書いてある。
しかし、ニュートン的な力よりも、質量の方が遥かに古い概念だという事だ
けを考えても、慣性質量を力によって定義しているという考えは実情に即
してない。逆に、力を質量で定義していると見るべきで、実際、先行記事
で見たように、今の教育システムでも先に質量が出てくるのだ。また、単
なる定義式なら、「法則」と呼ぶのはミスリーディングだろう。
こういった本質的な話は、今の物理学の教育の中ではほとんど無視され
ているので、大部分の人にはピンと来ない話だと思う。そこで今回は、実
際に力とか運動方程式を「使わずに」問題を解く方法を示すことにする。
今現在ほとんどどこにも無いと思われる具体的な内容だ。
「使わずに」と言っても、問題文の側で力を使ってしまってる場合には、言
葉を言い直す作業が当然必要で、その際には運動方程式と同じ形をした
「定義式」を使って変換することになる。本当なら今回は、質量について更
に突っ込んだ話をする予定だったんだけど、それは後回しにしよう。。
☆ ☆ ☆
以下、高校レベルの基本問題を3つ扱う。
まず第1問。質量mkgの物体を自然落下させる時の加速度を求めよ。
これは特に出典はないものの、どこにでも似た話はあるだろう。今、いわ
ゆる「重力加速度」を g としよう。私の言い方だと「地表における万有向心
加速度」だけど、面倒だから通常の呼び名を用いておく。
まず、普通の解き方を示すと、重力が mg だから、加速度を a として、
運動方程式は mg = ma (力=質量×加速度)。よって、a = g。
何となくムダがあるように感じる人は少なくないと思う。実際、私が高1の
時にはすごく奇妙に感じてた。
これに対して、「力」を使わない物理学では、何も式はない。自然落下と
は下向きの加速度 g だけの運動だから、物体の加速度が g なのは当
然だ。重「力」も運動方程式も関係ない。
☆ ☆ ☆
続いて第2問。2001年発行の数研出版の高校教科書『物理ⅠB』から。
水平面上に質量
1kgの台車Aと
質量1.5kgの
台車Bを接触さ
せ、図のようにAを5Nの力で水平に押す。A、Bの加速度の大きさは
何 m/s² になるか。なお、分かりやすさのため、僅かに表現を変更し
てある。以下も同様なので、念のため。
上の問題は、「力を及ぼし合う2物体の運動」という項目の例題だから、
AとBは分けて考えなければならない。教科書の解答は次の通り。
「右向きを正の向きとする。AがBを押す力を f Nとすると、反作用として
BはAを-f Nの力で押しかえす。加速度を a m/s² とすると、
Aの運動方程式は 5-f =1 a
Bの運動方程式は f = 1.5 a
2式から、a = 2。
一方、力無しの物理学だと、「作用・反作用の法則」(運動の第三法則)
を、質量と加速度だけで言い直すことになる。AがBに与える加速度を
p、逆にBがAに与える加速度を q とすると、1q=-1.5p。つまり、A
の質量×加速度=マイナス Bの質量×加速度)。
また、質量1kgの物体Aを5Nの力で押すとは、5/1(5割る1)の加速
度を与えるということだ。これは、こっそり自然法則としての運動方程式
を使ってるのではなくて、問題の表現を、力の定義式を用いて言い直し
てるにすぎない。そもそも力無しの立場では、「5Nの力で」という問題文
自体が不適切だから、適切な表現に翻訳しただけなのだ。
では、数式を示そう。要するに、加速度の和(or 差)の計算だけでいい。
Aの加速度:a = 5/1+q
Bの加速度:a = p
作用・反作用の法則より、1q=-1.5p。
これらより、a = 2。
少しだけ面倒になったように見えるのは、きっちり書いたためで、Bの最終
的な加速度がAから与えられる加速度に等しいのは当然だから、実は p
は不要。 a=5/1+q、1q=-1.5a から a を求めればいい。これなら、
元々の解答と手間も変わらないはずだ。
☆ ☆ ☆
最後の第3問は、ほんの少し複雑な話にしよう。前掲の教科書で、例題
の少し下に載ってる練習問題だ。
摩擦が無視できる定滑車
に糸をかけ、その両端に
質量がそれぞれa kg、b
kg (a > b)のおもりA、B
をつけて静かに手を放す。
このとき、おもりの加速度
の大きさは何 m/s² か。
まず、普通の解答。糸の張力をT、答の加速度を x 、下向きを正として、
Aの運動方程式は a g -T = a x
Bの運動方程式は bg- T = -b x
これらよりTを消去して、x = (a-b)g / (a+b)。
一方、力無しの物理学の解答。糸を通じてAがBに与える加速度を p、
BがAに与える加速度を q とすると、下向きを正として、
Aの加速度 : x = g-q
Bの加速度 : -x = g-p
作用・反作用の法則より a q = b p
(注. 滑車によって、p と q は同じ向きになり、マイナス記号が消える)
これらより p と q を消去して、x = (a-b)g / (a+b)。
基本的に、作用・反作用の法則を言い換える時点で文字数が1つ増えて
しまうのだけど、毎回同じ作業をするのだから、慣れれば q と書く代わり
に -bp/a とすればいいわけだ(この問題ではマイナスは消える)。ち
なみに普通の解答でも、作用・反作用の法則は暗黙の内に使われている。
張力の大きさTが一定という考えに表れてるのだ。。
☆ ☆ ☆
以上、3つの問題を2通りのやり方で解いて比較した。当然、力無しの物
理学はほとんどの人にとって全く目新しいものだから、分かりにくく感じる
だろう。ただ、ほとんどの問題を普段とほぼ同じ手間で解けそうだというこ
とも感じとれるはずだ。と言う事は、やっぱり、力とか自然法則としての運
動方程式は不要なのだ。使ってもいいけど、使わなくてもいい。その点だ
けからも、本質的な自然法則ではない。むしろ、計算や思考を手助けする
人間の工夫なのだ。
こうしてみると、第二法則は不要。また、運動の第一法則(外力の和が
ゼロのとき、加速度はゼロ)というのは無意味だ。というのも、加速度が
ゼロのとき、力は定義(質量×加速度)からゼロだから。したがって残る
運動の法則は、第三法則を質量と加速度で言い換えたものだけになる。
けれども、実はこれさえ不要なのだ。私も自分で気付いてたし、その遥か
以前には数学でお馴染み、天才ポアンカレが気付いてた。問題はやはり、
質量という概念なのだ。
その辺りの事情は、また今後の記事で示すとしよう。ニュートンが築いた
とされる古典力学の見え方が全体的に大きく変わって来るだろう。主とし
て教育制度によって、我々は固定観念を植え付けられてただけなのだ。
ではまた。。☆彡
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