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金メダル遺伝子ACTN3と瞬発系・持久系~朝日新聞&NHK

2月13日の夜、NHKでバンクーバー五輪の開会式(録画)に続いて放

送された『追跡!A to Z 金メダル遺伝子を探せ』という番組は、ちょっ

と「面白かった」。「興味深い」とか「参考になる」というより、やっぱり「面

白い」話なのだ。

                   

去年、NHKで「女と男」に関するスペシャル番組を放送した時にも書いた

ように、最近の生物系の科学とか脳科学というのは、かなり眉唾ものの

怪しげな話が混ざってるし、科学的証明も粗雑なものが目立つ。と言うか、

粗雑さは最先端では別に構わないと思うけど、粗雑さを隠して「科学性」

ばかり宣伝することが多いから問題なのだ。

         

だからと言って、そこで語られてることが間違ってるとも言えないし、もち

ろん面白かったりもする。また、そういった新説を信じて行動に移す人も

実際にいるわけだ(陸上の丹野麻美とかエリートも含む)。そうゆう意味

で、NHKの番組はやっぱり「面白話」という表現がピッタリだった。そこ

へまた、今日の朝日新聞・朝刊(2月18日)が同じテーマの記事を書い

て来たから、ウチでも軽く記事にまとめとこう。ま、時期的に五輪ムードっ

てことで♪

                       

        ☆          ☆          ☆

一般に、テレビと新聞を比べると、テレビ映像の方が遥かに影響力が強

ものの、新聞の方が冷静で正確な内容が載ってることが多い。特に、

理数系の話ではかなりハッキリした差があると思う。今回の朝日新聞

記事も、たかが4分の1ページ(「もっと知りたい!」シリーズの一つ)では

あっても、内容的にはNHKの番組より信頼できる慎重なものになってた。

        

そもそも、NHKのタイトルは「金メダル遺伝子を探せ」なのに対して、朝

日の見出しは「五輪選手のDNAは特別か」という疑問形。その答えも、

二番目の見出しに既に書かれてる。「研究これから 環境が大事」だ。

特別かも知れないけど、研究は始まったばかりだし、遺伝子だけでは

決まらない。ごく穏当な話にまとめてある。

   

では、ネットで調べた情報も交えながら、朝日の説明を具体的に見てみ

よう。注目の遺伝子は、第11番染色体の上にある「ACTN3」。αアクチ

ニン3タンパク質(protein α-actinin-3)の略だ。元の名前から分かるよ

うに、本来「ACTN3」というのは筋肉の構造に関わるタンパク質の名前

だけど、今ではしばしば、そのタンパク質を作る「ACTN3遺伝子」の略

としても使われてるようだ。

         

「金メダル遺伝子」の有力候補となってる、このACTN3には、3つの型

(タイプ)がある。RR型、RX型、XX型。要するに、R(アルギニン)が2つ

あるか、1つか、0かという意味らしい。

        

これをなぜか、NHKでは「CC型、CT型、TT型」と説明したようだけど、

その型名で検索しても、NHKの感想ばかりがズラッとヒットする(下の

P.S.参照)。一方、オーストラリアの先駆的論文である、「ACTN3

Genotype Is Associated with Human Elite Athletic Performance,Yang

et al. ,2003」を見ても、日本の研究論文(後述)を見てもRとXで書かれ

てる。朝日も、伝子検査(18900円)を募集するスポーツスタイル社

(千葉)もそうだ。

                                     

で、最も単純な見解が、RRが瞬発系、XXが持久系、RXがその中間(N

HKでは球技系と説明)ということで、スポーツスタイル社のHPでもそう書

かれてる。しかし朝日新聞では、RRが瞬発系かも知れないことは示唆

してるものの、XXが持久力に関係あるかないかは両論あるとしている。

                

日本の専門誌『体力科学 vol.57 no.1 2008』に掲載された短い論文『骨

格筋機能に関わる遺伝子多型-ACTN3 遺伝子型とスポーツトレーニン

グ』(小倉裕司,内藤久士)を読んでも、やはり持久系との関連を疑問視

する説がやや強めに紹介されてるから、差し当たり瞬発系スポーツとの

関連だけを考える方が良さそうだ。

          

とはいえ、RR型と瞬発系との関連も、所詮は「一つの」遺伝子の仮説

過ぎず、ACTN3以外にも、運動能力と関係しそうな遺伝子は200以上

挙げられてるらしい。また、関連といっても、統計学的な相関関係にすぎ

ず、確率がわりと高いと言ってるにすぎない。おまけに当然、遺伝子だ

けでスーパーアスリートが生まれるわけもなく、練習・食事・指導者とか、

精神面の問題も絡んでくる。東京都健康長寿医療センター研究所(朝日

では福典之、NHKでは田中雅嗣)でも、「遺伝子だけ」に注目する姿勢

の危うさを指摘してる。

            

ただし、「遺伝子も」重要なのは確かなので、ここ数年は遺伝子の型と

トレーニング方法の研究が進んでるようだ。例えば、東京大学の石井

直方教授は、筋力トレーニングとACTN3の関係を研究中。強い運動

ではRRを持つ方が疲労しにくく、回復も早い可能性があるらしい。とい

うことは、RR型なら強い負荷の筋トレを多めにした方がいいのかも知

れない。ちなみにXX型も、筋肉がつきやすいという研究があるそうだ。。

      

          ☆          ☆          ☆

いずれにせよ、まだ研究は始まったばかりで、今後の展開を注目すべ

き段階だろう。まあ、2万円程度で話のネタが出来るのなら、遺伝子検

査(頬の内側をこすった綿棒を郵送)をしてみるのも一つの選択肢では

あるかも知れない。

               

私自身は、過去の経験から「中距離型」だと思ってる。つまり、持久系

の中ではやや瞬発系に近いタイプ。けれど、中距離走(1500mとか)

の練習をする環境もないし、長距離の方が色々と面白くて練習しやす

いから、実際には長距離をやってる。性格的にもわりと合ってる気がす

るし、差し当たり検査の必要性は感じない。ただ、別に検査への抵抗

もないし、「面白い」話だとは思う。ま、個人情報保護の問題がちょっと

心配ではあるけどね。検査は外国(オーストラリア)のようだし。

          

以上、朝日の報道と、NHKの番組を受けて、さらに自分でネットの論文

などを調べて、簡単に考察してみた。

ではまた。。☆彡

    

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.3月1日の朝日新聞のネット情報によると、競走馬サラブレッドの

    距離特性(短距離か長距離か)の見極めに使えそうなDNA配列

    の個体差をアイルランドのダブリン大が発見、米科学誌プロスワ

    ンに発表した。

               

    ミオスタチン(MSTN)という遺伝子のDNA配列について、両親

    から共にCのタイプを受け継ぐのがC/C型(短距離向き)。それ

    ぞれの親からCとTのタイプならC/T型(中距離向き)。両親から

    TのタイプならT/T型(長距離向き)とのこと。朝日は書いてない

    けど、CはDNAの塩基・シトシン(cytosine)、Tはチミン(thymine)

    だろう。

        

    この話は、ACTN3の話と非常に似た内容だから、NHKがCCと

    かCTとか伝えたのも、おそらくDNAの塩基配列のことだろう。

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