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一次不定方程式と整数解~足の本数だけの鶴亀算など

今日は想定外のことが連発したので、僅かな時間で数学記事を書くことに

なってしまった。言い訳してるヒマもないので、すぐに書き始めよう。テーマ

は、8月末に頂いた読者のリクエストにお応えして、「一次不定方程式」。

「1ヶ月以内には何か書けるかも」とぼかしてレスしておいたが、この辺りで

「何か」書いときたいと思ったわけだ。

         

「一次不定方程式」という言葉、数学好きや理系人間ならすぐピンと来るだ

ろうけど、一般にはあまり知られてないだろう。「一次方程式」は中学1年

数学の教科書から載ってる簡単な言葉だけど、「不定方程式」は手元の

校の教科書(レベルが高めの数研出版)でさえ見当たらない。私が知った

のは、参考書だった気がする。

      

           ☆          ☆          ☆

まず、(x についての)一次方程式とは、「2x=6」、「5x-7=0」などのこ

と。つまり、変形すると「○x+□=0」の形になる等式だ(○や□は定数)。

先程の例なら、それぞれ「2x+(-6)=0」、「5x+(-7)=0」に変形でき

るから、一次方程式だ。

        

未知数(=分からない数)を表す文字が x だと分かり切ってる場合を始め

として、しばしば「xについての」といった言葉は省く。ただ、厳密には「何に

ついての」方程式なのかハッキリさせないと、話の意味が広がり過ぎてし

まう。例えば、「b² x + 1 =0」という等式は、x についての一次方程式と

見るのが普通だけど、b についての二次方程式とも見れるし、b,x につ

いての3次方程式とも見れるのだ(b,x が計3回掛け合わされてるから)。

       

話を簡単なレベルに戻すと、「2 x = 6」の解、つまり答は x=3 だ。この

場合、解が「定」まるから、「不定」方程式ではない。一方、「x+2y = 5

という等式は、普通に見ると、x,yについての一次方程式だが、これをみ

たす x と y の組合わせ(x,y)はいくらでもあるから、解を「定」めるのは

「不」可能。よってこれを、不定方程式と呼ぶ(微妙な話は後述)。より精

密に言うなら、x,yについての一次不定方程式だ。

       

          ☆          ☆          ☆

理屈を長々と書くより、実際の問題を見ることにしよう。小学校以来有名

な、「鶴亀算」の問題を解いてみる。

    

鶴と亀の足を合わせると10本あります。それぞれの数はいくらですか?

      

アレ?と思った人もいらっしゃるだろう。足の他に、頭を合わせていくつと

いう条件が与えられるんじゃないのか?♪ もちろん、普通の鶴亀算だと、

「頭を合わせると3つです」とかいう条件が加わる。

        

中学だと、足2本の鶴が x 羽、足4本の亀が y 匹として、2x+4y=10、

x+y=3。この「連立一次方程式」は簡単に解けて、(x,y)=(1,2)だ。

結局、鶴1羽、亀2匹が答。小学校の算数だと、まず仮に、すべてツルと

みなす。これだと足が6本になってしまうから、足をあと4本増やすために、

本当は亀が2匹いると考える。亀1匹は、ツル1羽より足が2本多いからだ。

            

けれども、「足を合わせると10本」という条件だけで、中学校以上の数学

を用いると、2x+4y=10。つまり、x+2y=5。これは一次不定方程式「の

形」になってる。ただし変な話だが、実際には「不定」ではなく、解は一応「定

まる」のだ。

        

この問題だと、x と y は0以上整数だから、(x,y)=(1,2),(3,1),

(5,0)。これら3組が解。結局、鶴1羽で亀2匹か、鶴3羽で亀1匹か、鶴

5羽で亀0匹。これが答となる。もちろん、どちらも1匹以上いるという前提

なら、3組目の答は除外すればよい。

        

こうした流れが、「不定方程式の整数解」を求めるやり方の代表例だ。「整

数」という強い条件と、「0以上」などの不等式の条件を組合わせるのがよ

く使われる方法。実際には、y = 0 なら x = 5。y = 1 なら x = 3。y =

2 なら x = 1 。y ≧ 3 なら x は無し。そんな感じで解を1組ずつ求めてい

く。y で場合分けするのは、係数の絶対値(y は2、x は1)が大きい変数に

着目する方が素早く調べられるからだが、 x で場合分けして求めてもよい。

       

もう一つ、例題を挙げとこう。    

5円切手、10円切手、20円切手が合わせて50円分あります。どれも

1枚は買うとすると、それぞれ何枚ですか?」。

    

それぞれの枚数を x、y、zとすると、5x + 10y + 20z = 50。つまり、

x + 2y + 4z = 10。これは、x,y,zについての一次不定方程式だ。

係数の絶対値が一番大きい z に注目して場合分けすれば、(x,y,z)=

(2,2,1),(4,1,1)の2組が解だとすぐ分かる。よって、5円2枚かつ

10円2枚かつ20円1枚か、5円4枚かつ10円1枚かつ20円1枚。

        

     

         ☆          ☆          ☆

さて、この程度なら、どこにでも似た話が書いてあるだろう。そこで最後に、

自称マニアックサイトらしく、ほとんど見かけない主張を強調しとこう。それ

は、「不定方程式という言葉は、やや奇妙だし、かなり曖昧だ」というものだ。

      

やや奇妙というのは、上の例題2つからも分かるように、「不定」と言いつ

つ、実際には解が定まってるからだ。「1つには定まらないのが不定」とい

うのは、二重の意味で反論になってない。まず、「x+y=2」という不定方

程式は、x と y が1以上の整数なら解が1つに定まる。(x,y)=(1,1)

だけだ。一方、「x²-3x=0」という2次方程式は、解が1つには定まらな

い(0と3、2つの解)が、不定方程式とは言わない。

      

そこで、もう少し話を限定して、例えばこう定義してみよう。「変形して、○x

+△y+□=0 になる方程式を、x,yの不定方程式と呼ぶ(○、△、□は

定数)」。この場合、整数であるとか、他の条件抜きだと解が無限にあるか

ら、不定と呼ぶにふさわしいだろう。解を有限個に「定」めるのが「不」可能

という意味だ。

         

ところが、比較的信頼できそうなサイトや手元の参考書を調べた時、この

定義は実際にはなぜか見当たらないのだ。ウィキペディアの日本語版は、

「ディオファントス方程式」(=整係数・他変数・高次・不定方程式)という項

目名で小難しい話を僅かに紹介してるだけだし、英語版ウィキの「indeter-

minate equation」もほとんど走り書き程度の記事で、英語版としては珍しく

論外の説明。

        

名古屋大が公開してる講義用pdfファイルでは、整数のように「飛び飛び」

の量を扱う「離散」数学の授業だからか、係数と変数をあらかじめ整数に

限って定義してある。一方、毎度お馴染み、講談社『現代数学小事典』を

見ると、係数と変数は整数で、数式は有限個(2つとか3つとか)まで拡張

してあるし、科学新興社『モノグラフ 公式集』では定義なしで曖昧なまま。

       

ちなみに、ありがちな発想として、「変数の数が方程式の数より多い(連立)

方程式」というものがあって、これは先の私の定義の延長上にある(大幅

に拡張)。ただ、実際には、係数や変数を整数と限ってる場合が目立つし、

方程式は1本だけ、しかも1次のことが多い。したがって、むしろ、「変数が

2個以上の1本の一次方程式を、慣習的に(一次)不定方程式と呼ぶ。通

常、係数は整数」と、緩やかに定義するのが実情に合ってる気がする。。

    

         ☆          ☆          ☆ 

ともかく、繰り返しになるが、「不定方程式という言葉は、やや奇妙だし、か

なり曖昧だ」という指摘を、私としてはしておきたい。これまでの一連の記

事でも示唆されてるように、数学の世界でさえ、実はそれほど話が厳密に

確定されてるわけでもないし、見解が統一されてるわけでもない。さらに言

うなら、そういった事態の理解もあまり進んでないのが実情だろう。少なくと

も私は、数学の授業でそういった観点を教わったことは一度もないし、読ん

だこともないのだ。数学以外でなら、度々あるにも関わらず。。

             

結局、数学にせよ科学にせよ、理系の専門家が断定口調で語る話にさえ、

常に注意が必要だということだ。文系に関しては、言うまでもないだろう。

本当に必要で、優先されるべき教育とは、与えられた知識に対して十分注

意を払いつつ、誠実に深く自分で考察する知性の養成だと思ってる。ただ

し残念ながら、今の世の中、これは極端な少数意見のようだ。

       

なお、不定方程式については、平面図形・空間図形との関連でいずれ別

記事を書くかも知れないし、「不定の連立方程式」についてはいずれ線形

代数や行列との関連で扱うかも知れない。一次不定方程式の整数解を

平面図形で考えると、式が表す直線上の格子点(=両座標が整数の点)

になる(x>0,y>0という条件なら第一象限の点)。

ではまた。。☆彡

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コメント

鶴亀算について、かなり何人かの著名な数学者がジョークの範囲内で批判していますので紹介します。
①頭の数はともかく、足の数を数える方が不自然である。
②鶴と亀の足の数という重要な仮定を明言していない。
③代数方程式に表せば自然な問題を無理に算数で解かせている。

投稿: gauss | 2010年9月22日 (水) 12時26分

> gauss さん

こんばんは。毎度どうもです♪
   
常時トップページ先頭に掲載してる、「全記事一覧」
の方にコメントがありましたが、すぐ下の記事との
混同でしょうから、コメントを移動しておきました。
トップページで読んでる方には、コメント欄への
リンクの位置が微妙で、ちょっと分かり辛いですね。
   
緊迫した社会状況を考慮して、情報公開しとくと、
gaussさんのコメントは実際には11時16分。
僕がここへ移動したのは、お昼の12時26分。
元のコメントも非公開の状態で残してあるし、証拠隠滅の
意図も利益もないので、最高検が動くこともないでしょう。
特殊な専用ソフトも使ってないし♪
   
    
軽口はともかく、コメントの「かなり何人かの」という表現も、
不定方程式をめぐる状況の微妙さを表すものかも知れません。
       
3つの中だと、一番ジョークに近いのが①でしょう。
ただ、学習のための問題というのは、不自然なものが
珍しくない。他の分野や学問でもよくあることです。
不自然さとは、一つのネガティブな特徴にすぎず、
勉強になるというポジティブな特徴で打ち消し可能なもの。    
       
②は、僕の記事だと、解答の側にだけ書いてます。
要するに、いわゆる「フレーム問題」の簡単な例。
問題設定の時点で、どこまで記述すべきか、どこまで
枠=フレームを広げとくべきか。
これは数学的なことと言うより、社会的・慣習的なことでしょう。
         
鶴が2本足、亀が4本足というのは、簡単な事実で
あって、わざわざ問題に書くほどのものでもない。
僕は、解答の数式の係数を説明するために書いただけ。
ちなみに、「ムツアシ」ガメも「4本足」のようです♪
     
③は、教育論ですね。代数方程式は中学以上の数学で、
それを使えば鶴亀算は、「ある意味」自然になる。
ただ、では小学校で扱う意味はないのか。「別の意味で」
代数方程式の方が遥かに不自然な発想ではないか。
いくらでも強い再反論が出て来ます。
   
僕自身も、鶴亀算に無理した記憶はありませんが、
代数方程式という高級なものを自然に理解するのは無理。
だから、不自然な努力が必要になります♪
      
実生活では、どちらも直接的にはまず使わないけど、
鶴亀算に似たことなら、暗算で直観的にやってるかも。
近所のコンビニで色々とカゴに入れた後、財布にお金が
少ししか無かったら、これとこれを減らして・・・とか。
素朴に考えることがありますね。
ま、等式だと面倒だから、大まかな不等式ですが。
これで何とか手持ち以下の代金に収まるだろうって感じ。
      
                
ちなみに、意外と自然な考えは、「方程式」かも。
数学史的には、多変数の一次方程式を指すようですが、
より根本的に語源を考えるなら、決まり(=「程」)に
従って問題解決する「方」法を示す、形「式」。
    
これなら、あらゆる分野と関わる平凡な存在で、
だからこそ、この言葉は気軽に使われてるんでしょう。
ウチを代表するレビュー群につながったドラマ
『ガリレオ』でも、歌われてました。
「幸せの答え 導き出す 方程式 探求中 ♫ 」
     
僕も含めて、多くの人がこの方程式を探求中ですが、
苦戦しながら、意外に楽しんでる感もありますね。
それでは。。

投稿: テンメイ | 2010年9月23日 (木) 02時06分

こんばんは
不定方程式ですか
確かに学校ではあまり触れないし、テストにも出てきませんよね。
定義がしっかりされていないのは少し驚きでした
場合の数という単元で強引に表を書いたりして、答えが何通りあるか定めたりしたのを覚えてます

○x+△y+□=0という式をどっかで見たなと思っていたら直線の方程式でしたね。
よく考えると直線は不定方程式の無限個の解を集めたものだったんですね
まぁ当然これは直線だけでなく、放物線や、円、楕円についてもいえることですね。
それでは

投稿: ES | 2010年9月28日 (火) 01時18分

> ES さん
   
こんにちは。
数学用語の定義というのは、意外なほど大まかです。
    
あちこちに書かれてるのは、たかだか一例とか代表例、
あるいは筆者の個人的見解など。
ウチがこだわってる最も基本的な数、自然数の定義でさえ、
あちこちで違ってます。
そういった奇妙な実情は、ほとんど知られてないでしょう。
    
一般に図形とは、図形を表す不定方程式の解と対応する
xy平面(またはxyz空間)の点の集合です。
解は数(の組合せ)、図形は点の集合。
一応分けて考えた後、対応付けする必要があります。
それでは。。

投稿: テンメイ | 2010年9月28日 (火) 14時05分

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