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非ユークリッド幾何学のモデル・2~平面の鏡映変換

今日は、非ユークリッド幾何学の関連記事・第3弾として、1本目の記事

「平行線の公理を否定した、非ユークリッド幾何学のモデル」で示した具

体的モデルについて、少し突っ込んだ話をしよう。出典の『現代数学小

典』(講談社)に、非常に省略された形で載ってる2次元モデルで、数学

クラインの案を改良したものらしい(元は3次元かも)。

             

以下、最初に、前の記事の要点だけを再掲しておく。そもそも「非ユーク

リッド幾何学とは何か?」という点は、その記事と2本目の記事「平行線

の公理とユークリッド『原論』第五公準、同値性の証明」において、既に

ある程度まで説明しておいた。では、モデルについて。

               

まず、ある円の内部だけを「平面」と定義する。正確に言うと、ユークリッ

ド幾何学的な円の内部だけを、非ユークリッド幾何学の平面と定義する

という話だけど、ややこしいので省略してるわけだ(小事典でも同様)。

そして、円の周上の点は、「平面」にギリギリ入らない「無限遠点」とする。

        

100214   

     

更に、周上の2点A、Bを結ぶ線分(円の弦)から、両端の2点を除いた

部分「直線」とし、「無限遠点」を共有する2つの「直線」「平行」と定

義する。この時、1つの「平面」上で、「直線」(AB)上にない1点(P)を

通って、その「直線」と交わらない「直線」は、無数に引ける(ACとBDの

なす鋭角内)。また、「平行」な直線だけなら2本引ける(ACとBD)。

    

         ☆          ☆          ☆

さて、これではまだ、一点を通ってある直線に平行な直線が2本あると

いう話を断片的に行ってるにすぎない。ここから更に、「幾何学」と呼べ

る内容を展開する必要があるのだ。

    

そもそも「幾何学」とは何か。普通の発想だと、図形に関する数学といっ

た感じの理解だろうけど、実はこの「図形」という概念は厄介で、現代数

学の幾何学においては、「いわゆる図形」(三角形や立方体などの図の

形)は必要ない(ヒルベルトの議論が有名)。

    

『小事典』の「幾何学」の項目冒頭によると、19世紀に論争があった後、

例の数学者クラインが終止符を打つ主張を提示したそうだ。元の文に

は、無駄な部分や不適切な表現、不十分な点があるので、少し変更し

て分かりやすく引用しておくと、

                

   「空間をそれ自身に写す変換の群(グループ)が与えられたとき、

    この群によって変わらない性質を研究するのが、この群に従属

    する幾何学である

      

例えば、普通の3次元空間に対して、「移動」(平行移動&回転移動)

と「鏡映」(ここでは、線対称な変換)という変換が与えられた時、線

100321a

 の長さとか角の大き

 さ、面積、体積が変

 わらないのは明らか

 だろう。したがって、

 これらを研究するの

 は、その変換に関す

 る幾何学なのだ。

      

        ☆          ☆          ☆     

では、例の非ユークリッド幾何学のモデルではどうか。この場合にも、

鏡映」と呼ばれる変換を考えるのだけど、普通の「鏡映」よりも複雑

(or 拡張された)変換になっている。

     

100321b

 左図のように、円の外部

 に点Pを取り、そこから2

 本の接線を引いて、2つ

 の接点を結ぶ。これが

 鏡映に使う軸、つまり「鏡」

 の役割を果たすのだ。

   

 今、「非ユークリッド平面」

 内で(つまり円内で)、点X

 を鏡映点X´に変換したけ 

 れば、まず直線PXと鏡の

                            交点をSとして、さらに

PX : XS = PX´ : X´S となるように、直線上の点X´を決める。言い

換えると、線分PSに対して、同じ比に内分・外分する2点がXとX´に

なるようにするのだ(どちらが内分でもよい)。

      

『小事典』には、この「鏡映」が、「平面」を「平面」に移す変換だという証

はないし、ネットをさらっと見渡した限りでも、見当たらなかった。いず

れも、「・・・となる」といった感じで、いつの間にか議論が進むのだ。そこ

で私は、実際に中学の幾何レベルで証明してみた。完全な形で書くと、

非常に長くなるので、ポイントだけ書くことにしよう。いずれにせよ、とて

も明らかだとして省略できるような話ではない。

           

        ☆          ☆          ☆    

まず特別な場合として、「平面」内の軸上の点は、鏡映しても元の点の

ままになる。したがって、変換後も「平面」内に留まる。なぜなら、元の

点が軸の上だと、XとSが一致するから、XS=0(ゼロ)。

よって比例式は、PX : 0 = PX´ : X´S となり、ここから X´S=0。

したがって、X´はS、すなわち元の点Xと一致するわけだ。

              

100321c

 続いて逆に、「平面」におけ

 る無限遠点、つまり、ギリギ

 リ平面をはみ出す点の鏡映を

 考えてみよう。要するに、

 周上の点だ。別の見方をする

 なら、軸=鏡からの無限遠点

 ともいえるので、この変換で

 同じく無限遠点に移るのなら、

 トータルで「平面」(=円内)

 から「平面」への変換と言え

 そうだ(厳密には、さらに内

                          分を用いた論証が必要)。

     

いま上図で、無限遠点Uの鏡映点が、軸=鏡TT₁を挟んで逆方向に

ある無限遠点Qになることを示したい。そのために示すべき式は、

PU : US = PQ : QS だ。

これを変形すると、示すべき式は PU ・ QS = US ・ PQ ・・・①。

          

まず、接弦定理より、∠PTU = ∠PQT だから、三角形PTUと三角形

PQTは相似となり、PT : PU = PQ : PT 。

よって、PQ=PT² / PU ・・・②。

それゆえ、QS = PQ-PS=(PT² / PU)-PS ・・・③。

②③を①に代入して、PQとQSを消すと、

PU ・ {(PT² / PU)-PS} = US ・ (PT²/PU) ・・・①´

    

ここで下図のように、長さを表す文字 a,b,d,r 、角度を表す文字θ

を導入すると、三平方の定理より PT² = d²-r² だから、①´はさらに

a {((d²-r²)/a)-(a+b)}=b(d²-r²)/a ・・・①´´へと変形される。

      

100321d

 ややこしい話なので、

 この辺りでポイント

 を一度指摘しとこう。

 図形的には、円と、

 円外の点Pと、円周

 上の点Uで決定する

 のだから、半径 r 、

 円の中心Oと外部の

 点Pとの距離d、U

 の位置をほぼ決定す

 る長さ a の3つ

                              が重要で、b はそ

れら3つで表せるはずだ。

     

そのためにまず、三角形PUOに対する余弦定理から

cosθ=(a²+d²-r²)/2ad ・・・④。

一方、直角三角形PSHにおいて、(a+b)cosθ=PH。

よって、b=(PH/cosθ)-a。

④を代入して、b={2ad・PH/(a²+d²-r²)}-a ・・・⑤。

    

ここで、直角三角形PHTとPTOの相似より、PH : PT = PT : PO。

よって、PH=PT²/PO=(d²-r²)/d。

⑤に代入して、b={2a(d²-r²)/(a²+d²-r²)}-a。

これを①´´に代入してbを消すと、

a {((d²-r²)/a)-(2a(d²-r²)/(a²+d²-r²))}=

         (d²-r²)/ {2(d²-r²)/(a²+d²-r²)-1} ・・・①´´´

    

これで、示すべき式①が、a、d、rで表されたから、準備完了となる。

実際、①´´´の左辺と右辺をそれぞれ計算すると、どちらも

   (d²-r²)(d²-r²-a²)/(a²+d²-r²)。

       

よって、等式①´´´は正しい。すなわち、最初に挙げた式①は正しい。

したがって最初の図で、下側の円周上の点Qは、上側の円周上の点U

の「鏡映」点と言える。

                             Q.E.D.(証明終了)

     

        ☆          ☆          ☆

と言う訳で、まだ細かい部分は残ってるものの、この特殊な「鏡映」に

によって、「平面」がそれ自身に変換されることが理解できるだろう。

次の「幾何学」的問題は、この変換を何度か行う無数の変換(合同変

換と呼ばれる)群によって「変わらない性質」を研究することだ。

   

答えをあらかじめ書いとけば、その性質は「線分の長さ」や「角の大きさ

だという話になるのだけど、もちろん普通の意味ではないし、また面倒な

議論が必要になる。おそらく、このくらいのレベルで、読者は極端に少な

くなるだろうから、もう書かないかも知れない。意外に読者がいるような

ら、もう1本書いても構わないけど、図形の変換という話をするのなら、

いよいよ去年から引き延ばし続けてる「トポロジー」の話に向かう方が

ベターのような気もする。その先に、以前の記事で扱った、ポアンカレ

予想の正確な数学的理解があるわけだ。

                     

その前に、非ユークリッド幾何学とトポロジーの両方に関連する、「射影

幾何」で記事を書いときたい気もしてる。リーマンのモデルも、有名だか

ら書いとくべきかな。あるいは逆に、よくある話だから省略するか。   

とりあえず、今日の所はこの辺で。。☆彡

    

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.平行線の公理(or 公準)を否定した、非ユークリッド幾何学のモデル

  平行線の公理とユークリッド『原論』第五公準、同値性の証明

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数学」カテゴリの記事

コメント

はじめまして、鏡映変換で調べていたので、このブログを拝見したのですが、幾何学的な鏡映変換のビジュアル化で線形代数学のハウスホルダー鏡映変換でのベクトルの直交化が楕円体の行列の2次形式のベクトルと主軸に値することとのつながりと、少なくとも球体がx^2+Y^2=1で極値を持つ前提としての幾何学的理解であると考えていいのでしょうか?

投稿: T.M | 2010年4月27日 (火) 21時27分

> T.M さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます♪
   
一応それなりに、調べたり考えたりしてみましたが、
残念ながら、私にはご質問がよく理解できません。
「はい」とも「いいえ」とも答えにくい状況です。
句読点、改行、接続詞、カッコなどを使って、話の
区切り目やつながりを明示して頂きたかった所です。
   
        
「幾何学的な」以降の文の主語は、「この記事の内容」とか
「主題」であって、それを省略してるのでしょうか。
    
また、「値することとのつながりと」という言葉は、
その前の何とのつながりを示そうとしてるのでしょうか。
これまた主語の省略で、「この記事は・・・と
つながっており」とかいう意味なのでしょうか。
   
更に、「球体」は記事とどう関係してるのでしょうか。
「平面の鏡映変換」という記事タイトルから、
「空間内で、平面を鏡映変換すること」を
イメージなさってるのでしょうか。
この記事が扱ってるのは、「『平面』上で、平面の点
全体を、『鏡映』によって変換すること」なのですが。。
     
     
いずれにせよ、何となく誤解が生じてる気がします。
おそらく、お調べ中の「鏡映変換」とこの記事とは、
ほとんど関係ないでしょう。
     
この記事はもちろん、非ユークリッド幾何学という、
常識を超えた特殊な分野を扱ってるものです。
ここでの「鏡映」とは、非常に拡張された
比喩的な言葉なので、普通の議論は適合しません。
英語版ウィキペディアの「鏡映」の説明も、
ここでの鏡映には当てはまりません。
    
長さも保存されず、「ほとんど」線型変換でもないので、
行列とはほとんど関係ないと思います。
「まったく」という全否定までは、念のためしませんが、
ここから線型性や行列表現を見出すのは困難でしょう。
非ユークリッド幾何学にベクトルを持ち込むだけでも、
かなり大変なことのように思えます。
「平行」という言葉の意味が全く違いますからね。
     
    
私も少し「鏡映変換」について検索してみましたが、
大部分が普通の鏡映を扱ってるし、細かい計算や
証明の省略が非常に多いと感じました。
鏡映に限らず、数学の説明は一般に省略が多いですね。
結局、大まかな情報をどこかで仕入れた後は、
自分でコツコツと計算&考察するのが一番だと思います。
   
私もまだまだ、地道な努力を続けるつもりです。 
それでは。。

投稿: テンメイ | 2010年4月28日 (水) 22時03分

説明不足ですみません。
テンメイさんの言う
「値することとのつながりと」という言葉
は以下の文です。
円の外部

 に点Pを取り、そこから2

 本の接線を引いて、2つ

 の接点を結ぶ。これが

 鏡映に使う軸、つまり「鏡」

 の役割を果たすのだ。

後、球体と書いたのは楕円体の切断面の球面のことを現しています。
あと非ユークリッド空間に対するテンメイさんの議論ですが、当方考えていたのは、ベクトル空間でのことであります。
いずれにしても本件とテンメイさんのいう鏡映変換には関係がなさそうですね。失礼しました。

投稿: T.M | 2010年4月29日 (木) 07時13分

> T.M さん
    
再度のコメント、どうもです ♪
   
軽く流そうかとも思ったのですが、話が通じそうな
感じもあったので、試しに細かく応答してみました。
冷静で丁寧なご返答、ありがとうございました。
   
今回はもう、軽く流すことにしましょう。
「鏡映」という言葉の拡大解釈から生じた誤解ですね。
    
ちなみに、拡大解釈したのは「テンメイさん」ではなく、
クライン本人か、『小事典』の該当項目の執筆者
(名前なし)なので、念のため。
「鏡映」と呼ぶに値することを示すには、さらに
「長さ」を定義して、その保存を証明するわけです。
         
それでは。。 

投稿: テンメイ | 2010年4月30日 (金) 07時27分

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