平行線の公理とユークリッド『原論』第五公準(or 要請)、同値性の証明
五輪も東京マラソンもスキー&スノボ旅行も無事終了。プチ飲み会も昨
夜終えて、ようやく普通の生活に戻ることが出来そうだ。そこで早速、3
週間前に書いた非ユークリッド幾何学の記事の第2弾をアップしとこう。
前回の方が面白い話だけど、今回の方が価値があると思う。少なくとも
私自身は、モヤモヤ曖昧だった内容がようやくスッキリ解決した。
まず、前回の記事の引用から始めよう。
結局、非ユークリッド幾何学とは、「一つの平面上で、直線上にな
い1点を通って、その直線と交わらない直線は、0本あるいは2本
以上引ける」ことを認める幾何学ということになる。
つまり、非ユークリッド幾何学とは、ユークリッド幾何学における「平行線
の定理」、つまり「一つの平面上で、直線上にない1点を通って、その直
線と交わらない直線(=平行線)は、ただ1本引ける」という常識を否定
してるわけだ。
ただし、我々が常識的に認めてる「平行線の公理」と、ユークリッド(=
エウクレイデス)の古典的名著『原論』の第5公準(or 要請)が論理的に
同じだと証明するのは簡単ではない。私の手元には適当な文献がない
し、ネットでも十分なものは見当たらないから、自分で証明してみよう。
基本的に、『原論』第1巻を参考にした上で、補足的に、Googleで部分
的に公開されている『ユークリッド幾何学を考える』(溝上武實)も少し
だけ参照した。
なお、現代の記号論理学とか、数学基礎論(の一部)のレベルで厳密に
書くと、書くのも読むのも大変だし、ユークリッド本人もそこまで厳密に書
いてるわけではない。以下、ある程度は省略してあるので、念のため。
そもそも、そこまで厳密にできるかどうかも、定かではないし、意見が分
かれる所だろう。。
☆ ☆ ☆
ではまず、『原論』における平行線の定義と第五公準を、『ギリシアの科
学』(中央公論社・世界の名著 9,p.256)から引用してみよう。読みや
すさのため、一部では漢数字をアラビア数字に変えておいた。
定義・・・(1~22は略)・・・
23 平行線とは、同一の平面上にあって、両方向に限りなく
延長しても、いずれの方向においても互いに交わらない
直線である。
公準(要請)
つぎのことが要請されているとせよ。・・・(1~4は略)・・・
5 および、一直線が二直線に交わり、同じ側の内角の和を
二直角より小さくするならば、この二直線は限りなく延長さ
れると、二直角より小さい角のある側において交わること。
初めて読むと、何のこ
とだか分かりにくい文
章だからこそ、今では
「平行線の公理」で言
い換えてるわけだ。
要するに、図の2つの角(同傍内角)の和が180度より小さければ、右
側で交わるという話で、常識的には当たり前。けれど、他の話から証明
できないから、読者全員が認めてくれるよう、あらかじめ「要請」するはめ
になってる。
これと平行線の公理が論理的に同値(互いに必要十分)であることを
示すには、どちらの一方からでも他方を導けることを示せばよい。ただ、
その証明の前に、別の
定理を補足的に示しと
こう。それは、『原論』
で証明されている命題
十六だ。ここでは簡単
に、「三角形の外角は
内対角より大きい」と書いとこう。これまた、常識的な数学では当たり前
で、外角は2つの内対角の和と等しいとされてるわけだ。その場合には
当然、「外角 > (1つの)内対角」となる。
これを証明するには、
内対角を外角の位置ま
で移動させて比較すれ
ばよい。左図のように
点E、Fを決めれば、
三角形EAB,ECF
の合同より、∠EAB = ∠ECF。一方、∠ECF < ∠ECDは明らか。
よって、∠EAB < ∠ECD。つまり、(内角)∠CAB < (外角)∠ACD。
全く同様にして、(内角)∠ABC < (外角)∠ACD も示される。
Q.E.D.(証明終了)
☆ ☆ ☆
では、第五公準と平行線の公理が同値であることの証明に入る。
まず、「第五公準 ⇒ 平行線公理」。つまり、第五公準を認めると、平行
線の公理が導けることを示そう。
まず、「存在性」。つまり平行線が少
なくとも1本存在することについて。
点Bを通って直線CEに平行な直線
が欲しければ、左図の同傍内角の
和が2直角になるように、直線BD
を引けばよい。言い換えれば、
∠BCEとその同位角である∠ABD(=2∠R-∠DBC)が等しくなるよ
うに直線BDを引けば、平行線(=CEと交わらない直線)となる。
なぜなら、もしBDとCEが右側の点Fで交わるとすると、三角形BCFが
出来るから、∠ABD > ∠BCE (外角は内対角より大きい)。これは
BDの引き方に関する仮定に反する。よって、BDとCEが右側で交わる
ことはない。また、左側で交わらないことも同様に証明できる。
したがってBDはCEと交わらない。すなわち、BDはCEの平行線である。
続いて、「唯一性」。つまり、平行線は1本しか存在しないことについて。
いま仮に、CEの平行線がBD以外にも存在するとしよう。それをBFとす
る時、もしBFが∠DBCの中を通るのなら(つまりBFが右下がりなら)、
ACとBFとCEで作られる同傍内角の和は2直角より小さいはず。すると
第五公準より、BFとCEは右側で交わり、BFが平行線だとする仮定と
矛盾する。
一方、BFが∠DBCの中を通らないのなら(つまりBFが左下がりなら)、
直線ACの左側において先程と同様の議論を行うことで、BFとCEが左
側で交わることになり、再び矛盾を示せる。
したがって、CEの平行線は、BDただ一本しか存在しない。
以上、平行線の存在性と唯一性が示されたので、平行線はただ1本存
在することになる。よって、平行線の定理は示された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
続いて、逆に「平行線公理 ⇒ 第五公準」。つまり、平行線の公理を認
めると、第五公準が導けることを示そう。これは、先程と同じ図で、似た
議論を行えばよい。
平行線公理より、CE
に対して平行線BDを
引くことが出来る。こ
の時、図の赤い同傍
内角の和が二直角で
ある事は、以前の議
論と同様。ここで更に直線BFを考え、ACとBFとCEが作る同傍内角
(右側)の和が二直角より小さい時、BFはBDと一致しないから、BFは
CEの平行線ではない。よって、ACの右側か左側でBFとCEは交わる。
ここで、もしBFとCEが左側の点Gで交わるとすると(イメージしにくい奇
妙な想定)、∠GBC = 2∠R-∠FBC
> (2∠Rより小さい角)-∠FBC = ∠BCE。結
局 ∠GBC>∠BCE
ということになる。こ
れでは、三角形BGC
において、「内対角
> 外角」ということ
になってしまい、「外
角 > 内対角」という定理と矛盾する。よって、BFとCEは右側で交わる。
つまり、和が二直角より小さい同傍内角がある側において交わる。
したがって、第五公準は示された。
以上、「第五公準⇒平行線公理」と「平行線公理⇒第五公準」が共に示
されたので、第五公準と平行線の公理は同値(必要十分)。すなわち、
論理的に同じことである。
Q.E.D.(証明終了)
☆ ☆ ☆
なお、同傍内角の和が二直角(2∠R)の時、同位角が等しいことの証
明は、簡単すぎるから省略したが、念のために補足しとくと、左下図で
∠ABD=2∠R-∠DBC
=∠BCE
つまり、一直線ABCがなす角
が2∠R(180度)であること
を使えばすぐに証明できるわ
けだ(∠ABDは∠DBCの補角)。
更に、対頂角が等しいことを示せば、錯角が等しいことも簡単に証明で
きる。その辺りの議論は、普通の図形の話と同じで、中学の教科書の
例題レベルにすぎない。
以上、ユークリッド『原論』第五公準と、平行線の定理が同じであることを
証明した。実は、まだ歴史的な問題が残ってる。つまり、平行線の定理
を示した(と言うより、世に広めた)プレイフェア(John Playfair)という
数学者の記述では、少し違う言い回しになってるのだ。
Googleで全文表示される1795年の著書(『Elments of geometry』;原
論の注釈本)から引用しよう。
Two straight lines cannot be drawn through the same point,
parallel to the same straight line, without coinciding with one
another. (p.7)
直訳すると、「同じ点を通って、同じ直線と平行な二本の直線は、それ
らが一致することなくしては、引くことが出来ない」。プレイフェアが、第
五公準の代わりに公理(AXIOM)としたこの命題を、少し滑らかに訳し
直して、更に暗黙の前提である同一平面上という話を交えたのが、い
わゆる平行線の定理の表現ということだ。
これだけ書けば、ユークリッド幾何学の第五公準については十分だろ
う。今度は、非ユークリッド幾何学の方に戻って、前回より突っ込んだ
話をしてみたいと思ってる。
ではまた。。☆彡
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
P.S.ネットで検索すると、例えば「三角形の内角の和が2直角」である
ことを使った証明の一部分が一応ヒットする。「内角の和=2直角」
も証明の大まかな流れも特に問題ないけど、「内角の和=2直角」
は明らかではないから、先に示しておかなければいけない。
ユークリッド自身は、「外角>内対角」→平行線関連→「内角の
和=2直角」の順で書いている。私はこの流れを尊重したのだ。
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