言葉の意味、口調、表情~「メラビアンの法則」をめぐって
勝間和代が朝日新聞・土曜朝刊・別刷beに連載してるコラム、「人生を変
える『法則』」について、これまで4本の記事を書いて来た。
セレンンディピティー(serendipity)という言葉の意味と由来
いずれも自分でそれなりに調べた上で書いたもので、おかげ様で地味に
検索アクセスを集めてる。やや意外なことに、勝間和代とは直接関係な
いアクセスの方が多い。私はもちろん、人気の経済評論家からは独立し
た一般性のある内容を書いてるつもりなので、これは嬉しい傾向だ♪
これまでの経験で分かったことは、勝間がそれほど調べてない(ググっ
てない)し、正確さも深さも物足りないということだ。でも、2週間前に勝間
自身がそんな感じの事を書いてたけど、広く浅くというのは、本人のポリ
シーとか生き方でもあるんだろう(私とは少し違う)。そして、それは世間
一般の傾向(浅く、面白く)とも調和する。その上、肩書きも存在感もある
から、勝間の人気は一応理解できるわけだ。
さて、今日(7月3日)の勝間のコラムは、「言葉と見た目と口調を一致さ
せよ──メラビアンの法則」。この法則自体も興味深いけど、それ以上
に面白かったのは、私が普段、勝間に対してやってる事を、勝間が他の
人達に対してやってる点だ。俗説を批判した後、文末にこう書かれてる。
何かについて「こういうことだよ」という説明を人やメディアから
聞いたときには鵜呑みにせず、自分でも違う方法で確かめる
ことが重要・・・。
インターネットで検索するなどして、本当にそうか、誇張はな
いか、情報を批判的に見る癖をつけることをお勧めします。
という訳で、勝間自身もお勧めしてくれてるのだから、早速、今日の勝間
の主張自体に対して、批判的に考察してみよう♪ 勝間が行った批判に
対する私の批判だから、メタ批判ということだ。
☆ ☆ ☆
「メラビアンの法則」と呼ばれるものに関する俗説や誤解について、勝間
はこう語る。「言葉のメッセージの影響力に、言語そのものの意味は7%
しか役に立たず、残りの93%は話し手の見た目や口調で決まってしまう
『人は見た目が9割』という話・・・」。
話す内容だけではなく、話し手の見た目や口調も大切なのは、誰もが感
じてることだろう。ただ、そのパーセンテージ(割合)とか、メラビアンとい
うアルメニア系米国人の心理学者(Albert Mehrabian:マレービアンとも
表記)が実際にどんな実験をして、何を結論付けたのかという点について
は、調べてみなければ分からない。
勝間が挙げてる参考文献は、平野喜久『天使と悪魔のビジネス用語辞
典』(すばる舎)のみで、肝心のメラビアンの著作の邦訳『非言語的コミュ
ニケーション』(聖文社,1986)も原書『Silent Messages』(1971)も挙げて
ない。過去の勝間の話も含めて、普通に考えるなら、邦訳も原書も読ま
ず、ビジネス本の中の一節を読んだだけのように思われる。勝間に限ら
ず、おそらく日本語版ウィキも、元の本や論文を読まずに、英語版ウィキ
の翻訳と一般サイトの簡単な説明だけをもとにして書いてるだろう。
平野のHPには、著書の内容を簡単化したものがあり、参考にはなるが、
気になる点も幾つかあるし、やはり英語版ウィキの方が内容豊富で客観
的だ(あくまで相対的な評価)。そこで以下、勝間の書いた内容を英語版
ウィキと比較してみよう。勝間は次のように語る。
メラビアンが調べたかったのは、「言語の情報と、耳から来た
情報と、目で見た情報が矛盾した場合に、人はどの情報を一
番優先するか」・・・。結果は、言語7%、聴覚38%、視覚55%
となり、視覚が最優先される・・・。
ここから、コラムのタイトルのように、「言葉と見た目と口調を一致させよ」
(=矛盾させるな)ということを「学べる」と言うのだ。優しい言葉を伝えるの
なら、優しい声色と優しい表情も重要だということ。実際、本を作る時、内
容・タイトル・表紙・装丁について、混乱がないように(一致するように)心
がけてるらしい。
Verbal(言語情報)、Vocal(聴覚or音声情報)、Visual(視覚情報)、こ
れら3Vを「一致させよ」という行動ルールを、「メラビアンの法則」とまで呼
んでいいかどうかは微妙だが、確かにメラビアン自身の主張の一つにそ
うゆうものがあるし、「言葉はコミュニケーションの中で7%しか意味をな
さない」と「誤解」するよりは多少ましだろう。
☆ ☆ ☆
ただ、勝間の話には重要な点がいくつも抜け落ちてる(可能性がある)。
まず、メラビアンの実験は、あくまで好き・嫌いなどの感情や態度に関す
るコミュニケーションを扱うものであって、その点は本人のサイトでも強調
されている。客観的な事実伝達などは問題になってないのだ。根拠はと
もかく、普通に考えれば、感情の解釈に、表情や声色が大きく関係する
のは当たり前だし、事実の伝達ならあまり関係しないだろう。
次に、「7-38-55ルール」(7%-38%-55% Rule)と言うと、まる
で言葉と声音と表情の3要素を組み合わせた実験をしたような気がする
けど、実は2つの実験を組み合わせた結論らしい。1つは言葉と声音、
もう1つは声音と表情の実験だ。それぞれで分かった比率を組み合わせ
たのが、7対38対55ということだけど、3つの要素を1つの実験で比較
するとどうなるかは、実際にやってみないと分からない。
さらに、実験は非常に人工的で制限されたものだし(短い言葉、白黒写
真など)、身体の動きなどの非言語的コミュニケーションは調べてないと
いう批判がある(これは言い過ぎかも・・)。おまけに、かなり奇妙なのは、
実験に女性しか参加してないという点だ。これまた普通に考えれば、男
性と比べて、声音とか表情を重視しそうな気がしてしまうし、仮にこれが
言い過ぎとか偏見だとしても、実験には当然、様々な人間を参加させる
べきだろう。逆に言うと、もし限定された被験者で実験するのなら、その
点はハッキリ強調されるべきだ。
☆ ☆ ☆
とはいえ、こうした英語版ウィキの批判が本当に正しいのかどうか、あ
るいはどの程度妥当なのか、やっぱり元の本を読まないと何とも言え
ないだろう。その点で、私のこの記事も、勝間と似たような弱みを持つ。
機会があれば、図書館で実際に調べてみたいと思ってる。
まあ、自分でネットを調べるだけでも、それなりに視野は広がるし、問
題点らしきものも分かって来る。その事だけは示せただろう。これこそ
まさに、勝間が文末で語ってたことなのだ。
ではまた。。☆彡
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コメント
そのウィキ(=簡単作成ホームページシステム)はどこにありますか
投稿: Anonymous Coward | 2010年7月 3日 (土) 20時20分
> Anonymous Coward さん
ウチでは初めてのお名前ですが、「匿名の臆病者」さんと
いう名前はわりと広く使われてるようですね。
特にコンピューター系ってことでしょうか。
ウィキはウィキペディア(wikipedia)ですから、
普通に検索すれば日本語版も英語版もすぐに出ますよ。
そのサイト内で、また検索してください ☆彡
投稿: テンメイ | 2010年7月 4日 (日) 01時37分