« 4年ぶりの5000mタイムトライアル、胃痛との闘い | トップページ | サイクリング人口はランニングや水泳より多いのか・・ »

新型うつ病の一つ、非定型うつ病について

ここ数年、メディアとかで「新型うつ病」という言葉を耳にすることが多く

なった。国立国会図書館とアマゾンで検索すると、この言葉をタイトルに

含む書籍の最初は、2008年12月発売の『「新型うつ病」を直す方法』

(税所弘,三五館)のようだ。なぜか国会図書館では2009年1月となっ

てるけど、出版社のHPでは08年12月となってる。

              

一方、タイトルではないけど副題に含む書籍なら、3ヶ月遡って、08年9

月の『非定型うつ病のことがよくわかる本 「気まぐれ」「わがまま」と誤解

を受ける新型うつ病のすべて』(貝谷久宣,講談社)が最初のようだ。い

ずれにせよ、専門の本が出版されるようになって僅か1年だから、新型

うつ病という概念の流行には、たかが数年の歴史しかないはずだ。

                

「うつ病」に「新型」という普通の形容語句を付けただけだから、言葉とし

てはかなり前から自然発生してたかも知れないけど、今の流行を生み

出した一人はおそらく、人気のある精神科医、香山リカだろう。今年3月

には『雅子さまと「新型うつ」』(朝日新聞出版)という、売れ線のタイトル

の本を出版して、その中で、しばらく前に自分が提唱したと書いている。

         

ともかく、非常に新しい概念だから、本やネットであれこれ調べても、

んな多少説明が違っていて、どれを信じていいのか、混乱が増すばかり

だ。そもそもこんな病名は、お馴染みの世界標準マニュアル『DSM-Ⅳ

-TR』(精神疾患の診断統計マニュアル・新訂版,医学書院)には無い。

原書はアメリカで、しかも2000年に出版だから、当然のことではある。

      

ただ、新型うつ病の一つのタイプが「非定型うつ病」であることに関して

は、かなり意見が一致してる感がある。それは例えば、貝谷の本のタイ

トルからも分かるし、先月(09年9月)に発売されたばかりの『若者の「う

つ」 - 「新型うつ病」とは何か』(傳田健三,筑摩書房)でもそうなってた。

そこでは、新型うつ病が、ディスチミア型(気分変調症型)と非定型うつ

病型と発達障害型の3種類に分類されてるのだ。   

                   

という訳で、以下ではその「非定型うつ病」について見て行こう。これなら

DSMでも「一応」説明されている。ただし、これもかなりミスリーディング

な(=誤解を招きやすい)言葉なので、いつものように、元のテキストに

忠実に話を進めたい。。

               

         ☆          ☆          ☆

さて、DSMという精神医学マニュアルでは現在、うつ病は「気分障害」と

いう大きなカテゴリーに入れられて、「大うつ病性障害」、「気分変調性障

」、「双極Ⅰ型障害」、「双極Ⅱ型障害」などの病名へと細分されている。

このサイトでも今まで、基本的にこの分類に従って診断基準を説明してき

たわけだ。

              

けれども、「非定型うつ病」という病名はDSMに無いし、該当箇所の説

明文の中でも一度も使われてない。巻末の索引にも載ってないのだ。も

ちろん、この言葉を使う専門家達は、それを承知の上で敢えて使ってる

わけだろうから、事の良し悪しは別問題ではある。

                 

「非定型うつ病」の代わりに、DSMに載ってるのは、「非定型」(atypical)

という言葉。これは、それぞれのうつ病の特徴を追加で特定する用語な

のだ。例えば、非定型の「大うつ病性エピソード」(典型的うつ病の期間)

とか、非定型の気分変調性障害、といった感じで、形容詞的に用いるこ

とになる。似たような特定用語としては他に、「メランコリー型」、「緊張病

性」などがある。

                            

「非定型」という言葉を付け加える際の診断基準は、要点だけ書くと以下

のようになる。ちなみに、いつもと違って、原文の基準もそれほど細かく

はない。所詮、付け足しの言葉だからだろう。

         

     A.気分の反応性 (いい事に反応して明るくなる)

     B.次の特徴のうち、2つ以上がある。

       (1) ハッキリした体重増加や過食

       (2) 過眠

       (3) 鉛のように重く鈍い身体感覚

       (4) 他人に拒絶・批判されることに対して非常に敏感

         

以上、AとB両方を満たしてれば、「非定型」という特徴をもったうつ病と

して特定される。この言葉、普通に考えれば「典型的なタイプではない」

という意味だし、そう説明してる人もいるけど、DSMでは「まれな、また

は変わった臨床像を意味するものではない」と書いてある。要するに、

特殊な歴史的経緯で非定型という言葉が使われてるらしいのだ。

               

なお、非定型という特徴は、女性で2~3倍多く見られ、初発年齢が若

く、若い患者の中に多く見られるとの事(非定型には若い患者が多いと

までは書いてない)。一方、年長者の中では逆に、「メランコリー型」の

うつ病が多くなる。つまり、反応が鈍い、食欲不振、朝早く目が覚める

といった特徴が目立つわけだ。何とも分かりやすい違いではある。。

         

        ☆          ☆          ☆

最後にもう一度、「新型うつ病」について考えてみると、非定型の説明と

は多少異なる特徴として、他人を責める、場所によっては大丈夫(例え

ば家)、休むことに抵抗がない、自己顕示欲が強い、などがある。日本

で増えてると言われれば、そんな気もしなくはないけど、外国ではどうな

んだろうか。もし世界的に見られるのなら、現在作成中らしいマニュアル

の新ヴァージョン、DSM-Ⅴで何か説明が加わるかも知れない。

               

ちなみに、人気サイト『Dr 林のこころと脳の相談室』を運営する林公一

は、「新型うつ病」の代わりに「気分障害」と呼ぶことを提案している。正

確には「うつ病でない気分障害」と言うべきだけど、省略してるわけだ

(『それは、うつ病ではありません!』 宝島社)。

      

確かに気分(mood)の障害だし、これならDSMにある言葉だから、一

理ある話ではある。ただ、世間的には「気分障害」という言葉よりも、「新

型」とか「うつ病」という言葉の方が遥かに一般的だから、少なくともあと

数年程度は、「新型うつ病」という言葉が生き残るだろう。

                

その先は、大昔の「新人類」という言葉と同様、衰退の道をたどるかも知

れないけど、正直言って読みにくい所だ。言葉が消えても患者はしばら

く消えないだろうから、治療とか対処の面で、まだまだ試行錯誤が続くこ

とになるだろう。

                                            

私自身は、「病」気でも「障害」でもない人がかなり混ざってると想像して

るので、そういった人達を別扱いすることが社会的に重要だと思ってる。

心の病に関する啓発活動(広義)は有意義だけど、今の状況はやはり

行き過ぎだろう。。

              

次回は、統合失調症を扱う予定。ともかく、悩んでる方は一度、専門家

に相談することをお勧めする。本やネットの情報は、あくまで参考程度

の一般論にすぎない。医学情報を個々の人間にどう適用するのか、そ

れはあくまで、プロの領域の医療技術だ。

ではまた。。☆彡

                 

                    

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.うつ病の診断基準と抗うつ薬~NHK『ためしてガッテン』

  うつ病の診断基準2~気分変調性障害

  うつ病の血液診断と遺伝子変化

  うつ病の診断基準3~双極Ⅰ型障害(躁うつ病)

  うつ病の診断基準4~双極Ⅱ型障害(軽い躁うつ病)

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  心理療法を無料で全国民に~朝日新聞「欧州の安心 イギリス」

  大胆かつ繊細な試論~香山リカ『雅子さまと「新型うつ」』

| |

« 4年ぶりの5000mタイムトライアル、胃痛との闘い | トップページ | サイクリング人口はランニングや水泳より多いのか・・ »

心と体」カテゴリの記事

健康」カテゴリの記事

コメント

わたしは、大うつ病(Majar Depression)です。
わたしが現在、服用している処方薬ですが、次のとおりです。
1日につき11種26錠です。

リーマス 毎食後1錠 1日3錠
レキソタン 毎食後2錠 1日6錠
トレドミン 朝夕食後1錠 1日2錠
ドグマチール 夕食後1錠 1日1錠
デプロメール 夕食後4錠 1日4錠
テシプール 夕食後2錠 1日2錠
パキシル 夕食後2錠 1日2錠
ノリトレン 夕食後3錠 1日3錠
クレストール 夕食後1錠 1日1錠
マイスリー 就寝前1錠 1日1錠
ドラール 就寝前1錠 1日1錠

さすがにこんなにあると、外泊や旅行では持ち運びが大変です・・・

治るまで飲み続けますが・・・

投稿: TheBeach | 2009年10月24日 (土) 05時41分

> TheBeach さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
うつ病のブログを運営する患者さんですね。
早速、そちらを拝見してみました。
      
このコメントは、10月21日の記事のようですが、
残念ながら僕には適当な言葉が見つかりません。
ものすごい量に見えますが、担当医の判断でしょうし、
ご自身も受け入れてらっしゃるんでしょうからね。
   
とにかく、早期の回復をお祈りしてます ☆彡

投稿: テンメイ | 2009年10月25日 (日) 02時46分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 4年ぶりの5000mタイムトライアル、胃痛との闘い | トップページ | サイクリング人口はランニングや水泳より多いのか・・ »