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掛け算(乗法)の導入、足し算・引き算との関係~小学校の算数3

今日は3連休初日。1年で一番忙しい10、11月が来る前に、小学校にお

ける自然数(0,1,2,・・・)の計算を一通り終わらせときたい。ここまで、

小学1年生の足し算引き算をそれぞれじっくり考察したが、今回は掛け

算について考察する。

            

参照するのは今まで同じく、東京書籍の教科書、『新編 新しい算数 2下』。

ネットで見ると税込279円だが、私は278円で買った。という事は、本体価

格は265円で、消費税5%の端数を切り上げるか切り下げるかで1円違っ

てるんだろう。細かい話だけど、教科書という極度にオフィシャルな本でさえ、

こうした値段の違いが生じてるのは、やや意外だった。

        

この教科書の前、つまり『2上』では、足し算・引き算の筆算や、長さの単位

時計や表・グラフといったものが扱われてる。私自身の記憶だと、表とグラ

フにかなり違和感があった気がする。全体をまとめるのが面倒とかいうより、

算数の要素とお絵かき(図工)の要素とが組み合わさってるからだろう。。

          

      

          ☆          ☆          ☆

さて『2下』の最初が、第10章かけ算(1) 新しい計算を考えよう」だ。『2

上』から、「けいさん」は漢字で、「計算」と書かれてるようだ。最初に大きく、

遊園地の絵(写真+CGか)があって、色んな乗り物が描かれてる。

        

一種類の乗り物のそれぞれの台に、同じ人数だけ乗ってるのに、なぜか中

央のコーヒーカップだけは例外。4台中の2台が3人ずつ、残り2台は2人と

4人だ。これだと、掛け算を教えるのに不都合だし、実際、しばらく後の設問

では、なぜか3人ずつ乗ってる4台の絵に入れ替わってる。これは、間違い

探しな遊び心への配慮でもあるし、応用的な思考(後述)を促す仕掛けでも

あるだろう。

                             

観覧車のゴンドラ1台に3人ずつ4台分で12人。車1台に5人ずつ3台分で

15人。まだ、「合計」という言葉は登場してないが、同じ数を何組か集めて、

ぜんぶ」でいくつとか数えるわけだ。列車の乗客を数える例題2で、次のよ

うに数式が導入される(式の右側に、×という記号の書き方もある)。

           

   1台に6人ずつの3台ぶんで、18人です。このことをしきで、次の

   ように書きます。

       6×3=18

     「六かける三は十八」

     

小1の足し算・引き算の時のように、途中で抽象的な両面ブロックの話に

置き換えることなく、一気に数式が導入される。また、細かい話だけど、「こ

のようなこと」と書くのではなく、「このこと」と限定されている。この後、仮に

1皿6個の3皿分で18個という話が出た時、同じ式を書けない生徒が出て

も不思議ではないけど、やはり上手く出来たもんで、ほとんどの生徒は同

種の問題で類推して、同じ式をかけるようだ。

      

更に気になるのは、足し算・引き算の時と同じだけど、先に等式が導入さ

れて、後で等号抜きの式がスルスルッと導入されること。上の引用部のす

ぐ下には、こう書かれてる。

    

   6×3や2×6のような計算を、かけ算と言います。

    

等式の右側にあった「=18」は、なぜ、どこへ消えたのか、気になる生徒

はあまり出ないのだろうか。そもそも、なぜ先に等式を導入するのだろうか。

理論構成上の理由、あるいは教育上の理由が、差し当たり分からない。「6

人ずつ3台ぶん」を6×3と書くという話からスタートした方がいい気もする。

     

ちなみにペアノの自然数の公理(本人の論文)は、ほぼ同時とはいえ、先に

「+」という演算(普通の書き方だと+1)が「原子命題」として導入され、

後に等式が現れてるわけだ。

                    

この直後、練習問題2の中で、最初の遊園地の絵を見ながら掛け算の式

を書かせる時、男の子が「コーヒーカップも掛け算で表せないかな」といっ

た言葉を発してる。そのための数式変形を書くなら、次のようになるだろう。

     

   3+3+2+4 = 3+3+3+33×4 = 12

   

何なら、「2+4」から「3+3」への変化をもっと細かく書いてもいいけど、い

ずれにせよ、小2の教科書にこんな話までは載ってない。授業の中で、先

生の判断で、おはじきとか使って教えるんだろう。

     

  

         ☆          ☆          ☆     

その後、8×3は8+8+8で計算できること(等式ではつながれてない)、

「×」の左側が「かけられる数」右側が「かける数」と呼ばれること、など

が説明され、掛け算をまとめた九九(くく)の表も導入された後、第11章

「かけ算(2) 九九をつくろう」では、やや高度な話が扱われてる。

     

追記: かけられる数を「被乗数」、かける数を「乗数」と呼ぶようだ。)

     

九九の計算や表は、既に前の章で出来てるのに、あらためて「つくろう」と

言うのは、計算の工夫を教えようとしてるのだ。言い換えると、掛け算と足

し算の関係だ。例題1で、6×2=12を利用して、6×3=18を導く考えが

示されてる。「かける数」が2から3へと1増える時、答は、「かけられる数」

だけ増えるという話だ(追記: 「累加」と呼ぶようだ)。式でまとめ直すと、

次のようになる。

              

    6×3 = 6×(2+1) = 6×2+6 = 12+6 = 18

    

もちろん、こんな式もまだ登場してない。そもそもカッコが出て来るのは、

なぜか遅くて、正式には小学校4年のようだ。ただし、次の式ならあって、

これならカッコは必要ない(その理由の説明はまだにせよ・・)。

   4×8=4×7+4

    

それはともかく、上の計算は、「いわゆる」ペアノ的な掛け算公式2つ

内、1つを意識したもののように思われる。普通の書き方をするなら、

   n×(m+1) = n×m +n

ちなみにもう一つは、n×0=0だ。この2つと、あらかじめ定義してある足

し算によって、自然数の掛け算がすべて厳密に定義されることになる。

         

講談社の『現代数学小事典』にも、そんなまとめ方が紹介されてるが、実

ペアノ自身の論文『数の概念について』を読むと、そうは書かれてない

それについては後ほど、ペアノの記事の続編で確認するとしよう。あと、

小2の教科書では、なぜか0の掛け算が登場せず、小3に回されてる。

    

残る注目点は、「×2」を「2ばい」(倍はまだひらがな)と言うことの説明

とか、ものの個数ではなく単位付きの長さ「3cm」の2ばいが6cmになる

ことの説明。また、かけられる数とかける数を入れ替える「6×4=4×6」

積の交換法則)なども登場。

   

なお、発展コーナーには、6×3を、4×3と2×3の足し算で求める話も

ある。教科書には数式はないが、もし書くなら、

   6×3=(4+2)×3=4×3+2×3

つまり、和と積(つまり加法と乗法)に関する分配法則だ。。

       

   

          ☆          ☆          ☆

それでは最後に、小3の教科書、『新編 新しい算数 3上』に移ろう。まず

第1章「かけ算 九九を見なおそう」で、0の掛け算が説明される。おはじき

入れゲームで、2点が与えられる場所おはじきが0個だから、その場所

獲得点数は0点。つまり、2×0=0。一方、0点が与えられる場所にお

はじきが1個だから、その場所の獲得点数は0点。つまり、0×1=0

      

こうして、どんな数に0をかけても0、また、0にどんな数をかけても0である

ことが説明される。つまり、n×0 = 0×n = 0 ということで、0×0=0

ついても問題形式で一応小さく扱われてる。

    

さらに、小2で和と積に関して登場した分配法則が、差と積に関して再び

登場する。問題形式で、8×6 = 8×7-8 という式を学んだ後、「かけ

る数が1へると、答えはかけられる数だけ小さくなります」。つまり、一般

的な数式で書き直すなら、

    n×(m-1)=n×m-n

    

これはやがて、負(マイナス)の数の掛け算を考える時に役立つわけだ。

3×(-1)=3×(0-1)=3×0-3=-3、といった考え方の中で。。

     

         

         ☆          ☆          ☆

なお、ここまでの教科書の内容で、1つだけ私が「勘違い」してたことがあっ

た。それは、「×」という記号の書き順だ♪ 私は普段、まず左上から右下

に棒を引っ張ってるが、正しくは、右上から左下に先に引くらしい。それだ

と個人的に、カタカナの「メ」(め)のような気がしてしまうけどね。

     

次回は、加減乗除(+-×÷)の四則計算の内、もっとも問題の異端児、

割り算を扱う。ここで初めて、3は2で「割り切れない」とか、0で割ること

は考えない」といった、誰にとってもスッキリしない話が出て来るわけだ。

ではまた。。☆彡

        

    

     

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S.朝日新聞・夕刊の企画「花まる先生 公開授業」に、かなり引っ掛か

    る話が掲載された(2011年1月15日)。千葉・八街市立実住小学

    校の吉川由美子先生による、小学3年の算数だ。

    

    「あめを3個買います。1個5円のあめを買うと全部でいくら(何円)?」

    という問題に、「3×5」と答えた子がクラスの半分以上いた。「これだ

    と、『3円のあめを5個買った』ことになってしまう」と考えた先生は、2

    年生で習ったかけ算の「意味」を再確認したらしい。わざわざ問題文

    と逆順に、5円のあめ3個ととらえ直して、「5×3」と答えないといけな

    いようだ。「タコが2匹、足8本、全部で足は」という問題で「2×8」と

    答えた生徒には、それだと「2本足のタコ8匹」という意味になってし

    まうから変だと教えるのだ。

             

    しかし、「3×5」という数式の意味が、どうして「3円のあめ5個」に限

    定されるのか。「3個ある、5円のあめ」と解釈しても何の問題もない

    実際、中学に入ると、「3 x」は「3つある x」を表すし、高校に入ると、

    「k x」は「k個ある x」を表すことが多い。

           

    この学校が、どの教科書を使ってるのか知らないが、「5円のあめ

    3個」をまず「5×3」と書くのは、単なるカリキュラム上の問題であっ

    て、算数や数学の本質的問題ではない。そもそも、5×3=3×5

    いう交換法則も、実質的にはすぐ習ってるし(九九の表の所)、小学

    校2年で教えた先生の授業との整合性も気になる。生徒は、表面的

    には面白がってるとしても、内心引っ掛かってるのではないか。と言

    うより、引っ掛からないのなら、その方がよほど問題だろう。

               

    「花まる先生」については、前にも太閤検地の測量方法に関して細か

    く指摘したが、どうも表面的な面白さだけにつられてしまって、話の本

    質を見極めてない気がする。この場合だと、有山佑美子記者が、2

    本足のタコとか、キャラクターの面白さに魅かれてしまったんだろう。

   

    かけ算の意味は確かに大切だが、それは一つに限られるわけでは

    ない数式というものは、無限の解釈を許す記号である。一つの意

    味を教え込むのではなく、間違った意味を訂正すればいいのだ。たと

    えば、「2×8」なら、2本足の人間と8本足のタコの足の合計とか♪

        

                    

P.S.2 2011年5月27日付けで、高橋誠『かけ算には順序があるのか』

      (岩波書店)が発売された。ポータルサイト「エキサイト」のレビュー

      (5月31日)その他を参照すると、順序があると教えられてるのは

      事実だが不適当だ、といった感じの内容らしい(6月9日現在、未

      確認)。とにかく、かけ算の順序問題は、花まる先生など、教師個

      人の問題ではなく、最近の算数教育全体と関わってるようだ。。

       

         

cf.「1+1=2」はなぜか?~ペアノの自然数論(足し算)

  「1×1=1」はなぜか?~ペアノの自然数論2(掛け算)

  引き算の証明、負の数~ペアノの整数論(減算=減法)

  集合論における自然数の表記と計算

  自然数に関するペアノの公理~論文『数の概念について』に即して

  0、1、「次の数」に関する哲学的考察~フレーゲ『算術の基礎』

  原始リカーシヴ関数と足し算(加法)、掛け算(乗法)

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  『1+1=2』はなぜか~小学1年生の算数の教科書

  引き算、足し引き連続、0(ゼロ)~小学1年生の算数2

  同じ数ずつ分ける計算、割り算(除法)~小学校の算数4

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コメント

こんばんは
ひたすら全部目を通してます(笑
掛算ですかなつかしいですね
でも、まともに証明するのは足し算のようになかなか困難ですよね

いまさらこんな事聞くのは恥ずかしいのですが小数の掛算はどう説明するのでしょうか?
教えられた時は確か、まず整数の掛算とみなして(小数点は無視ということです)あとから点を付け加えていたのですが、数学的にこれでOKなのでしょうか?

投稿: ES | 2010年9月28日 (火) 01時03分

> ES さん
   
こんにちは。色々と目を通して頂き、どうもです。
   
掛け算の証明は、純粋な数学的には
ある意味簡単ですが、教育上の配慮は別問題。
具体例から大まかに「証明」すると、物の個数とか
増えてしまうし、九九の記憶、筆算のやり方などもある。
ただ、「余り」がないだけ、割り算よりはラクでしょう。
0を掛けてもいいけど、0で割るのはダメだし。
    
小数は、(今までは)小学校4年以上の内容で、今手元に
教科書類がないので、ハッキリした事は言えません。
ただ、ネットで色々見る限り、なるべく整数を利用。
少しずつ教えるようですね。
    
小数×整数をまず考えるとか、小数をまず100倍して
整数に直して計算、後で100で割るとか。
100倍すると小数点が右に2つ移動、100で
割ると左に移動、1より小さければ「0.・・・」と書く。
そういった技術的な話も考える必要があります。
     
「小数点を無視」とか、「あとから点を付け加え」と
いうのは、そういった作業の直感的表現ですね。
なお、少しだけ後で習う分数との関連も大変でしょう。。

投稿: テンメイ | 2010年9月28日 (火) 13時52分

初めまして。
ミクシィコミュ算数「かけ算の順序」を考えるhttp://mixi.jp/view_community.pl?id=4341118
の管理人をしている積分定数と申します。

「花まる先生」の件で朝日新聞に、「順序に拘る教え方については批判もある。そういった声も取り上げて欲しい」と電話しました、メールもしようと思います。

 この小学校にも電話しました。件の教師は不在だったので、改めて電話して意見交換してみようと思います。ちなみに教科書は啓林館だそうです。

 失礼しました。

投稿: 積分定数 | 2011年1月18日 (火) 00時31分

> 積分定数さん
   
はじめまして。コメントありがとうございます。
   
かけ算の順序や意味を、一つに限定しようと
する動きは、昔からあるようですね。
今回、初めて知りました。
   
私自身は、中学以降でしょうが、知らない間に
「aがbコ」をba(つまりb×a)と考える
ようになってますが、もちろん逆順も認めます。
文脈や目的に応じて使い分ければいい。
逆に、式から意味や言葉へ向かう際も、臨機応変。
   
そうした柔軟で主体的な思考が小学生には難しいから、
1つに限定して教えるというのであれば、
「こう考えると分かりやすいよ」と教えればOK。
ただし、それは教育や学習上の配慮の問題であって、
逆順の式でかけ算を書いても正解にするべきです。
         
ネットでも話題になってますが、日本と世界の
実情と歴史を、幅広く見渡して考えるべきでしょうね。
そうした事を考えるキッカケを与えてくれたという
意味では、あの新聞記事は面白くて刺激的。  
もちろん、それは花まる先生やあの学校にとっても
そうでしょうから、まさに教育的な出来事でしょう。
    
いずれにせよ、中学以降は、教師も生徒も
気にしなくなると思います。
まさか公立高入試やセンター試験で、順序によって
○×が分かれるような事態にはならないでしょう

投稿: テンメイ | 2011年1月19日 (水) 02時34分

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