ニュートン物理学の基礎、「運動の法則」再考2~質量と重さ
日テレでは、新作映画公開に先だって、『エヴァンゲリオン』の旧作を放
映。テレ朝はアイドル・福田沙紀のコスプレドラマ、『メイド刑事』。NHKは
ウィンブルドンテニス準決勝・フェデラー vs ハース。金曜の夜、これだけ
面白そうなテレビ番組が揃ってて、なぜ物理記事なんてものを書くのか。
これは『エヴァ』で言うと、なぜ「使徒」なんて名前のロボット兵器が人間
を襲って来るのか、なぜ「父さん」は僕(=シンジ)に辛い思いをさせるの
か、といった問題と同じで、根本的な難問だ。ともかく、理由が何であれ、
現実は現実。私はちゃんと書くのだ。と言いつつ、睡眠不足で眠いんだ
けど。明日も仕事だし。ブツブツ、ブツリ・・・(寒)。。
☆ ☆ ☆
さて、先日アップした第1回の記事を簡単におさらいしとこう。ニュートン
物理学の「運動の法則」(特に第二法則=運動方程式 : F=ma )には
最初から違和感があって、それは私だけの疑問ではなかった。非常に
難しい問題だけど、とりあえず近似的にはこう考えられる。
「F=ma」、つまり「力=質量×加速度」は、実際の経験的世界を表す自
然法則ではなく、物理学的な「力」の定義式にすぎない。つまり、右辺の
質量×加速度によって、物理学における「力」という概念を新たに定義し
て、計算や考察を多少手助けしてるだけの式だ。
実際、力の単位N(ニュートン)は、質量の単位kgと加速度の単位m/s²
を掛け合わせて作った組み立て単位なのだ。力は単なる数学的な工夫と
言ってもいい。という事は、世界を説明する上で必要ないのだ。すると今
度は、力を定義するのに用いた質量と加速度が問題になるから、まず比
較的単純そうな質量について考えてみよう・・・という話だった。
という訳で、今回は質量を中心に考える。教科書出版の老舗・啓林館の
HPをチェックした所、子供が最初に「質量のようなもの」を習うのは、今の
カリキュラムだと小学校5年の理科のようだ。教科書・上巻の目次を見る
と、「てんびんとてこ」という単元がある。ここで、てんびんを使って2つの
物体の「重さ」を比較することを学ぶらしい。
その後、中学の理科の教科書で、正式に質量を学ぶ。「てんびんではか
る物質の量を質量という。・・・・・・小学校では上皿てんびんではかる量を
重さといったが、中学校では質量という」(啓林館『未来へひろがるサイ
エンス・1分野(上)』 p.47)。
普通のカリキュラムだと中学1年で習うこの箇所で、早くも簡単に「質量」
を導入して、それと「重力」が別物だという話も加えている。同じページの
下段にある発展的コラム「もっと知りたい」を見ると、「質量はどこではかっ
ても変化しない量」と題して、上皿てんびん(質量用)とバネばかり(重力
用)を比較する図解入りでこう説明されている。
「物体は同じでも、月でははたらく重力の大きさは地球の
約6分の1になる。上皿てんびんでは、はかりたい物体
の重さと、基準になる分銅の重さを比べて質量をはかっ
ているので、どこではかっても結果は変わらない」。
私自身の記憶には無いけど、この辺りで混乱する中学生がいても全く不
思議ではない。何気なく、かなりトリッキーな説明が行われてるのだ。ペー
ジの上側では、小学校の「重さ」を中学では「質量」というと書かれてるの
だから、単なる言葉の言い換えのように感じられる。ところが下段のコラ
ムでは、「重さ」という言葉を「重力」(下に引っ張られる力)の意味で、質
量とは別物として使ってるのだ。
つまり小学校から中学1年になった時点で、「重さ」という言葉の意味が
全く変わってるのだ。小学校では質量の意味(正確には質量と重力が一
緒にされた意味)、中1では重力の意味。そして、この中1の質量や重さ
の説明が、忘れた頃に密かに高校の物理へと引き継がれる。実際、手
元にある10年前の高校の教科書『改訂版・高等学校・物理ⅠB』(数研
出版)を見ると、もはや質量の説明はないし、重さの説明も本質的には
中学のまま。単に、数式や単位の話を整えてるだけなのだ。
☆ ☆ ☆
元に戻って、改めて簡単な数式を導入して、質量と重力(重さ)について
考えてみよう。まずは普通の物理学的説明について。今、「質量1kg」と
決められた分銅と、ある物体がてんびんで釣り合ってるとする。これは、
両者が同じ力でてんびんの腕を押してること、つまり、両者を下に引っ張
る重力(中1以降の「重さ」)が同じであることを示している。
ここで、ニュートンの4つ目の法則である「万有引力の法則」を近似的に
(=大雑把に)用いると、地球上のある地点での重力の大きさは、物体
の質量に GM/r² (いわゆる重力加速度 g )をかけたものになる(Gは
万有引力定数、Mは地球の質量、r は物体と地球の重心との距離)。し
たがって、1kg の分銅に働く重力は1GM/r² で、rに応じて変化する。
一方、物体の質量を m kgとすると、重力は mGM/r² 。これも r に応
じて変化する。
ところが、てんびんで釣り合ってる時は、1GM/r ² = mGM/r² 。この
力のつり合いの式より、m=1。つまり物体の質量は1kgとなり、しかもこ
の測定値は場所(ここでは r )と関係ないのだ。
ちなみにこうして決めた質量は、正確に言うと重力と比例する値だから、
「重力質量」とも呼ばれる。運動の法則 F = ma において加速度と反比
例する「慣性質量」が登場して、重力質量と同じものとして扱われるように
なるのはまだ先のこと。教科書的には高校1年になってからなのだ。
こうした普通の物理学的説明に対して、第二法則を「力の定義式」と見
る場合には、そもそもてんびんの捉え方が変わって来るのだ。てんびん
が釣り合うとは、てんびんが回転を止めること。すなわち、2つの腕から
それぞれ生じる右回転と左回転の加速度(=角加速度)が釣り合うこと
(下のP.S参照)。そして、その加速度は経験的に、質量とGM/r² の
積に比例する(腕の長さが等しいのは前提)。よって、つりあいの式は、
1×GM/r² = m×GM/r² 。つまり、m=1。
どうだろう。式も結果も(ほぼ)同じだけど、「力」とか「重さ」(=重力)とい
う考えを使わずに、てんびんや質量を説明できるのだ。ちなみにバネば
かりの釣り合いの状態で測るのは、物体(=おもり)の質量×下向きの
加速度と考える。「万有引力の法則」は、重心(の辺り)へと引き付け合
う加速度に関する「万有向心加速度の法則」と考える。
力が不要だという話が少し見えて来ただろうか。てんびんもバネばかりも
「引力」も、要するに運動とか加速度の話だから、そもそも力の話と見る
必然性がないのだ。そこに力を見てしまうのは、小学校以来の教育と慣
習の影響にすぎないのだ。。
☆ ☆ ☆
区切りがいいので、今回はここで止めておこう。実は私自身、この記事を
書く作業の中で初めて、質量・重さ・重力という概念がどう教えられてるの
かを正確に理解することができた。つまり、まだ幼い頭脳にスルスルッと
巧みに入りこませて、後はそのまま話を進めてるのだ。
要領のいい生徒、あまり深く考えない子供なら、そのまま受け入れる話で
あって、別にそれで学習にも実生活にも不自由はない。ただ、教えられて
る内容は本当にその通りなのか。あるいは、その内容に説得力はあるの
か。そう考え始めた所で、一気に物理学はその奇妙な本性を現してくる。
そこがまた、マニアのハートをくすぐるわけだ。
次回は、分銅やてんびんについて更に考察すると共に、「単位」について
も考える予定。その後はまだ決めてないけど、もちろんニュートンの主著
『プリンキピア』の内容も吟味するつもりだし、ポアンカレやマッハらにも言
及するつもりだ。読者は僅かとしても、この種の記事もネット上に僅かだろ
うから、まさに釣り合いが取れていて、それなりの意味や価値はあると思っ
てる。とか言うより、私自身がすごく面白いからいいのだ♪
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S. てんびんで釣り合うのが角加速度なら、角速度は一定のままで
回転が止まらないはずだという疑問を持たれるかも知れない。し
かし実際、分銅と物体(=試料)がデータ的に釣り合っても、しば
らく腕はグラグラ動いてるはずだ。それが止まる(=角速度ゼロ
になる)のは、角加速度の和がゼロになった上で、さらに角速度
をゼロにする要素(摩擦、腕の振幅の制限、実験者の手の補助
など)が別に働くからなのだ。
あと、同じ疑問は普通の物理的説明にも向けられるべきだと付け
加えとこう。「重力」という「力」が釣り合ったからといって、てんび
んの動き(つまり速度)が止まることにはならないけど、そうゆう細
かい事は気にせずに話を進めてるはずだ。。
P.S.2 いわゆる「万有引力の法則」における、2物体間の距離 r という
長さは、厳密には非常に面倒な話になる。高校の物理はもちろ
ん、ニュートン自身でさえ大雑把な話しか出来てない。
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