難しい。。細かい数式計算も含めて、それなりにまとまった記事をアップし
ようと思ってたんだけど、少なくとも数ヶ月、下手すると数年はかかりそうだ
から、とりあえず現在までの考察だけを報告しとこう。要するに、途方も無く
難しいことだけは分かってるのだ。
まずは、元々のイベントの話から始める。ウィキペディアによると、2006
年7月20日・19時39分13秒、西半球で6億人の人間が同時にジャンプ
して地球の公転軌道をずらし、地球温暖化をストップさせよう、という試み
が実行された。「ワールド・ジャンプ・デー」(World Jump Day)だ。ちなみに
日本は東半球だから、残念ながら仲間に入れなかった。
科学的な意味が分からない人のために、簡単な図を挿入しとこう。
太陽の周りを約1年かけて公転してる地球上で、人間が太陽の側にジャン
プすると、「反作用」による反動で、地球は太陽から僅かに離れる。すると、
太陽からのエネルギーが減って、地球の温度が下がるという理屈だ。ちな
みに、太陽からのエネルギー(太陽放射)は、距離の2乗に反比例するとさ
れ、その65%が熱となり、地球の気候に大きな影響を与えてるという話だ
(ウィキの「太陽放射」と「地球のエネルギー収支」参照)。
日本では、ジャンプ・デーをパクったらしき日テレが、翌2007年6月、科
学バラエティ特番『ガリレオの遺伝子』で似たようなイベントを企画。日本
が太陽の方向に向いた瞬間に、参加者が一斉ジャンプしたらしい。日本の
どの地点で計算したのかまでは不明だけど、人口から考えて東京だろう。
私は、先に日テレの企画を知った時、声を出して笑った♪ あまりにバカ
げてるけど、壮大な構想の「お遊び」で爽快だし、一応の科学的理屈もあ
る。だからこそ前年には、西半球の人々もそれなりに参加したんだろう。
ただ、ネットで調べてる間に目に入って来た物理的説明は、否定的または
批判的なものが目立ってて、しかもその説明が高校1年の物理の大まか
な理解に留まってる。日本はもちろん、英語版のウィキペディアまでそのレ
ベルで、中途半端に真面目なのだ。
そうした批判は、確かに「近似的」には間違ってないけど、マニアックサイト
のウチとしては、もう少し突っ込んでみたい。本気で真面目に考えると、も
はや底無し沼、ズブズブの難解な世界に入って行くことになる。。
☆ ☆ ☆
まず、最も根本的なレベルの事から確認しとこう。それは、数学・論理学
など、一部の例外を除けば、ほとんどの学問は「近似的」な理論体系だと
いことだ。大なり小なり「大まかな」ものにすぎない。実は、数学や論理学
でさえ、完全ではないけど、それでも一応、他と比べれば遥かに厳密だと
は言える。それは、人工的、理想的な学問だからだ。
数学の「1」や「球」、論理学の「ならば」などの専門用語は、現実の世界に
そのまま存在する訳ではない。古代ギリシアの哲学者・プラトンの言葉を
借りれば、「イデア」的なものであって、人間の「理性」が遥か遠い世界に
「考える」存在なのだ。昔、ある有名評論家が、数学は「文学」だと語るの
を聞いたことさえある。「見事に作られた言語芸術」といった意味だろう。
それに対して、物理学は全く違う。これは「人工」的世界ではなく、あるがま
まの「自然」界を扱う学問で、もともとは自然哲学だった。自然界には、数
学的な直線(幅のない真っ直ぐな線)はなく、かなり細くて大体真っ直ぐな
線があるだけ。数学的な球もなく、ほぼ球形の物体があるだけで、しかも
表面を確定することさえ出来ない。物体を原子(=原子核+電子)の集ま
りと考えても、原子の外側に境界面などないし、外側の電子の軌道も確
定不可能だ。物体の表面とか軌道は、たかが実用的な近似に過ぎない。
したがって、天体の運動を考える時にも基本となる物理法則、ニュートン
の運動の3法則や万有引力の法則も、「自然」法則としては、近似に過ぎ
ない。それは、ニュートン自身の主著『プリンキピア』を読んでも、万有引
力の検証実験と言われるものを見ても、明らかなことだろう。
よくある話だと、重力加速度として定数(記号 g とか9.8m/s² )を使う
のも近似。もちろん本来は、重力による加速度は一定の値ではなく、重心
からの距離に応じて変化する。これは、法則自体が語ってる内容だし、実
験的にも検証済の科学的事実だ。
物理の教科書の説明を読んで、まるで数学の教科書のように正しいものと
して受け止めるのは、両者の性格の違いに気付かない勘違い、あるいは
過度の素直さにすぎない。ただし、その勘違いや素直さをとがめるものな
ど、テストや教師も含めて、世の中にほとんど存在しないわけだ。。
☆ ☆ ☆
もちろん、物理学は近似的な学問のままで、世の中に十分役立ってる。た
だ、近似が通じない、あるいは通じにくい分野があるのだ。原子内部の極
微の世界や、宇宙の彼方、宇宙の始まりと終わり。あるいは、カオス(極度
に不規則な変化)とか。
ここで問題となってる話でいうと、地球の軌道や温度の僅かな変化も、そ
れを精密に考えるとなると、近似は上手くいかない。特に、高校1年の物
理の大まかな理解でそうした僅かな変化を考えるのは、普通の定規を使っ
て1000分の1ミリの長さを測ろうとするようなもの。達人が定規を使うの
なら、ギリギリ何とかなりそうにも見えるけど、根本的に無理がある。
どこに無理があるのか、個別に見て行こう。まず、一番単純に考えても、
ジャンプする人間と地球の質量の差が大き過ぎるから(10の23乗倍の
差)、地球の軌道はほんの少しズレるだけ。軌道変化も温度変化も、全く
測定不能のはずだ。
「だからジャンプは無意味」と言いたくなる気持ちは理解できるけど、理論
的にはむしろ、「だからジャンプの結果を正確に論じるのは不可能」と言
うべきだろう。地球上のあちこちで、大勢の人間が別々の動きを行ってる
ことを考えても、ジャンプによる変化を識別するのは、測定上も理論上も
不可能だ。
一応、こうゆう可能性なら無いこともない。つまり、例えばジャンプの1億倍
の効果を持つ「と思われる」実験を行って測定。そこから、ジャンプの効果
を1億分の1として計算することなら、一応出来なくはないだろう。でも、これ
は近似的な推測だし、実際にはあり得ない。そんな実験に膨大な金と労力
を注ぐことに、同意が得られるはずはないからだ。少なくとも、ここ数十年
ではあり得ないだろう(数百年だと微妙かも・・)。
次に、ありがちな考えの問題点について。高校1年で習う「運動量保存則」
を用いて、軌道は変わらないとする考えのことだ(運動量=質量×速度)。
私の言葉でまとめ直すと次のようになる。──元々、地球と人間は軌道に
沿って真っ直ぐ公転していて、垂直方向(上図の左右方向)へは運動して
ない(太陽と地球を結ぶ方向への「運動量」がゼロ)。その状態は、ジャン
プが終了して地球と人間が一体化した後にも「保存」されるから、以前と同
様、地球&人間は真っ直ぐ進むだけだ──。
この考えは、近似的・結果的になら、間違ってないとは思う。ただ、今問題
となってるのは精密な話であって、そのレベルでは運動量保存則は使えな
いし、使ったとしても粗雑過ぎる。
仮に保存則が使ったとしても、ジャンプ後に以前と同様なのは「真っ直ぐ」
なことだけ。少なくとも保存則だけでは、その真っ直ぐの軌道が最初とズレ
てる可能性を否定することは出来ない。つまり、太陽から遠ざかるかどうか
はともかく、軌道と垂直な方向に少しズレる可能性なら残る。他にも、そも
そも「真っ直ぐ」ではなく「楕円」軌道だという点、また、たとえ軌道がズレな
くても一時的には地球が太陽から遠ざかるという点を指摘しとこう。
ただ、そんな細かい問題より根本的に、やはり運動量保存則は使えない
のだ。この法則は、「『外力』が働かない時」という前提条件の下でしか保
証されてない。その前提のもとで、運動の第2法則(運動方程式 : 力=
質量×加速度)と、第3法則(作用・反作用の法則)を用いて、数学的に積
分計算した結果が、運動量保存則なのだ。
地球と人間の間の万有引力だけを考えるのなら使えるけど、ここではそれ
らの「外」側から、太陽の万有引「力」が加わってるのだから、前提が崩れ
てしまってる。しかもその「外力」は、軌道と垂直方向、つまり重要な方向で
働いてるのだ。
これに対して、「その外力は公転の遠心力と(見かけ上)釣り合ってるから
無視できる」、あるいは、「その外力は公転を維持する向心力として使われ
るだけだから無視できる」するのなら、これまた同じこと。近似的にはとも
かく、精密には物理・数学的に間違ってる。
というのも、太陽から働く万有引力Fは、太陽の重心からの距離 r の2乗
に反比例する(F=GMm / r² : Gは比例定数、Mとmは質量)。ところが
遠心力または向心力は mv²/r (v は速さ)だから、 r の1乗に反比例。
2乗と1乗は全く異なる。したがって、ジャンプによって僅かに r が変化す
ると、つり合いも崩れるのだ。
さらにダメ押しするなら、この遠心力は等速円運動のものであって、楕円
運動に使うのは近似に過ぎないし、実は地球の公転が楕円だというのも
近似的想定にすぎない。本当の軌道は、計算不能なのだ。授業や教科書
ではほとんど触れられない事ではあるが。。
☆ ☆ ☆
ちなみに私は、上で書いた軌道のズレとか、つり合いの崩れを精密に計算
しようと頑張ってたのだ。けれども、太陽と地球と人間の3項関係を考える
のは途方もなく難しい。これは限度を超えてるな・・・と内心ボヤいてる時、
ふと気付いた。そうか、これは有名な「3体問題」(three body problem)とか
「多体問題」(n-body problem)だから、普通に計算できるはずないのか。。
3体問題というのはもともと、太陽と地球と月、3つの天体が万有引力を
及ぼし合う時の運動(軌道や速度)を計算する問題。ニュートン以来、研
究が続けられ、あの「ポアンカレ予想」にも名を残すポアンカレも大きく貢
献した。その結果、2体問題のように積分計算でキレイに解くことは出来
ないことが証明されたとされている(高度に専門的な話)。ましてや、4体
以上の多体問題となると論外なわけだ。
実際の科学では、ここでも近似計算を用いることになる。代表的なのが
「摂動」を利用した考え。摂動とは、英語で「perturbation」。脇から「かき乱
すこと」を指す言葉だ。元の動詞「perturb」は、語源的に「disturb」(邪魔す
る)の類語だということを考えると、綴りも意味も納得しやすいだろう。
例えば、月の動きなら、まず地球との2体問題として解いて、太陽による摂
動=かき乱しを加えて補正する。あるいは、地球の動きなら、まず太陽と
の2体問題として解いて、月による摂動を加えて補正する。ただし、摂動を
使うこと自体が近似だし、摂動の計算にも近似が使われてるようだ。
とにかく、太陽と地球と人間1人の三体問題だけでも、普通には計算できな
い。まして、人間が多数だと無理だし、宇宙にちりばめられた無数の物体
を考慮すると論外。もちろん、一つ一つの物体の重心(=質量の中心)も
正確には決定できないし、近似による重心から計算した引力も、実際の引
力とは一致しない。
例えば、太陽と地球の間の万有引力を計算する時に、普通は両者の重心
を使って計算するわけだが、質量の中心としても近似だし、ましてや重力
の基準点としては近似にすぎない。というのも、太陽とか地球とか、一つ一
つの天体自体が、より小さな物体の複雑な組合せで構成されてるからだ。
無数の原子の中の電子が、超高速で動いてる(=位置変化している)こと
を考えるだけで、気が遠くなるだろう。電子にも僅かに質量があり、万有
引力がある。「万有」とは、「無限有」なのだ。。
☆ ☆ ☆
以上、近似、運動量保存則、3体問題(一般には多体問題)を軸に、一斉
ジャンプ問題を精密に扱うことの難しさを示して来た。もちろんこの話は、
お笑いの世界に近いジャンプだけでなく、現実の自然な世界に関する精密
な測定や理論構成ならすべて適用可能だ。
念のために付け加えるなら、「物理の近似」と「数学の近似」の違いにも注
意する必要がある。数学の場合、しばしば真の値や数式が分かってて、そ
れをもっと簡単な別物で近似する。だから、どの程度の正確さの近似なの
かまで、厳密に論証出来るのだ。それに対して、物理の場合、真の値や数
式が分からないまま近似することになる。それが近似になってるかどうか
は結局、実用的に役立つかどうかで大まかに判断するしかないわけだ。
ただし、たかが近似、されど近似。どうせアバウト(いい加減)な話だから、
何を選んでも一緒、というような粗雑な考えで妥協するのは、学問的な姿
勢ではない。どのような近似が、どのような価値を持つのか。精度、コスト
パフォーマンス、分かりやすさ、安全性など、色々と考えるべき事は山積
みだろう。
学問に王道なし。また、終わりもなし。結局はそうゆう当たり前のことだ。
なお地球温暖化については、いずれまた記事を書く予定。ではまた。。☆彡
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