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理想を語り、現実を変えること~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・6月)

(☆2012年2月25日追記: 最新記事をアップ

    現在の中に過去を見ること

      ~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月) )

     

     

       ☆          ☆          ☆

「百聞は一見にしかず」ということわざの本来の意味とはズレるが、今日

(6月24日)の朝日新聞・朝刊、オピニオン面に掲載された東浩紀の写

は、ちょっと不満そうな姿だ。これは、非言語的で極度に単純化された

「時評」のようにも感じられる。

       

元々、笑顔を振りまくタイプでも、気合を注入するタイプでも、癒やし系で

もないから、表情だけならわりと普通かも知れない(直接見たこともある)。

でも、斜に構えたような横からの構図、正面を外してやや下向きの視線、

僅かに前向きに開いた口元、眉の下向きの流れ、妙に大きい写真サイ

ズ、右上の目立つ位置。それら全体が論壇に不満をアピールしてるよう

で、思わず写真家の名前を確認してしまった。

                               

もちろん、写した鬼室黎の意図なのか、選んだ編集者の判断なのか、そ

こまでは分からない。ただ、ワンパターンの無難な表情よりは、意味のあ

る写真と言えるだろう。ちなみに、論壇時評という複合記事(東を中心に、

論壇委員と編集部の三者が執筆)に掲載されてる他の4枚の写真は、ほ

ぼ正面から写されてるし、遥かにサイズが小さい。そもそも去年までの論

壇時評は、評者自身の写真を強調することなど無かった。今年、東の担

当になって、一気に扱いが変わったのだ。

           

東浩紀の論壇時評・第3回の記事を、不満そうな写真への言及からスター

トしたのは、何よりもまず、写真のすぐ左にある最初の一文がこうなって

るからだ(別の理由は後述)。「今月の論壇は全体的に低調だった」。写

真とこの一文だけで、もう後は読まなくてもいいような気さえしてしまう。

                            

ただ、東が仕事としてきっちり原稿を書きあげるのと同様、私も一般ブロ

ガーとして、タダ働きの仕事はきっちり仕上げなければならない♪ 半ば

義務感で、オピニオン面全体を熟読、さらに資料も2つだけチェックして、

今月も朝から書き始めることになった。もはや、毎月下旬の恒例行事とな

りつつある感じだ。。

           

     

         ☆          ☆          ☆

さて今月の見出しは、まず細くて小さめの活字で、「祭り」のあとに、と書

かれてる。少し離れてその右側に、太くて大きめの活字で、「現実変えら

れる理想を」と書かれてる。少なくとも表面的には、何とも分かりやすいタ

イトルだし、実際、全体を要約するのも簡単だ。以下、ポイントとなる正確

な引用はカッコに入れながら、簡単にまとめてみよう。

     

     今月の論壇は低調だ。「現実の展開があまりに早く、言論が

     追いついていないから」だ。

     社民党の連立離脱(5月30日)、鳩山由紀夫前首相の辞任

     (6月2日)、管直人首相の就任(8日)、亀井静香の辞任(11

     日)。月刊誌の多くはそれら以前の編集だから、旧政権批

     に終始。週刊誌やブログも参院選前の政局分析と票読み

     忙しい。内閣支持率V字回復で、政策論議も後退した。

        

     大きな「祭り」、狂騒に投げ込まれている時こそ、「頭を冷やす

     必要」があり、そのヒントとなる文章も一応ある。でも、「重要な

     のは祭りではない。祭りのあとなにが残るか、である」。管政権

     は祭りの後もとりあえず続くだろう。「メディアも国民もじつに好

     意的」だが、「冷ややかな見方もある」。

                 

     「新政権は前政権の過剰な理想主義への反省から出発」、消

     費税増税、日米同盟堅持など、「国民はその現実主義を歓迎」

     する。「しかし、理想なき現実主義はときに現状維持に堕してし

     まう」。政治家は理想を語った上で、現実を変えるべきだ。祭り

     の後に明らかになる、管の理想と現実の関係が、政権の試金石

     となるはずだ。。

      

     

          ☆          ☆          ☆

要約にしては長いと思われるかも知れないが、元の文章は遥かに長い

し、様々な議論にも触れてあるから、これでも相当縮めてある。低調な

論壇の中でわりと好意的に扱われてるのは、菅原琢の小政党への着目

(『世界』7月号)と中島岳志の与謝野・リベラル保守への期待(『週刊金

曜日』5月21日号)。さらに、新政権に対する財務省の影響力に警鐘を

鳴らす高橋洋一http://gendai.ismedia.jp/articles/-/699)、新旧政権

への外務省の影響力を指摘する佐藤優(『週刊金曜日』6月11日号)だ。

     

逆に、あまり好意的に扱われてない(ように感じられる)のが、新政権に

非常に好意的な『週刊朝日』6月18日号。また、「拍子抜け」とまで言わ

れてるのが舛添要一だ(『中央公論』7月号,『新潮45』7月号)。

     

けれども、今回の東の論壇時評の中で一番目立ってるのは、「主文」の

最後に言及された、鳩山の辞任表明演説だろう。無責任な夢物語として

非難されたが、前政権への評価は別として、政治家が赤裸々に理想を

語る態度そのものは評価できる、というわけだ。朝日新聞6月2日夕刊

に掲載された鳩山の演説要旨は、私も読んでたし、わりと東に近い印象

を持ってたので、ここをもう少し追求してみよう。

                       

まず、東は新聞社に気を使って朝日の記事を挙げたのかも知れないけ

ど、あれは一応「要旨」であって、実際の演説の動画は、民主党のHP

簡単に見ることが出来る。私は新聞と比べながら見たけど、「内容」的に

はほぼ同じだった。ただし、新聞は敬語とか丁寧語を省略してあるし、言

葉の接続の仕方を少し省略してある。

        

あと、ちょっと感心したのは、長い演説を(おそらく)原稿無しで熱く語り続

ける姿だ。絶えず会場全体に視線を動かしながら、よどみなく語る言葉

は、活字よりネットの動画で確認する方がいいかも知れない。丸暗記し

て単調に棒読みする感じでもないのだ。

     

では、そこでどんな「理想」が語られてたのか。理想という言葉自体は使

われてないが、それらしきものを取り出すと、次のようになるだろう。政治

主導、子供に優しく未来に魅力ある日本、人の命を大切にする政治、米

基地の沖縄県外への移動、日本の平和を日本人自身でしっかり見つ

めていくことが出来るような環境を作ること、お金にクリーンな政治、地域

主権、「新しい公共」、官ではなく民が中心の政治、東アジア共同体。。

      

これらの内、新しい公共については先月書いたから省くとして、一番問題

となりそうなのは、安全保障の部分だろう。日米安保と核の傘に守られ

て、沖縄に負担を押しつける現状を、「いずれは」変えるべきだというの

は、もっともな「理想」だが、「現実」にはまだしばらく無理だろう。それな

のに、現役の首相の立場から遠い理想を語ったので、周囲から理解で

きない「宇宙人」のように扱われることとなった。

        

ただ、何を理想とするか、どのタイミングでどうゆう形で語るかはさておき、

私も一国の首相が遥かな「理想を語る態度そのもの」は正しいと思う。一

緒にはできないし批判も色々あるが、オバマ大統領も核なき世界への理

を語ったわけだ。管首相の理想も本人の言葉で聞いてみたいし、それ

を望む東の姿勢にも共感する。

              

ちなみに、鳩山の演説に対する国民の不満は、既に極端に下がってた

支持率に加えて、「国民の皆さんが徐々に聞く耳を持たなくなってきてし

まった」という一文が強調されたことによるものだろう。政治資金や普天

間で燃え上がってた火に、油を注ぐ形になってしまった。

        

でも、演説の文脈的には、国民批判を強調してたわけではない。国民が

聞く耳を持たなくなった原因として、自分たちの至らぬ点を挙げて、反省

を示す内容だ。あの短い一文の後には、延々と「私の不徳」が語られて

いる。とはいえ無論、大々的な批判の中で辞めていく首相としては、不用

意な発言だったかも知れない。。

        

            

          ☆          ☆          ☆

最後に、冒頭で東の写真に触れたもう1つの理由を書いとこう。なぜか

東は触れてないが、いま「祭り」と言えば、世界的にサッカーW杯だ。興

味深いことに、日本代表チーム(特に岡田監督)も、鳩山前首相とほぼ

同じ時期に強烈な批判を受けてたわけだが、カメルーン戦の勝利とオラ

ンダ戦の善戦(or 惜敗)で、批判は吹っ飛んで、評価は「V字回復」した。

あるいはむしろ、「左右逆転したL字上昇」と言うべきかも知れない。

      

こうした付和雷同的な変化(サポーターの自己評価)を見ると、辛口で人

気の評論家・セルジオ越後の意見を聞きたくなる。という訳で、東の辛口

の顔写真を見ながら、セルジオ越後の顔と語り口を思い出してたのだ。

お祭り騒ぎや世間的なV字回復に対して、かなり引いた位置から、冷め

た意見を語る姿。この2人に共通するのは、そうした点なのだ。

       

もっとも、セルジオは意外に甘口の笑顔も見せる人間で、それが辛口と

の適度なパランスを生み出してる。論壇時評が、東の自然な笑顔を正

から小さめに掲載する時、新たな一歩を踏み出すことになるだろう。

                     

なお、東の文章の末尾に付け加えられた「注目論文」は、津田大介

「Gov.2.0 Expo」のレポート(ライブドア他)と、浜田寿美男ほかによ

る足利事件の自白の考察(『科学』6月号,『世界』7月号)。最後に挙げ

られた、『現代思想』6月号のベーシックインカム特集は、肩すかしとい

う厳しい評価だった。

                 

出来れば後でいくつか論文をチェックして、簡単に追記してみたい(下の

P.S.3参照)。とりあえず、今朝はこの辺で。。☆彡

   

         

    

       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.なお、東の文章の左に置かれた「あすを探る」と題する企画(論壇

    時評の一部)は、「外交」がテーマ。李鐘元が、「北朝鮮の意図 

    複眼で読む」と題して、冷静かつ多角的な考察の重要性を説いて

    いた。基本的には納得できる硬質の議論だが、残念ながら専門家

    にとっても、北朝鮮の複雑な構造や意図はよく分からないようだ。

           

    情報が大きく制限された中で、多角的な考察をすることに、実質

    的なメリットが本当にあるのか。いま一つ明確ではない気もする。

    単眼でも複眼でも、取り得る対応はただ一つ。複眼によって選択

    肢が複雑化し、数も増えるなら、結果的に間違う可能性も増える

    と思われるからだ。より控え目に言っても、正答の可能性が増え

    るという保証はないはずだ。この場合、数学的モデルを設定して

    確率統計学的な計算をしても、あまり意味はないだろう。。

    

    ひょっとすると、複眼視の真のメリットは、決断や行動までの時間

    を引き伸ばして、冷静さを取り戻せる所にあるのかも知れない。

    複眼は、感情を抑えるための一つの手段なのではないだろうか。。

      

P.S.2 東の写真の下には、『動物化するポストモダン』のイタリア語

      版が今夏に出ることが書かれていた。英語・仏語・韓国語へ

      の翻訳は既にあるようだ。

     

P.S.3 注目論文の1つを読んでみた。『世界』7月号の、「足利事件・

      取り調べ録音テープを聴く」。佐藤博史、木谷明、高木光太郎

      の三者による座談会(=鼎談=ていだん)だが、これは確か

      に興味深い

      

      は、自白テープと否認テープを一般人が予断なく聴いたらむ

      しろ自白を信用してしまうだろう、という参加者の発言を重く受け

      止めてたが、それは調べてみないと、あるいは聴いてみないと

      分からないし、両者を判別しにくいという一般的主張ならごく普

      通のものに過ぎない。

         

      はむしろ、菅家さんの独特の語り口に触れてる部分を評価

      する。これは、著名な専門家が3人で真剣に議論して、総合誌

      に掲載してるから大丈夫だろうけど、テレビでキャスターやコメ

      ンテーターが話すと批判を浴びる恐れがある。実は、朝日新聞

      の報道でも、その辺りは曖昧な書き方にされてたのだ。もちろ

      ん、悲惨な冤罪の被害者を十分に擁護するためだろうけど、

      罪の再発を本気で防ぎたいのなら、多角的な考察や検証が必

      要だろう。。

          

           

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.東浩紀とネットが開く新たな言論空間~朝日新聞「論壇時評」 (4月)

  「新しい公共」と他者への理解~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・5月)

  政策の「事後的」評価としての選挙

             ~東浩紀&香山リカ「論壇時評」(朝日新聞・7月)

  建設的な哲学とネット共同体への「期待」

                    ~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・8月)

  よりどころの崩壊、新たに築く試み

             ~東浩紀&松井彰彦「論壇時評」(朝日新聞・9月)

  世論調査、ファスト政治、ポピュリズム

            ~東浩紀&福岡伸一「論壇時評」(朝日新聞・10月)

  中国の異質性、東アジアの同一性

             ~東浩紀&李鐘元「論壇時評」(朝日新聞・11月)

  情報公開の境界、資格付与の区切り

           ~東浩紀&松井彰彦「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  新しい道具、使ってみるための条件

            ~東浩紀&広井良典「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  各個人が独自メディアとして議論すべき時

              ~東浩紀&苅部直「論壇時評」(朝日新聞・3月)

        

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  震災後、身の丈超えぬ「ことば」に希望

         ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞) (4月)

  どの常識をどう疑い、何に立ち向かうのか

      ~高橋源一郎&平川秀幸&小阪淳「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  対称的な関係の中にある前進

      ~高橋源一郎&小阪淳&森達也「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  現在の中に過去を見ること

      ~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月)

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