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平行線の公理(or 公準)を否定した、非ユークリッド幾何学のモデル

ここ最近、数の基本である自然数について、相当こだわって来たので、

流石に理数系の読者でさえ、あまり付いて来てないようだ♪ 一般に、話

のレベルが上がると読者は急激に減るのは当然だろうけど、私自身も

ちょっと気分転換してみたい。

         

そこで今夜は、数ではなく図形の話題として、「非ユークリッド幾何学」に

軽く触れてみよう。しばらくお休みしてるポアンカレ予想とか宇宙論、ある

いは曲がった時空などと関係してくる、常識離れした真面目な話だ。今

回は一番分かりやすい部分だけにする。

            

まず、「非ユークリッド幾何学」とは何かが大問題であって、色々調べる

と、少なくとも表面的には少しずつ違ってるように見えてしまう。この記事

ではとりあえず普通の定義として、ユークリッド幾何学の「平行線の公準」

を否定した幾何学としておこう。

    

ユークリッド幾何学とは何かという問題も、実は深く考えると厄介な話に

なるんだけど、ここでは我々が高校までの算数・数学で習って来た図形

の学問と思っておけばいい。違う側面から見ると、ごく常識的な図形の

理論体系だ。

    

そこでは例えば、「1つの平面上で、直線 a 上にない1点Pを通って a

100214c2_2

 と交わらない直線はただ1本引

 ける」という命題が(暗黙の内に)

 認められている。この命題が、

 いわゆる「平行線の公理」(平行

 線が1本引けるから)であって、

古代ギリシャの数学者・ユークリッド(or エウクレイデス)の『原論』に

書かれた「平行線の公準」を分かりやすく言い換えたものとされている。

                                            

よって結局、非ユークリッド幾何学とは、「一つの平面上で、直線上にな

い1点を通って、その直線と交わらない直線は、0本あるいは2本以上

ける」ことを認める幾何学ということになる。

                            

ただし、我々が常識的に認めてる「平行線の公理」と、ユークリッドの

「平行線の公準」とが本当に同じなのか、これまた実は相当難しい話に

なる。そこも今回は、流しておこう。別に私に限らず、あっさり流すことが

多いし、たまに「証明」と称するものもあるけど、いまだに本格的な納得

できる証明(or 説明)は見たことないのだ。。

   

追記: その証明の記事をアップした。

     平行性の公理とユークリッド『原論』第五公準、同値性の証明 )

             

        ☆           ☆          ☆

さて、ではその、「平行線の公理」を否定した非ユークリッド幾何学という

のは、具体的にどんなモデルを想定してるのか、ここでは1つだけ紹介

しておこう。例によって、『現代数学小事典』(講談社)に載ってるもので、

クラインという数学者のモデルを改良したものらしい。以下、図形に関す

る常識を揺るがす話なので、柔軟な頭で受け止めて頂きたい♪

       

まず、ある円の内部だけを「平面」と定義する。正確に言うと、ユークリッ

ド幾何学的な円の内部だけを、非ユークリッド幾何学の平面と定義する

という話だけど、ややこしいので省略してるわけだ(小事典でも同様)。

そして、円の周上の点は、「平面」にギリギリ入らない「無限遠点」とする。

        

100214   

     

更に、周上の2点A、Bを結ぶ線分(円の弦)から、両端の2点を除いた

部分「直線」とし、「無限遠点」を共有する2つの「直線」「平行」と定

義する。この時、1つの「平面」上で、「直線」(AB)上にない1点(P)を

通って、その「直線」と交わらない「直線」は、無数に引ける(ACとBDの

なす鋭角内)。また、「平行」な直線だけなら2本引ける(ACとBD)。

      

上の図は、あくまで普通のユークリッド平面において描かれたものであっ

て、非ユークリッド平面自体には円も外部も存在しない(円の内部だけが

100214b

 平面だから)。よって、上図

 に対応する非ユークリッド

 面における図を書くなら、

 のような「イメージ」になる。

 前の図で、円の内側だけを

切り出したと考えればいい。       

                 

          ☆          ☆          ☆

なお、「平面」「直線」「平行」といった言葉を勝手に新しいやり方で定義し

ていいのか、という疑問はもっともなものだ。当然、自由に定義していい

のではなく、おそらく二種類の制約がある。まず重要なのは、ユークリッ

ド幾何学の『原論』の定義を一応満たしてるかどうか。もう1つは、新た

な定義に基づく理論展開で豊かな内容を生み出せるかどうか。

       

前者の制約を考える手始めは、『原論』第一巻冒頭にある定義だ。

    

  2  線とは、幅のない長さである。

    直線とは、その上にある点について、一様に横たわる線である。

    面とは、長さと幅のみをもつものである。

    平面とは、その上にある直線について、一様に横たわる面である。

 23  平行線とは、同一の平面上にあって、両方向に限りなく延長しても

     いずれの方向においても互いに交わらない直線である。

                 (中央公論社『ギリシアの科学』所収,p.255)

         

少なくとも、意外なほど漠然としたこれらの定義のみを見た時に、上の非

ユークリッド幾何学のモデルが間違ってるというのは難しいことが分かる

だろう。5つの定義を見るだけでは不十分だけど、とにかく例のモデルは、

ギリギリで「平面」「直線」「平行」の定義に合うように、あるいは矛盾しな

いように、作られてるのだ。

                    

特に定義23の「平行」線の説明で、「限りなく延長しても」という言葉の

意味を考えてみると、モデルの巧みさと斬新さがよく分かるだろう。普通

の意味で、右左にずっと伸ばして行くのではない。あくまで「平面」の上

で、つまり円の内部で、限りなく円周(無限遠点)へと近づけると解釈=

改釈してることになる。

        

それなら、交わらない直線が無数にあるのは当然で、その中の2本に

絞って平行線とみなしてるわけだ。ただし、どうして2本に絞っていいの

かまでは、今の所、分からない。

               

一方、そのモデルからどんな数学的内容が展開されるのかについては、

また別の機会に譲るとしよう。高校数学レベルの知識で一応理解できる

ものの、かなり面倒な話になる。とりあえず、「平面」、「直線」、「平行」と

いった常識的な言葉を、大胆にとらえ直す感覚は伝わると思う。創造的

知性とは、こうゆうものを指すわけだ。

                                   

この先、非ユークリッド幾何学に関しては、少なくとも2本の記事を書く

予定。「平行線公準」(or 第五の要請)に関するものと、もう1つはリー

マン幾何か何かで書きたいと思ってる。

とりあえず、今日の所はこの辺で。。☆彡

     

    

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.平行性の公理とユークリッド『原論』第五公準、同値性の証明

  非ユークリッド幾何学のモデル・2~平面の鏡映変換

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数学」カテゴリの記事

コメント

数学好きの高校生です
このブログが非常に分かりやすくてとても参考にさせてもらってます

非ユークリッド幾何学についてすごく興味があります
僕もきっちりしたのが好きでもっと知りたいです
記事待ってます

投稿: コウ | 2010年2月15日 (月) 22時19分

> コウさん
    
はじめまして。コメントどうもです☆
高校生の男子のコメントは初めてですよ。
小学生の女子ならあるんだけど♪
    
数学好きってことは、最初は何かの検索ですかね。
あるいは『ガリレオ』の理数系記事とかかな。
ともあれ、参考にして頂いてるようで光栄です。
       
高校生だとなかなか読むのが大変でしょうが、たまに
少し背伸びするのもいい勉強になると思います。
ちなみに、記事の終盤をかなり補足したので、
できれば読み返してみてください。
         
     
非ユークリッド幾何学は、かなり前から記事にしようと
思ってたんだけど、予想以上に難しくて。。
きっちりしてて、しかも分かりやすい参照文献ってものが、
手元にないし、ネットにも見当たらない。
    
それより先に、ユークリッド幾何学の方で
記事を書くかも知れません。
こちらは基本文献の『原論』を持ってるし、
原典もネットにありますからね。
そもそも、僕らが普段使ってるものだし。
  
仕事の合間に色んな事に手を出してるので、
数学専門の人のようにはいかないけど、
今後も地道に書き続けるつもりです。
   
また来てくださいね。学校の方も頑張って♪

投稿: テンメイ | 2010年2月16日 (火) 04時53分

こんばんは

記事の追加ありがとうございます
確かに勝手に平行を定義していいのか疑問でしたのでスッキリしました
ここへはεーδ論法の検索で来させていただきました
それで極限の線形性の定理の証明で数学の面白さを感じました
証明は諦めていてたので、ありがたかったです
では記事待ってま〜す

投稿: コウ | 2010年2月16日 (火) 19時50分

> コウさん
   
再びコメントどうもです
   
記事の追加っていうか、書きもらしですね (^^ゞ
時計との勝負で下書きなしにアップしてるから、
どうしても色々と抜け落ちるわけ。
だからウチの記事は、1日後に読む方がいいかも♪
    
定義の自由と制約について書いてなかったのは、
僕としてはまったく論外のミスでした。
でも、実はこの話はあまり書かれてないことで、
『現代数学小事典』にもありません。
上に補足した内容も、自分で考えたこと。
十分な説明には程遠いけど、市民レベルでの意義はあるでしょう。
      
     
それはそうと、高校生でε-δ論法の検索?!
ハイレベルだなぁ。。大学生でも知らないことが多いのに♪
僕も、自分が高校生の時に、ε-δ論法による線型性の
証明を見せられたら、面白いと感じたでしょう。
     
1+1=2とかも含めて、数学や論理学の世界では、
一見当たり前に見えることも厳密に証明するわけです。
あるいは非ユークリッド幾何学みたいに、
「実は当たり前ではない」ことを示したり。
    
そこが面白い所でもあるし、難しい所でもありますね。
ではまた。。

投稿: テンメイ | 2010年2月17日 (水) 03時00分

はじめまして
こんばんは

初めて見させていただきましたがとても面白いです。
非ユークリッド幾何学に関する本を読んだ事があるのである程度は理解できました
初めてこの話を読んだ時は平行線が無限遠点で交わってしまうというのが驚きでした

ありがとうございました

投稿: ES | 2010年9月22日 (水) 21時12分

> ES さん
    
はじめまして。こんばんは♪
丁寧なコメント、ありがとうございます。
   
こうゆう本格的な記事で、面白いと言って頂けると、
すごく嬉しいですネ。
もちろん、書いてる僕自身も面白がってるから、
マイナーな世界で仲間が見つかった感じ。
   
平行線が無限遠点で交わるというのは驚くべき話ですが、
その驚きは、事実に対するものというより、数学的定義や
解釈の自由度に対するものでしょう。
裏返して言うと、普通の人の考えは、諸々の理由で
かなり制限されているということになります。
    
ウチは必ずしも数学系サイトではありませんが、
僕は半ば理数系。昔から算数や数学が大好きだったし、
今後もその種の記事を書き続けたいと思ってます。
また機会があれば、遊びに来てください

投稿: テンメイ | 2010年9月23日 (木) 02時38分

こんばんは
今もう1度読んでみて思ったのですが、
>非ユークリッド幾何学とは、「一つの平面上で、直線上にない1点を通って、その直線と交わらない直線は、0本あるいは2本以上引ける」ことを認める幾何学ということになる。
と書いてありますが、0本の時の場合なんてあるのでしょうか?

それともユークリッド幾何が1本のみということなのでそれの否定という解釈なのでしょうか?

投稿: ES | 2010年9月28日 (火) 00時39分

> ES さん
    
こんばんは。再びコメント、どうもです。
    
いい質問ですね。0本の場合の実例は、
僕も去年、『小事典』で初めて知りました。
   
まず、普通の球面を考えてください。
その中心を通る平面で球面を切ると、
いわゆる大円が出来ますよね。
これを「直線」と見ると、すべての「直線」は交わる。
よって、交わらない「直線」は0本になります。
全く別の非ユークリッド幾何学が出来るわけです。
    
なお、気持ちは嬉しいんですが、
コメントの連発はご遠慮ください☆
スパムのように見えてしまうし、
レスするのも大変な作業になるので。
  
実際、短時間での連発は、自動的に
スパムフィルターに引っ掛かる可能性もあります。
今後、よろしくお願いします

投稿: テンメイ | 2010年9月28日 (火) 04時23分

非ユークリッド幾何学は平面の定義をいじったものですね。古来、2次元の世界での古典的なユークリッド幾何学に対して、平面を3次元の世界に投影した、球面もまた平面と考えた場合の想定ですね。球面を無理やりしようとすると一つだと思った極点は無限個数になるということですね。

投稿: フレディのオヤジ | 2012年4月 2日 (月) 19時06分

> フレディのオヤジ さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
  
非ユークリッド幾何学は、平面と共に直線や点などの
定義も「いじった」ものです。
要するに、ユークリッド幾何学という体系ではない幾何学と
いうことですから、「ではない」という否定の仕方には
色々な要素が絡むし、色々なやり方もある訳です。
   
簡単な喩え話だと、「『x=1かつy=2』ではない」状態とは、
「x≠1かつy=2」でもいいし、「x=1かつy≠2」でもいいし、
「x≠1かつy≠2」でもいいわけです。
否定するものが複雑になると、否定の仕方は遥かに複雑になります。
         
続いて、いわゆる球面は、非ユークリッド幾何学の
平面の「一例」と言えます。他の例も、この記事で書いてます。
    
お書きになった最後の文は、解釈しにくいのですが、
北極点・南極点みたいに、大円の反対側にある2点は、
同じ1点として考えることも可能。
そして、そうした点(反対側にある2点を同一視したもの)は、
いわゆる球面上のすべての場所に考えることができます。
   
もし、そうゆう意味なら、「極点は無限個数」と
言うことも出来なくはありません。
ただ、かなり漠然としたイメージ的表現なので、
注意が必要だと思います。。

投稿: テンメイ | 2012年4月 2日 (月) 23時25分

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