統合失調症の診断基準、統計、および歴史的経緯
今まで精神疾患と関わる記事はかなり書いてるけど、ここ最近では広義
の「うつ病」(躁うつ病や新型も含む)をずっと扱ってきた。それは、たま
たまNHKのうつ病特集番組で記事を書いたら、予想以上にアクセスが
多かったということもあるけど、より根本的には、ここ最近うつ病が極端
に増えてるという事情がある。
それは、メディアの扱いの多さや、大きな書店に並ぶ本の数を見るだけ
でも分かるが、正確な情報となると、厚生労働省が3年に1度行ってる
大規模な「患者調査」が最も参考になるだろう。先日(2009年12月3日)
に発表された、平成20年(2008)患者調査では、うつ病の患者が初め
て100万人を超えたことが話題になった。
ここ10年で2.4倍もの急増。しかも、ここで言う「患者」とは、病院などで
診療を受けた人だから、診療を受けてない人を含めた「うつ病にかかっ
てる人」を計算すると、おそらく数倍になるだろう。こうしたデータをどう読
みとるかには、色々と議論がある。特にうつ病の場合はおそらく、以前な
ら病院に行かなかったような軽症の人が、治療を受けるようになったこと
が、数字に大きく反映されてるだろう。
一方、うつ病と並ぶもう一つの代表的な精神疾患、「統合失調症」では、
ここ12年間(患者調査5回)で、患者数がほぼ一定のまま。変わってな
い。今回の「総患者数」を見ると、約80万人となっている(統合失調症
型障害及び妄想性障害も含む)。日本の人口と比べた時の患者の割
合は0.6%強だから、あちこちに書かれてる0.5%とか1%といった
数字と整合的なデータだろう。
ちなみに、「中分類」において三番目に多い精神疾患は神経症で、約
60万人だ。ただし、うつ病や神経症と違って、統合失調症の場合は
入院患者の割合が非常に多いのが特徴だろう。2008年だと約40
万人だから、ほぼ5割に達している。「失調」という言葉は、いま「調」
子を「失」ってるけどいずれ復調できる、というニュアンスを持ってるは
ずだし、薬物療法の発達もしばしば口にされるものの、まだまだ実情
は大変なようだ。。
☆ ☆ ☆
ところで、この「統合失調症」。以前は「精神分裂病」と呼ばれてたこと
は、わりと有名な事実だろう。「精神」が「分裂」してるという病名は重
過ぎるから、全国精神障害者家族会連合会が要望を出し、2002年
に日本精神神経学会が「統合失調症」へと改名した。
この時もかなりの議論を経て、結局改名が実現したので、今話題になっ
てる「障害」という表記も、いずれ「障碍」(あるいは「障がい」)へと正
式に変更される可能性は十分あるだろう。
話を戻すと、元の名が精神分裂病であるとか、英語では「schizophrenia」
(スキゾフレニア)のままだという話は、わりと知られてるのに対して、そ
の前に何と呼ばれてたかについては、まだ一般に知られてないと思う。
近代精神医学の父とも言うべきクレペリンが「早発性痴呆」と呼んでたも
のを、ブロイラーが「精神分裂病」と改名したとかいうのが普通の説明だ
この点を再考してみると、「早発性」の「痴呆」と、「精神」の「分裂」という
のはかなり違う概念であって、単なる呼び換えでないことは容易に推測
できることだ。そもそも、対象とする病自体、あるいは患者自体が微妙
にズレた可能性は十分ある。
とりあえずここでは、そのズレの可能性を指摘するに留めて、更にクレ
ペリン以前へと遡ってみよう。すると、カールバウムとヘッカーという師
弟が唱えた「緊張病」と「破瓜(はか)病」に到達する。簡単に言うと、そ
れぞれは、身体的な緊張と、発症の若さが特徴だから、この名が付い
ている。これら2つの型に、クレペリンが「妄想型」を加えてまとめ直し
たのが、「早発性痴呆」ということだ(この言葉自体はモレルから継承)。
ちなみに「破瓜」期とは、16歳くらいの思春期を指す伝統的な(or 古
めかしい)言葉で、「瓜」という感じを左右に「破」ると、「八」が2つになっ
て、合わせて16という事らしい。冗談みたいな言葉遊びが、小学館
『大辞泉』や三省堂『大辞林』に載っていた。
☆ ☆ ☆
と言う訳で、統合失調症という概念を百数十年遡ると、緊張型と破瓜
型と妄想型、3種類の重い精神疾患に到達する。そして現在、世界標
準となっている米国精神医学会『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・
統計マニュアル』(医学書院)を見ても、基本的な3つの病型はそのま
ま残されてるし、診断基準にも反映されている。
最新のマニュアルにおける統合失調症の診断基準は、次のA、B、C
すべてが満たされることだ。実際はもう少し詳しいし、項目もFまである
ければ、長過ぎるので省略してある。専門家もしばしば省略してるので、
特に大きな差し障りはないと思う。
A.特徴的症状:以下の2つ以上、おのおのは1ヶ月ほどの期間
ほとんどいつも存在する。ただし、(1)や(2)が
顕著なら、1つだけでもよい。
(1) 妄想
(2) 幻覚
(3) まとまりのない会話
(4) まとまりのない、または緊張病性の行動
(5) 陰性症状。すなわち、感情の平板化、思考の貧困、
または意欲の欠如
B.社会的または職業的機能の低下
C.期間:持続的な徴候が少なくとも6ヶ月間存在する。
こうしてみると、重い病としては、意外なほど単純な診断基準のように
も見える。大まかに言うと、1と2は妄想型、3と5は主に破瓜型(現在
の言い方では解体型)、4は破瓜型と緊張型の特徴だ。
統合失調症の症状は、非常に多彩だと言われるものの、少なくとも専門
家が見れば、比較的簡単に診断できるのかも知れない。特に、妄想と
幻覚(特に幻聴)は、分かりやすい特徴だろう。ただ実際は、この種の診
断基準に付きものの、他の障害との区別という困難が待ち構えている。
統合失調症の場合は、失調型・シゾイド・妄想性という、3つのパーソナ
リティー障害(or 人格障害)との区別が微妙な所だ。DSMをよく読んで
も、統合失調症とパーソナリティ障害の違いを強調する箇所もあれば、
類似性を指摘する箇所もある。病因論がまだ曖昧な中、結局は、症状
の程度や期間の長さで診断することになると思われる。
☆ ☆ ☆
次に何を書くか、まだ決めてないけど、もう1回いわゆる精神病的な重
いものを扱うか、精神疾患全体をまとめるか、あるいは神経症的なも
のについて考えるか、いずれにせよまだしばらく精神医学記事は書き
続ける予定だ。
最後に、いつもと同じく大切な助言を書き添えとこう。身の回りで心当た
りのある方には、まず専門家のもとを訪れることをお勧めしたい。ネット
情報とか、本やテレビの話などは、あくまで素人向けの簡単な参考資料
だし、一般論にすぎないわけだ。個別の具体的な症例については、経験
を積んだ専門家が直接診るしかない。
それでは、今日の所はこの辺で。。☆彡
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cf.うつ病の診断基準と抗うつ薬~NHK『ためしてガッテン』
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