第3回全国学力調査~結果と分析について
第3回全国学力調査については4月に記事を書いたが、昨日からまたポ
ツリポツリと検索が入って来てるから、不思議に思ってた。今日(2009
年8月28日)の朝日新聞・朝刊を見て納得。昨日27日に、文部科学省か
ら結果が発表されたようだ。
朝日は、1面の小さな囲み記事と、社会面の橋下府知事の反応記事以外
に、中央で見開き2ページ全体を使って詳しく報道している。まあ、本当の
狙いは、下側に掲載する教育関連広告なのかも知れないけど、話題の大
規模調査を詳しく報道する姿勢はいいと思う。問題はその中身だ。「相変
わらず、基礎的知識の問題には答えられるけど、応用問題には弱い」な
どという平凡な全体的分析ではなく、もう少し突っ込んだ話を考えてみたい。
☆ ☆ ☆
まずは、具体的な問題を1つ見てみよう。府川源一郎(横浜国立大学)が
批判的コメントを書いた、小学校の国語Aの問題。国立教育政策研究所
のHPに掲載されてはいるものの、転載禁止と強く主張してるので、非常
に似た別の問題へと私が作り変えて掲載しよう。そのまま転載しても全
く問題ないと思うが、私は基本的に法を守ると普段から明言してるし、原
文にこだわるほどの話でもない。
今年(第3回)の、一つの文を二つの文に分ける問題の正答率は15.0
%で、07年の類似問題の57.9%と比べて「不自然に違いすぎる」と府
川は書いている。これに対して私の立場は、やや異なるものだ。確かに
違いの大きさは問題だけど、さほど不自然ではない。
今年の問題文(のアレンジ)は、「新しく代表に選ばれた6年生は、どうす
べきか分からなくて不安そうにしてたので、僕が色々教えてあげたいと
思った」。この一文を、「だから」を使って二つに分けるのだ。理由を表す
「・・・ので、・・・」を、「・・・。だから・・・」と変えるだけだが、ほとんどの小
学生は出来なかった。
そこには2つの事情がある。まず、実は問題の一文の「前」に、さらに二
つの文が書かれてるのだ。これに惑わされた生徒がかなりいたと思わ
れる。07年の問題には、そんな文は「前」には付いてなくて、「後ろ」に
ついてるだけ。しかも、読み飛ばしてもいいような内容だ。この点につい
ては確かに、07年と09年の間で統一性が不足してるだろう。
ただ、もっと本質的なのは、二分割の内容の違いだ。07年の問題文(の
アレンジ)は、「ポチはひとりぼっちの犬で、橋の下に住んでいました」。こ
れを、ポチを主語にして二つに分けるだけなのだ。もちろん、「ポチは・・・
犬でした」と、「ポチは・・・住んでいました」とに分ければいい。つまり、意
味的に「そして(AND)」でつながれた2つの情報を単に切り離すだけで、
一番簡単な分割だ。
それに対して09年は、「だから」で分けるのだから、2つに分けるだけ
ではなく、一方が他方の理由になっていることを理解する必要がある。
この非対称的(=一方向的)な関係の理解は、単なる切り離しよりワン
ランク上のものだ。
論理学で言うと、「そして」(=連言)の理解よりも、「ならば」(=条件 or
含意)の理解の方が遥かにつまずきやすいという事実と似た話だろう。
したがって、正答率が大幅に下がるのはさほど不自然でもないのだ。
☆ ☆ ☆
続いて、全国学力調査に対する朝日の新聞社としての姿勢を見てみよう。
これはかなり批判的で、以前から一貫してるような気がする。特集記事の
「解説」のポイントを引用してみよう。
「3回目を迎えても、経年で科学的に比べることができず、制
度的な欠点を文部科学省が認める事態となった・・・。
毎回、問題を理論的に一定の水準や難易度に設定できな
ければ、学力がどう変わったのか比較できない。
・・・経年変化を分析する基本設計がないのに、毎年、しかも
悉皆(しっかい=全員対象)調査する意味は何か。あえて探
すなら、その年の全学校と子どもの平均を出し、相対的な位
置を知ることしか浮かばない」。
解説担当者は編集委員の山上浩二郎だが、最初から最後まですべてネ
ガティヴな文章になっており、逆に説得力を失っている。学力の経年変
化を科学的・統計的に調査することなど非常に困難なのは当然だし、そ
れでもその調査を要求するのなら、専門家を入れるようポジティヴに主
張すればいいはずだ。ところが議論の流れは、専門家が入ってないか
らダメ、というネガティヴな結論に向かうことになる。
一方、「相対的な位置を知ること」という調査の意味が、どうして「・・・しか
浮かばない」という否定的扱いだけを受けるのか。十分な価値を見てとる
人も少なくないはずで、今まで普通に行われて来た学校内の実力テスト
を、全国規模にしたと考えればいい。
コストパフォーマンス=費用対効果の問題(3年間で200億円)なら、より
安上がりで意義深い別の調査を対案として出すべきだろう。その努力を
する時はじめて、代わりの調査を作ることの大変さが分かるし、自らの一
面的な批判の偏りにも気付くはずだ。
私なら例えば、3年に1度の実施を考慮してみるだろうけど、これでは今
の時代の変化に付いて行けない恐れは一応ある。都道府県ごとに、一部
の学校だけをランダム(無作為)に抽出したサンプリング調査というのも
当然考えられるけど、誰でもすぐ思いつく話にすぎないから、これにはこ
れで、現場の反対とか色々と問題があるはずだ。
結局は、手さぐりで試行錯誤しながら妥協点を探るしかないわけで、その
意味ではこの3年間の実験は決して無駄ではないし、単なる失敗でもない
はずだ。子供たちの意見や国際的動向も踏まえて、少しずつ改善していく
ほかないだろう。。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、この話題に限らず、常に導かれるべき結論が2つある。
まず、現状の様々な課題を認識して克服していこう、ということ。続いて、
マスメディアや専門家の言葉を鵜呑みにせず、自分で見たり考えたりす
る力、あるいは話したり書いたりする力を磨いていく必要があるというこ
とだ。真実はしばしば、平凡なものに過ぎない。
今日の所は、これで終わりとしよう。ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.もう一人のコメンテーター、澤田利夫(東京理科大教授)は、基礎
的な計算問題みたいに正答率が高いことが分かってるものは出
題から外しても良いのではないか、と語っている。
気持ちは分からなくもないけど、むしろ三重の意味で、逆だろう。
計算問題は、同レベルのものを簡単に作れるから、経年変化を調
べやすい。また、小中学校の簡単な計算さえできない大学生が増
えてるという現実もある。さらに、基礎的な計算力は非常に重要な
学力だ。したがって、計算問題は残すべきなのだ。
P.S.2 朝日が転載している小6国語Bの問題(一部を省略)は、デー
タから「自分の意図する」結論を導く問題で、ある意味斬新なも
のではあるけれど、小学生の全国調査にはふさわしくないだろ
う。もう少し結論が明白な問題にしないと、これではディベート
の技術とか、古代ギリシャの弁論術に近いものにも感じられる。
小6国語のB問題では他にも、五十メートル走のタイムの分析
がやや複雑過ぎる。昭和62年と平成19年の比較ではなく、平
成10年と20年の比較にするだけでも、普通の小学生にとって
は遥かに考えやすかっただろう。
こうした点においては、「問題設定に原因があった」、「児童の
現実生活に即しているとは思えず、設問も形式的な解答を求め
ている」などとする府川の指摘は、もっともなものだった。
P.S.3. 4月の記事、全国学力調査、伝説の確率の問題が登場♪
で扱った問題は、予想以上に正答率が高かった。適切な誘
導がついてたおかげだろうか。
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コメント
こんにちは。
全国学力調査(中3)、私も受けましたよ~。
さすがに、難しくはありませんでしたが・・・
受験者としましては
もし出来るなら、全国での順位が分かると嬉しいな
と思いました。
ここまで大規模の統一テストって、そうそうある機会じゃありませんしね。
投稿: ゆず | 2009年8月30日 (日) 13時35分
> ゆずさん

こんばんは
当事者直々のコメント、どうもです ^^
中3なんだ! 確認できてる範囲だと、
ウチで2番目か3番目に若い読者かな。
正直、かなり羨ましいなぁ☆
ま、当時は大人が羨ましかったりもしたけど ♪
難しくなかったってことは、優秀なのかもね☆
全国の順位かぁ。民間の模試なら普通に出るけど、
国の全員参加試験だとまず無理だろうな。
民間の偏差値でさえ、かなりモメて来たんだから。
国民の序列化は社会的にも個人的にも
影響が大き過ぎるでしょ。
日本中の中3の中で一番下あたりとか出ちゃうと、
キツイもんね。傷つきやすい年頃だし。
ま、民間の模試や校内実力テストでガマンしよう ♪
明日からの2学期も頑張って!
投稿: テンメイ | 2009年8月31日 (月) 22時20分