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中国の異質性、東アジアの同一性~東浩紀&李鍾元「論壇時評」(朝日新聞・11月)

(☆2012年2月25日追記: 最新記事をアップ

   現在の中に過去を見ること

      ~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月) )

               

                    

               ☆          ☆         ☆

月末の木曜恒例、朝日新聞・朝刊オピニオンページの特集「論壇時評」。

今月は掲載日(11月25日)微妙なタイミングとなった。北朝鮮から「韓

国」(の領土とされている島)への砲撃が始まったのは、23日の14時34分

(日本との時差は無し)。そのニュースが伝わったのが15時前。25日朝刊

の特集記事の原稿締切、あるいは実際の提出に、間に合うかどうか、ギリ

ギリの時間だろう。

             

ページ左側の「あすを探る 外交」の筆者・リー・ジョンウォン(李鍾元)は、

国際政治の専門家で、韓国人でもある。一度提出した原稿に加筆したか

のようにも見える書き方で、コラム末尾に、「朝鮮半島では、局地的ながら

軍事攻撃の事態まで起きた」と書き添えている。しかし、特集ページの中心

的筆者である東浩紀の時評では、砲撃事件は全く触れられてない。内容

的には、一言あっても良かったはずだが、間に合わなかったのか、あるい

は意図的に今月は見送ったのか。。

      

☆追記: 砲撃事件に関して、朝鮮半島西側の「国境」関連記事をアップ。

       北方限界線(NLL)と海上軍事境界線

                   ~北朝鮮にとっても延坪島は韓国領か )

          

      

               ☆         ☆          ☆

今回は、最新の重要な国際ニュースにきっちり配慮した李に、敬意を表す

る意味もあり、そちらをまず簡単に見ておこう。当サイトに多数入って来る

「論壇時評」関連の検索アクセスは、大部分が東浩紀に関するものだが、

以前から度々書いて来たように、論壇時評とは3つのコラムの複合記事だ。

東の時評、「あすを探る」、そして、「編集部が選ぶ 注目の論考」。

         

の「外交」コラムのタイトルは、「東アジアに『新冷戦』の気配」。全体的に

は、インパクトの薄い普通の主張だが、冒頭のつかみは少し面白かった

    

      「会議は踊る。されど進まず」。ナポレオン戦争の戦後処理を

      行うウィーン会議が舞踏会に明け暮れ、肝心の議論が進展

      しない様を風刺した言葉だ。

        しかし国際政治学者の高坂正尭によると、「踊る会議」にも

      多様な利害の調整という、それなりの理由と効用があった

      (『古典外交の成熟と崩壊』)。

     

全体の論旨はこうゆう事だ──日本は最近、日米、日中という「バイ」(bi:

二国間関係)の不安定化に足を取られているが、「直面する多元方程式を

解くには、『マルチ』(multi:多国間機構)の強化に活路を見いだすしかな

いだろう」。東アジアに、新冷戦の気配が漂い始めた今、たとえ踊る会議

を通じてであろうと、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、ASEAN諸国などと共

に、東アジア地域全体の秩序の形成を急ぐべきだ──。

          

半ば理系の私としては、多元方程式を解く際のセオリーは元(未知数)の

数を減らすことだが・・・と直ちに指摘したくなるわけだが、そこは譲ってお

くとしよう。現在の国際政治において、多国間協力が必要なのは当然のこ

と。抽象的な言葉で一般的に語るなら、東アジアにある種の同一性を築く

ことが必要だという話で、これはもちろん、鳩山前首相の東アジア共同体

構想とも重なる考えである。

      

      

      

          ☆          ☆          ☆

一方、東浩紀の時評のタイトルは、「尖閣問題 中国は異質か」。李と同じ

く、東アジア良好な関係を構築することを目指す内容だが、9月の尖閣

問題後という時期的な事情で、対象は中国に絞られている。

    

全体的な論調を一言でまとめるなら、こうなる──中国やや異質だが、

基本的には日本や欧米と同質だ──。これは、「政治体制だけでなく風土

も歴史も何もかも異なり相互理解は不可能だという中国異質論」への批

なのだ。

         

東が冒頭で「挑発的な言辞」と呼ぶ見出しを付けた雑誌は、産経新聞社

正論 12月号』(屈辱の「9・24」を忘れるな)と、小学館『Sapio 11/24』

「中国の弱点」 整いました)の2つ。他にも、『世界』、『WiLL』、『中央公

論』、『ニューズウィーク』、『週刊東洋経済』が中国の特集を組んだ。

      

東はまず、『東洋経済 11月6日号』のマーティン・ジャックスの論文、「

国は西洋化しない」における中国異質論について、「大味」だと一蹴。逆

に、『フォーリン・アフェアーズ リポート 11号』のエリザベス・エコノミー

論文、「ポスト鄧小平改革が促す中国の新対外戦略」を「説得力がある」

持ち上げる

             

彼女によると、鄧小平に続く第二の革命が成功すれば、新しいタイプの市

民社会が誕生する。これを受けては、「実際中国が脅威に感じられるの

は、単に異質だからではなく、むしろ逆に、異質な要素を抱えつつも欧米

や日本と似た社会を作りつつあるからだ」と語る。つまり、日本や欧米と同

じく市民社会へと移行している、という流れだ。

      

私がこれを読んで、すぐ思い浮かべたのは、同一性と相違性をめぐる古典

的で哲学的な議論だ。識別可能な2つのものは当然、相違性を持つ。しか

し、2つに識別してる時点で、両者は同じ次元の比較対象となっているのだ

から、同一性も持つ。例えば、私の視野に現在並んでいるもの、という共

通点を持つということだ。したがって、同一性と相違性常に共存するの

であって、それらを同じと呼ぶか異なると呼ぶかは、視点の違い、重要性

の置き方の違いである。。

       

私はエリザベスの議論を読んでないが、もし文字通り、中国を「独自の市

民社会」と呼んだのであれば、これを支えにして同一性の側を強調するの

簡単ではない。「独自の」という言葉で相違性が強調されているのに対

し、同一性の方は「市民社会」という間接的表現に留まっているからだ。こ

こから同一性、あるいは類似性の方を強調するためには、最低限、彼女

の議論の文脈が必要だし、もちろんその議論の妥当性も問題になる。

    

とはいえ、異質性よりも同一性を強調する方が建設的だと言うだけなら、

分ありうる自然な主張だろう。異質性の強調は排除や攻撃につながりやす

いのに対して、同一性の強調は協力や友好関係につながりやすいからだ。

        

         

          ☆          ☆          ☆ 

その後、東は、「では私たちは、中国という『隣の巨大な市民社会』どの

ように付き合っていくべきだろうか。残念ながら日本の言論界はその点に

はあまり関心がない。・・・・・・市民の多様な実態はほとんど見えてこない

と批判する。

     

日本の現状に対する具体的な批判点として、3人の論客と共に指摘

するのは、反日デモの誇張(cf.金燦栄=ジン・ツァンロン)と、ネットの現

状への無理解(cf.ふるまいよしこ、高原基彰)。ただ、反日デモが実際に

はそれほど全体的なものではない点は、普通のマスメディアの報道を注

意深く読むだけでも分かることだ。また、中国のネットやツイッターへの理

解が足りないのは確かだと思うが、東の議論がかなりネット論壇に偏って

るという側面もある。

       

市民の多様な実態ということであれば、例えば当サイトには、中国人の性

生活に関する記事がある。これは『週刊現代』の報道をキッカケに、中国

の雑誌記事をネットで調べたものだ。あるいは、日本のテレビドラマやタレ

ントが中国のネット掲示板でどう扱われてるかについても、元の中国語の

翻訳まで付けて紹介してあるし、中国のファッション・リーダーとして活躍す

る日本人女性についても記事にしておいた(キッカケは朝日新聞の記事)。

これらはいずれも、大まかに言うなら、中国市民の同質性を示すものだ。     

       

中国を、同質的な市民社会と見て、友好関係を築いていくのなら、政治と

か論壇などではなく、もっと普通の市民生活をまず見るべきだろう。その

意味では、新聞のスポーツ記事や万博記事など、実はそれなりにマスメ

ディアも伝えているのだ。市民の多様な実態が見えない、とが感じるの

は、論壇という狭くて特殊な世界に視野を奪われてるからかも知れない。

論壇とは、生活のごく一部にすぎず、その他の生活全体抜きだと無意味

なものなのだ。

              

なお、主たる議論の末尾に東が付けた「注目記事」3点の内、最初のもの

は、私も実際に読んで、確かに面白かった。『世界 12月号』掲載の論

文で、莫邦冨(モー・バンフ)「日中衝突の余波を拡大させてはならない」。

         

親日的ではあっても、あくまで中国人の立場なので、釣魚島(=尖閣諸島)

は「グレーゾーン」のままに留めるべきだと主張してるようだ。その点、日

本人としては多少気になるが、この論文の面白さは別の所にある。

     

東が挙げてるのは、「中国は北方領土について日本の主張を支持してい

たが、今回の事件を契機に立場を変え・・・その変化がロシア大統領の国

後島上陸を後押しした」という指摘。実際に読むと、中国の変化からロシ

ア大統領上陸へのつながりは、説明が不十分な点が惜しまれる。

         

けれども、中国の世界地図北方領土に、「ロシア占領」と書かれていると

いう意外な指摘は、さすが中国人研究者といった所だろう。また、尖閣問題

に対する中国の態度が、穏やかなものから強硬姿勢へと変化する経過を、

新聞記事に着目してにまとめた点も、なるほどと思わせる部分だった。

    

そうした作業は、一般の日本人でも、ネットを通じて比較的簡単に出来た

はずのこと。私も今後は、アジアのマスメディアの論調をネットで直接調べ

ようと思ってる。早速、昨日は、北朝鮮の「朝鮮中央通信」HPで、北朝鮮

側の主張を英語でチェック。韓国「朝鮮日報」や日本メディアの主張とは大

きく異なるもので、非常に興味深かった。また、中国「人民日報」の論評も、

北朝鮮よりむしろ、米国の動きを牽制するものになっていた。。

        

          

           

         ☆          ☆          ☆

最後に、「編集部が選ぶ 注目の論考」の一番手、朝日新聞にも度々登

している、御厨貴(みくりやたかし)「検察も国民もゲーム感覚 ソフトな国

家権力が社会を覆う」(『中央公論 12月号』)も実際に読んでみた。

      

朝日の編集部の一口コメントは、次の通りだ──証拠改ざん事件は「あ

る種の『正義感』による国策捜査」意識より、「ゲーム世代がゲーム感覚

を検察の現場に持ち込んだ」ことで生じたのでは、と読み解いた──。

        

けれども、その主張の分かりやすい根拠は、あの主任検事がゲーム世代

だということしかない。あらかじめ立てた完全な構想に沿って、部分を組

み立てていくといった程度の話なら、ゲーム感覚でなくても普通のことにす

ぎない。

    

例えば科学研究においては、仮説というものがしばしば先に立てられて、

それに添って実験や議論が組み立てられていく。あるいは、詰将棋を解く

際にも、最後の形をまずイメージして、そこに向かう手を考えたりする。科

学研究も詰将棋も、広い意味ではゲームと呼び得るが、いわゆるゲーム

(テレビ・PC・携帯・ゲームセンターなど)とは別物で、歴史的・時間的な

位置付けも全く異なるものだ。

       

御厨の議論は普段わりと好んで読んでいるが、ゲーム的かどうかというよ

うな話は、以前から妥当性に疑問が投げられているものだ(脳、犯罪など)。

検察問題に適用するというアイデアは面白いけれど、もう少し緻密で具体

性のある議論を組み立てないと、タイトルや本文で目立つ「ゲーム」という

言葉が浮いてしまうだろう。

          

それにしても、朝鮮半島の今後が気がかりだ。一旦落ち着きを見せてい

るし、過去の事例や北朝鮮の現状を考えても、それほど大事には至らな

いと思うが、果たしてどうなるか。李の言う「新冷戦」どころか、「新たな激

戦」にならないことを祈るとしよう。

      

今月の東の写真(鈴木好之撮影)は、今までより少し表情が和らいでるよ

うにも見える。来年3月までなのか、更にもう1年担当するのか知らないが、

最後には微笑する写真を掲載する予定なのかも知れない。私としては、読

者がみんな微笑むことができる社会になっていることを願っている。

    

あるいはむしろ、自分達が変わればいいのかも知れない。ではまた。。☆彡

         

         

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

cf.東浩紀とネットが開く新たな言論空間~朝日新聞「論壇時評」 (4月)

  「新しい公共」と他者への理解~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・5月)

  理想を語り、現実を変えること~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・6月)

  政策の「事後的」評価としての選挙

              ~東浩紀&香山リカ「論壇時評」(朝日新聞・7月)

  建設的な哲学とネット共同体への「期待」

                    ~東浩紀「論壇時評」(朝日新聞・8月)

  よりどころの崩壊、新たに築く試み

             ~東浩紀&松井彰彦「論壇時評」(朝日新聞・9月)

  世論調査、ファスト政治、ポピュリズム

             ~東浩紀&福岡伸一「論壇時評」(朝日新聞・10月)

  情報公開の境界、資格付与の区切り

           ~東浩紀&松井彰彦「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  新しい道具、使ってみるための条件

            ~東浩紀&広井良典「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  つながりと祝祭、これからの革命と善意

            ~東浩紀&香山リカ「論壇時評」(朝日新聞・2月)

  各個人が独自メディアとして議論すべき時

              ~東浩紀&苅部直「論壇時評」(朝日新聞・3月)

           

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  震災後、身の丈超えぬ「ことば」に希望

             ~高橋源一郎&小熊英二「論壇時評」(朝日新聞)

  どの常識をどう疑い、何に立ち向かうのか

      ~高橋源一郎&平川秀幸&小阪淳「論壇時評」(朝日新聞・12月)

  対称的な関係の中にある前進

      ~高橋源一郎&小阪淳&森達也「論壇時評」(朝日新聞・1月)

  現在の中に過去を見ること

      ~高橋源一郎&小阪淳&菅原琢「論壇時評」(朝日新聞・2月)

       

                                 (計 5469文字)

XY

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